最先端を行く「Voyage」の舞台裏に迫る Spring/Summer開催後のゆいぴ&PONYOにインタビュー【前編】

5月27日、VRChatにてバーチャルファッションコレクション「”Voyage” 2023 Spring/Summer」が開催されました。主催はファッションブランド「Melty Lily」オーナーのゆいぴさん。昨年12月に開催されて以来、2度目となる今回は人気ショップ7つが参加し、「すべて初衣装お披露目」の舞台となりました。

メタカル最前線では、5月28日に公開した現地会場のレポート記事に引き続き、主催のゆいぴさん、ディレクターのPONYOさんへイベントの舞台裏をインタビュー。前後編にてお届けしていきます。

前編の本記事では、テーマと今回のパフォーマンスについて、掘りさげていきます。

演出は「やりたかったことをやっただけ」

――本日はありがとうございます。まず、今回の会場コンセプトについて教えてください。

ゆいぴ まず「Voyage」は全体のストーリーがあり、1回目、2回目とその大きな筋書きに沿って展開しています。前回の第1回では、まず豪華客船に乗船してもらうところからスタートしました。今回は乗り込んだ後に開かれたファッションショーというストーリーです。そのため、船の上がワールドのスポーン地点になっています。

あとは「Spring/Summer」なので、全体的に植物やお水を多めにしました。前回はあまり季節感にこだわれなかったので、今回は季節感を出せたらいいなと思って、会場にキリンさんも置きました。

PONYO あれ季節要素だったの!?(笑)

ゆいぴ サバンナをイメージしてキリンやフラミンゴなどを置いたり、ヤシの木を使ったりして涼しげな雰囲気にしました。会場は今回も坪倉輝明さんに制作を依頼し、途中で「天井や壁にも植物をはやしてほしい」とオーダーを重ねていき、完成させました。

ーーとても素敵なワールドですよね。ランウェイを見る前から気持ちが上がります。では前回との違いについてお聞きしたいなと思います。VRならではの演出が増えた印象を受けました。

ゆいぴ そうですね。超ざっくり言うと、「やりたかったことをやっただけ」なんです。

オープニングステージから話していきますね。まず、潮成実さんのステージ演出は、「透明の箱」から出てきたらカッコいい、からスタートしました。ダンサーさんに上から、潮さんは下から出てきてもらえるステージギミックを入れてもらいました。

ーーあれギミックはどのような仕組みだったのでしょうか?

ゆいぴ sit判定を仕込んであって、アニメーションでオブジェクトが動く形です。

ーーライブで演出を仕込むのは大変だったのではないですか。

PONYO 潮さんの1曲目がゆったりめの「翳り」だったので、難易度は低かったのかなと思います。潮さんの代表曲かつ、名刺代わりとなる楽曲なので選びましたね。

ゆいぴ セットリストに関しては、PONYOさんと潮さんが2人で考えてくれました。

ーーステージの演出は例えば絵コンテを切るように考えられるのですか

PONYO 絵コンテを切るというよりは、とりあえず形にしてみて「いいじゃん」と確認していく感じでしたね。

ゆいぴ オープニングステージに関しては、前回の「Voyage」を開催してから1週間以内には構想ができていました。次はダンサーさんを呼んで、透明の箱を使うと決めていました。

PONYO 演者も決まっていない段階で、ゆいぴさんが演出案を渡されたんですよね。そこから僕らが肉付けしていった感じです。

ーーゆいぴさんが見せたい形がはっきりしているわけですね。

ゆいぴ 私が「見せたい」というより、私が「見たい」なんですよね。もちろん見せたいものもありますが、自分がいいと思えないものを見せたくないじゃないですか。

PONYO 実際、潮さんがステージ上がったときに、一番テンション上がっていたのは、ゆいぴさんでしたね。

シンプルな前半ステージが後半の演出を際立たせる

ーーオープニングステージ以降の演出はどのようにして決められたんですか。

ゆいぴ オープニングステージ以降は、PONYOさんと映像担当のKillUさんとで話し合いながら決めていきました。「EXTENSION CLOTHING」は後半で、という案は全員一致でしたね。それ以外のショップさんの順番は、バランスを見ながら調整しました。

