10月3日、株式会社アダストリアは、同社公式WEBストア .st(ドットエスティ)がプロデュースするメタバースファッションアバター第1弾「枡花蒼」(ますはな あお)を販売しました。
.stは、グローバルワーク、ローリーズファーム、ニコアンドなど30以上のブランドが集まった直営WEBストアであり、20代から30代に熱い支持を集めています。アバターの制作を担当したのは、人気アバター「ウルフェリア」や「リーファ」を制作したひゅうがなつさんをはじめとする6名の個人クリエイターたち。国内アパレル業界第3位のアダストリアと、VRChat個人クリエイターの共創は、大きな話題を呼びました。
話題となった枡花蒼についてメタカル最前線では、アダストリア マーケティング本部広告宣伝部メタバースプロジェクトマネージャーの島田さん、および同社メタバースチーム兼メディアPR担当のkomikanaさん、および同アバターの全体デザイン、3DCGモデリング、チームディレクションを担当したひゅうがなつさんにインタビューを行いました。
なぜVRChat向けに販売を行ったのか、アバターにこめられたこだわり、アバター第2弾の情報といった裏話が多く聞けましたので最後まで見ていってください。
目次
VRChatはファッションのコンテンツや文化が根付いている
ーー本日はお時間いただきありがとうございます。まずは、アダストリアがメタバースファッションに進出しようと思ったきっかけをお聞かせください。
島田 現在ファッション業界を含めさまざまな事業者さんがメタバースに参入しています。アダストリアでも、デジタルネイティブな若い世代に向けたマーケティングは、現在力を入れており、そうしたアダストリアの成長戦略の一環としてメタバースへの参入を検討したことがきっかけです。
ーーありがとうございます。そんな中でも「VRChat」をプラットフォームに選定した理由はなんでしょうか?
島田 最初、さまざまなプラットフォームを検討していたのですが、中でも「VRChat」は他のプラットフォームに比べてもファッションのコンテンツや文化が根づいているなと感じたんです。他社さんだと、「zepeto」や「ROBLOX」などへの参入もよく聞きますが、アバターにデフォルメが掛かっているので、リアルクローズを扱っているブランドとしてアイデンティティを伝えるのが難しいなとも思いました。
ーーなるほど。今回、衣装販売のみならずアバターまで販売しようとなったのはどういった経緯だったのでしょうか?
島田 洋服屋さんなので洋服をみんなに楽しんでもらいたいという思いが第一にあります。VRChatのユーザーに興味を持ってもらう販売のやり方ってどういったものなのだろうと調査をしていました。
これは実際に、「VRChat」に触れてみて気づいたのですが、アバターのカスタムはゲームエンジンの「Unity」を使う必要があったりと、初心者には少し敷居が高いですよね。アバターでお着替えをしようとすると改変の技術が必要なので気軽に楽しんでもらうためにアバター販売にしたという流れです。
――確かに、アバターであれば衣装改変よりは幾分かハードルが下がりますね。そんななか、ひゅうがなつさんにお願いした決め手は何でしょう?
島田 これは、進めていく中で気づいた部分でもあるのですが、今回ひゅうがなつさんと制作していて、リアルの洋服ってモデルやインフルエンサーで売れ行きが変わるように、VRChatでもアバターの製作者で同じことが起きていると感じました。
やはり、コミュニティのみなさんに受け入れてもらうことをまず第一に考えた結果、実際に「VRChat」で活躍するクリエイターさんにお願いするのが一番だという結論に至ったのです。
ーー先程から話を聞いていると結構VRChatに精通しているように感じますが、VRChatはどのぐらいでしょうか。
島田 まだ、2ヶ月ぐらいですが、今回の仕事を通じてひゅうがなつさんなどに色々と教わった結果です。
自由にやらせてもらったデザイン
ーー今回、チーム制作の体制を取った点は、VRChatのアバター制作の中では珍しい形態なのかなと思います。これは、実際の制作会社さんにお願いする体制などを意識してのことなのでしょうか?
島田 実は、当初はひゅうがなつさん1人でお願いしたんです。ただ、制作スケジュールが忙しいとのことで、チームでの制作に移行しました。VRChatのクリエイターは個人の作りたいものを自由に作るのがいいところだと思うので、チームでの制作にすることでそれぞれの得意、作りたい物を作ることができたのではないかと思っています。
ーーキャラクターデザインなどはアダストリアさんの方から提案があったのでしょうか?
