「なんかVRのコンテンツって結局リアルに戻ってない?」
至極当然な意見だと思います。もともとVRで交流をしていたのに結局リアルに帰っていくの!? と思うのも不思議ではないでしょう。
だけども、この動画を見てもらいたい。
いわゆるアバターワークと呼ばれるアバター姿で接客する様子の動画です。このギミックのすごいところは、バーチャルと現実の空間が連動する点。肝なのは映像ではなく「空間」であることです。
リアルのイベント会場とVR上で同じレイアウトのブースが設置されており、モニターが「窓」代わりとして映しています。つまり、画面の向こう側に別の人が接客している様子が見えたり、別のリアル会場が見えたりするのです!
これはリアルとバーチャルがシームレスに接続しているのでは……?
今回はコンテンツの開発元であるWeaverseLabにインタビュー。なぜリアルとバーチャルを繋げるコンテンツを作ったのか、どういった企業なのか聞いてきました。
またWeaverseLabは、7月にソーシャルVRプラットフォームの「Resonite」の日本総代理店の契約を結びました。先ほど紹介したコンテンツもResoniteを使用したものですが、Resoniteの魅力についても聞いてきました。
WeaverseLabの設立と活動内容について
──先日、WeaverseLabはResoniteの日本総代理店の契約を結びました。そこで今回、活動内容をはじめ、契約に至った経緯などについて聞いていければと思います。まず、WeaverseLabはどのような会社でしょうか?
N-JELLY WeaverseLabは私を含め4人で活動している会社です。もともと、各メンバーがそれぞれ個人で仕事を取ってきていたのですが、Resoniteをもっと盛り上げるためにも会社としてまとまったほうがよいかと思って設立しました。実際に会社になってからお声掛けしやすくなったケースもあるので、目的は達成されています。
会社の活動内容は、Resoniteを用いたXRコンテンツ制作です。クライアントから受注を受けて制作するケースもあれば、こちら側で開発したコンテンツを売り込むケースもあります。
──企業を中心にコンテンツ制作を取り扱っているわけですね。売りはなんでしょうか?
N-JELLY リアルと連携したコンテンツを開発しやすいだけでなく、試行錯誤しながら開発を進めやすい点も魅力です。
実はVRヘッドセットを被るだけのコンテンツを作っていないです
──4人はResoniteを趣味・仕事問わず、さまざまコンテンツを作り続けていると思いますが、魅力はどういったところにあるのでしょう。
orange Resoniteは多様な機材との連携が可能なので、現実のイベント会場に影響を与えるようなコンテンツを制作しやすいのが特徴です。VRとリアルイベントの両方を開催するケースは多いですが、その間の繋がり部分が弱いことが多いですからね。
──もともとはVRで始まったイベント、コミュニティだったけども、リアルイベントを開催することで「じゃあVRってなんだったんだよ」みたいに思うのもおかしくはないですよね。だからこそ、繋ぐ部分はとても重要になりますね。
N-JELLY 実は、WeaverseLabがこれまで制作してきたコンテンツに、VRヘッドセットを装着して体験するだけのコンテンツはありません。
──そうなんですか!? 言われてみれば確かにそうですね。
N-JELLY リアルとVRを繋げることを考えたら自然とそうなっていました。
あむ WeaverseLabの由来である「Weaverse」の思想からしても、制作するコンテンツはVRに限定されるべきではないと考えています。この「Weaverse」とは、「ユニバース(リアル)とメタバース、2つのバース(世界)を編み合わせる(Weave)」といったニュアンスの、我が社独自の考えです。
VRの世界は素晴らしいと思いますが、誰もが常にVRに没頭する未来は健全ではないと考えています。そのため、現実を大切にする人もVRを大切にする人も、等しく共存できる世界を創出することをコンセプトにしています。
SNSにおいてもリアルとは切り離す傾向があるTwitter(X)と、リアルと結びつく傾向があるInstagramに分かれていると思うのですが、メタバースにおいても同じだと考えています。
したがって、VRデバイスのみで完結するコンテンツよりも、リアルとVRを繋げるコンテンツを提供することに注力しています。
──「繋ぐ」って考えはいいですね。どっちがいいみたいな話ではないわけですね。
あむ とはいえ、1回はVRにどっぷり浸かってからじゃないと良さやロマンは分からないですよね。
──編み合わせるといっても、それぞれの強みや魅力を理解する必要があるのですね。リアルは誰でもある程度理解できますが、VRは深くのめり込んで体験し続けないと、その活用方法を理解するのは難しいという点は納得できます。
あむ 普及にはまだ時間がかかるかもしれませんが、リアルとVRは将来的に収束していくと考えています。「Apple Vision Pro」は、私たちのアプローチと対極の位置からこの構想を推進しているように感じますね。
N-JELLY WeaverseLabの掲げるビジョンには、「誰もが容易に自己実現できること」が含まれています。リアルと同様に、バーチャルでも社会に参加できることが理想ですね。
──アバターワークなどは、まさにバーチャル空間からの社会参加の好例ですね。
orange イベントで出してみると分かるのですが、リアルでの参加者の評判も上々ですね。
──ただ、最初にアバターワークの情報を見たときには、なんとなく分かるけどもどんな現場になるのかがさっぱりでしたね。
orange イベント参加者から「AIが対応しているのですか?」と頻繁に質問されました。
──馴染みがない人からすれば、あまりにも未知の体験ですよね。
N-JELLY アバターワークについては、ぜひVR側から体験していただきたいと考えています。VR側は実は非常に快適で、大きなディスプレイが目の前にあり、まるでコックピットのように手元で操作できる環境が整っています。
──アバターワークの極致まで来ましたね……
