クリエイターインタビュー 「ネコ」への愛をこめて アバター「ツユナ」制作者Tonanさん

自分の創造したキャラクターがVRChatで使えるアバターになったら。一度は妄想したことがある人もいるのではないでしょうか。それを約半年で実現してしまったクリエイターがいます。新作アバター「ツユナ」制作者のTonanさんです。

Tonanさんは自サークル「TEALRICHOR」にて「雨ざらしのナズナソウ」シリーズを頒布しています。青色が印象的な色彩とやわらかなタッチで描かれた様々な性格のキャラクターたち。特徴はネコの要素があること。今回の新作アバター「ツユナ」はこの作品から生まれました。Tonanさんが愛をこめて作りあげたアバターについて、たくさんお話を伺いました。

「ツユナ」を着用したTonanさん

「自分にしか作れないデザインのアバターを作ろう」

改めて販売開始おめでとうございます!実際に「ツユナ」を世に出してみていかがですか?

自分のキャラクターが自分の手から離れ、ユーザーの方々が物語の続きを紡いでくださっている状況がとても面白くて興味深いです。 1日5300回くらいエゴサしてるので、みなさまの目には「ツユナ」がどんな姿で映ったのか今後も大切に見届けたいと思っています。

アバター制作の企画はいつからスタートしたんですか?

2025年の夏に、Blenderの勉強をかねて自分の作品のキャラクター「ナズナ」のミニアバターを作ったんです。作ってみて、人型アバターも作りたいな、と「ツユナ」を作ることにしました。

制作した「ミニナズナ」

それまでにアバターを作った経験があったんでしょうか。

いえ、初めてです。プロトタイプもなく、一発本番で制作しましたね。だから取り掛かった最初は専門用語がわからなくてすごく大変でしたよ!modifire、UV展開って何?という感じで、ひとつひとつ課題をクリアしていきました。アセット類を一切使わずにモデリングして、素体に1ヶ月強。素体ができたら次は服をというようにステップアップして、やっと公開にこぎつけました。

初めて制作したアバターなんですか?とてもそう思えないクオリティですね

ありがとうございます。

ー「ツユナ」はどういうアバターか教えてください

僕の作品「雨ざらしのナズナソウ」に登場するアメリカンショートヘアのネコのキャラクターです。雨が好きで、雨の日に散歩を楽しむような性格の子です。音楽が好きなので、音楽を聴けるイベントに連れて行ってもらうのも好きかもしれません。またキャラクターとして性別を決めていません。なので購入したユーザーさんの好みで、男性・女性問わない衣装を着せられるように素体を設計しています。

「雨ざらしのナズナソウ」はネコのキャラクターの作品ですよね。どうしてネコなんですか?

僕は生まれたときから、たくさんのネコに囲まれていました。実家が保護猫を保護していたので、目が覚めたらネコが居る家でした。幼少期、家族が忙しくてあまり自宅に居なかったとき、ずっとネコと遊んでいたので、ネコは一番身近で馴染みがあって素晴らしい生き物だと思っています。

ネコの造形は、神様の最高傑作ですよね。

本当に最高傑作ですよ!

ご自宅で飼われているネコたち

あ、これうちのネコです。 かわい~~。今日はこれだけ目に焼き付けて帰ってくださいね。

「ナズナソウ」のキャラクターたちは、うちのネコを参考資料にして作りました。長毛種のネコ、いかにもネコ!という感じの雑種のネコ、の二匹がいます。動物すぎず人間すぎない良い塩梅を、アバターを作るときもイラストを描くときも、ずっと探しています。

二次元から三次元に変換するときのこだわり

元々イラスト作品を描かれていますが、イラストという二次元のものを三次元にモデリングするのは、感覚が違いなかなか大変と聞きました。どんな工夫をされましたか?

