ピーナッツくんの添い寝はいかにして生まれたのか。サンリオVfesのライブについて狸豆建設へインタビュー

3月にVRChat内で開催された『Sanrio Virtual Festival 2025』(以下サンリオVfes)。その中で開催されたぽこピー(ぽんぽことピーナッツくん)の2人よるVRライブは一際話題になったライブでした。

本記事では、今回のVRライブをはじめ『ぽこピーランド』などワールド制作を担当している狸豆建設のメンバーに、企画から実装までの裏側を詳しく聞きました。

全体の制作を主導したキクラゲさんをはじめ、3Dモデリングのぬるもとさん、音響を担当した玉田デニーロさんなどから、VRライブならではの苦労や工夫が見えてきました。

前回2024年のライブから進化した演出の数々、そして添い寝シーンに代表される「攻め続ける」制作姿勢まで、1曲ごとに詳細に迫っていきます。

限界の5曲を超えた「6曲」でのセットリスト

──今回のぽこピー×狸豆建設のライブはいつ頃から制作に着手したのでしょうか?また、それぞれの担当についてもお聞かせ下さい。

キクラゲ お話を頂いたのは8月の中頃でしたね。そこから大急ぎで9月までに技術検証と平行して案出し、収録と一気に進めて全体の流れを作って行ったという感じでした。

担当については、自分が一番時間があったのでメインで演出や3Dを担当していて、ぬるもとさんも3D担当としてモデルやエフェクトなどいろいろやって頂きました。

メインの船のデザインはだいまるさん、デザイン協力にハムカツさんとこめまゆげさん、ライブ中のギミック全般はbironistさん、音響周りは玉田デニーロさんとKoko Hirakawaさんです。毎週作ったものを見せて意見貰っていたので、総力戦でしたね。

──コンセプトやセットリストはどのように構築していったのでしょうか?

キクラゲ コンセプトについては、最初にサンリオ側から船のステージデザインを頂いていたので、そこからぽこピーが船で旅をして、どんどんおかしなところに辿り着く……というイメージで膨らませていきましたね。

セットリストは、ぽこピーと相談して決めたんですが、船がコンセプトにあるから『Yellow Big Header』は絶対やりたいよね、みたいな話し合いで決まって行きました。

──『Yellow Big Header』は楽曲的にも納得のチョイスでしたね。

キクラゲ 5曲に決めきるのが難しくってみんなで悩んでいたところ、ピーナッツくんが「じゃ1曲増やしましょう!」って。昨年5曲の制作でヒーヒー言ってたので震えましたね(笑) 

でも結果的にはライブの体験に幅が出たと思うので、増やして本当に良かったです。

──今回の2025年のライブではファンじゃない人でも知っているような楽曲ではない踏み込んだ印象でした。バリエーションの意味でも、出迎えから始まって、『Yellow Big Header』でぶち上げて、『Dance for What?』で一旦落ち着かせて……みたいな緩急がありましたね。

キクラゲ 全体を通した感情曲線やバリエーションについてはコンテの段階でかなり意識して制作していますね。せっかくVRまで見に来てくれた人に、このライブお得だった!と思ってほしくて……曲ごとに違う体験をして貰えるようにいろいろ詰め込んで行きました。

『お気楽KING』いつもの画面から始まる出迎え

──ここからは1曲ずつ曲のこだわりなど聞けたらと思います。まずは『お気楽KING』から聞けたらと思うのですが、いつもの動画のノリからようこそと出迎えてくれて安心感がありましたね。

キクラゲ あの動画の登場シーンは絵コンテ時点ではなかったのですが、VRで初めてステージを見たときに思ったよりもモニターに迫力があって、ここからぽこピーが飛び出してきたら面白そう!と狸豆建設のみんなで盛り上がって演出に取り入れました。

──『お気楽KING』に限らずいくつかの楽曲は引き続き流れたと思うのですが、もう一回手掛ける際に心がけたことはありましたか?

