ここ数年で、VRChatにはフォトグラメトリの技術を使って作られたリアルライクなワールドが数多く公開されてきました。そのほとんどが、現実の場所を再現したり、生成した3Dモデルのひと区画をワールド化させたものや、素材として並べているような物がほとんどでした。しかし、今回紹介するワールドでは、撮影した物の見せ方を考え、そのために0からモデリングした空間に展示された、こだわりが作り出した”博物館”となっています。
その博物館の名は「Tokogrammetry Museum(とこグラメトリミュージアム)」。
様々なものをフォトグラメトリで3D化してきたとこよしさんが、これまで旅先で見つけてきたものを並べた展示系ワールドです。
とこよしさんは、今まで多くのフォトグラメトリのワールドを公開してきましたが、その中でも特に有名なものが「ンョ゛ハー ゛」こと「ショッパーズ長浜店」。欠けた看板がネットミームとして有名になったあの場所です。VRChatユーザーも多くの方がそのワールドを訪れ、看板の欠けた部分がランダムで変わる「ンョ゛ハー ゛チャレンジ」も流行りました。
3Dスキャンモデルを飾ることへのこだわりが詰め込まれた博物館へ
「とこグラメトリミュージアム」の特徴は、なんといってもたくさんの高クオリティ3Dスキャンモデルが展示されていることです。作品数とそのクオリティはおそらくVRChat”イチ”でしょう!
ワールドに入るとすぐ見えてくる大きなカメやゲーム機といったインパクト抜群のオブジェクトが並んでいます。これらも全て3Dスキャンされたオブジェクトデータで、ワールドに訪れた私たちを出迎えてくれているかのようです。


奥へ進んでいくとついに博物館が姿を現します。白に近いグレーを基調としたシンプルな外観の建物は、博物館らしいアカデミックな雰囲気を醸し出しています。この建物の3Dモデルは、とこよしさんがフルスクラッチで制作したもので、展示物や軽量化の面からこのワールドに最適化されたものになっています。3Dスキャンからモデリングまで様々なスキルを持っていることが伺えるポイントです。

そもそも”フォトグラメトリ”と”3DGS”って何が違うのか
建物に入ると大きなホールが広がります。天井が高く広々とした作りで、天井近くに通された梁はとこよしさんのこだわりポイントでもあります。
入口すぐ横には、この博物館を見て周る上で大切な知識である”フォトグラメトリ”と”3DGS(3D Gaussian Splatting)”の違いについて解説されています。どちらも対象物を撮影したたくさんの写真データを使って作られるものではありますが、フォトグラメトリはポリゴンを有するリアルな3Dモデルであることに対し、3DGSは「色のついた透過性のある楕円形」の集合体で、それらが重り集まって対象物を表現しているため、厳密にはポリゴンを有する3Dモデルではないのです。それぞれの手法には撮影できる物の得手不得手があるため、被写体によって手法を変えたり、使用する用途や形式によってどちらを選択するか決めることができます。
このミュージアムには、この説明についての文章と実際のモデルを使った分かりやすい解説が書かれています。展示を見て周る前にこの知識を知っておくことで、作品の見え方も変わってくるでしょう。



とこよしさんが厳選した味わいある景色を堪能する「なんだこれ展」
現在の「とこグラメトリミュージアム」には、常設展「なんだこれ展」が展示中です。とこよしさんが日本全国各地で見つけてきた様々な像や場所の作品が並ぶ「生き物編」「隠れた良い場所編」の2つが用意されています。
展示部屋の手前には、展示中の作品の案内があります。公開中の展示を選ぶことで展示内容が切り替わる仕組みになっています。パネルを選択すると一筋の光の線が奥へと導いていき、そこには展示への入口が現れ、上部の緑の電灯が点ります。まるで準備ができたから入りなさいと言っているようなその光の案内に、展示への期待度が高まって行きます。


動物や不思議な生物がいっぱいの「生き物編」
まずは「生き物編」から周っていきましょう。
入口を進むと、外光を取り入れた明るい場所にたどり着きます。ここには展示されている作品へと続くショートカットが用意されています。もちろん順路の通りに進むことで全てを見て周ることができますが、このミュージアムは非常に広く、ゆっくり見て周ると1時間以上かかるので、お目当ての展示がある方は活用しても良いでしょう。

