『memex』ワンマンライブ「過剰不適合」レポート 4年ぶりのVRChatライブに込めた想いとは

「未来を実装するバンド」として、ソーシャルVRを中心に精力的な活動を展開してきたVRバンドmemex。直近では『SANRIO Virtual Festival 2024 in Sanrio Puroland』にも出演し、圧巻とも言えるパフォーマンスを披露したことで、記憶に焼き付いている方も多いはず。

そんな『memex』が、VRChatでワンマンライブ「memex existence streaming live『過剰不適合』」を開催。2020年に開催した「#解釈不一致」以来、実に4年ぶりとなるVRChatでのワンマンは、『memex』のこれまでの集大成であると同時に、2024年の『memex』の旗揚げとも言える舞台となりました。本記事にて、その全容をお伝えいたします。

全インスタンスへ存在ごと同時中継。全14曲の大ボリューム!

ボーカルのアランさんと、作詞曲・技術開発のぴぽさんの二人によるVRバンド『memex』は、2019年にデビュー。『VRChat』や『cluster』などで活動を展開し、オルタナティブロックの流れを汲む楽曲群と、音楽活動に合わせて開発される技術の数々が高く評価されており、ソーシャルVR発アーティストの代表格として知られています。

3月31日に開催された「memex existence streaming live『過剰不適合』」は、VRChatの現地会場と、YouTube配信の二本立てで開催。筆者の観測では、YouTube側の配信は200人ほどの同時接続を記録しつつも、VRChat側は会場となるワールドに300人以上滞在していました。

最大の特徴は、独自開発システム「Omnipresence Live U」によって、『memex』の2人の姿・動きが全ての会場インスタンスに同時配信される点。VRChatのインスタンス人数上限に縛られないため、イベントにつきものの「Join戦争」などに悩む必要がないのがポイントです。

舞台となるワールドは、『SANRIO Virtual Festival 2024 in Sanrio Puroland』出演時にお披露目された演奏用空間 「The Area of Throne」。「玉座」をモチーフに据えた空間には、中央に大きく隆起するステージが存在し、空間の至る所で音に合わせて演出が発生します。

また、外周には音に合わせて当たり判定を持つオブジェクトが出現。乗っていれば上方へ飛ばされるため、「音に合わせて跳躍する」という体験が味わえます。

視覚以外でも音を体感できる空間を、自分の好きな人といっしょに楽しむ。VRChatの原点ともいえる環境で待ち受けるのは、正真正銘の『memex』による生ライブ。リアルタイムの歌唱、演奏、トーク、そして動きを、どのインスタンスにいても楽しめるのは画期的です。”配信”される二人の姿も、「そこにいる」とごく自然に感じられるほど鮮明。これをサラッとやっていますが、技術的にはかなりすごいことになっているはずです。

事前収録ではないことの裏付けとして、アランさんの足のトラッキングが飛んでいたことが挙げられます

そのうえで、今回のライブの空気は比較的ゆるめ。バツグンのパフォーマンスを生で披露しつつも、MCについては「なにも考えていなかった」と告白するほどにはマイペース。図らずも、パフォーマンスとの緩急がつくことによって、メリハリが生まれていたように感じました。

1時間超のライブで、披露された楽曲は全部で14曲。『サンリオVfes』で披露された『co-ordinate』がトリを飾り、「過剰不適合」は幕を閉じました。その後、セットリストはSpotifyプレイリストにて公開(※未配信楽曲『泥棒猫は二度盗む』を除く)されたので、リピートしたい方はぜひお気に入り登録しておきましょう!

「過剰不適合」を目指す理由

上述の通り、『memex』のVRChatでのワンマンライブは、2020年に開催された「#解釈不一致」以来、実に4年ぶりです。この「#解釈不一致」も、当時としては非常にめずらしい「全インスタンスへのアバター・音声の同時配信」という、「過剰不適合」と同じコンセプトを掲げたことで話題になり、当時を知る人はある種の文脈を感じたかもしれません。

とはいえ、「なぜこのタイミングでVRChatワンマンを?」と疑問に思った方も少なくないはず。その理由の一端が、ぴぽさんが語る「過剰不適合」というタイトルの由来からうかがえます。

ぴぽさんによれば、「過剰不適合」は「過剰適合」という言葉から名付けたとのこと。「過剰適合」とは統計学や機械学習などで使われる言葉。ざっくり説明すると、「とあるデータに対する学習だけが過剰に進んだことで、未知のデータに対応する能力が失われる」といった意味合いです。

『memex』も、2019年のデビューから5年目を迎えるにあたり、様々な経験からルーティン化されることも増えてきたことに、「硬直化してしまうことへの恐れ」を抱き始めたとのこと。デビュー当時の「未知だらけの世界へ挑む」という初心を思い出すためにも、今回のライブに「過剰不適合」というタイトルを名付けた、とのことです。

そのあらわれとして、2024年からは「VRChatに活動拠点をつくる」をテーマに掲げ、隔週でVRChat上での配信をスタートするなど、VRChatを軸にした活動をスタートしています。2021年から2022年にかけて、月1バーチャルライブ「Serial live experiments」を『clutser』にて展開しつつ、様々な楽曲制作を手掛けてきた『memex』にとって、「VRChatでいろいろなことをやる」というのは、まさに初心に帰るアクションなのでしょう。

その流れを加速する意味も込めてか、なんと5月18日に今年2度目のVRChatライブ「Continuous Identifier」を開催することも宣言。掲げたテーマを完遂しようという強い意志が感じられます。

バーチャルアーティスト『memex』が、自らの原点ともいえる場所で踏み出す「過剰不適合」な一歩。その先にどのような未来が実装されていくか、ぜひとも見届けたいものです。

「memex existence streaming live『過剰不適合』」配信アーカイブはこちら。

●参考リンク
memex(X)
アラン(X)
ぴぼ(X)