「アウトサイダーズ:ライズ・オブ・ヴァリアール」の制作陣が集う! VRC映画制作座談会

VRChatではネタ動画やMVとさまざまな映像が日々撮影され、公開されています。その中には映画を制作する人もいます。

その中で5月13日に「カデシュ・プロジェクト」(以下、カデシュ)が2周年イベントにて発表した作品「アウトサイダーズ:ライズ・オブ・ヴァリアール」が記憶に新しい人もいるのではないでしょうか。

そこでメタカル最前線では、「アウトサイダーズ:ライズ・オブ・ヴァリアール」をこれから撮影する監督陣を呼んで座談会を行うことにしました。

監督が4人集まればそれぞれスタンスが違うのが垣間見えるはず。今回は、だめがねさん、中田らりるれろさん、miyabiさん、satiusさんの豪華メンバーで、映画を制作するきっかけから、影響を受けた作品まで聞いてきました。映画を見る人も、作る人も楽しめる内容となっていますので、ぜひご覧ください。

「本編」を撮影した「プロジェクト:エメス」は衝撃だった

ーー最初にみなさんは普段交流があるんでしょうか。

だめがね 普段はみんなでゲームとかを結構しますね。僕と中田さんはナカダイナーで知り合いましたね。

中田 僕はカデシュのイベントがきっかけで関係深くなっただと思います。

だめがね miyabiさんのことは、「IRREGULAR’S」の脚本をもらってから「映像を撮る人」なんだって意識するようになりました。

miyabi そうなんですね。

satius だめがねさんとは「撮影用に車のモデルを貸してください」って言われたのがきっかけだったはずですね。

だめがね satiusさんとちゃんと接触したのが、「プロジェクト:エメス」用にイナバシティにあるカーモデルを借りたいって話したところでした。

ーー映画を作るようになってから生まれた仲なんですね。現実での撮影経験というのはありますか。

だめがね 僕はまったくないですね。

中田 僕は映像の仕事をしています。

satius サバゲー関係で映像や写真を撮ったことがあります。今では、VRChatで撮っている期間のほうが長くなりましたね。

miyabi 自分もVRChatを始めてから、撮影を開始しました。2022年の3月ぐらいにTwitterに投稿し始めたのが最初ですね。

ーーVRChatで映像を制作しようと思ったきっかけはなんでしょうか。

satius 最初は小説の映像化として1分ほどの動画を作っていました。それから「プロジェクト:エメス」を見て、長編を撮りたいなと思って撮り始めました。

miyabi やっぱり自分も「プロジェクト:エメス」ですかね

だめがね 本当かよ(笑)

miyabi こんな映像作品がVRChatで作れるんだって見せつけられましたからね。

satius 同じく、こんな長い動画をVRChatで撮影できるのかって思いました。カデシュのイベントにはじめて参加したときも、いろいろ言い訳してやりたかったことをしなかったので、悔しかったですから。自分もやりたいなと強く感じて皆さんに手伝ってもらいながら、動画を撮るようになりました。

ーーもしかして2022年はVRChatの映画制作にとってかなり節目の年だったということですか。「プロジェクト:エメス」の公開からVRCムービーアワードの締め切りもありましたよね。VRCムービーアワードにプロジェクト:エメスのフォロワー作品が多いと言われることも納得です。

だめがね 2022年が節目の年である、と言われても実感はないんですよね。VRChat映画自体は以前からありましたし、Second Lifeにも映像作品があったと、ムービーアワードでご一緒したガリナ・ウリザさんが話していました。

VRChatで過ごしている姿を撮った作品ではなく、完全なフィクションを撮影したのは、日本の大きいスタジオだと先駆けだったかもしれません。予告だけではなく本編があることも珍しかったかもしれないですね。当時は予告編風の作品が多くて、「プロジェクト:エメス」もそのつもりで制作したのですが、気づいたら本編を撮ってしまっていましたね。

歩くシーンはやはり苦労する

ーーみなさんは、どんなシーンで撮影に苦労しますか。

だめがね 歩くシーンですね。

miyabi VRChatのデフォルトで用意されている歩きのモーションだと、足元に違和感が出てしまうんですよね。実際に部屋の中を歩くにしても、それなりの広さがないと難しいです。

ーー実際の歩くシーンを撮影するときは、どのような工夫をされたんですか?