ーー本当にいろいろなショップさんが出てきて、起承転結を感じる構成だなと思いました。

PONYO 今回は、前半と後半で少し趣向が異なっています。滝が出てくる水着ステージ以降の演出は、衣装自体を素のまま見せるの形ではなく、演出を中心に見せました。いわゆるファッションショーのフォーマットとは違うアプローチにしたんですよね。

前半では「OGRE」さん、「Natelier」さん、「l’Autre Villa」さん、「ROSI atelier」さんがファッションショーをしっかり見せる流れを作りました。皆さんを「ファッションショーを見ている」「ファッションはカッコいい」という気持ちにグッと引きこんで、後半にむけて盛りあげていったわけですね。

もちろん後半だけが盛り上がればよかったわけではないんです。前半パートがシンプルだからこそ、アクターさんの歩き方やポーズ、お客さんへのアプローチが重要になっていました。そもそも衣装自体も魅力的でないといけませんし。

ゆいぴ 今回は早い段階でショップさんの順番が決まっていたんですよ。トップバッターの「OGRE」さんにどんなランウェイの演出にしたいか聞いてみたところ、「自分はトップバッターだからシンプルにして、次のショップさんに繋げてどんどん盛り上がるようにしたい」って返ってきたんです。

「Natelier」さんも自分でパーティクルの素材用意したり、「ROSI atelier」さんもいっぱい考えてくれました。一つ一つのステージをショップオーナーさん自身が考えてくれて、私たちと話し合ってステージを形にしていきました。シンプルな演出に気持ちが全部こもっていました。

ーーどのブランドさんにも役割があったわけですね。

水着ステージは、自然に見せるために苦労した

ーーひときわ歓声があがった水着ステージについて教えてください。

ゆいぴ 水着が一着ずつランウェイに出てくるのはシュールだし、ファッションショーじゃないな、と思ったからなんです。「ヴィクトリアズ・シークレット」みたいな華やかな雰囲気にしたかったんですよね。最初に「アクターさんをフロートに乗せたい」って話したら、みんなから「えっ?」言われたんですよ(笑)。

私の頭の中では行けると考えてたんで、押し通しました。モデリングやギミックを完成させたら、みんなが「うおおお」って言っていたので安心しましたよね。ただ、ステージがプールになるのはPONYOさんのアイデアなんですよ。最初は滝とフロートだけでやるつもりでした。

PONYO フロートのラフを見せてもらったとき、どうやって動くのか思い描けなかったんです。車みたいに動いて出たらシュールじゃないですか。そこで考えたのが、フロート自体が噴水みたいに湧き上がって出てくればいいってことだったんです。

フロートを噴水のように登場させると決まったら、次に問題になったのが湧き出た水の受け皿をどうするのかでした。ステージに貫通したらシュールになってしまうので、プールにしようというアイデアが出たわけです。後から「坪倉さんの労力を考えずになんてことを言ってしまったんだ……」と思いましたが。

ゆいぴ フロートから水しぶきが出るのは坪倉さんが考えてくれたんです。坪倉さんは「違和感」がすごく嫌いなんですよね。ステージが消えるのもパッと消えてもいいって思っていたのですが、坪倉さんがフロートが下がっていくアニメーションを制作してくれました。

PONYO 坪倉さんとの会話で印象に残っているのは、滝を追加するときに「簡単に言うけれど、滝って自然に見せるの難しいんだよ」って釘を刺されたんですよ。次に仕上がってきたのを確認したら、めちゃくちゃナチュラルな滝になっていて、驚きました。

ゆいぴ みんなのアイデアがちょっとずつ足されて出来上がったステージでしたね。

実は、ステージをプールにすることをアクターさんに伝えたのは、かなり直前だったんです。今回、アクターチームのリーダーをしていただいたKawasaki Silviaさんにワールドを初めて見てもらったときに、その場で「ここをプールにするんです」と伝えました。Silviaさんって普段はクールな印象なのですが、はじめて興奮する様子が見れて。「これは勝ちだな」と思いましたね。

PONYO Silviaさんを驚かせるのはなかなかないことですからね。

「Dimgray」の成功は、映像に鍵あり?