特別なことはしていません。美大に行っていたので、デッサンは一通りやりましたが、人体に関する勉強は全くしていないです。モデリングした際は、様々なアバターをみたり、人体のパーツの比率を調べて、素体の手直しをたくさんしました。それこそ四桁位修正したかもしれません。

あとやっぱり大変だったのがイラスト的な嘘をどう3Dに落とし込むか、ですね。全角度から見てかわいいを作ることは難しいです。

実際どこが大変でしたか?

目ですね。3Dの目はリアルに寄せて作る必要があるんですが、違和感は気づかれやすいですし、イラストから変換するときに瞳のバランスをどう表現するかは、本当に悩みました。
そもそも、原作の「雨ざらしのナズナソウ」はアナログライクな作風です。だから3Dでもその雰囲気を再現したかったのですが、 僕のイラストの作風のままだと、タッチが重なりすぎて、アバターにしたとき癖が強くなりすぎてしまうなと感じました。

自分の作画と3Dアバターという要素の落とし所を見つけるところは苦労したポイントです。例えば、僕のイラストの影は主に青系の色で表現します。でもモデリングした時は青系は意図的に減らしました。

それは中々悩ましい決断だったのでは?

イラスト表現にとって影は本当に大切な要素なんですが、アバターは様々なワールド・様々なシチュエーション・ライティングで使われるので、個性を残して対応衣装の幅に影響がでたり、改変をしにくくなってしまうことを避けたかったので、泣く泣くオミットしました……。

だからアバターの印象は温かみのある感じに仕上がったと思っています。ゼロから自分で制作したので解釈違いが無く、作者がお届けする純度100%の「ツユナ」だぞ!というアバターを作れたので嬉しいですね。

元々の「ツユナ」のデザインをどのように活かしたのでしょうか

まず第一にコンセプトとして「自分にしか作れないデザインのアバターを作ろう」とスタートしたんです。 具体的にいうと「人型とケモノの中間の新しいアバタージャンルを確立したい」という狙いです。いわゆるケモノ系アバターは、ケモノとする範囲が人それぞれなので、これがちょうど中間という指標のようなものを作りたかったんです。

それはアバター造形のどの部分で表現しているんですか?

ボディの形状は人間・顔のバランスはネコらしい比率として、現実に居てもおかしくないよねという視点を軸にして制作しました。ファンタジーとリアルの絶妙な塩梅を破綻させないように同居させることを意識しています。だから手の形は人間型だけど肉球があったり、ケモノアバターだと手のサイズが大きく作られることが多いんですが、ここは人形アバターとしての操作感を優先してあえて。なので、手は小さめに作ったり、そういう比率の塩梅にこだわっています。 ルックはケモノですが、素体そのものは人間型なので既存の様々な服がそのまま着せられると思います。

VRChatの改変カルチャー

TonanさんはどういうきっかけでVRChatを始めたんですか?

実はねこますさんが話題になった頃にVRChatのアカウントは作っていたんです。「ツユナ」と同じ郵便局のバイトをしてHMDを買いました。でも当時のVRChatは本当にカオスで無法地帯で……(笑)。続かなかったんですよね。
再開したきっかけは、ナズナソウのキャラクターである「カザネ」の改変アバター写真がSNSのタイムラインに流れてきたことなんです。とても再現度の高いカザネ改変をして、R18表現している写真が。「え?!」と。怒るではなく許可出したっけ?となりました。


そういうノリは好きなので、そのユーザーさんにお話を聞いてみて、超面白いと思ったんですよね。僕の作品の読者の方達には「カザネ事変」と言われています(笑)。
僕は元々「東方Project」という二次創作に寛容な作品のカルチャー内で過ごしていました。だから創作理念として「東方Project」をリスペクトしている部分もあって、自分の創作を使ってくれた二次創作が好きなんですよね。

再開したVRChatはどう感じましたか?

一番びっくりしたのはアバター可愛すぎ問題です。2017年位はポリゴンの荒いアバターばかりでしたから、クオリティがここまで来たんだと感じました。

クリエイターとして、特に印象に残っているVRChatの創作物はありますか?