miyabi 「IRREGULAR’S」のときは、カデシュさんのやり方をまねさせてもらったんですよね。sit判定のあるアバターを使って、演者が足踏みをしながら、sit判定状態のアバターを動かす形でやりました。

だめがね(アバターを出しながら)具体的には、sit判定を出すアバターにカメラマンを乗せて解決しました。カメラマンアバターの動きによって演者の歩幅の見え方を変える形ですね。ほとんどのシーンがこの方法で撮っていて、リアルで走っているシーンなんてないですね。どうしても引きの絵が必要で誤魔化しきれないときはアニメーションを使います。

だめがねさんがsit判定のあるアバターを使用し、satiusさんを座らせている状態
ここからだめがねさんが動くとの同時にsatiusさんが歩く動きをすれば自然な歩きとなる

だめがね 「ヴードゥー・キングダム 香港ゾンビ紀行」にもこの技術を活かして、走っているシーンを撮影しました。後半に出るガン=カタ(※銃と体術を組み合わせたアクション)のシーンでもカメラマンを椅子に乗せて、回転させて撮影していますね。

ーー椅子って映像撮影に、便利なんですね。そしてだめがねさん以外の3人はすっかり勉強モードに(笑)

miyabi 技術を持ち帰らないといけませんからね……。

だめがね 椅子ギミックを搭載したアバターは、デバッグが終われば、無料で配布します。優しいとも言えるし、言い訳の余地がなくなるので残酷とも言えますね。

ーー逃げ道を絶対に潰してやるって魂胆が見えてきますね(笑)

中田 言い訳を潰してあげる優しさなわけですね。

だめがね これをやさしさと思える人は、いつか刃を向けてくると思います(笑)

影響を受けた作品

ーー映画制作において影響を受けた作品などはありますか。だめがねさんは作品ごとにかなり変わってくると思いますので、「ヴードゥー・キングダム 香港ゾンビ紀行」は何の影響を受けたのか聞きたいなと思います。

だめがね 「リベリオン」と「ウルトラヴァイオレット」ですかね。

中田 100%ガン=カタなの、面白いですね。

だめがね 「バイオハザード」シリーズのアクションにやや不満があって、ミラ・ジョヴォヴィッチももっと動けただろうって思ったんですよね。

ーーじゃあ、自分で撮るかってなったわけですね。

だめがね そうです。作品の物語性部分で影響を受けたのは、「ジョジョ」の荒木飛呂彦先生ですかね。

ーージョジョということは、人間讃歌というわけですか。

だめがね カデシュのストーリーを見てみると、敵役もしたっぱも覚悟が決まっているヤツしか出てこないんですよ。悪いやつも矜持があるという点は、影響を受けているんじゃないかなって思います。

ーー裏社会なんて矜持がないと、酷な世界ですもんね……。

だめがね サメ映画に出てきたジェイソンくんだって命乞いをしていませんからね。一応、女性を犠牲にしているとはいえ主体的に助かろうとしていますから。口を開けて待っているタイプのキャラはいないし、自分でなんとかしようってヤツが多いですね。

ーーmiyabiさんはいかがでしょうか。

miyabi IRREGULAR’Sを作るにあたって、アニメの「PSYCHO-PASS」に影響を受けまし

た。正義を問いかける作風がすごく好きなんですよ。カデシュの世界観を借りて、いわゆる警察などの正義側の視点を描いてみたいなって思って。巨大な悪が存在する世界だと、正義側も一枚岩ではいかないと思うんですよ。

ーーホテル・カデシュの世界観における正義側は、二次創作のしがいがありそうですね。

だめがね ありがたいです。キャラクターの所属を考えると、正義の側は触りづらいですからね。

ーーsatiusさんはいかがでしょうか。

satius アニメの中で唯一「カウボーイビバップ」が好きなんですよ。キャラクターがハードボイルドに動いたり、裏でみんなでかいモノを抱えていたりしているんですよね。あとはイナバシティを舞台に、さまざまな物語が進んでいくという意味で、群像劇である「カウボーイビバップ」と近いのかなって思いますね。

ーー中田さんはいかがでしょうか。

中田 特定の作品はないですね。ただ、NINEに関して言えば、撮影しているときは意識していなかったですが、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」じゃないかなと思います。僕が一番好きな映画かと言われると別の話ですが、「映画としての正解」はこれだよなと。

