アーティスト本人の出演はありません:「Virtual Reverb: The Creative Echo of hide」で見せた「不在の本人証明」

サンリオVFesの様々なアーティストパフォーマンスの発表があった中でも、その特異性において高い注目を得たのが本公演だと思います。

VRChatの音楽コミュニティに居る私もですが、hideというアーティストの影響下にあるアーティストは数え切れません。

「アーティスト本人の出演はありません」と明確に示されている中で、一体どのようなものが出てくるのか?と考えていたのですが……そこには本人がいなくとも、確かに本人の残したものをきちんと拾い上げ、再構築したライブがありました。

hideを知っていてVRChatに入り込めていない方、逆にVRChatにはよく居るけどhideを知らない方、どちらにも興味を持って頂けるように。それが90年代ヴィジュアル系に強く影響を受け続けている私からのレポートであり、プロモーションである本記事です。

サムネイル撮影:えこちん

そもそもhideってどんなアーティスト?

X JAPANというバンドをご存知の方は多いことでしょう。日本においてヘヴィメタルをお茶の間に持ち込むことに成功したバンドの一つであり、ヴィジュアル系というジャンルの先駆者でもあります。

その中でも特にヴィジュアル全般に影響を与えたのがHIDE(ヒデ)です。X JAPANとしては大文字のHIDEとしてギターを担当。ソロとしては小文字のhideとしてボーカル・ギターを担当していました。

出身地はVRChatでもすっかりおなじみとなった横須賀。
X JAPANではギター及びヴィジュアル全般、一部楽曲の作詞作曲を担当。美容師免許を持っていることも活かしてメンバーのヘアメイクも担当していました。

hideとしてのソロ活動は1993年から始まり、しばらくの間はソロ形態だったのですが、1998年にはバンド形態の「hide with Spread Beaver」としての活動を開始……したのですが。開始して1年も経たない5月2日にわずか33歳にて亡くなってしまいました。本公演で披露された楽曲はこの「hide with Spread Beaver」としてリリースされたものです。

生きていれば、hideというアーティストはあらゆるアーティストの中でも最初期にメタバースに入り込み、活用したであろうと私は確信しています。

VRChatらしいド迫力の、でも確かにhideを感じるライブ

それではライブパートに行きましょう。

マツケンサンバのときのように、普段通りのサンリオVFesのステージ会場かと思いきや開始した瞬間ワールドが大変化!いきなりステージ内を縦横無尽に動き回れるようになりました。一体何が始まるのかとドキドキしつつ困惑する筆者。

現れたのは巨大なサイコベア(hideがCGで制作し生み出したキャラクター「PSYCHO TEDDY BEAR」)、巨大な人間の両手、たくさんのTV、そしてhideの愛用ギターのモッキンバードですが……どれも真っ白。

暗転すると共に背景にはカラーノイズ、TVにはカラーバー。本公演のタイトルである「Virtual Reverb: The Creative Echo of hide」が背後のモニターに浮き上がり、hide with Spread Beaverのロゴが出てくるなど徐々に盛り上がっていきます。

そして「ARE YOU READY???」とこちらに問いかけて一気にこちらのボルテージを高めてくる!

まずは「ピンク スパイダー」から。

世界が色づき、モッキンバードもhideのモデルに忠実なカラーに。大量の光線が縦横無尽に空を走り回っていきます。「これが全て… どうせこんなもんだろう?」という歌詞とサウンドを忠実になぞるように晴れない空、どんよりとした光景。「空が四角いと思ってた」と歌われる通り、大量の光線は全部直角に飛んでいきます。すべての光景が溜まったフラストレーションを表現しているかのよう。

撮影:えこちん

空中を流れる大量のエラー表示もその重たい気持ちの出力。

撮影:Yzha

「蝶の羽根いただいて こっち来いよ」と歌詞を忠実になぞって蝶が飛び回ります。あの羽根が欲しい……という心情に反して自由に飛び回る蝶のなんと羨ましいことか。

サビに入れば一気に開放的な青空に。曲を忠実に表現した突き抜けるような青空。
それでも完全にスカッと爽快な空、とはいかないのは、「空を睨む」と歌われる通り、まだまだ残っているフラストレーションを突きつけてくるかのようです。

続いての曲は「ROCKET DIVE」。

画面全体に粒子状ノイズが走りながら疾走していきます。「だいたいおんなじ毎日」で「それなり OK」で「だけど本気なんじゃない、そんなもんじゃない」という歌詞の通り、一見いい感じにやっているのに何か吹っ切れないものに迷い、どうにもスッキリとしない感情の発露がそのまま示されています。

撮影:なのくん

そしてたくさんのダイヤモンドが飛び散りながら左右の手にエネルギー弾のようなものが!一体このエネルギーは……?どうなってしまう……?

そしてBメロではサイコベアにエネルギーが溜まって……?「君の胸のミサイル抱えて行こう」とばかりに!

ドーン!と爆発!

そしてサビではたくさんの星がROCKET DIVE!

撮影:なのくん

「待ってるだけの昨日にアディオース」と歌う通りスパークしてどこまでも飛んでいける!

これが「新しい星が瞬く世界へ」の旅路だ、と言い切れるだけのモノがありました。

大迫力の演出に圧倒されました。私、この強烈な演出に記憶が飛んでいたくらいです……とんでもないものを見てしまった……

最後はキラキラしながらまた白い世界に。それでもhideが残してくれたものを表しているのでしょうか、背景には様々なエフェクトと「GRAVITY」と書かれた缶が。

私達へ「自由」「飛べること」を教えてくれた、彼の優しさだったのかもしれません。

hide本人を出さずしてhideを表現しつくす、恐るべき10分

総合的に言えば、「圧倒的なエフェクト量と質で攻める大迫力のライブ」と簡単にまとめることはできてしまいます。しかし、そこには確かにhideの残したものを丁寧に追いかけて再構築したものがありました。

ではそのhideの残したもの、そしてここで表現するものはなんだったのか?それはhideが目指していた姿そのものだった、と思います。

hide自身はソロ活動のことを「PSYBORG ROCK」と称し、機械と人間の、アナログとデジタルの統合を、まさにサイボーグのように目指していました。生演奏や打ち込みだけにとらわれることなく、これらを自由柔軟にセオリーを無視して融かし合っていったのです。まだ、ボーカロイドが世に出るおよそ10年前に「自分の録音した声を組み合わせて謳わせる」という今日のそれを思わせる手法に言及していたと言われます。このように先進的な手法を好み、技術面にも関心が深かったことが知られており、エピソードには事欠きません。

1993年当時には「完璧なCGヴィジュアルのアーティストを作って、表に立つアーティストhide自身はいつのまにかいなくなって、『hide』という名前でやっていく。でも音楽はhide自身が作る」という、VTuberや2020年代を予見するかのようなコメントを残しています。いえ、これはコメントではなく本人がやろうとしていた構想そのものです。

いわば、この構想をさらに推し進めて、hide本人をアバターですら出さずしてhideを表現する、その境地を目指したものがこれだったのです。「生きていればhideというアーティストはあらゆるアーティストの中でも最初期にメタバースに入り込み、活用したであろうと私は確信している」と序盤で述べたことがおわかりいただけたのではないでしょうか?

何より、hideへの確かなリスペクトを感じるものでした。

残す公演はあと1回。3月16日13時からの開催を予定しています。VRChatにいるhideを知らない皆さんも、hideのファンだ!というVRChatを知らない皆さんも、ぜひご覧いただきたい!そのあまりにも先進的で、今でも未来から来たと信じてしまう姿は、本人の姿なくとも伝わることは間違いありません。