このミュージアムの最初の展示は、大きなティラノサウルス。高さは約4.5mもある非常に大きな恐竜の像です。天窓から入る陽の光が逆光になり、その体躯の巨大さをより強く感じさせます。

フォトグラメトリ系のワールドではお馴染みの撮影箇所を可視化できる仕掛けも用意されており、フォトグラメトリを技術的に楽しみたい方にも嬉しいポイントが押さえられています。

そしてこのミュージアムの特徴でもある3DGS展示。恐竜の側のボタンを押すと、その恐竜を撮影した場所の3DGSの景色が広がります。3DGSは対象の”物”以外に、広域の風景を撮ることにも向いており、とこよしさんが現地で見てきたものを同じ視点で見ることができます。


フォトグラメトリの展示にはなかったブラキオサウルスが、ティラノサウルスの側にいました。このような周りの情報を含めて楽しむことができるのが、このミュージアムの3DGSです。

この照明がアーティスティックに並べられたカニの像は、福井県小浜市の公園にあるカニの遊具です。フォトグラメトリの生成に使った写真の撮影位置に、照明の3Dモデルをそのまま当てはめて作っています。
この展示には、フォトグラメトリの作品を見慣れている人でも、瞬間時が止まる程の異質さを感じます。フォトグラメトリで生成した3Dモデルを並べたワールドは多くありましたが、このような現代美術的な展示の仕方をしている物はほとんどないでしょう。

このミュージアムの中でも特にインパクトがあるのはシカの展示。展示されている部屋に入ると見上げるほどの大きなシカが鎮座しています。制作者のとこよしさんは、このシカを撮った時からシカを大きくして展示することを決めていたらしく、そのインパクトある大きなシカを部屋に馴染ませるために「シカ」の文字で埋め尽くしたとのことです。また、「シカ」自体にもアニメ「しかのこのこのここしたんたん」から感じた狂気的な印象を、文字で埋め尽くすことでカオスを感じる空間にしました。



しかし、異質さで言うなら次の部屋はシカをも超えてくるでしょう。薄暗いその部屋には、壁のいたるところに生える様々な像が。薄暗さも相まってとても不気味な印象を受けますが、これらも全て公園にある遊具などの日常的なオブジェクトです。床にあるボタンをジャンプで踏むことで部屋が回転して、目の前の展示がスライドして切り替わります。
先へ進む通路もこのジャンプを行うことで現れるのが、またいい演出になっています。


空間を切り取り再構築する「隠れた良い場所編」
それではもう一つのコーナー「隠された良い場所編」も見ていきましょう。ここには、とこよしさんが旅先で見つけてきた良い場所の3Dスキャン作品が展示されています。
最初に展示されているのは、三重県亀山市にあるセスナです。セスナは軽飛行機のメーカーの名称で、駐車場に置かれている本物のセスナを撮影したものだそうです。日本には1機しかないらしく、とても貴重な作品となっています。

このセスナでは、撮影した際の位置とその軌跡を見られるようになっており、実際の作業風景を感じながら鑑賞することができます。

さらに奥へ進んでいくと、川沿いの道へ出ます。川に架けられた屋根のついた橋が特徴的な山奥の地域です。
ここでは、フォトグラメトリで作られた橋の3Dモデルと、3DGSの植物や地形が使われている3Dスキャン技術の合わせ技を見ることができます。さらに、スキャンすることができない流れる川は、シェーダーによって再現され、本物のような景色を創り出しています。
こうした本物のような再現にこだわりを持つのが、とこよしさんの3Dスキャンワールドの特徴です。



VRChatでは「ぽこピーランド」で有名なVTuber・甲賀流忍者ぽんぽこさんがお好きな方は、ぜひこのコーナーの最後にある「金長たぬき像」も見ていきましょう。
このたぬき像は、以前ぽんぽこさんが動画の企画で訪れたことがある場所です。ファンの方は、動画と同じようにたぬき像に手を合わせてみるのもまた一興です。