だめがね たしかに。

中田 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」はいろいろキャラクターや世界観に設定があるけども、話的には「行って帰ってくる話」なんです。映画は、音がなくても絵で見せられるようにしろという方法論がありますが、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が1番いいバランスだと、自分の中であるんですよ。

「NINE」の場合は、カデシュやDJ⑨さんのように、僕だけじゃなく、みんなの想いを借りています。だから映画としての最大公約数を狙って、無意識に寄せていたのだと思います。「NINE」も「エメスから出ていくだけの話」ですからね。

satius 「NINE」は今までに見たことのない作品だったなぁって思いました。VRChatで撮影した斬新性はもちろん、お話の内容に対して特に新鮮さを感じましたね。中田さんの作品って面白いところは面白くて、シリアスなところはシリアスなんですよ。中田さんっぽさって「メリハリ」なんだろうなって思います。だから先日公開された「NINE2」のトレーラーも5分弱という長いものでしたが、全然気になりませんでした。

ーー初公開イベント(?)の際、拝見しましたけども、「NINE2」のトレーラーって5分弱もあったのですか!

中田 ありますね。satiusさんが言っていたことは、めちゃくちゃ意識しています。「アベンジャーズエンドゲーム」や「スパイダーマン」を見ていて思うのですが、喜怒哀楽の全部載せが最強だよねって。

satius 感情を全部載せることが、エンターテインメント力の高い、誰が見ても楽しめる作品になるのだろうなと思っています。普段映画に興味をもたない人たちに興味を持ってもらったり、楽しかったと言ってもらえましたね。

画に対するこだわり

ーーお互いの作品について、どう思っているのかを聞いてもよろしいでしょうか。

中田 satiusさんの「DESPERADO」を見ていて思ったのですが、satiusさんとだめがねさんって撮影の仕方がちょっと似ているんですよね。2人とも画のこだわりがあって、正直僕は搦め手をしないと2人に勝てないなって思うんですよ。話の流れに対する執着はあるのですが、satiusさんとだめがねさんはやっぱり細部に宿る画の美しさの追求が強いなと。タイプの近さで言うならば、僕とmiyabiさん、satiusさんとだめがねさんでわかれると思います。

satius そのわけ方は納得いきますね。

だめがね めっちゃわかる。僕もsatiusさんも、画面に映るものを隅々までコントロールしたい気持ちが「かなり」ありますね。

中田 僕もコントロールはする方ですけど、話の流れに関係あるかどうかでこだわる箇所をかなり取捨選択するんですよ。なので、撮影はめちゃくちゃ速いですよね。

だめがね あー、カデシュは撮影準備長いからなぁ……。小物の多くがオリジナルだったり、看板も自分で作ったりしますからね。これは人に説明できないポイントがたくさんあって、「掌」の実家はそうでしたね。病的なこだわりがあるので、人をつきあわせられないですね。

中田 僕の場合だとスタッフが要素を追加する場合が多いですね。いやいらん!って言っても結局追加されて、でも、それがいい結果を生みだすんですよ。なんというかほどほどがいいだろうなとは思いますね。

satius miyabi先生はどうですか。

miyabi 作っているときは無我夢中で、何も考えずに作っていました。IRREGULAR’Sが使っているワールドって、最後の橋のワールド以外はパブリックで公開されているワールドを使って撮影しているのですよね。

ーーそうでしたか。

だめだね 用途に合うワールドを探すのが難しいので、僕はその方が大変だと思ってしまいますね。

miyabi だめがねさんとsatiusさんのようにワールドから作っているとなると、映っているものをすべて作りこんでいるわけだから、こだわりを感じますよね。

satius こだわりがないとワールドから作るようなこと、しませんからね。

だめがね miyabiさんも、どこかしらこだわりというか狂気を感じますよ。

中田 カメラマンのじぇーゆーさんも含めての印象でしょうけど、カースタントのシーンの引き出しに関しては狂気を感じますね。

miyabi あのカーチェイスシーンは、最後の車が転がるシーンは考えて作りましたけど、それ以外のシーンはコンテも切らずに長回しで撮影したものを繋げたシーンになっていますね。

miyabi あとは接触シーンを撮影する際、VRChatの同期の問題で、接触シーンを撮影できなかったんですよね。結局手打ちでアニメーションを組んだアバターを用意しました。

