クリエイターがしっかり評価される世界へ With VR代表とーたにインタビュー 【後編】

ソーシャルVRのユーザーには、VR空間で映画MVなどといった映像作品を撮影する人がいます。とはいえ、映像を制作するにしてもワールドの選定・制作からカメラ、編集とさまざまな技能が必要です。

With VRは、映像をやってみたい人たちの助け合いをする動画制作コミュニティであり、制作請負、VR内での撮影研修もしている団体です。

前編ではWith VRがこれまでの作品取り組み、VRChatのワールドとして作った撮影スタジオの紹介をしてきました。

後編の本記事は、With VR代表のとーたさんにWith VR発足から関わっている筆者東雲りんがインタビュー。VR上での撮影からWith VRの目指すところをメンバー同士だから話せるところまで掘り下げてきました。

仕事での経験をVRChatで活かす

ーー自分自身With VRに設立当初から関わってはいるのですが、あらためて発足に至った経緯について聞いてもよろしいでしょうか?

とーた 未央つくしさんが「VRChatやっている人のモチベってどういうことなのかを知りたい」ってツイートしていて、そのツイートで集まった人たちがはじまりでした。

ーーリプライがどんどん増えて、「Discordのサーバー作っときな」と言われて自分が作ったんですよね。

とーた もともとリアルで映像関係を仕事にしていたこともあって、動画で作るとなったときに私が主導でやることになったという流れでした。

With VRのインタビュー動画は過去に実践したやり方をそのままで制作した

ーー過去に映像作品を撮っていたとのことですが、どういった仕事をしていたのでしょうか。

とーた VRChatに来る前に一時期某Youtuberの動画編集の仕事をしていて、それ以外にも企業のCMとかにも関わっていました。

ーー仕事のときの経験はWith VRなどの撮影に活かされていますか?

とーた ベースになっている動画はありますね。クラウディアのアバターPVとかはやったことのないタイプでしたが、いままでのインプットが活きました。

ーージャンルの幅も広いし、お願いされたときにも基本的には引き受けるようにしていますよね。VRChatとリアルでの撮影で異なる部分はどこにありますか。

とーた 違うところと同じところがあって、構図とか表現方法はほぼ変わらないイメージです。異なってくるポイントが音声周りです。現実だと、マイクを置いてそこで録音をするみたいなことができるのですが、VRChatの場合は「マイク」というのがすなわち録音者(アバター)なので、融通が利きにくいんです。

ーー撮影や配信をするときに透明アバターでマイクスタンド代わりの人を置いていますからね。

とーた もう1個大きい部分が、自分の声を動画に載せないことができるということです。VRChatだと録画ソフト上で自分の声をミュートにすれば、カメラマンの声は入らないので、撮影をしながら指示を出すこともできます。ただ、ここはリアルの癖でいつも録画が回っていると喋らなくなっちゃいますね。

映像は文字よりも入ってくる情報量が多い

ーーWith VRは自分たちでコンテンツを出すというより、他のコミュニティなどの映像制作や配信を請け負うことが多いと思います。これは意図していることでしょうか。

とーた 正直なことを言うと自前のコンテンツをもっと出したいですね。気がついたら請負が多くなっていました。

実際に依頼されて作った動画

ーーもともとの目標に既存の団体やVRやっていないYouTuberなどと連携や撮影支援などするとは掲げていたのでズレてはいませんよね。

とーた 目的の1つではあったんです。今の感じを続けて「VRの配信といえばWith VR」って空気感になれば嬉しいなと思ってます。

ーー「VketEscape」でカメラや配信請負をやっていたときに、参加者側から見てもカメラやスタジオのクオリティがめちゃくちゃ高いなと思いました。任せてもらえる雰囲気になればいいですよね。

とーた 「VketEscape」以降に配信請負をやるようになったのが1つの転機だったかもしれません。

ーー自前のコンテンツがないといいながらも、最近は「報道部」というニュース番組風の映像も出していますよね。情報番組で流れてくる映像をそのまま「VRChat」に置き換えたようなクオリティの高さがあります。

とーた ずっとやりたかったんですよね。

ーー個人的にも、「With VR」立上げ当初から、報道としての動画には興味があったので、実際に出せたときは満足度が高かったです。「報道部」を展開した理由はなんでしょうか?