展示以外にもお楽しみ要素が
この「とこグラメトリミュージアム」には、展示以外にも楽しむ要素が用意されています。それがこのミュージアムの”実績解除”。様々なミッションをクリアすることで実績が解除されていき、特別なコンテンツを見ることができます。
ただ回っているだけではクリアできないものもあり、一筋縄ではいきません。隠されたシーサーの置き物を探したり、高速で展示室を駆け抜けるなど、様々な試練が待ち受けています。

ミッションを達成するとポイントが貯まっていき、5ポイントごとに特典が解放されていきます。
5ポイントの特典は、不思議な宇宙猿の円盤でした。とこよしさんのご友人が制作された円盤を3Dモデル化させたものです。他の特典にはまだ未公開のワールドが先行して見られるものも用意されているので、このミュージアムでとこよしさんの世界にハマった方はぜひ全ての実績を解放しましょう!


「ただの展示ではない」こだわりのフルスクラッチ博物館
ここまでとこよしさんが制作してきた様々なフォトグラメトリや3DGSの3Dスキャン作品を紹介しました。いずれも現実の景色と見紛うようなクオリティの高いモデルや景色を見ていただけたかと思います。しかし、この「とこグラメトリミュージアム」の素晴らしさはこの高品質なモデルや数だけでなく、それを”どう見せるか”ということを考えて作られた”作品”としての展示の仕方です。
空間を丸ごと持ってきたかのような展示になっている「隠された良い場所編」では、その展示の入口や展示の作りにも注目してほしいです。
「高麗寺霊園」ではミニチュアのように小さくして、ガラス張りのケースの上から見る展示にしていたり、先ほども紹介した「帯江橋」にはその展示に入る前に、真っ暗な空間の中に浮かぶ切り取られた風景が、まるで劇場のように感じられます。


「御幸の橋」では、橋と川の2層による立体構造になっています。順路の通りに進むと、川から入り、裏から2階へと上がり、橋へと続く道に出るように設計されています。空間としての認識と、3Dスキャン展示であるところの自由さがあるからこそできる展示であると言えます。


とこよしさん自身もこの高低差ある空間を好んで設計しており、入口の高い吹き抜けがある空間、展示内や移動のための通路にも階段やスロープといった高低差を作るギミックがあるのも魅力の一つです。
そして、このワールドの博物館の建物モデル。とこよしさんがフルスクラッチでモデリングしたもので、何をどのように展示していくかを追求して作られた場所になっています。
この建物モデルの設計は、VRChatにある美術館のワールド「VMoVA」に影響を受けたといいます。「VMoVA」にも見られる灰色を基調としたシンプルな展示をやってみたかったと語っていました。
他には、「あかつき臨海公園水族館」という水族館のワールドにも触れており、ワールドにいる従業員のコミカルな演出や小ネタといった展示以外の要素にも惹かれていると語り、そのエッセンスを「とこグラメトリ」の展示にも与えています。
次はみんながワクワクする場所に
この博物館を作ったとこよしさんは、こう語ります。
「フォトグラが好き、写真が好き、旅が好き、ワールド巡りが好き。色んな方にこの博物館を楽しんでもらいたいと思って作りました。」

より多くの方に楽しんでもらうため、企画展の一つとして展示物を募集することを構想しているそうです。撮影したものを送ってもらい、それをとこよしさんのセンスで展示をしていく方向で検討中です。自身が撮影した3Dスキャンモデルがどのように展示されるか、この「とこグラメトリ」を回った方ならきっとワクワクするでしょう。
しかし、これだけ大きなワールドだとその容量もかなり逼迫しているようで、すでにVRChatにアップロードできる限界まできているそうです。今後展示を追加していくとなると、現状公開されている「生き物編」「隠れた良い場所編」のどちらかを閉じて、新しい展示を追加する形になります。しかし、とこよしさん本人は、それも「入れ替わりってほんとの博物館みたい」と本物らしさを感じている様子で、嬉しそうな印象を受けました。
他の3Dスキャン系のワールドからは得られない体験を得ることができる「とこグラメトリ博物館」。ぜひ一度訪れて、新しい体験を得て、3Dスキャンに触れる新しいきっかけになればいいと思います。

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参考リンク
・とこよしさんXアカウント





