ーーまったく気づきませんでした……

「アベンジャーズ」をやりたかった

ーー「アウトサイダーズ:ライズ・オブ・ヴァリアール」の話を最初に聞いたときどう思いましたか。

satius アウトサイダーズの話を聞いて、やっぱり俺こういうのやりたかったんだなって思いましたね。

だめがね やりたいに決まっているじゃないですか。(予告編を流し始める)

ーー予告編を見たときはVRCムービーアワードなのかって思いましたね。

だめがね あれはいいミスリードでしたね。そう思ってもらえるポジションとして期待されているのは嬉しいです。

中田 たしかにいろんな作品が並ぶとVRCムービーアワードを連想しますよね。

ーー最後のタイトルが出てくる部分は、音楽の力が遺憾なく発揮されていましたよね。

だめがね 今回1番苦労させられました。何回もリテイクしましたよ。

ーー「アウトサイダーズ:ライズ・オブ・ヴァリアール」はどういったきっかけで話が始まったのでしょうか。

だめがね 「アベンジャーズをやろうぜ」と、俺と中田さんがずっと言っていたんです。でも作品の数が揃うのも時間が掛かるし……と思っていたんですよ。そしたらVRCムービーアワードで作品がバチッと揃ったのでやりますかとスタートした感じですね。

中田 結構動くの早かったよね。

だめがね 本格的に動き出したのは2023年の頭でしたね。

ーー「悪役結社ヴァリアール」の参戦は、どういった流れで決まったのでしょうか。

だめがね 前から「悪役結社ヴァリアール」さんと何かやりたい気持ちがありました。だから、「アベンジャーズ」の企画案とくっつけちゃいました。

ーーVRCムービーアワードでいろんな才能が芽吹いてきたわけですもんね。ここで1つにまとまった作品が出るのは熱いです。

だめがね 「憧れ」を見せないといけないと思っていますからね。せっかく映画制作になにかがあると思って来た人に、こっちの道はハズレでしたなんて言いたくないですし。

ーー今回「悪役結社ヴァリアール」と対峙するわけなのですが、一体どうやって倒しにいくのでしょうか。今から楽しみです。

だめがね 注目ポイントは、キャラクターのリデザインですね。違和感なく世界観をなじませるため、大変ありがたいことに結構トゥーンな感じなので、予告編を撮るにあたって3Dモデルを本作用に新規作成してもらっています。漫画版と実写版みたいで、すごくいいですね。

ーー3Dモデルの制作にはどのくらい掛かったのでしょうか。

だめがね エーデル大首領の3Dモデルは「ホテル・カデシュ」と「悪役結社ヴァリアール」の両方に所属している錫嚙奈々代役のかんなきくんが作っています。今回の企画の実現にすごく頑張ってくれて、3Dモデルの制作を自分でやると言ってくれました。

ーー「ホテル・カデシュ」と「悪役結社ヴァリアール」にどちらともに所属しているのであれば、すり合わせできますよね。「悪役結社ヴァリアール」ももっと知らないといけないなぁ……。

だめがね 互いのファンが、もう片方の作品に手を出すきっかけになればいいねという狙いはあります。

映像を制作している人に向けたメッセージ

ーー映像を制作している人に向けてメッセージをお願いします。

miyabi 作っている途中は投げ出したくなると思いますが、完成させると作品という形に残るいい思い出になり、自分の一部になると思います。なので、頑張って完成させてください!

satius 監督って何するのって最初思っていたんですが、全部わからないところなんですよね。0から1を生み出すのは非常に難しくて、乗り越えないと作品はできないです。撮影に協力してくれたスタッフに返せるのは作品しかないので、完成させないといけませんね。

クオリティは二の次でいいです。自分が満足するクオリティは一生できないと思っています。満足するクオリティに近づけるために作品を作り続けているわけですから。なのでまずは、作品を撮影して完成させましょう。そうすれば楽しく、成長できると思います。

中田 僕自身思うんですけども、アバター作るとかワールド作るとか、イベントをやるに比べると、映画や動画を撮影することを始めるのは1番簡単だと思います。みんなデフォルトカメラを持っていますし。我々もデフォルトカメラで撮影することが多いですからね。とりあえずカメラを回しましょう。1番何の準備もいらずにできます。

だめがね 作品を作る上で1番怖いのは、やったのはいいけども何にもならなかった恐怖なんですよね。でも、VRChatで撮影した映像に関しては、僕は送ってくれたら全部見て感想をお返しします。少なくとも誰も見ないということはないので、頑張ってください。