「ムルル」「リコリネ」でお馴染みのくろむさんや、「Emmelie」を作ったM.さんにとても影響を受けていますね。 自身の創作をアバターという命が宿ったものにするだけでなく、さらにその独自の世界観にダイブできる空間をバーチャル上に創り上げる表現力に、深く感銘を受けています。 自分だけの表現をどこまでも貫ける人はかっこいいなぁと思います。

先ほど二次創作が好きと言っていましたが、例えば「ツユナ」を自分で改変するならどんな風にしたいですか?

デフォルトの衣装は、ファンサービスも兼ねて原作そのままを意識したクラシカルな衣装にしました。ネクタイに雨要素をいれたり、揺れ物アイテムの追加をしましたけど、それくらいです。素体としては、ジャンルに囚われず何でも着せることができるように、余白を残すことを意識してデザインしたので、自由に着せてみてほしいですね。
僕が改変するなら「ツユナ」は郵便配達のバイトをしている設定なので、郵便配達員専用のロングコート制服とかコンセプチュアルな服を作ってみたいと思います。

お話を聞いていて、Tonanさんが一番のファンだなと感じます

そうなんですよね!自分も自分の創作のファンなので、同じくファンの皆さんの改変もいっぱい見てみたいです!

Tonanさんのこれから

今後の「TEALRICHOR」の活動について教えてください

Vket Winterでアバター紹介とイラストを展示したブースを出しています!ワールド「架空植物園エクソプラント」エリア「創造の萌芽」です。ぜひブースに遊びにきてください!

他にVRChatでチャレンジしてみたいことはありますか?

自分のキャラクターが動いて喋って自由に遊ぶ姿を観られる事は、VRChatならではの風景だと思います。だから自分の創作物にバーチャル空間で命を宿すことができるという事を外部にもっと伝えていきたいなと考えています。

イベント関連だと、ツユナのアバター集会もしたいですね。バーチャル空間ならではの空間の制約度外視のバーチャルミュージアム的な展示会もやってみたいです。作品中にナズナソウの5人のアジトになっている 喫茶店があるのですが、中身がゲームセンターに改造されているんですよ。そのワールドも作ってみたいですし、リアルでもグッズとか本を作っているので、バーチャル空間上にもリアル物販空間を作れたら楽しいだろうなと。

やりたいことがいっぱいですね!

街を歩いてる時に「あのキャラクターがここに居たら楽しいだろうな」のような事を日々思っているんです。「ナズナソウ」は日常をベースに作成された作品ですから、日々の様々な瞬間を切り取って作品に昇華できるので、どんなことも作品につなげて考えてしまいますね。

ナズナソウシリーズには他にもキャラクターがいますが、アバターのシリーズ化はどうでしょうか

絶賛計画中です!書いておいてください!言質を残しておかないと、お尻に火がつかないので(笑)。キャラクターをアバターにすることに対して、原作を忠実に再現する事は大切だと思っていますが、VRChatは衣装を色々着せ替えできる事も面白さの1つなので、服のブランドも作ってみたいなと考えています。

今後の制作活動も楽しみにしています。最後に、このインタビューを読んでくれた方やファンの皆さんへ一言お願いします

僕のサークルの方針として「TEALRICHOR」は面白いと思ったことは、なんでも挑戦してみたいと思ってます。「雨ざらしのナズナソウ」はこの世界の片隅にある小さな空間ですが、VRChatだとさらに広げられるよ!という点を、自分の作品や世界観を持っている創作活動をする人たちに伝えたいです。 創作は独りよがりではなく、皆で作っていけると嬉しいと思っているので。
だから、この記事を読んで僕の作品やツユナに興味を持ってもらえたら、ぜひVRChatで会いに来てください。あなたの改変を僕に見せに来てください!僕はアルフォートの一番でかい袋を持って待っています!