N-JELLY ロボットアームもVR側から操作できるため、物理的な干渉も可能です。
※別イベントではレシートを通じてバーチャルからリアルに届けていた
あむ 率直に言って、制作物自体はResoniteよりもUnityで作成した方が軽量化できます。ですが、バーチャル空間での社会参加という観点からは、アイデンティティと結びついたアバターが存在するResoniteで開発する必要があると考えています。
リアルとバーチャルを空間ごと繋げる
──直近ではXRハッカソンenXross で「Weaved City」が優秀賞を受賞していましたが、どういったプロジェクトでしょうか?見た感じでですと、移動するロボットでモニター越しの交流をする「Vket Walk」に近いものなのかなと思うのですが……
あむ 似ているように見えますが、別物ですね。「Vket Walk」ではDiscordで映像を繋げて対話をしていたのですが、「Weaved City」ではResoniteを使って対話をします。Resonite上で会場を再現し、リアルとResonite側で繋げるディスプレイの位置を同期させているのです。バーチャル側もリアル会場と同様に移動や周囲の情報を得られるわけですね。
──似ているようで繋げる情報量は別物ってわけですか。まさに編み合わせる感じですね。会場の様子はどのように取得しているのでしょうか。
N-JELLY カメラをポンポン置いていけばできますね。
──かなり簡単に展開できそうですね。Discordだとあくまでも映像を送るだけでしたが、Resoniteとなるとカメラそのものを置くようなものなわけですか。会場の案内をするうえでカメラで見せずともできるのは、もう並列するだけで同じ世界を共有していますね。言ってしまえば、現実というプラットフォームが加わるようなものじゃないですか。
あむ VRをやり込んでいる人ならスッと入ってくると思います。
──それにしても、「Weaved City」のコンセプトが優秀賞の形で受け入れられたのは素晴らしいですね。
N-JELLY 他の参加者にメタバース畑の人がいない中で評価されたのは本当に大きいですね。
──実際問題、ビジネスシーンではメタバースが終わりAIに注目が移っているのかなと思うのですが、ビジネスシーンで活躍する身として変化などは感じましたか。
あむ バズワードとしてのメタバースは終わったかもしれませんが、逆に言えば浸透した言葉とも言えます。なので、みんなが抱いているメタバースのイメージを上回ると驚いてくれますし、バズワードに惑わされない本当に意味のある技術に興味ある人たちに評価されます。いわば今って幻滅期に相当するもので、社会に実装されるまでに踏ん張れるかが肝心な時期です。
なので、今は自社プラットフォームを作るのではなく、社会にどのように組み込まれるか道筋を建てることが肝心だと考えています。メタバースを意識せずに恩恵を受けてもらって、後にメタバースだったと気づいてもらえたらといった感じです。
Resoniteは今も改善中!
──改めて思うのですがResoniteって何でもできますね。
あむ ただ、Resoniteって色々できる一方で、何ができるのか分からず、そのせいで去ってしまう人もいます。
orange そんな人のために土曜日夜に初心者案内デーをやっています。あとはチュートリアルワールドにボタンを押すと案内人に通知がいくシステムもあります。
──全プラットフォームでほしい機能! Resoniteって本当にいろいろできますよね。
あむ 今後の計画には、ResoniteのレンダリングエンジンをUnityから独自エンジンに切り替えることが発表されています。独自エンジンに切り替わると軽量化され、さらにこれまで弄れなかったシェーダー周りも手を付けられるようになります。
──いままでってシェーダー周りって触れなかったのですか……?
あむ これまででもできなかったわけではないですね。
orange パラメーターが弄れるところから、シェーダーそのものを作れるようになる、みたいな変化です。
あむ 後は今、Resoniteの処理を軽くするアップデートが行われていますね。
orange サーバー側はすでに行われています。
──処理が軽くなると遊びやすくなりますね。
あむ Resoniteには公式が改善するべきポイントをまとめています。オープンになっていますし、問い合わせしたら1、2日ぐらいで修正するなんてこともあります。
──運営とユーザーの距離が近いのが伝わってきます。Resoniteの日本総代理店になりましたが、どのような流れで契約に至ったのでしょうか。
N-JELLY WeaverseLabから持ちかけさせてもらいました。やはりResoniteを扱える人が法人の窓口にならないと活用できないのがありますので、請け負った形になります。
──他の国でも総代理店のような話はあるのでしょうか。
N-JELLY 海外でも動いていて、オーストリアではすでに契約が結ばれていますね。
──チェコの会社ってこともあるのか、ヨーロッパだと進んでいる感じなんですね。
あむ 運営会社がチェコにありますし、ビジネスシーンではヨーロッパは進んでいますからね。
──最初にチェコと聞いたときは驚きましたね。
N-JELLY チェコはIT領域を国主導で推進している背景がありますね。
orange チェコすごいですよ。
あむ チェコの会社がイベントで出展していたのを見たことあります。
──チェコ事情を掘り下げるだけで記事書けちゃいそうです。
あむ 日本の市場って特殊じゃないですか。例えばレビューでも星3が普通みたいな感覚も日本独自な感覚なんですよね。なので、海外から日本の市場に参入するのは難しいはずなので、ローカライズして手伝えたらと考えています。
今回、Resoniteの日本総代理店の契約を結んだことで名実ともにビジネス相談の窓口となりましたので、興味のある方はお気軽にご連絡いただければと思います
──これからどのようなコンテンツが出てくるかワクワクしちゃいますね。WeaverseLabの掲げるビジョンやResoniteを見るとこれからに期待したくなります。今回はありがとうございました!