バーチャルファッションの最前線に終わりはない 「”Voyage” 2023Winter」開催レポート

12月23日、ファッションブランド「Melty Lily」オーナーのゆいぴさんは、バーチャルファッションコレクション「Virtual Fashion Collection ”Voyage” 2023Winter」(以下、Voyage)をVRChatにて開催した。

Voyageは、VRChat向けファッションアイテムを販売する個人ブランドを中心に衣装を発表するコレクションイベント。すべてのブランドから新作衣装が公開され、バーチャルファッションにおいて最前線(フロンティア)とも言えるイベントだ。

メタカル最前線では、Voyageのゲネプロに参加。1回目の開催からちょうど1年、ファッションのフロンティアがどれほど進んだのかをレポートとともに届けていきたい。

ファッションにある熱量をすべて受け入れる土壌

Voyageはまさしくカオスだ。さまざまなジャンルの衣装が飛び出してきて展開を予想することがまったくできない。ときには会場をハイジャックするかのようにランウェイが変わることすらある。

だけども、ショーとして成立していないわけではない。全体を通じてディレクションが行き届いているし、ショーを順に見ていくとしっかり成立しているのだ。

cherry neruから出した「Evening primrose Dress & Suit」は、ファンタジーの世界観を体現した衣装。正面のみならず背中までも細部までテクスチャが描き込まれている。おかげで、後ろ姿までも釘付けになった。

そうしてファッションに込められた美しさの余韻に浸っていると、次の衣装が登場する。

一目見た瞬間に分かるコンセプトの明確さ。さっきまでとは違ったベクトルの熱量を叩きつけられた。最大限振り幅を出してインパクトをのこす順番にしているのだ。

ショー全体として意図した構成でディレクションしている。これだけで、ショーとして成立しているように作られているのが分かる。

ここで登場するAdd+Re:collectionは、地雷系や魔法使いといったコンセプト系の衣装にとことん強いブランドだ。

新作衣装の「zirai chipmunk」は天使界隈のエッセンスがふんだんに盛り込まれている。VRならではの解釈としてリスのしっぽをいれるのは、リアルの模倣にならないバーチャルファッションの持ち味がある。

このようなジェットコースターのような展開をしてもなお、ファッションショーとして成立しているのは、アクターの存在は本当に大きいだろう。ランウェイを歩くわずかな時間で、衣装の持つ世界観を動きにして伝える。さらにその世界観の広さはとてつもなく広いときた。

幅広く許容するような世界観に耐えうる動きの引き出しを持っているのは、練度の高さによるものだろう。アクターを務めているSilky Charmやカソウ舞踏団、Naitemoさんらの貢献度は計り知れない。

企業と個人の共同作業の到達点

今回のVoyageでは協賛会社のBEAMSと往来から衣装の出展があった。

Voyageは、過去のインタビューで企業のスポンサーについて話していたことがある。インタビューでは、Voyageの熱量をリスペクトして、同じ思いで盛り上げてくれる企業がいいと話していた。

目先の利益で企業のスポンサーを取り入れないと考えていたVoyageが、今回は協賛会社からの参加がある。はたしてどのような変化があるのか気になっていたが、実際に現場で見たのは企業と個人の共同作業の到達点だった。

往来からは、「メタバースヨコスカ」のプロジェクトで出したスカジャンだ。良かったのはランウェイでの出し方である。このスカジャンは、さまざまな柄やカラー、対応アバターがある。そして、豊富なバリエーションを無料で配布しているのだ。

今回のランウェイではその特徴を活かすべく、さまざまなアバターでつぎつぎとランウェイを歩いていった。

ここまでランウェイではじっくり衣装を見せていくスタイルだったが、一転して多くのモデルが歩いていく姿はメリハリが効いていて注目を集めた。ショー全体の構成に一役買っている。

そしてもう1つのBEAMSは、Voyageを見た人なら忘れることはないだろう。

最初に出した衣装「レースと手刺繍のセーラー服」は、セーラー服の持つ魅力にレースと手刺繍をプラスしたレトロ感あるデザインをしている。そんな衣装の制作に、シンプルで使いやすい、レトロファッションに挑戦したことのあるNatelier -ナトリエ-のなとりさんを3Dモデラーに起用。

次に出した「オートクチュールのバーレスクドレス」は、ランウェイをショークラブ一色にして登場。前回のVoyageから大胆な演出は盛り込まれるようになったが、まだまだインパクトのある演出を出せると驚いた。

