VRで体験できる新たな形の博物館 「VR 宇宙博物館コスモリア」の制作陣にインタビュー

9月1日、VRChatにてワールド「VR 宇宙博物館コスモリア」が開館します。「VR 宇宙博物館コスモリア」では、天文学や宇宙開発について学べる資料が多く展示されています。

メタカル最前線では、「VR 宇宙博物館コスモリア」を制作した団体「天文仮想研究所 VSP」(以下、VSP)に取材を実施。制作進行を務めたえんでばーさんにインタビューを行えました。

「VR 宇宙博物館コスモリア」がいかにして出来上がったのか深掘りすることができました。

「VR 宇宙博物館コスモリア」とは

「VR 宇宙博物館コスモリア」では、7つの常設展示室が用意されています。前半では、「挑戦の軌跡」、後半は「探求と知見」となっており、天文学や宇宙開発について幅広く学べる内容となっています。

何よりも特徴的なのが2つ。1つ目は、インタラクティブに遊べる仕組みをふんだんに盛り込まれていることにあります。

たとえば、惑星の展示されているスペースでは、その惑星ごとの重力を体験できます。実際にジャンプしてみると、惑星ごとの違いが一目瞭然でその身を持って、惑星ごとの重力の違いを実感できます。

2つ目は、精巧に作られた3Dモデルを間近で見られること。実際の博物館と違い、展示物の距離は制限がなく、むしろ近づけやすいように柵がなく足場まで作られています。

従来の博物館よりも、より展示物に対して身近に感じやすいのが「VR 宇宙博物館コスモリア」の特徴と言えるでしょう。

その他にも極力文字を手元に持てるタブレットに集約したり、一緒に見て回れるようにワープ機能が充実されていると、博物館として快適性を意識している部分が多くありました。

展示物も幅広く用意されており、宇宙開発以前に作られたものからノーベル賞を受賞した研究であるスーパーカミオカンデの施設を再現したものまでありました。

会場内の音楽も素晴らしく作り込まれており、主張しすぎない程度に展示物巡りを盛り上げてくれました。場所ごとに流れてくる音楽が変わりますが、自然な流れで移り変わっていきます。サウンドディレクターを担当したKagoさんによると、ワープしたとしても自然に切り替わるようにプログラムしたとのこと。ぜひとも来たときは、目のみならず耳も意識して回ってみてください。

今回の取材では細かい解説を抜きに回りましたが、それでも40分ほど掛かるという大ボリュームです。実際に見て回るとするなら1時間以上は余裕で掛かるほどでしょう。

天文学、宇宙開発の啓発とクリエイターの応援のために作った

ーー今回ワールドを作るにあたってどのような狙いがあったのでしょうか。

えんでばー 2点あります。1つ目はVRならではの展示をすることで天文学や宇宙開発の普及、啓発をしていきたいということです。新しい形の博物館を通じて、いままでアプローチできなかった層にも、宇宙開発や天文学の楽しみを伝えたかったわけです。

もう1つは、VRChatのクリエイターさんをご紹介したかったことにあります。展示物にはそれぞれクレジットが書かれており、そのクリエイターさんの応援になるような形にしました。

ーースタッフクレジットはあれど、展示物ごとにクレジットされているのはそうないですよね。

えんでばー ライセンス周りをはっきりさせておきたいという意味もあるのですが、最後にまとめてスタッフクレジットにしてしまうと、誰がどのモデルを作ったのか結びつけるものがなくなってしまいますよね。クリエイターさんの応援を目的のひとつにしているわけですから、展示物とクリエイターさんを結びつけることは、大切なことだと思っています。

ーーVRならではの展示と話していましたが、3Dモデルを間近まで見られるようにしたり、インタラクティブな遊びをなるべく設けたりしているように感じました。VRならではの展示において、どのような工夫をしましたか。

えんでばー 例えばモデルを雑多に板の上に並べ、それを見て回るワールドなら比較的単純に作れてしまうんですね。

なので、空間のデザインを大切にしています。VRの世界では空間の大きさに限りがないとはいえ、館内ではあえて実在感の為にちょっと狭くしています。狭くする上で、限りある空間の中で展示物をどのように配置して、どのようにして見せるのかをだいぶ議論をしました。なので、展示物同士で繋がりやストーリーを感じてもらうための置き方に神経を尖らせましたね。

