VRChatで活動していると「VRChat」ができなくなる。それって本当?第3回VRCムービーアワード終了後座談会

作品とチームをまとめ上げる苦労

──VRCムービーアワードの傾向を見ると、ホラーは1つの鬼門のイメージなジャンルでしたが、それでも爪痕を残せたのはなかなかですよね。

唯野みき 本当は短編の部門に出すつもりが、絵コンテを並べた時点で15分を超えていたので長編として出すことになりました。特にホラーだと、「溜める」シーンがないといけないので削るのが難しくて……

『推し』より

──溜めるって意味では、『OUR TESTAMENT』は冒頭に雰囲気を大事にした間を作った後に後半は目まぐるしく場面転換する構成にしていましたよね。コンセプトムービーの側面が強い作品があそこまで評価されるのは、また面白いですね。他の方も含めて、構成面の苦労を聞きたいです。

Luvdelic 見て分かる通り、詰め込みました。興味を引くパンチライン、世界観と目的を見せて後はキャラクター性を目まぐるしく見せる……

メンバーと相談して「見やすく食べやすい」をかなり意識しましたね。結構戦略的だったかもしれません。

『OUR TESTAMENT』より

じぇーゆー 要約って難しいですよね。贅肉なんてないはずなのに削らないといけないのは辛い。上手くいくと物語がぎゅっと締まるのでいいんですけども。

──『HUNTER』は登場人物メイン3人を出して、真相が分かったら一気に進める感じの構成で10分でちゃんと終わったな……といった満足感ありましたね。

じぇーゆー 逆に長編にすると、何がやりたいことなのかまとまりがなくなって空中分解しそうだなって思って、自分への足枷として「10分にまとめよう」と初めから計画していました。

実際は15分ぐらいになったので、仕方なく”間”を持たせたかった部分を削ったりしました。 その時も「ストーリーの幹になる部分ってどこだろう」って理詰めで考えながら纏めたつもりです。勉強になりました。

『HUNTER』より

──それは撮影のポジションから監督に写ったからこその苦悩ですよね。

じぇーゆー 今まではカメラマンとして、撮影した映像を渡したら「後はお願いします」という立場だったんですよね。「頑張ってください!」と言うだけの無責任な立場だったのですが、いざ自分が監督としてやってみたら……もうそんなことは言えないです。

唯野みき 『推し』を撮影するにあたって、試しにシーン1とシーン2を撮影し、つなげてみたことがあります。でも、どうにもシーン1とシーン2が繋がらないですよ。

シーンが変わればいい感じになると思っていたのに、いきなり「何か違う世界に来た」ぐらい合わなくて、映像を見直すことで、状況を映す技術的な問題点を見つけて撮影したこともありましたね。

じぇーゆー 感性でやるように見えて、計算ですよね。撮影した後に繋げてみて実際に見た後に、「ここなにか1つ必要だ、もう一回撮影いいですか」って呼びかけることがありました。

いすぷびたみん 情けないことに詳しい方に絵コンテからおまかせする形だったので、監督としてやったのはモデルの提供と日程調整、細かい指揮といった部分でした。

Luvdelic 自分もコンテは任せていましたし、メンバーの尽力に救われてなんとか形になりました。

でも、やっぱり最後に監督がいないと完成しないというのは身に染みて感じましたね。

──人をまとめるのって大変ですからね。

じぇーゆー 撮影は自然と進んでいかない……RGBこーぼーさんは結構スタッフが多かったので大変だったんじゃないですか?

RGBこーぼー 撮影には1年ぐらい掛けたのですが、大体はみんなのスケジュールが合わないですね。なので、撮影日に入れる人から取り掛かるカットを決めておいて進行しました。一括で撮影ができない事も多かったですね。

『食語り-VILLPER REPORT-』より

唯野みき 自分の場合、3人でも予定が合わないですからね。忙しいから、「この間の1時間の合間を縫えばいけます」みたいな。

──メインのキャストがめどうさんとリーチャ隊長で、VR演劇と漫画家でメインで活躍していますからね。フットワークは軽い2人だと思いますが大変そうですね。

じぇーゆー VRChatの撮影特有なんですかね、みんなが集まると誰かしらSteamVRの不調や充電不足の人が出てきてしまって……

唯野みき みんなに聞きたいのですが、「撮影日時ぴったりに始まりますか?」大体30分ぐらい遅れるのがほとんどで……

Luvdelic 始まらないですね。

唯野みき 遊ぶためには気にならないのに、撮影になると足並みが整わなくなるのですよね……

RGBこーぼー 事前に「充電お願いします」といった声掛けをするしかないですよね……

いすぷびたみん 早めに連絡、余裕を持ってリソース管理する感じですよね。『EAT OR DEAD』は、制作陣に負荷が掛からないように逆算して作劇を決めました。物語の構成が、冒頭で大人数の戦闘を行って、後半は2、3人しか映らないシーンにすることで、融通が利きやすくしています。

『EAT OR DEAD』より
『EAT OR DEAD』より

Luvdelic 自分の場合は現場でカバーしていることが多かったですね。欠員が出たらこの人で埋める、先にこのシーンを撮影するといったことでカバーしていました。「ちっちゃな無限パズル」をやり続けないと回らない。