演出に圧倒されるが、衣装のほうも注目しよう。こちらの「オートクチュールのバーレスクドレス」では、Melty Lilyのゆいぴさんが3Dモデラーに起用されている。

ゆいぴさんの作る衣装はシルクや宝石類を使ったラグジュアリーなものが多く長けている。今回の衣装は、まさしくゆいぴさんが1番上手く作れるといっても過言ではない。

さらにBEAMSの衣装に関して注目すべき点は、デザインにBEAMS COUTUREの⽔上路美さんが参加していることだ。企業と個人の共同作業でもあり、リアルとバーチャルのクリエイターによる共同作業でもある。

どちらの服のデザインも、起用した3Dモデラーの得意分野に合致している。BEAMSのバーチャルファッションに対する解像度はかなり高いのがうかがえる。

往来とBEAMS、どちらもショーにしっかり組み込まれてVoyageを盛り上げるために参加しているのが伝わってきた。Voyageの熱量をリスペクトしていることは間違いない。

黒の多様性

今回の衣装を見ていると、「黒の多様性」を感じた。

同じ黒でも材質や差し色などが違えば別のファッションとして成り立つのが、VRChatが持つ表現力の幅広さ、豊かさを感じさせる。素材の持ち味を楽しむのはリアルでのファッションでは当たり前のことではあるが、バーチャルだとプラットフォームによっては表現しきれない部分ではあるからだ。

fille dé finir.の「Stellaria : Noir」は、星を思わせるデザイン。特徴的な星の輪っかがインパクトをのこした。

HB_Shopの「Gala Glam(Blue)」は黒をベースに金と青が差し込まれている。刺繍や花といった装飾も見ごたえがあるクオリティだ。

EXTENSION CLOTHINGの「BY EXTENSION」。異素材ミックスのモノトーンコーデで、質感が楽しめる仕上がりになっている。取り外しによるパターンもあるので、販売されたときにさまざまなコーデが期待できる。

EXTENSION CLOTHINGのロゴが衣装の随所に仕込まれており、EXTENSION CLOTHINGのブランドが好きな人にとっては嬉しいポイントだ。

表現力だとLAYONは驚いた。LAYONはVRoidから3D衣装メインになったことで2023年で一気に注目を集めたブランドだ。リアルクローズ寄りでファッションショーに映えそうなこともありVoyageに来たら熱いブランドだったが、今回ついに参加となった。

そんなLAYONから出してきた新作衣装「Eau de LAYON」は、2つの衝撃を与えた。最初見たときに衣装の美しさに衝撃を受けた。テクスチャの質感は一体どうなっている!?と必死に捉えようとした。

そして司会からLAYONから出していると紹介されて、さらに衝撃を受ける。リアルクローズが売りのブランドから、前衛的でコンセプトを全面に押し出した衣装が出るとはまったく思っていなかったからだ。

LAYONの作風の幅広さが一体どうなっているんだ……と怖くなってしまった。今回の衣装を見せられたら2024年の活躍を期待せざるを得ない。

フロンティアに終わりはない

今回のVoyageに外せないのは、Maison Darc.の発表だろう。

参加ブランドを発表時には、謎のブランドとして参加。XやBOOTHにアカウントだけ作られていること以外何も分からない状態だった。

そんな状況で、ランウェイの上にMaison Darc.と書かれたコンテナが現れる。

中から現れたのは、車にストリートな衣装を着たアバター、Maison Darc.と描かれた旗を振っている姿だった。

そしてEXTENSION CLOTHINGのオーナーであるアルティメットゆいさんの新ブランドことが大々的発表された。

発表されたMaison Darc.のコンセプトについて振り返ろう。

EXTENSION CLOTHINGの姉妹ブランドであり、ワンランク上として位置づけられている。改変特化のブランドでアイテムごとの互換性がある。フルセット販売ではなく、アイテムごとの販売。そしてリアルアパレル展開を視野に入れている。

アルティメットゆいさんはVRChatのファッションにおいて不動の人気がある。だが、もともとがリアルアパレルを手掛けようとした経歴を持つ人だ。

そんなアルティメットゆいさんからバーチャルからリアルへの逆輸入を目指すと宣言したブランドが出た。言葉の重みは違う。まだリアルアパレル展開について詳細な情報は分かっていない。だけども、ここに来てわざわざ宣言することは意味があるのは間違いないだろう。

今回のVoyageでは、企業と個人クリエイターの接近、新たなるクリエイターの台頭、リアルアパレルへの進出宣言が見られた。バーチャルファッションは、日々進歩を遂げている。その実感を得られた今なら間違いなく言える。

バーチャルファッションのフロンティアに終わりがないのだと。