あとは、モデルを置くだけのワールドにならないようにボタンを押すとかの動作を取り入れられたのは良かったですね。

展示物の配置を決めるのに1年かかった

ーーこれまでVSPとしては「Animation Live "Escape"」がありましたが、今回のコスモリアの制作はいままでとは違った点はありましたか。

えんでばー 大前提として「Animation Live "Escape"」は、S_朝霧さんが個人で制作された作品です。なので、VSPは4年ほど活動していますが、はじめてVSPとして制作物を出すことになります。

ーーなるほど。S_朝霧さんんは今回のコスモリアの制作にはどのように関わっていますか。

えんでばー それはもう深く関わって頂いていて、S_朝霧さんなしではこのワールドを作ることはできませんでした。 

寄託して頂いた作品の数も一番ですし、ワールド外観のコンセプトアートもコンペを行ったのですが、S_朝霧さんの案で進めることにしました。

ーーコンペと話していましたが、どのような過程でワールドを作り上げていきましたか。

えんでばー どの博物館もそうだと思いますが、館を設置する理由を定めたあと、何を置きたいのかリストアップするところから始まりました。ジャンルを決め、順番も決め、どの展示物を一緒に置くのか考えていきました。

コスモリアでは、Exhibits Layout Planningと呼ばれる展示物の配置を決める専用のチームがいました。そのチームで、最初はPowerPointで文字と画像だけで決めていきましたね。その後に仮ワールドと仮モデルで配置を試行錯誤しました。

ーー今回の展示では前半は「挑戦の軌跡」、後半は「探求と知見」となっていますが、こちらはどのような経緯で決めたのでしょうか。

えんでばー 配置を決める上で難儀した部分がありまして、時代で進めるやり方と距離で進めるやり方の2種類どちらを取るかで悩みました。

最初は距離で進めるやり方でした。第1展示室は、地球に近いものを語って、第7展示室では1番地球から遠いところについて語るようにしたんですよ。ただ、そうすると歴史について語るのが難しくなってしまいました。

過去から未来へ語るのも難しかったので、最終的には前半と後半で分けるようにしました。前半では、宇宙開発によって僕たちがいかにして宇宙へ飛び出て、宇宙が目指すところから利用するところへと変わったのかをまとめました。後半では、天文学等で得られた知見の紹介メインに太陽系や恒星などについて統括しました。

ワールドを作るのに2年ぐらい掛かったのですけども、配置を決めるのに1年ぐらい掛かりましたね。

ーーワールドを作るのに2年ですか。ものすごい時間ですね……

10月には制作秘話を語るイベントを開催

ーー企画展示室が用意されていましたが、開館後もイベントやアップデートをしていく予定でしょうか。

えんでばー 開館してから1ヶ月ぐらいは週1回ペースで展示物を巡るイベントを開催したいと思っています。10月は、VSP4周年を合わせてどのようにしてこの博物館ができたのか制作の話をしていくつもりです。いろんな資料や仮ワールドなどありますので、気になる人はぜひ来てみてください。

企画展示室は不定期で中身を入れ替える部屋となっています。このあたりは実際にある博物館をイメージしていただければと思います。

ーー最後にですが、読んでいる人に向かってメッセージをお願いします。

えんでばー この「VR 宇宙博物館コスモリア」は、展示物をお借りしている立場にあります。展示物の著作権はクリエイターさんにありますし、クリエイターさんとのの信頼関係の上で成り立っている博物館になります。

 しかも非営利で、関係者間で金銭のやり取りを一切行っていないんですよね。もちろん、金銭のやり取りができないことでの制約があるのですが、好きの力でいわば採算度外視な、価値ある活動ができたのではないかと思っています。  

 いずれ国や自治体、企業を主軸とした大きなVR博物館ができると思いますけども、その前に好きの力だけでここまでできたという歴史を刻むことができ、嬉しく思います。 本当に皆さんの力が集まってできたことですので、感謝しかないです。

ーーありがとうございます。インタビューは以上になります。

●参考リンク
VSP公式サイト