――後半パートの演出でいうと、「Dimgray」さんのステージはかなり反響が大きかったのではないですか。

ゆいぴ 「Dimgray」さんのステージは、唯一暗転させて暗いステージにしました。個人的に暗い中でのファッションショー、結構好きなんです。しかし、ずっと暗いと疲れてしまうので、せめてショーの途中で暗転できないかと考えました。暗転ステージを誰にお願いするかと考えたときに、やっぱり「Dimgray」さんだよねってなりました。

今回「竜王」と「海の子」で2着出展していただいたのですが、もともとは「竜王」のみだったんです。デザインを見て、神々しい雰囲気を出したいと、暗転演出をすることに決めました。ただ「竜王」が歩いて出てくることには違和感があって、急遽椅子を作ることにしたんです。

Dimgrayさんステージの成功は「映像」要素が大きいと思っています。映像担当のKillUさんには、アジアンな雰囲気と神々しさというふわっとしたオーダーを出したんですが、完璧に打ち返してくれましたね。

PONYO 動画あがってきたのが、結構ギリギリだったんですよね。演出案は一通り伝えているとはいえ、確かめる機会がなかなかありませんでした。本番3日前の5月24日におこなったゲネプロでさえ、映像が完成しきっていなかったんです。それでも100点のクオリティで、オーダー通りの映像を制作してくれましたね。

ゆいぴ KillUさんが普段いる界隈は、アンダーグラウンドな雰囲気をもつ方々が多く、そんな彼のVJを何度も見てきたんです。Voyageの「ラグジュアリーでゴージャス」とは違うバチバチな雰囲気で、最初は「世界観合うのかな」って思っていたんですよ。仕上がってきたものは納得しかなかったです。

PONYO あいつはプロだからね。僕がゴリ押しで、依頼しました。

KillUさんの映像があって、「Dimgray」さんステージの演出は完成したなって思いました。ステージサイドの映像は、空間が明るい状態だと見にくいんですよ。会場が暗くなって、ちゃんと映像が見えるようになって、はじめて真価を発揮する。屏風から飛び出た絵のような神秘的なイメージを感じる演出になりました。本当に良かったですね。

「KING SLAYERの名の通り、殺意マシマシで行ってくれ」

ゆいぴ 次は「EXTENSION CLOTHING」さんですね。2月頃にショップさんから衣装のラフを提出してもらっていたのですが、「EXTENSION CLOTHING」さんのラフをひと目見て、私はクリエイターとして嫉妬しました。「もうあなたの勝ち」って。

「EXTENSION CLOTHING」のステージ演出は、オーナーであるアルティメットゆいさんの要望を反映したものです。「派手な演出はいらないけど、ストロボみたいなので白と黒をはっきりさせてほしい」というオーダーだったので、ストロボを焚いてリアルタイムで影を落とすものにしました。

背景の映像に関しても、直接映像担当のKillUさんに伝えてもらいました。そのため「EXTENSION CLOTHING」に関しては、演出はほぼノータッチです。アルティメットゆいさんがやりたいことをわかりやすく明確に伝えてくれて完成したステージでした。やっぱりクリエイターとして嫉妬しちゃいますね。

PONYO 実は、最初のラフを見たとき、モデルみたいな等身のイラストだったので、「これでいくの?」って雰囲気があったんですよ。本番では、森羅ちゃんが衣装をまとってステージに出てきて、しっくりきましたけど。

