自分の見た感動を写真でも呼び起こせるように フォトグラファーmaido39に聞く写真を撮るための心意気

いつもの通勤、いつものホームワールド、いつものチルワールド。人は生活そのものを意識的にしないと「いつもの」で周りの光景を見てしまいます。

でも、そんな「いつもの」は実はちゃんと周りを見ていないだけではないのか、そのように思える写真に出会えた。

今回は、10月19日より開催される個展『世界は綺麗で溢れている』で作品を展示しているmaido39さん、開催ワールド『Gallery & fanCafe Kittens』の運営をしているkoujiさんにインタビューしました。

この写真は……現実?VRChat?

────入口から入ってみましたが、リアルな写真がずらりと並んでいますね……

maido39 1階に展示されている作品のいくつかは、2024年と2025年に開催されたフォトグラファーのショーケースであるVPSで展示した、実際の風景写真とアバターを合成したものです。

ポートフォリオには、リアルとVRChat両方の写真が掲載

──リアルっぽいのではなく、リアルそのもの……!

maido39 MRPhotoは最近増えているジャンルですが、僕は実際の撮影経験に基づいた記憶色と理想色を用いることで、「アバターがもしそこにいたらどう見えるか」という前提のもと、作品を表現しています。

──実際に撮影したものから、色を推定して合わせているのですか?

maido39 町中に溶け込ませることはよくありますが、自然の中に置く人はいなかったので試してみました。

──写真自体が都会から離れた光景なので、VRChatのワールドだと、先入観で判断してしまいがちですね。口ぶりからすると、VRChatの外でも実際に写真撮影をかなりされているように思うのですが、いかがでしょうか。

maido39 VRChatを始める前から10年以上写真を撮り続けてきました。VRChatで写真が撮れると聞いて、4、5年前に始めました。当初は、現実での技術を応用できないかと模索していましたが、最近になってパーソナルミラーやカメラギミックが充実したことで、それが追いついてきたと感じています。

水面に映り込むアバター

これまで不可能だった表現や、Photoshopのような後処理が必要だった表現が、VRChat内での撮影段階で可能になったり、後処理が簡単になったりしました。なので、自分の表現したいものが表現しやすくなったので、本当に撮りやすくなった環境かなと思います。

──個展のスペースを運営しているkoujiさんのほうから、maido39さんに個展をお願いした理由を聞けたらと思います。

kouji 2025年1月から、毎月更新する形でこのカフェワールドで写真展を行ってまいりまして、今回の展示で10回目を迎えます。今度の2026年1月で1周年を迎えますが、その前の11月と12月は特別な企画展示となるため、個人の写真展としてはこの10月のmaido39さんの個展で今年は一区切りとなります。

先月のmoyukさんに続き、アバターの『Undone Kittens』に注目したかったことと、maido39さんが以前、表参道の実店舗で作品を展示されているのを拝見し、記憶に残る憧れの存在だったため、最後となる今回、お願いすることにしました。

──今回、個人の写真展としては最後とのことですが、11月と12月にはどのようなことを行う予定ですか?

kouji 11月はVRChat内のイベント「青色クラブ」をテーマにした展示を行います。12月は少し早いですが、1年間の振り返りとして、これまでの作品と各個展に繋がるポータルを配置して巡れるようにするつもりです。

「世界は綺麗で溢れてる」

──2階に上がりましょう。どの写真も色が鮮やかに見えるものが多いのが印象的ですね。自身のモットーであり個展名にもなっている「世界は綺麗で溢れてる」の言葉通りだと感じさせますが、maido39さんの中でそれはスタンスとしてあるのでしょうか。

maido39 人は慣れにより住んでいる環境の美しさを見落としがちです。田舎に住んでいる方が「何もないよ」と話すのを聞いたことがあると思いますが、実際は朝焼けの美しさ、昼に雲が流れる風の感じ、夕方のマジックアワーやブルーアワーといった、都会では味わえないものがあります。

そういった見慣れた環境が当たり前の状態が続くと、身近にきれいなものが溢れていることに全く気づかなくなります。都会の人も同じで、何気ない瞬間に建物の隙間から差し込む光や、植物に当たった光の影のコントラストといったものは見落としがちです。遠くに行かなくても近場でも、周りに目を配れば世界は美しさで溢れているということを伝えるために写真を撮っています。

kouji 10月からカフェのイベントとして少人数で写真教室を行っているのですが、maido39さんには講師をお願いしています。よくmaido39さんに言われるのですが、僕の作品は誰でも撮れるって話すわけですよ。

maido39 誰でも撮れます。

kouji たしかにmaido39さんの写真は写真撮影の技術を盛り込んだ王道の撮り方ってのを突き詰められている意図があります。それぞれの作品に3分割方式や構図、そういった基本的なところを忠実に徹底して撮られている作品ばかりなわけです。突き詰めた結果、世界の綺麗なところを撮れるのかなと。

maido39 VRChatの撮影では、ドローンや魚眼レンズなどのギミックを使ってリアルに撮ることも可能です。それだけでなくアバター文化もあるため、一見するとイラストのような作品も作れます。リアルとイラスト、どちらも撮れるのがVRChatの特徴だと思います。

