「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書」によると、3Dモデルカテゴリの取扱高は2022年で24億円に達し、年々上昇傾向にあります。
成長している状況下で、アパレルブランドの参入も見られます。2022年にひゅうがなつさんをはじめとしたクリエイターたちでアバターをプロデュースを始めたドットエスティ、5度のバーチャルマーケットの出展を行っているBEAMSなどがあります。
今回はファッション座談会として、ドットエスティのkomikanaさん、BEAMSの木下さん、ファッション&ビューティメディア「WWDJAPAN」のchihayoさん、3D衣装ブランド「EXTENSION CLOTHING」のアルティメットゆいさんを招きました。VRChatのファッション事情について、それぞれの視点に立った話をしている内容となっています。
VRChatを始めたきっかけ
ーー最初にVRChatを知ったきっかけについてお聞きしてもよろしいでしょうか?
木下 BEAMSが2020年12月にバーチャルマーケットに出展するにあたって、担当したのがきっかけです。
chihayo 伊勢丹新宿店のバーチャルマーケット出展がファッション業界で結構話題になったんです。興味を持って、次の回に行ってみようと思って、HIKKYでヘッドセットを被せてもらったのがきっかけです。2020年12月がバーチャルマーケット初取材で、当時は夫の仕事用PCからヘッドセットなしで入りました。HIKKYとBEAMSの協力で表紙撮影も行いました。
アルティメットゆい もともと別のゲームで遊んでいたのですけども、VR対応と聞いてQuest2を買って遊んでいたんですよね。すぐに飽きちゃって、そこでVRChatを知ったという流れです。初日は10時間、VRChatやりっぱなしでした。そこから毎日ログインしています。2020年の12月の終わりぐらいですね。
komikana ドットエスティのメタバースプロジェクトを進めるにあたって、いろんなプラットフォームを体験してみてVRChatに1番魅力を感じました。
ーー木下さん、chihayoさん、アルティメットゆいさんって結構時期が近いですね。ドットエスティとBEAMSがVRChatに参入しようとしたきっかけはなんでしょうか。
komikana VRChatを選んだ理由はすでにみんながファッションを楽しんでいて、ブランドとしてファッションを表現する部分に関してVRChatに可能性を感じたからです。
ーーVRChatって表現できるところが多いですもんね。
komikana 他のプラットフォームと比べてもかなり細かいところまで再現できるなって感じました。
木下 先程BEAMSがバーチャルマーケットに出展したという話をしましたが、いろんなプラットフォームを検討して出展を決めたというよりは、HIKKYの舟越さんが弊社の社長に提案してそのまま参加が決まったという経緯でした。
なので、いろいろ比べた上での選択ではなく、いきなりVRChatだったんですよ。ただ、1回目の出展後にいろいろなバーチャルプラットフォームを比べてもなおVRChatが1番面白いと、チームとしても感じました。アバターを一人称視点で操作する体験は没入感が高いですよね。
もちろん今は、ZEPETOにも参加しましたし、他にもいろいろと準備中ですが、VRChatは、デジタルファッションとしての表現の中では、最先端のことができる場所じゃないかと考えています。なので、最先端のアイディアはVRChatに投入しています。
ーーchihayoさんはバーチャルマーケットで体験したあとに他のプラットフォームを見ていきましたか?
chihayo 体験として面白かったので、フォートナイトからZEPETO、Decentraland、Roblox、clusterまで、いろいろと試してみました。どこも特長がありますが、没入感に関してはVRChatが一番高いと感じました。
服の選定
ーードットエスティとBEAMSはそれぞれ実際に販売されている商品をVRChatに持ち込むことをしていますが、服の選定など工夫している点はありますか?
komikana ドットエスティプロデュースのアバターは、ひゅうがなつさんをはじめとしたクリエイターさんがそれぞれ得意な事を役割分担してチーム体制で制作頂きました。
私達の根本的な考えなのですが、そのクリエイターさんの世界観や作品がいいと思ってお声を掛けたのに、会社側の都合で要望を出すというのはクリエイターさんにお願いする意味がなくなってしまうのではないかなと思っています。
ひゅうがなつさんもすごくドットエスティを研究してくださって、リアルクローズから洋服を作る場合、VRChatだと情報量が減ってしまうので、VRChatでも魅力的に見えるデザインにしてくださいました。
ーーその次に出した一色晴の場合はいかがでしたか?
