土づくりから稲刈りまでVRChatでお米作りを経験! 農林水産省”公式”ワールド「バーチャル尾呂志」体験レポ

お米の一生と書かれた看板の横にいる白いうさぎのアバター

お米と言えば、筆者は今でも小学生の頃に授業で行った稲作体験の思い出があります。

稲作体験と言っても、学校内で種もみから発芽させた稲を、バケツに土を入れた簡易的な田んぼに稲を植えて育てるというものでした。

もちろん、それでもしっかりと稲穂は実り、炊いて食べられるお米を育てることができました。約半年間、その稲の世話をして、成長を見守ることはとても良い経験になりましたが、その過程をいっぺんに見る方法があるのです。そう、バーチャルならね。

今回は、農家の米作りを知ることができるワールド「バーチャル尾呂志」について紹介します。なんと米と米粉の普及を目指す農林水産省”公式”のワールドです。どのような場所になっているのか見ていきましょう!

バーチャル尾呂志の田んぼを俯瞰した写真

米作りの一年を”いっぺん”に体験しよう

このワールドは実際の尾呂志の町にある棚田を再現し、その棚田で米を作っていく過程をみることができます。

ワールドの入口から「土づくり」「代かき」「田植え」と進んでいき「稲刈り」で収穫するまでの工程をVRChatで見られます。現実の田んぼでは、もちろん全ての工程を同じタイミングで見ることはできませんが、バーチャルでは米が育つ一生を同時に見ることができるのがポイントです。

バーチャル尾呂志の地図
土づくりのコーナーまだ何も植えていないまっさらな田んぼ
代かきトラクターで土をかいたあとの田んぼ水が張られている

このワールド、ただ米の成長過程を並べているだけではありません。
実際の農家の監修を受け、成長段階ごとの丁寧な説明や稲のモデリング、配置、その音にまでこだわって制作されています。

今回監修を行ったのは、リアルで米農家を営むゆったんさん。元々、ゆったんさん自身が「食育」をテーマに、米を育てる過程をまとめたワールドを制作していたことがあります。その実績から「バーチャル尾呂志」ワールド制作時に、農家を営むVRChatユーザーとして監修を依頼されました。

バーチャル尾呂志で農業の監修をおこなったゆったんさん

監修の中で特にこだわっているという点を見ていきましょう!

まずはこの見事に実った稲穂たち。稲穂の葉先は黄色く、根本は緑になっています。これは収穫時の見た目を再現したものになっており、制作時にも特に指定があったこだわりの部分だと言います。この中を歩くと稲がすれるサラサラとした音が聞こえるのも秋の実りを感じますね。

豊かに実った稲穂の中で佇む筆者
稲穂の米のアップ画像

そしてこのコンバイン。乗って起動すると畑に稲を植えることができます。コンバインはゆっくりと進んでいき、畑に隈なく稲を植えていきます。この時に聞こえるコンバインのモーター音やガチャンといった機械音は、ゆったんさんが使っている実際のコンバインから録音されており、リアリティの追求を感じます。

また、水が張られている田んぼでは、歩くと水が泥の中を進むような水の音が聞こえてきます。これももちろん実際に録音されたものです。

コンバインに乗って稲を植える筆者
コンバインに乗って稲を植える筆者

このワールドでは、米を作るだけではありません。その先がどうなるのかについても触れており、その答えはワールドの一番奥にあるこの直売所にあります。

バーチャル尾呂志に設置された道の駅「さぎりの里直売所」

この直売所の中には「米粉製粉機」と米粉を使ったパンの制作ギミックやクッキーが並んでいます。
米粉は、小麦粉で作られるような食品の代わりに使うことができる食材で、お菓子やうどんなど、幅広く使われています。このワールドではその例として米粉でパンやピザを作る体験ができます。材料の成長過程から、その食材の調理工程まで網羅された、まさに「食育」を学ぶことができるワールドになっているという訳です。

米粉粉砕機
米粉についての説明がされたポスター
米粉を使って調理ができる展示米粉や牛乳などの材料と調理器具が並ぶ
食べるギミックがついた米粉クッキー

ワールドの風景には、山脈から降りる雲「風伝おろし」が再現されています。秋から冬にかけての早朝に、三重県御浜町尾呂志地区で見ることができる現象で、山々の谷間から白い霧がゆっくりと流れ降りてくるそうです。現地では古くから神様の通り道として考えられてきた神聖な現象なんだとか。

バーチャル尾呂志が見られる風伝おろしの風景

どうして尾呂志で米栽培を?

今回、三重県の”尾呂志”という町で、どうして”お米の栽培”を扱ったワールドを作ったのか、このプロジェクトをまとめるミツエモンさんにお話を伺いました。

バーチャル尾呂志を作ったミツエモンさん

自治体関係のVRやメタバースのプロジェクトを企画するお仕事をしているミツエモンさん。当時、農林水産省から「米・米粉」の普及推進事業を募集されていたのを御浜町に住むご友人から紹介してもらい、このコンペティションに参加。本プロジェクトを立ち上げ、入札に出したところ企画が通り、このワールドを制作するに至ったそうです。

農林水産省にとっても初めてのメタバース事業とのことで、プロジェクトのスタートには緊張があったと言います。

また、このワールドを作った目的としてお米のことを知ってもらう以外にも、このワールドを通じて三重県御浜町と交流していくことを目標に考えていると語っていました。地域のことを知ってもらい、交流をし、現地を訪れる。ミツエモンさんはここまでを進めていきたいと考えていますが、その域まで到達しなくても、メタバース上で御浜町の人が外の人と、外の人が御浜町の人と交流することで何かを得ることがあれば、”人々の未来の可能性”が広がっていくのではないかと考えているそうです。

今回のプロジェクトに際して、ミツエモンさんは初めて案件でVRChatのワールドを制作しました。元々は「Spatial」と呼ばれるプラットフォームで多くの実績があるため、今後はそこで公開していた自治体に関連したワールドをVRChatに持ってくるといったことも行いたいと語っていました。業界的にもVRChatを活用した地方を盛り上げるプロジェクトが増えてきているため、これから自治体活性化を目的としたワールドやそれに付随する企画が増える可能性もありそうです。地方自治体に関するメタバース施策の今後の動向にも注目です。

参考リンク
バーチャル尾呂志公式X