VRChatを使って不登校学生に居場所作りのきっかけを作る ゆずあっと代表水瀬ゆずにインタビュー

不登校学生が増えている中で、ソーシャルVRの1つVRChatを使って不登校の学生に居場所を作る手助けをしている団体をご存知でしょうか。

文部科学省の児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要では、令和2年度の小・中学校における不登校児童生徒数は196127人で過去5年の傾向として割合が増加しています。

メタバース不登校学生居場所支援プログラムは、そんな不登校学生に対してメタバースでの出会いを通して、サードプレイスを得るキッカケづくりを行おうというもの。2週間のプログラムで構成され、VRChatにあるワールドや活動している人に触れて、自分の興味を再発見したり、居場所を作るきっかけにしてもらったりする内容です。

メタカル最前線では、メタバース不登校学生居場所支援をしている団体ばーちゃるケアゆずあっとの代表水瀬ゆずさんへのインタビューを実施。プログラムの実施した経緯から運営の体制、今後の展望まで聞いてきました。

きっかけは不登校だった子がVRChatを通じて学校に復帰できたことから

ーー最初に自己紹介をおねがいします。

ゆず 水瀬ゆずです。普段いろんな活動をしていますが、メタバースの街を作ることを夢に掲げて、メタバースの活動を社会実装しています。

ーー今回のメタバース不登校学生居場所支援プログラムをはじめるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

ゆず VRChatで遊んでいる中で、たまたま不登校の少女に会ったのがきっかけになります。学校に行けていなくて、人生に対してどうすればいいのかわからない状態だったのですが、VRChatでいろんな人との交流を通じて、今年の4月に学校復帰をしました。

ーー不登校だった子が学校復帰できた理由はなんだったのでしょうか。

ゆず 復帰できた1つの理由として「VRChatで居場所を作れたから」と言っていたのですね。学校に復帰をすることだけがゴールではないのですが、あの子なりに頑張っている様子を見ていたり、その子から「もっといろんな人に居場所を作るきっかけにしてほしい」と話していたりしたりして、プログラムを計画しました。

写真はプログラム参加者説明会から引用

ーー学校に復帰するだけが「ゴール」ではないから、不登校支援プログラムではなく、居場所支援プログラムという形になったわけですね。

ゆず 学校に行けないから居場所がない、学校に行けないから無価値ではなく、VRChatをはじめメタバースで居場所を見つけて、人生に対して考えるきっかけや、いろんな人との交流ができればと思っているためです。

ーー学校ではコミュニケーションが上手くできなくても、アバターを使ったコミュニケーションだと変化が起きたりするということなのでしょうか。

ゆず VRChatをはじめソーシャルVRはアバターでのコミュニケーションができますし、ワールドで多種多様の経験ができます。テキストのチャットやZoomなどと違って、ソーシャルVRは居場所になりやすく、コンプレックスである容姿や声、名前を自分で決められるのですよね。

現実ではどうしようもできなかった要素を変えられるアバターコミュニケーションは、不登校学生の居場所支援にマッチするのではないかと思います。

ーー今回のメタバース不登校学生居場所支援プログラムは広島市社会福祉協議会の助成と後援をもらっていますが、プログラムにどのようにして生かされていますか。

ゆず 参加者のヘッドセットの貸出に使っています。ヘッドセットを持っている人は少ないですし、デスクトップではなくVRで体験をしてもらいたいので貸出のサポートさせてもらっています。

ーー他に協賛・後援している企業はあるのでしょうか。

ゆず 協賛してもらっている企業をいくつか紹介しますと、参加者のアバターはCCD-0500[FEE](通称:フィーちゃん)をはじめとした株式会社U-Stella様が入っていて、販売されているアバター「レノン」「ノイ」の提供を受けました。

他にも株式会社アスカネット様は広島で上場されている企業なのですが、フォトパネルやブックレットを参加者に無償でお渡しをします。

運営のサポートのもと、2週間のプログラムを通じて居場所を作っていく

ーープログラムのスケジュールはどのようになっているのでしょうか。

ゆず 2週間のうち合計8日間のプログラムになるのですが、1番最初にオリエンテーション、VRChatの初心者案内をします。その後にワールドを巡って写真を撮ってみたり、おじさん回しをしているアーク師匠さんを呼んで打ち解けるようにする流れです。

