新しく企業を立ち上げた理由とは? VRCボクシングへインタビュー

ソーシャルVR「VRChat」で日々ボクシングで戦いに明け暮れている「VRCボクシング」をご存知でしょうか。定期的に大会を開催されているので、名前だけは知っている人もいるかもしれません。

VRCボクシングの何よりも特徴的なのは、「スポーツ」であること。ソーシャルVRの中ではゲームワールドとしてさまざまなゲームがありますが、VRCボクシングはリアルなスポーツに寄せた作りです。例えば、正しいフォームでパンチを繰り出さないとダメージが減ってしまうといった調整が多くあります。

そんなVRCボクシングは、新たにワオスポーツ株式会社を設立。ワオスポーツ株式会社は、VRCボクシングを活用したイベントや大会を開催するときに法人取引や契約事のバックアップを行う会社になります。

VRCボクシングがさらなる拡大を目指して行われた法人の設立は何故行われたのか。設立の理由を運営のとりさん、ムシコロリさん、さらにコミュニティが発展した理由を選手である佐藤さん、あきんぼさん、すらいむさんに聞いてきました。

リスペクトが生まれる作りだからVRCボクシングは広がった

ーーVRCボクシングはアップデートを積極的に変更を加えて日々変化を続けていると思いますが、ゲームバランスとしてはどのように目指しているのでしょうか。
とりさん
 VRCボクシングが目指しているのは、esports競技です。いろんなゲームが世の中にあると思いますが、フィジカルでの強さを否定しない作りにしています。例えばゲーム内のシステムを理解することで強くなるゲームがあると思うのですが、VRCボクシングでは身体を鍛えることを肯定できるように心がけています。

もちろん、今のVRCボクシングはスポーツというよりはゲーム寄りのesportsモードもあるのでゲームとして遊びたい人もカバーできていると思います。

ーーVRCボクシングはフィジカル重視というわけですね。
とりさん 勝手に作った造語でフィジカルesportsと呼んでいます。自分の動きが反映される中で、昨日よりも速くパンチを打てたから倒せたといった経験があると、ゲームとしての体験もダイレクトに伝わってくるんじゃないかなと思っています。

そしてスポーツとして作るならば、個々が自分の課題に向き合って1歩ずつ前進できるようにしたいですね。

ーーフィジカルesports、つまりはスポーツとして作りたいから、バランスを壊すグリッジや正しくないフォームが反映されないように判定を作っているわけですね。
とりさん そうなります。VRCボクシングがここまで広がったことにも繋がると思うのですが、スポーツとして正しい動きを促すようなゲームをしているから、ユーザー間でリスペクトが生まれてコミュニティが広がっていったと思っています。スポーツになると、コミュニティも発達するし、お互いのことをリスペクトできるので良いことだらけなんです。

逆に特定の挙動を使うとめちゃくちゃ強いみたいなゲームにすると「お前すごいな」とはならないし、勝てるだろうけどもリスペクトも湧きづらいですよね。

僕自身、人間はリスペクトが大事だと思っています。一緒に正攻法で戦って、大汗をかきながら汗かきをすることで、相手がどのようにして練習しているのかが伝わってきます。もう自己紹介をしてお互いの趣味嗜好を語るよりもずっと強固なコミュニケーションなんですよ。

戦っている2人でしか生まれないコミュニケーションがあり、スポーツになっているわけです。俺みたいな口下手でも喋らずとも通じ合える世界が、スポーツにはあります。それこそ英語話せなくても、アメリカ人と戦えばめっちゃ仲良くなれます。

それこそ、僕とムシコロリさんも趣味が全然被らないのでボクシングがなかったら友達にならなかったかもしれません。でも、ボクシングで殴り合ったから友達になれたんですよ。

あきんぼ 意思疎通が難しくても、殴り合えばまたもう1回やりましょうと誘えるんですよ。他のワールドだと難しくても、VRCボクシングならできるんですよね。

佐藤 オフ会でVRCボクシングで知り合ったフレンドと話したのですけども、リアルでは初対面なのに10年来の友人のように話せたんですよ。

ムシコロリ スポーツのコミュニティに入りたい人への居場所になれますし、他のコミュニティとの差別化にも繋がるというのもあります。自分たちの認識としては、部活が近いのかなと思っています。社会人でも社会人野球などあるじゃないですか。普段の日常と違う場所で運動とコミュニケーションが取れて、なおかつ言語よりも肉体のコミュニケーションの方が密に感じる人が多く集まっているコミュニティなわけですね。

とりさん 抜け道のない作りで身体を通じてコミュニケーションを重視したから、VRCボクシングがここまで広がったんじゃないかなと思います。同時に外から見ると分かりづらいところでもあるですけどもね。

ーー実際にやってみないと、選手がいかに努力をしているのかが伝わりませんからね……私もやってみたのですけども、正しいフォームでパンチを打つだけでも難しいですよ。
とりさん 確かに難しいですけども、誰かがつきっきりで教えてくれるんですよね。教えてもらえると、意外とハードルは高くないです。