komikana 枡花 蒼の着るRAGEBLUEにくらべて一色 晴の着るHAREはデザイン性があるので、HAREの洋服のままに制作してくれています。プリント部分もしっかり再現されていて、衣装担当のにやみさんが手書きで描いてくださいました。一色 晴のトラックパンツのデザインや、枡花 蒼のワンピースのタック部分などもにやみさんの手書きで制作してくれました。
ーーにやみさん!?
komikana にやみさんの元に実際の洋服サンプルをお送りしたら、そっくりそのまま描いて頂けたんです。店舗に行かれたお客様が「本物そのまんまだ」ってツイートしているのを見かけました。
木下 BEAMSの場合は、バーチャルマーケット出展1回目と2回目はリアルの商品のみを取り扱っていて、3回目にBEAMSの服を着たアバターを販売した際に、服が欲しいというお声をいただきました。そして4回目の参加で、初めて服を販売しました。
実は、4回目でよかったと思います。3D化する服を選ぶ上で、リアル志向の良さとバーチャルで映えるもののバランス感覚がある程度養われてから取り組むことができました。
バーチャルの中でオシャレな人が欲しそうな物や、私たちがバーチャルに持ち込んでみたいスタイルを、社内のディレクターやプレスルームと相談しながら決めています。BEAMSのオリジナルレーベルから、バーチャルマーケットの会期の季節感に合うようなものでバーチャル映えしそうなものを選んでいます。3、4つに絞った段階で、モデリングを担当してくださっているコルネットさんと相談して最終決定しています。
プレスルームとは、プレス(広報)に携わる部署のこと。ファッション誌やタレントへの商品の貸出、PR展開などブランドの発信に深く関わる。
VRChatにあるファッションコミュニティについて
ーーkomikanaさんが話していた通り、VRChatにはバーチャルファッションモール「Carat」やファッションショー「Virtual Collection」などのイベントなどがあると思います。はじめてコミュニティの存在を知ったときにどう思いましたか?
komikana とにかく感動しました!私がアダストリアに入社した際、「studio CLIP」というブランドのお店でスタッフとして働いていたのですが、去年の11月のCaratで、ドットエスティのPOPUPを出店させていただいたときに、私がstudio CLIPのお店のスタッフとして働いていた時と同じ感覚になりました!
Caratでお話ししたお客様から「普段からアダストリアのブランドの服を着ています」や「リアル服の企業が参入してくれるのがすごく嬉しい」ってお声をいただきました。
ーー熱いこと聞いたなぁ……
komikana Carat のようなVRChatで日々行われている様々なファッションイベントは本当に素晴らしいモノがいっぱいで、私のようなリアルなファッション業界の人たちは絶対に見た方がいいですよ!
自分の会社の中でもやったことない人がいっぱいいるので、学びの場として体験したほうがいいよって各ファッション企業に言いたいなってすごく思います。
ーー木下さんはいかがでしょうか。
木下 バーチャルマーケットに参加するようになってしばらくしてから、2021年の12月に自宅でVR環境を整えたのですが、1人っきりで楽しむことができなかったです。2022年になって、リアクロ集会の告知をHIKKYの人に教えてもらったんですよ。
そこで個人アカウントで参加してみたリアクロ集会で初めて友達ができたんですよね。みんなすごい素敵な格好をしてて、私が目立つBEAMSのオリジナルアバターを着てたんで、いろんな人が声をかけてくれました。
お洋服好きだとVRできなくても改変やったことなくても、関係なく話が盛り上がるし、みんないろいろ教えてくれたんですよね。イベントが終わった後にいろんなワールドに連れて行ってもらいました。リアクロ集会が転機になって、そこから楽しくなっていろんな企画が湧いてくるようになりました。
ーーchihayoさんから見て、VRChatとリアルでコミュニティの違いはあるように見えましたか?
chihayo パリやミラノにコレクションを見に行くような人たちをはじめ、ファッションが好きな人は、ある意味とてもマニアックなのですが、そのマニアックさと熱量は共通していると思いました。 リアクロ集会の来場者にファッションのポイントを取材したのですが、みなさん、細部にまでこだわりがすごく強く、職人的だなと感じました。
ーーアルティメットゆいさんは、衣装の販売後などでイベントを開催していると思いますが、実際にやってみてどうですか?