その後に今回の不登校学生居場所支援プログラムのきっかけになった不登校の少女を呼んで想いや、今の状況を当事者の目線から話をしてもらいます。

2週目ではゆずクラブでいつもワールドを作ってもらっているおつまちさんにワールド制作や、ソーシャルVRで小説を書いているsunさんに話を聞いたり、VRC世界旅行をやっているNEKO旅さんに国内名所の回る形で思い出作ったりして、修了式を迎える形になっています。

ーープログラム以外の活動はどのようにしているのでしょうか。

ゆず プログラムは21時から22時で行っていますが、それ以外の時間は干渉しない形にしています。過度な干渉をしないのは、参加者の方に自由にVRChatの世界を体験して欲しいからです。もし個人でVRChatを遊ぶことになってもトラブルにならないようにオリエンテーションで指導をしています。

オリエンテーション、初心者案内は、JapanTalkRoom居場所集会を開催しているやがて捨てられる補助輪さんという初心者に慣れている方におまかせをしています。

ーースタッフの規模はどの程度でしょうか。

ゆず 人数は運営陣、生徒1人ずつVRChatの操作や声掛けするメンター、講師を含めて20人程度が関わっています。メンターは私が声を掛けて信頼できる人におまかせし、運営メンバー師は私の運営しているゆずクラブのコアメンバーと今回の企画に共感してもらった方々で構成されています。

ーー事前の発表では専門家に立命館大学総合心理学部教授であるサトウタツヤさんが入っていましたが、その他に専門家は参加しているのでしょうか。

ゆず 実名で公表しているのはサトウタツヤさんのみですが、関わっているメンバーの中に匿名で専門家として関わっている方はいます。スクールカウンセラー(臨床心理士・公認心理師)、医療分野の有資格者、弁護士、高校教師などが参加しており、不登校生支援の経験があるスタッフもおります。

なぜ実名を出していないのかというと、VRChatでの自分と本業と結びつかせたくない匿名文化との兼ね合いです。匿名とはいえ、資格を持っているかは私がチェックしています。

実際にプログラムをやってみての手応え

ーー実際にプログラムをやってみての手応えはどうでしょうか。

ゆず 最初の説明会は親が説明してもらう形だったのが、プログラムを通じてボディランゲージやマイクを入れてコミュニケーションを取ることが増えてきました。メタバースでの居場所支援の可能性が改めてあるのではないかと思います。

ーープログラムを見学させてもらいましたが、参加者が声を出して和気あいあいとしていたり、授業の終わりには感想を話していたりと盛り上がっているように思えました。

ゆず プログラムの1回目や2回目は緊張していて感想を求めることをしなかったのですが、見学してもらった3回目のプログラムでは前のめりにプログラムに取り組む姿が見られたので意見を聞いてみることをしました。

VRChatにある文化おじさん回しについての内容だったので「シュールなのが大好きだったので」「おじさんのここがかわいい」と楽しそうに話してくれたのが印象的でした。

ーーワールドを見るとプログラムの様子が写っている写真が用意されていますよね。

ゆず このワールドは集合場所でよく見られるので、プログラムの写真を置いて「自分が写っている!」って言ってもらいたいですし、メンターとの会話に役立ててもらえればと思って置いています。

ーーワールドの雰囲気も開放的な感じで空港のラウンジみたいな印象を受けます。

ゆず このワールドはプログラムの集合場所授業メンターとの交流といろいろ使われる場所となっています。よく使う場所なので、学校にトラウマを感じている人が怖くないように学校からは離れた雰囲気で作ってもらいました。

ーーメタバース不登校学生居場所支援プログラムは今後も活動していくのでしょうか。

ゆず 今回は私の地元である広島市で行いましたが、これから先は広島県や全国規模を考えています。募集範囲外の広島市以外の人や、募集期間後の問い合わせが多くいるというのも分かりました。

今回のノウハウを活用してコネクションや実施形態を考えていきたいと思いますし、事業者や保護者さんや当事者の人にも応援のメッセージもいただいていますので応援よろしくおねがいします。

ーー今回はありがとうございました。

ソーシャルVRはアバターを通じてこれまでの外見、肩書とは関係のないさまざまな人と出会える場です。その中でプログラムを通じて、ソーシャルVRにいるさまざまな人とコミュニティを繋げる手助けをすることは意義のある活動だと思います。メタバース不登校学生居場所支援プログラムのこれからを見守ってみてはいかがでしょうか。

参考サイト
ゆずあっと公式サイト