島田 僕は初心者なので自由にやってくださいと言いました。
ひゅうがなつ そうでしたね(笑) 本当に自由にやらせていただきました。
島田 これは、個人的な意見なのですが、そのクリエイターの世界観や作品がいいと思って声を掛けたのに、会社側の都合で要望を出すというのは個人クリエイターに発注する意味がなくなってしまうのではないかなと思っています。
今回一緒に仕事して思ったのですが、ひゅうがなつさんは創作物に対して非常に信念のある方です。自分が作ったアバターを世の中に出すため絶対手を抜かないので、いつも想像を越えていくなと感じました。
ーーひゅうがなつさんが忙しいことからチームでの分業になりましたが、メンバーの選定はどのような経緯で決めましたか。
ひゅうがなつ チームでの制作になったときにアダストリア側から「ひゅうがなつさんの自由に声を掛けてもいいよ」と言われたので、仲良しでモデル制作が得意な人を呼ぶことにしました。
わがみさんとかはTwitterとかで素体の画像を出していて上手だなって誘ったり、にやみさんは普段のアバターや小物がリアルクローズ寄りだったので企画にぴったりだったので声を掛けたりしました。他のメンバーも私が声を掛けたのですが、(仮)さんだけは人脈の広いわがみさんに紹介してもらった形です。
アシンメトリーと重ね着でリッチな作りに
ーー今回、.stのリアルクローズということで、ワンピースを選んだと思います。その理由はなんでしょうか?
ひゅうがなつ 蒼ちゃんはかわいい系でまとめたかったのでスカート丈が短い洋服がいいなと思っていくつか候補を選びました。この洋服はワンピースと下にパンツを履いてブラウスに近い形で着られる服なのですが、VRChatだと下は履かないほうがいいだろうと今のデザインになりました。
ーーせっかくのブランドとのコラボなのだからなるべく元のデザインを尊重してあげたいですよね。
ひゅうがなつ 尊重したほうがVRChat民としても嬉しいと思うので。
ーーVRChat向けにデザインをまとめるというポイントだと、レイヤードのコーデって制作が難しいと思います。
ひゅうがなつ 衣装担当のにやみさんが泣いていました。上着があるから3枚重なっている状態になっていますね。ワンピースのデザインも重なっているので、見えないところも消せないですよね。
ーー3Dモデルの制作においては、左右対称の場合ミラーリングで手間を削減することが多いと思います。アシンメトリーなデザインというのは、それが使えなくなるわけですから挑戦的なデザインですよね。
島田 最初はシンメトリーなデザインだったのですが、ひゅうがなつさんがアシンメトリーがかわいいよねとこだわってアシンメトリーになりましたね。
ひゅうがなつ VRChatだと作るのしんどいという理由で避けがちなのですが、(仮)さん頑張ってもらって助かりました。
ーー左右それぞれ作るから2倍の労力になりますからね。
島田 結果試着会のときに参加者からアシンメトリーのデザインが評判良かったので正解だと思います。
ーー今回の衣装デザインだと他のアバターにも衣装を対応させるのは大変そうですね。
ひゅうがなつ 柚葉さんに全部調整してもらいました。スカートが大変だったと聞いてます。
ーーあとは目のテクスチャがすごい凝っているのに感動しました。遠くから見ると色が多くてトレンド感あるなって感じなのですが、近くで見るとRAGEBLUEのロゴが入っているんですよね。
ひゅうがなつ 顔の制作は私の担当で、せっかくのコラボなのにロゴがどこにもないのが寂しかったので途中から入れました。
ーーVRChatだと近くで見る機会が多いのでいい塩梅ですよね。
ひゅうがなつ 実は入っているんだ!って楽しいポイントだと思います。最初に目につくこともあって、目のデザインは細かく作っちゃうタイプなので楽しかったですね。
komikana 私が途中から参加したときにちょうど目のテクスチャの画像が共有されていたので、こういうことができるんだって今でも印象に残っています。
ひゅうがなつさんの.st研究がすごい
ーー今回の枡花蒼が着てる服は実際にRAGEBLUEで販売されている商品をベースにしていますが、てっきりアダストリア側からの提案かと思っていました。