さまざまな作品を撮る中で、イラストっぽい写真も撮っていますが、どちらかというと実際に撮ることを意識した見せ方が僕の撮影の癖としてあり、撮る中で自然と基本的な技法を盛り込んでいます。なので、誰でも撮影できるのです。

──基本的な部分で押さえながら作っているから再現性があると。それを説明できるなら……まさに講師向きな方ですね。

maido39 誰でも撮れるといっても、ある程度好きじゃないと続けられないのもあるし、好きだからこそ続けることができます。僕が思う写真の良さは、スポーツや音楽のように気軽に始められることだと思っています

──こういったそれぞれの作品でどのような考えを持って作り上げたのか、明確に見えるのであればこの中で1つ聞いてみたいですね。

maido39 僕は作品に優劣をつけないのでお好きな作品を1つ聞いてもらえたら。

──この作品を撮影するにあたって、どのようなことを考えましたか?

maido39 この写真を撮ったのは、ワールドの空気感が良かったからです。特に、暗い部分と明るい部分のグラデーションが整っていたので、それを利用して空間にアバターを配置しようと考えました。光の良さを表現するために、立ち位置や目線を調整し、カメラが第三者の目線で切り取るような構図を意識しています。

──第三者の目線、たしかに色々な写真で通じそうですね。

maido39 僕の作品は、リアルに見えるように第三者視点でカメラを構える構図にしています。実際の写真に近い作品として忠実に撮っています。実際はVRChatのワールドはすべて作られているのですが、自然に見えるよう意識しています。

──切り取り方に人の存在を確かに感じられます。地続きのままで見つけ出そうとしているからこそ、本当に「世界は綺麗で溢れてる」と実感できるのだろうと思います。

10年後見ても綺麗だと思えるように

──3階に上がってきたのですが、展示数が本当に多いですね!?

kouji テストワールドで確認する際、1作品ずつお話を伺っていたら3時間ほどかかってしまいました。

madoi39 3階にはイラスト風の作品が多いですが、2階に展示できなかった作品も含めているので、全体として統一感はありませんね。

kouji でも、maido39さんの作品の中では3分の1ぐらいなんですよね。今回は60点以上の作品を展示していて、従来の20〜30点に比べて2倍程度増えています。

──同じ展示スペースで個展を続けているからこそ、作品数の多さが際立っています。どれも見応えがありますね。イラスト調の作品もちらほら見えますが、これらはレタッチ段階で手を入れるのでしょうか?

maido39 作業はレタッチです。撮影段階でリアル調かイラスト調か、仕上がりのイメージを持ってから制作しています。

──風景とアバターが馴染んでいる写真が多いのですが、撮る際にポジションを探し続けていますか

maido39 悩むことはすごく多いですね。僕の場合はドローンを使うことはあまりなく、足を使って探しています。ドローンの小さい枠にとらわれることなく、VRで実際に行って撮る体験が大事なのだと思います。後はシャッターもすぐに切らないです。

シャッターを切ってしまうと、撮った感が精神的に来てしまって、次を探そうって気にはなかなかなれないからですね。自分が本当にこの1枚を作品にしたいって心がけて、部屋に飾っても恥ずかしくない、10年後見ても綺麗だねと思えるものを撮れるようにするため、時間かけてやっています。

kouji 個人的に今回の展示で一番良かったのは、1階の階段脇にある作品ですね。3分割構図でネコや雲、山が綺麗に配置されており、船が動いている最中に撮影されたものと聞いたわけですよ。「こんなキレイにハマる写真を撮ることってある?」って思えるぐらいで、本当に美しいものを意識して見ているのだろうと感じました。

──本当にやっていることに雑さがないってのを実感しますね。

maido39 なぜその写真を撮ったのか、「これだ」という感動から上達できないのは、撮った理由を明確に話せないからです。撮った理由を明確にすれば写真は上達し、その経験やスキルは財産になります。どうせ撮るなら綺麗に撮りたいですよね。撮った後に「自分が見た感動はもっとすごかったのに」という認識との差を埋め、写真を見て「これだ!」と感動を呼び起こせるようになることにつながります。

──ありがとうございました。個展もそうですが、写真教室にも行きたくなるような学びが多くありました。

個展『世界は綺麗で溢れている』は10月19日より開催

個展『世界は綺麗で溢れている』は、『Gallery & fanCafe Kittens』内で10月19日より開催されます。1ヶ月程度の開催期間のためお見逃しなく。

またmaido39さんが、『Gallery & fanCafe Kittens』の店員として写真の撮り方を解説した動画も公開されています。