ラフ確認当時、よくよく話を聞いたら「Voyageのためだけの非売品」って。攻めきる男気やチャレンジ精神を感じちゃいましたよね。熱い気持ちをもってのぞんでくれた「EXTENSION CLOTHING」さんに対する恩返しになってたらいいな。

ゆいぴ アクターがグリッチで掛かった状態で登場し、ランウェイの真ん中で完全に現れるようにする練習は、ものすごくしました。アクターのMICKELさんが完璧でしたね。

PONYO 演技の指示は「見ている人を動きで圧倒してほしい。KING SLAYERの名の通り、王を殺したのだから殺意マシマシでいってくれ」ってゆいぴさんがオーダーを出したんですね。

ゆいぴ MICKELさんも最初「殺意ですか?」って戸惑っていたのですけども、どんどんかっこよくなっていきましたね。

PONYO MICKELさんはふだんめちゃくちゃマイルドな方なんですよ。

ゆいぴ 練習時には「殺意が足りない!」ってステージの下から伝えていましたね。みんなで徐々に形を作りあげました。

PONYO このステージで僕が1番好きなのは、MICKELさんがランウェイの先端からT字路に帰っていって、T字路についた瞬間、クルッと回って軽くポーズを取るところなんですよね。

ゆいぴ MICKELオタクとして補足させてください!

ーーどうぞ(笑)

ゆいぴ ステージのギミックで、前に立つと顔にズームが入るんですね。MICKELさんはこのズームにあった完璧なタイミングで振り向いているんですよ!本当に完璧だった!

PONYO 全員のアクションが一致していたんですよね。アルティメットゆいさんが売らない選択を選び、僕らが敬意を表し、MICKELさんがアレだけ練習を果たしていたことが全部繋がって、完璧な形で完成したと思いました。

Twitterでの反響を見ていても、EXTENSION CLOTHINGの評価がものすごく高かったです。もともと実績のあるショップですが、「Voyageでしか見られないEXTENSION CLOTHING」を見せられたのかなと考えています。

Melty Lilyの最後のドアは、「Autumn/Winter」の舞台に繋がっている

ーー「Melty Lily」に関しては、「EXTENSION CLOTHING」の後ということもあり、正統派で来たなと思いました。

PONYO 正統派を感じ取ってくれたのはすごく嬉しいですね。最初、KillUさんにお願いしたのはもう少しゴテゴテしている映像だったんです。そこから、小手先みたいな演出をやめて、とにかくシンプルに削ぎ落としていきました。

衣装が普段着ではなくドレス。違和感のない世界観や背景がある演出を心がけました。最後に夢から覚めていく雰囲気にしたいよねと、扉が閉まったら物語が終わったと感じさせるような切なさを意識しました。

ゆいぴ 今回、「Melty Lily」では、絶対ドレスを出すと決めていました。歩き方についてはアクターを担当してくれたSilviaさんが、重いドレスを着るときの動きについて研究してくれて。ゆっくり一歩ずつ進む速度や、回る時も本当に重たいドレスを着ているように仕上げてくれました。

最後のドア、実は次のVoyageの舞台に繋がっているんです。あの子は、1番最初に船から降り、次の「Autumn/Winter」の舞台に向かったわけです。

PONYO まぁ「伏線」ってやつですよね。

ーー次に予定されている「Autumn/Winter」に繋がっていたんですね!

ゆいぴ はい。Voyageにはストーリーがあることを伝えたい。私達の旅路がいつ終わるかはまだわからないですが、最後まで一緒に見てほしいと思っています。

PONYO 僕らが作っているのは、ただのファッションショーではないので、演出とか世界観を大切にしたいですから。

ゆいぴ わたしという夢見る乙女の妄想劇が繰り広げられているのですが、関わるみんなのおかげで立派なものが作れています。これからのVoyageにも期待していてください。

後半では、モデルチームの活躍と今後の展望について掘りさげていきます。

インタビュアー:柘榴石まおりん(Twitter)