ーー初心者・初体験会も定期開催されていますしね。
佐藤
 選手として感じているのは、最初はみんなでワチャワチャして猿みたいに遊んでいたのですけども、ここ直近はボクシングのノウハウを取り入れて近代化してスポーツをやっていることですよ。人口が増えれば増えるほどプレイヤーの動きは洗練されていくと思うんですよね。ボクシングの基礎であるジャブやガードといったものを使い始めています。

あきんぼ 最近のプレイヤーは楽しくやりたい人もいるですけども、強くなりたいと思う人は増えました。その結果、だんだんとみんなのレベルが上がってきています。

佐藤 だからこそ1番最初の壁は高く感じるわけですね。とくにVRCボクシングをはじめてみようと思う人は、ボクシングをやったことがない人が多いので、丁寧に導線を敷くようにしています。

ーーこうしてボクシングのノウハウが取り入れていけるのも、スポーツとして成立するようにゲームのアップデートを繰り返した結果のように思えますね。
とりさん
 みんなが技術を磨くとメリットがあるようにアップデートし続けているのは意識しています。アップデートするときは、ジャブやガードなどのボクシングで必要な動きを強制するのではなく、メリットを考えると自然とやることになる動きだと思ってもらうようにしています。メリットがないとみんなやらないので、調整する際は意識していますね。

クリティカルが明確に設けられているため、ダメージを抑えようとするとボクシングポーズを自然に取ることになる

会社を立ち上げたのは選手がより良い環境に身を置けるようにするため

ーーワオスポーツ株式会社はどのような目的で立ち上げたのでしょうか。
とりさん
 法人を作ってやりたいこととして、VRCボクシングを一生懸命にスポーツとして取り組んでくれる人たちに向けてより過ごしやすい文化や環境を作ることがあります。頑張るほどにお金や名誉が手に入れば取り組みやすいですし、アマチュアだけの活動だとそろそろ限界が見えてきたのが現状です。

ーー大会においてもスポンサーの企業を集めたり、景品を出したりと、実際のスポーツと同様の動きはしていましたしね。今回の法人化も延長線上にあるわけですね。
ムシコロリ
 社会的影響力の部分もあります。アマチュアや同人の集まりだと、スポンサー集めやゲスト集めなどで上手くいかない場面もどうしてもあります。法人であるかどうかは、結構影響があるわけなんですね。

ーーVRChatの外の人たちにも通じる看板を用意したというわけですね。
とりさん 法人を作ったとしても、体制や方針を変えるわけではありません。これまでやってきたことが社会で活躍できるように法人化したと思ってもらえると嬉しいです。

ムシコロリ FPSがesportsとして進出し競技シーンが出来たように、VRCボクシングのような体感ゲームも競技シーンが生まれてもいいじゃないかなと思い、立ち上げました。

ーー現状だと身体を動かすような体感ゲームはどうしても二の次のような印象はたしかにありますね。
とりさん
 世の中の動きを鑑みながら動いているのですが、数年後にはみんなVRでフルトラッキングで動いている未来もあり得ると思います。そうなると、今からVRCボクシングをフィジカルesportsとして立ち上げておきたいのはあります。

ムシコロリ 以前に、VR機器を使ってテコンドーをやっていた動画が話題になっていましたよね。VRのスポーツが社会の表舞台に上がってこれたら面白いじゃないか、ゲームのもう1つの柱になるんじゃないかなと思っています。

今でも多くの人が遊ばれているNintendo Switchでも、Fit Boxingやリングフィットアドベンチャーといったソフトが出ています。もっと言えば、今のゲーム界隈で話題になっているイベントであるRTA in Japanにおいてもリングフィットアドベンチャーで同時接続者が18万人を達成しているんですよ。

ーーあのRTAは自分もリアルタイムで見ていたので分かるのですが、とんでもない熱狂でしたよ。明らかに普段ゲームに触れない人にも届いているパワーがありました。ムシコロリさんが言うことも、実感としてありますね。
とりさん
 こうして法人を作ったことで、僕らのコンテンツがすごく健全になると思います。もちろん、今は不健全と言っているわけではないですけども。

ーー法人になりきっちり金回りなどを責任をもって取り扱うように動くわけですからね。長い目で見たときに、今回の立ち上げは大事だと思います。
ムシコロリ もうすでにワオスポーツ株式会社とVRChat社ではパートナーシップの方を結ばせてもらっています。法人を立ち上げる動きは2023年の8月頃から動き始めたのですが、ワールドにポスターを張ってもらうなどして国内コミュニティに積極的にアプローチを仕掛けてきました。

とりさん 今のところ機会や人に恵まれているので話はトントン拍子で進んでいます。足元すくわれないように頑張ります。

ーー最後にですが、これからのVRCボクシングに対する意気込みをお願いします。
とりさん
 選手にはキラキラしている人生を送ってもらいたい、今回の法人化はそのための行いです。将来的にはメタバースの世界でボクシングをして食べていけるようにしていきたいです。

ムシコロリ esportsが現状職業になりつつあります。別のジャンルでも同じようにしていきたいと思います。

ーーVRCボクシングを通じて社会との繋がりを得るわけですね。今回はインタビューありがとうございました。

VRCボクシングは毎週木曜日、日曜日21時にVRCボクシング練習会として開催されています。気になった人は気軽に行ってみてはいかがでしょうか。