「たかが衣装、されど衣装」 BOOTHショップVAGRANTオーナー「レイン」さんが語る衣装作成のコダワリ

VRChatの衣装制作において、比類なき存在感を放つブランド「VAGRANT」。最新作『咎人のラング・ド・シャ』や『ルミナス・デシート』など、Xを開けばその作品を見かけない日はないほど、圧倒的な支持を得ています。

今回はオーナーのレイン氏に、制作への異常なまでのこだわり、そしてVRChat市場の未来について、深くお話を聞きました。

『咎人のラング・ド・シャ』制作の深層

――今作「咎人のラング・ド・シャ」のモチーフやネーミングは、どのような着想から生まれたのでしょうか?

レイン: 今回、見た目は万人受けする「清楚」さで固めたいと思っていました。ただ、VAGRANTとしてはそれだけでは面白くない。清楚さの中に、どこか「業(ごう)が深い」要素を入れたかったんです。

VRChatという仮想空間は、現実で抱えたものを一時的に置いておける「逃避の場所」でもあります。人は誰しも罪を抱えているものですが、そんな人々に癒やしや忘却を与えられる「甘いお菓子」として、メイドという響きと似ている『ラング・ド・シャ』を選び、この名前にしました。実はVAGRANT初の日本語タイトルだったので不安もありましたが、日本界隈でしっかり名前で呼ばれていて嬉しいですね。

――本作において、特に「ここを見てほしい」というシルエットやポイントを教えてください。

レイン: VAGRANTは常に全体のシルエットから来る「空気感」を大事にしています。今回は特に、スカートの輪郭と動きを見てほしい。軽やかで可愛らしいのに、どこか品のあるバランスを意識しました。

また、今回は「アクションメニュー」でのスタイルチェンジ機能を6種類用意しました。VAGRANT解釈のメイドからドレス風、センシティブな雰囲気まで。衣装屋の責任として「改変のパーツをどう提供するか」を考え、出来ることを全部詰め込んだ結果です。

まあ、このスタイルチェンジ機能を作ってしまったせいで、複雑なメッシュ構造まで触ってくれるユーザーさんは殆ど居ないんですけどね(笑)。

――メッシュ構造やテクスチャに関しても、独自のこだわりがあるとお聞きしました。

レイン: 今回、フリル周りの制作にはかなり苦労しました。ボリューム感や陰影、そして「動いた時にどう見えるか」。「スカートは命」だと思っています。 市場のメイド服の多くはスカートとエプロンの動きが一致していますが、VAGRANTではそこを妥協せず、スカートとエプロンの動きを分離させて実装しました。この独立した動きが生むリアリティこそが、私のこだわりです。

https://twitter.com/vagrantbooth/status/2014174933090484238


VAGRANTの歩みとレインさんの哲学

――かつては私服系も展開されていましたが、現在の「キャラデザ」的なスタイルへシフトした理由は?

レイン: 初期の頃は技術が追いつかず、資料が豊富な「リアクロ(リアルクローズ)」に逃げていた部分がありました。でも、今の環境はリアクロ系のショップが溢れている。その中で自分ができることは何かと考えたとき、思ったのが「ユーザーに驚きを与えること」でした。現実では着られない衣装、キャラクターデザイン的な方向へ進むのが一番楽しいと思ったんです。

――実際に一着を作るのに何時間程かかりますか?

レイン: 今回のラング・ド・シャの場合は11月からモデリングをスタートして、1日平均8時間作業、1月は平均18時間~20時間くらい作業していました。僕は結構作っている途中に迷ってしまうんですよね。 仮でモデリングした物がこんな形だったんですけど、これを作るのは2日で終わったんですが、そこからリリースされた物になるまではほぼ3ヶ月かかりました。
スカートやフリルの形が気に入らなくて作り直したり、色々と試行錯誤しましたね。

――モチーフ選びの基準はどこにあるのでしょうか。

レイン: 2パターンあります。1つは、特定のアバターに着せたい服を考えること。今回のクマリちゃんの先行対応なら「メイド」といった具合です。 もう1つは、VRChat内やフレンドのコミュニティを歩き回って「みんな好きなはずなのに、なぜか存在しないもの」を探すこと。『エターナル・リユニオン』のタイツの食い込み表現などはまさにそれで、「誰も作らないなら僕が作ろう」という発想がヒットに繋がっています。

こだわり抜いて作られた「エターナル・リユニオン」のタイツ表現

――VAGRANTが「これだけは譲れない」と考える核は何ですか?

レイン: 「衣装の説得力」です。仮想現実のフィクションであっても、造形の厚みやウェイトの綺麗さがなければ没入感が削がれてしまう。適当に作るのが嫌いなので、譲れないものというとウェイトや揺れもの、そこからシェーダー、テクスチャ……となっていき全部になっちゃいますね。 揺れものに関しても、コンセプトに合わせて例えばラング・ド・シャなら「ファンタジー寄りのふわっとした動き」に、アレステッドレポートなどでは「現実的な動き」のように……といったように使い分けています。

未来への展望とコミュニティへの想い

――今後、挑戦してみたいデザインや構想はありますか?

レイン: 年末くらいには、また私服系も出してみたいですね。あとはメジャーなジャンルを制覇していくか、マイナーな場所を攻略していくか。キョンシーやアヌビス系のような「ありそうで少ない」ジャンルをどう攻略するか、常に考えています。

――昨今のVRChatクリエイター急増について、メッセージをお願いします。

レイン: 正直に言うと、今の市場は「地獄」だと思っていて、だいぶ僕が入った時(2021年)と比べてレッドオーシャンだと思います。セール価格980円で凄まじいクオリティの衣装が売られる中、新人が知名度を上げるのは至難の業。 だからこそ今回VAGRANTは「あえて値上げ」をしました。大きなブランドが安売りを続けると、市場のバランスが崩れ、中堅や新人がドロップアウトしてしまう。色んなショップが存在できる豊かな市場であってほしいからこその決断です。

これから始める人は、純粋な心で、様々なアイデアと継続力で挑戦していって欲しい「継続は力なり」なので、自分の商品を厳しい目で見て改善し続ければ、必ず勝機はあります。

現在BOOTHの3D衣装カテゴリの衣装数は53792件

――最後に、ユーザーの皆様へ一言お願いします。

レイン: 僕の心にあるのは「たかが衣装、されど衣装」という言葉。そこに物語を宿せるのはユーザーの皆様です。VAGRANTの奇妙な物語に、これからも付き合っていただければ幸いです。