ひゅうがなつ 製作初期には、メタバース向けにオリジナルの衣装をデザインするという話もありましたよね。
島田 今回のアバター制作全般に言えるのですが、ひゅうがなつさんが.stの研究をすごくしてくれました。ひゅうがなつさんが服を探してVRChatに使えそうですねって提案してきて言うことないですねって感じでした。
ひゅうがなつ ワンピースを何着か出してどれがいいですかという提案をしましたね。サイトを回って探し出すのはすごく楽しかったです。
ーー.stの研究の成果が出ている部分だと他にはどのようなものがありますか。
komikana 試着ワールドにあるアクセサリーの写真は、ひゅうがなつさんが撮ってくれたものですね。
ひゅうがなつ せっかく物撮りするならそれっぽくしたいので、.stのサイトを見て再現してみました。
ーー最初見たときにファッションブランドとのコラボだから監修が入っているのかなって思っていました。
ひゅうがなつ もともとブランドのサイトを見るのが好きだったので、お仕事としてやってもいいんだって楽しかったです。
ーーVRChatで活動しているクリエイターが、企業のパワーと許可を得て思う存分に作っていますね。
規制を掛けずに自由に使ってほしい。
ーーシェイプキーやPSDファイルなどの改変の仕様はどのようになっていますか。
ひゅうがなつ 耳、髪の毛はこの形が完成だと思っているので何もないのですが、顔は私が作っているので、表情の数が足りないぞってことはないと思います。貫通防止用のシェイプキーや、PSDファイルも入っているのでいつもと同じような仕様になっています。
ーー利用規約の方も一般的なアバターと同様なのでしょうか。
komikana センシティブ表現をNGにしているぐらいですかね。動画配信もむしろ積極的に使ってほしいと思っているので、boothのDMに連絡をいただければ許可を出したいと思います。
ーー第2弾の制作を発表していましたが、こちらは第1弾と同時並行での作業だったのでしょうか。
ひゅうがなつ 第1弾とそこまで販売時期を離したくないというのを聞いていたので、第1弾のバグ修正などは私が引き受けて、手が空いている人から制作に入ってもらう形になっています。
komikana にやみさんのところには、第2弾の洋服サンプルを送っているところですね。
ひゅうがなつ また重ね着で大変なことになっています。
ーーちなみに第2弾は第1弾と共通素体でよろしいでしょうか。
ひゅうがなつ 共通素体になりますね。
ーー今回の枡花蒼を買えば、次のアバターも衣装は着回しができるわけですね。素体が共通だと着せ替えしやすいので助かります。
島田 アダストリアとしてもお着替えを楽しんでほしいと思っているので共通素体にしています。
komikana 島田さんと話していましたが、専用衣装を制作、販売したい方がいるのであれば許可しようと思っています。
ひゅうがなつ 新しいクリエイターが衣装を作ってもらえればと思います。
読んでいる人に向けてのメッセージ
ーー最後になりますが、記事を読んでいる人に向けてメッセージをお願いします。
島田 いわゆる企業がメタバースに参入することが偉いような風潮がありますが、結局のところ今いるユーザーが自分の好きなことをやっていることが重要です。なのでアダストリアだけでコンテンツを作るのではなく、誰でも自分の得意なことで作っていくことができればと思います。そして、うちの子をよろしくお願いします。
ひゅうがなつ 今回面白い企画に参加でき、私の意見が尊重され、チームで作り上げたのが蒼ちゃんです。みなさんよろしくお願いします。
ーーお忙しい中今回はありがとうございました。
今回のインタビューを通じて、クリエイターに任せる姿勢を見せるアダストリアと.stの魅力をアバターに詰め込むひゅうがなつさんの姿が見られました。第2弾の販売も間隔を開けずに予定されていることもあり、.stのプロデュースするアバターに注目してみてはいかがでしょうか。
●参考リンク
・.st(ドットエスティ)公式サイト
・アダストリア公式サイト
・「桝花蒼」販売ページ(BOOTH)
本記事は、株式会社アダストリアさまとのタイアップ記事となっております。
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