唯野みき 集まるときに今日撮影するシーンをメモしておくのですが、欠員が出たときのBパターンを用意しています。

じぇーゆー 「せめてワンシーンでも」といった考えですよね。

Luvdelic 撮り始めはまだいいですけども、撮り進めていくと撮り直しをしたいシーンも出てきますよね。

いすぷびたみん 妥協したくない気持ちは分かるのですが、現場のスタッフが「撮り直したい」という要望を押し殺して妥協させる決断を下す場面も多くありました。

RGBこーぼー VRCムービーアワードは締め切りがあるのが大きいですね。

唯野みき 締め切りがあることで、間に合わせるためにやるのか、やらないのか、取捨選択ができますからね。

じぇーゆー こんな辛いこと、期限がなかったら完成できないですよ。締め切りがなければ、「ちょっとずつやろう」って言って多分途中で飽きて適当にまとめた動画で終わっちゃう気がします。後は、ライバルが作品を公開しているのも大きいですね。

唯野みき 年末年始は感情ぐちゃぐちゃになりながら撮影していましたね。

──VRCムービーアワードの応募締切は1月末なので、年末年始は1つのピークですよね。

いすぷびたみん なんか……エヴァンゲリオンを作った庵野監督が鬱になるのも分かる気がするんですよね。ちょっと僕も体調を崩してしまって……

大事なのは監督が辛いのは大前提なのですが、監督は「作りたいもの」のために苦労している一方で、スタッフはやりたいことが色々と他にもあるのを押し殺して付き合ってくれているんですよね。なので、リスペクトや感謝を絶対に忘れてはいけないと思っています。

じぇーゆー だからこそ、「絶対に完成して出すぞ」ってなりましたね。「完成できなくてごめん」って言い出したら申し訳ない。

RGBこーぼー それこそ信頼ですよね。

──責任と締め切りが完成まで駆り立てると。ここまで苦労について話してきたと思うのですが、逆に楽しかった部分について聞きたいなと思っています。

唯野みき これまで私は1人で活動していることが多くて、その理由が自分で作りたいものを考えるときに工数を考えて「他の人に付き合わせたら嫌だな」とか色々考えちゃうと、最終的に「1人で作る」という結論になりがちだったんですよね。

でも、今回はそうも言ってられなくて、俳優さんたちがいないとさすがに、作品ができないので、できるだけ私がお話しやすい方をお願いしました。

でも、自分が書いた台本を渡して一回通しでやって撮ってみたら、自分と違う解釈が飛んできて、「そっちのほうがいいじゃん」ってびっくりしました。

人にお願いすることが辛いことばかり考えてて、「その人から貰えるもの」っていうのは頭になかったので、複数人でやる作品作りはそういった楽しみや驚きがあるのが良かったですね。

唯野みきさんのチャンネルではインタビュー動画を出している

Luvdelic 素晴らしい。

唯野みき でも、Luvdelicさんもいつもイベント運営やっているじゃないですか。

──じぇーゆーさんも、メインキャストのがりとさんとsumaさんのアバターをお借りしている形ですよね。

じぇーゆー 唯野さんのお話に近いです。自分だけで撮るなら頭の中に全部入っているからその通りに動けばいいし、自分で編集できます。でも、他人を巻き込むと、自分の意図を説明して思ったとおりに動いてもらわないといけない辛さがあります。

主人公2人の見た目に惚れ込んで制作が始まったので、「なんとかして出したい」気持ちがありました。人に頼んでみると、自分が予想しなかった解釈とか、展開があるし、いざ映像にしてみると「自分が思い描いたものが人の手で再構築されて映像になってる」みたいなのがすごく楽しかったですね。

──創作団体から派生した映像作りをしている人はいかがでしょうか?

RGBこーぼー ヴィルーパ観測機構としては、世界観を作りながらも元々ワールドの制作に取り掛かっていたところに、今回自分たちが作ったキャラクター達が映像作品に参加して動いて物語を進行していく所には興奮しましたね。

唯野みき 完成した映像はテンション上がりますよね。

もともと制作されているワールド

RGBこーぼー 今回の映像制作にあたって、みんなには「新しいことをやってほしい」という思いで初体験のことを割り振りました。自分は監督も映像も始めてだったので、コンテの勉強もしたし、映画を見て研究もしました。

じぇーゆー 「みんなでステップアップしよう」って理想の上司みたいなことを言ってる……

Luvdelic 今日は随分と余所行きな様子ですね?(笑)

──授賞式のときは仲良かったですからね。撮影として入っていましたが、いろんな撮影チームがある中でもまとまってました。

──創作グループが映像作品を出すのは、やはり他の人にイメージを伝えやすいし、ストーリーも描けるので魅力的だなって思いますね。

Luvdelic 実際に仰る通りで、作品の最後が「イベントのワールドへようこそ」といった内容にしたので、世界観の広がりを自分自身でも自覚できるようになったのが大きいです。メンバー同士での高まりもありましたし、公開してからそれを見て来てくれる方も増えて、とてもポジティブに影響しました。

『OUR TESTAMENT』より

じぇーゆー 自分で考えて作ったのにも関わらず、自分たちによって世界がさらに広がるのも面白いですね。

いすぷびたみん 今回プロモーションについて意識しましたね。公開前、公開後のプロモーションやキャンペーン含めて良い作品なのかなと思っていまして、VRChatでも映像に限らず有名なところは「盛り上げ方が上手いな」と思いました。