アルティメットゆい 去年のクリスマスあたりに集会を行って、そのときに参加できた人だけで200人集まりましたね。スタッフだけで10数人いるとなると大変なので最近は小規模でしかやっていないですね。また来月ぐらいには大規模なイベントをやりたいなと考えています。
クリエイター同士のコラボ
ーーEXTENSION CLOTHINGは最近コラボが多い印象ですが、理由はありますか?
アルティメットゆい いままでクリエイター同士のコラボって全然なかったです。他のクリエイターが作ったものは互換性がないですね。ユーザーの中には髪型を衣装の一部として捉える人が多くて、例えばスウェットに合う髪型、かっこいいファッションに合う髪型って探しているんですよね。
衣装を作る段階で、髪型を作るクリエイターさんと相談して、似合う髪型を作ってくださいってお願いしました。今かぶっている帽子とかが分かりやすくて、アバターのファッションに帽子ってあんまりなかったですよね。
キャップを被ろうとして、髪型に合わせるとキャップが大きくなりすぎてしまうんですよ。今回は髪型のクリエイターとコラボしたので、キャップを被るときに使うシェイプキーを実装してもらいました。クリエイター同士のコラボで互換性が生まれればいろんな組み合わせがもっと自由にできるかなみたいなところで、コラボを考えています。
ーー他にもコラボをして何か面白いことはありましたか?
アルティメットゆい あとは、最近コンカフェとコラボしたんですけども、カラーリングがこれまで一色だったんですけども、私の方で別のカラーリングを作って出したんですよ。自分で作ったカラーリングが、キャストに気に入られてカラーリングが取り入れられる逆輸入がありました。
ーーリアルよりもカラーバリエーションを考えるのが楽ですよね。
komikana リアルだと生地発注するから、残ってしまったら……って震え上がりますよね。
木下 だいたいヤマ張った色やサイズが外れてしまうんですよ(笑)
komikana (笑)
ーー在庫がないとか、置くスペースを考えなくてもいいのは聞いたことありましたけども、カラーバリエーションも変わってくるんですね……
アルティメットゆい ただ困ったのは、ロゴとかをプリントしたものに価値が出ないですよね。VRだとテクスチャを自分好みに張り替えたり、好きなロゴを背中に入れたりできちゃいますからね。
なので、トレーナーを出したとすると、次にトレーナーを出したときにデザイン違いが出せずに形そのものを変えないと価値が出ないですよ。
komikana プリント自体のデザインを販売してもいいかもしれませんね。
アルティメットゆい 実際にテクスチャを販売しているショップも見かけますね。
chihayo つまり着物のように形が決まっている装いは、テクスチャだけでいいということですよね。
アルティメットゆい ざっくり言うとそうなってしまいます。あるいは好きなクリエイターが作った衣装を買うこともありえますね。
今後も男性アバターが増えるかも?
chihayo ゆいさんは、服を作るときになにを参考にしているのですか?
アルティメットゆい 自分の趣味ですかね。自分が着たい服とか、BOOTHで販売されていない系統の服を作るのが多いですね。あとは、VRChatのユーザーが好きな系統があるんですけども、織り交ぜたりしています。最近個人的に着ている服があるですけども……(アバターを変える)
皆 かわいい
アルティメットゆい かわいいですけども、表に出さないですね。もしかしたら出すかもしれないですけども、ユーザーの傾向として派手なもの、足し算なファッションが好まれる傾向がありますので……
木下 中にシャツを重ね着するのがすごくしたくて、今はむりやりやっているんですよ。なので、ゆいさんが着ているそれ、大好きです。
chihayo VRChatとリアルではウケるものが違うんですね。
アルティメットゆい みんなTwitterに写真を載せて、いいねをもらう文化が根づいているので、写真映えする服を選ぶようになるんですよ。
chihayo 私から見ると、BOOTHで売られているVRChat用の服装って、テイストの幅が狭いなって思うんです。ウケのいいところにみんな行くんでしょうね。
ーーVRChatユーザーがメインが男性なのが大きいのでしょうかね。
chihayo それはあるかもしれません。
アルティメットゆい すごい女性が増えていますよ。なのでこれから流れが変わると思います。やっぱりクリエイターは女性が多いので、ほんとうはこういうのが作りたいというのが結構あるとおもうんです。女性が好む服を女性が着る流れが生まれるんじゃないかと思います。
ーー循環ができて、コミュニティが出来上がるわけですね。
chihayo いろんなテイストが増えるとうれしいです。
ーー今回はありがとうございました。