とーた そうですね、「報道部」シリーズはもっと展開していきたいなと思っています。いま、「メタカル最前線」を含めソーシャルVR系のウェブメディアはありますが、文字ベースがほとんどなんですよね。

私にとって映像というメディアの一番の特徴は、リアリティを伝えているという部分だと思っています。入ってくる情報量も文字よりも多いし、イベント主催者やワールド制作者さんの素性も映像の方が伝わりやすいと思うんです。

自分ができることをやっていく

ーーWith VRの組織体制って初期からディレクター、編集、カメラ、キャスト、3Dアートで分担することを前提に運営していますが、意図していることはありますか。

とーた 私が好きなアニメに「PSYCHO-PASS」という作品があって、その中で「成しうる者が為すべきを為す」という言葉が出てくるんです。簡単に言うと「できる人ができることをやりましょう」ということなんですが。

人間ってできることとできないことがありますよね。経験になるからと、あえて苦手なことをやらせるとその人の精神を潰すだけだなと思っているんです。だったら、得意なことを伸ばしたほうがお互いのためになるんじゃないかって。

ーーなんでもできるジェネラリストよりも得意なことを伸ばしているスペシャリストの方がいいというわけですね。

とーた そうそう。「PSYCHO-PASS」に出てくるシビュラシステムというものが理想に近いんです。ディストピア的な描かれ方もしていますが、その人にとって最適で効率的な人生を歩ませるシステムでいいと思うんですよね。

「PSYCHO-PASS」は人生で一番影響を受けたアニメだと語るとーたさん

ーーWith VRのDiscordで案件を出して、リアクションがあった人に任せるスタイルなのはいいですよね。自発的でやるというのもいいし、その中で台頭してくるメンバーも出てきてって感じで発掘されていきますしね。

とーた この組織は会社でもないので、気楽にやっていきましょうってノリですね。最近だとこの人にできることが何かって見えてきて、その光るものを伸ばしています。

目指すはVRのテレビ局

ーーということで、With VRではディレクター、編集、カメラ、キャスト、3Dアートを募集しています。ほかはなんとなくわかると思うのですが、3Dアートはモデリングとかをする役職ですね。

とーた モデリングもだけどデザインできる人も必要で、例えば動画とかのアイキャッチ制作とかができる人がいると助かります。他にもスタジオのレイアウトを考える人もいると嬉しいです。小物をスタジオに置くときにも、効果的な画になる方法を知っている人がいると助かるなと。

スタジオの中にはWith VRのメンバーがフルスクラッチで制作したものも入っている

ーーあとはギミック導入のためにもUdonとかもできる人も来てもらえると嬉しいですよね。もう映像を撮るといっても映像を撮る前段階も多いし、関わる分野もたくさんあって全然まかないきれないというのが現状です。

とーた 企画考えて、Unityでスタジオ組んで、カメラどう配置するか話し合って、キャストがトーク内容を考えて、動画を作るのって本当に大変です。

ーー役職と工程が多すぎてテレビ局みたいなことになっている……

とーた ここまで来たら徹底的にやってテレビ局を目指したいですね。

ーーロールモデルがテレビ局って前から言ってましたよね。最初に、関わった業績をポスターにしてわーって貼りたいとかいい出したのがきっかけだった気がします。

とーた テレビ局構想は完全に「笑DX」という番組の制作にかかわったときに行ったフジテレビに影響を受けています。フジテレビの廊下に見たことのある番組のポスターが並んでいて、映像をやっている身としては憧れました。

とーたさんはフジテレビの笑DXにてVRChatでのカメラマンをした 写真提供 とーた

ーーもう少しテレビ局がロールモデルの理由について詳しく聞いてもいいですか

とーた 1つの大きい組織の中でいろんな動画を出せるのが魅力的だと思っています。YouTube的には同じ方向性のものを出したほうがいいと思いますが、私的にはいろいろな動画を出したいんです。

ーーいろんな動画を撮りたい!そのためにいろんなジャンルに詳しい人が来てもらえると助かります。なので本当にVRやったことない人でも話を持ちかけてください!というわけですね。

とーた とりあえず話しかけてもらえればどうにかします。専門的な知識を持った人が来て、知識の共有していただけると非常に嬉しいですね。

ーー最後にですが、With VRとして今後やっていきたいことはありますか。

とーた がんばっている人を発信していきたいと思っています。よく話していることですが、「全ての創造を行う人々の努力が正しく評価される世界の創造」ができたらなという想いが、自分の中にあるんです。

フォロワーの数や人脈のなさから評価されない人がしっかり評価される世界になればいいなぁと思います。インタビュー動画や報道部というのも、イベントやアバター制作者などをピックアップして、「こういう人がいるんだぜ」って知らせるためにやっていきます。

ーー今回はありがとうございました。

前後編にわたってWith VRの紹介していきましたが、今回の特集を通じてWith VRに入ってみたい制作をお願いしたいと思っていただけたら幸いです。