キクラゲ やはり最初に流す楽曲なので、まずはぽこピーの2人がウェルカム!って感じで、とにかく楽しく出迎えてくれてるという事を大事にしましたね。

キクラゲ ファンの方々にとっても、おなじみの曲から始まることで安心感を持ってライブに入り込めるよう配慮しています。

『Yellow Big Header』船を活用したタイムトラベルアトラクション

──続いて流れる『Yellow Big Header』は、今回のサンリオVfesの舞台コンセプトである船を存分に使った演出で目まぐるしく景色が変わる内容で楽しかったですね。

キクラゲ 楽曲が未知の生物を探しにいく冒険のようなストーリーなので、タイムトラベルを交えたアトラクションに仕立て上げました。VR空間だからこそ可能な、瞬時に場面転換する演出を最大限に活かしています。

実際の絵コンテ。ビル破壊のシーンは実際に制作したものの、破壊表現が攻めすぎという事でNGになってしまった

──楽曲内で出てくるチャンチョらが、サンリオキャラクターズに置き換わるような感じですね。その前のライブではVRChatの遊園地同士の対バンみたいな構造だったのが一転、出迎えムードでしたね。

玉田デニーロ そこは”みんななかよく”ですから。音響周りでやっていた身としては、作業の最終日に滝が突然増えた事件がありましたね。

キクラゲ あったね……滝があるとは言ったけどサイズを伝えてなかったから……

玉田デニーロ 滝がめっちゃ派手になっていて、俺と効果音で協力してもらっているHirakawaが「マズイ!この音量じゃあアカン!」となりながら音量を調整しました。

実際にVRChat上で確かめないといけないので、VRライブ制作の締切付近は予定空けておかないとですね。

──音響の役割はどういったものがあるのでしょうか?

玉田デニーロ 今回の船のステージ横には大きなスピーカーが配置されていて、そこから音が鳴っていて欲しかったんです。ライブの臨場感というか。それを感じてもらえるよう、5.1chサラウンドで音を設計しました。

玉田デニーロ 厳密にいうと、花火のために2ch分増やしています。5.1.2chですかね。実際に現場で聴いているような感覚に近づけて、より盛り上がってもらえるように試行錯誤しています。

──そしてライブの演出に合わせて、音の配置をしているわけですか。

玉田デニーロ そうですね。効果音に関しては先ほど出てきたHirakawaに任せていて、僕は楽曲周りや本人の声の処理などをはじめ会場全体の音響を担当しています。

楽曲の調整をしつつ、Hirakawaからもらった効果音のデータをMIXして、ライブ会場内のスピーカーでどのように鳴らすか設定しています。VRChatでは、どうしても同時で出せる音の数に制限があるので、音楽と効果音を同時に鳴らす仕組みにしています。

──その話を聞くと、ライブの画が完成していないと手のつけようがないわけですか……

玉田デニーロ そうですね。実装された演出をワールドで確認しながらメモって、そこから演出にあった処理や調整をしていきます。前述した通り、細かな変更が随時加わるので気が抜けません……(笑)

音と演出が合っているのは前提で、それらがお互いを補完し合ってより印象的になるよう心がけてます。

『DON PA PPO』トップアイドルとのど自慢の狭間で

──船を使ったド派手な演出を体験した後は、ガチ恋ぽんぽこによる『DON PA PPO』になるわけですね。ステージについて話し合った部分はありますか。

キクラゲ 最初の話し合いの時にピーナッツくんから「ガチ恋ぽんぽこのステージはめっちゃチープにしたい。のど自慢のステージみたいにしたい」と、ガチ恋さんが大きなステージでアイドルするのは違うだろというような話があったんですよ。

ただファン目線だと、やっぱりガチ恋さんはトップアイドルなので、 きらびやかなステージが似合う!と(笑)なので、のど自慢に関しては夢オチの形で採用させてもらいました。

──アイデアが出たとはいえ、MCパートのためだけにのど自慢風のステージを作り上げたわけですからね。

キクラゲ 曲から曲の繋ぎは工夫している部分ですね。昨年も曲のつなぎでピーナッツくんが上から降ってくる演出を作ったりして遊びを入れてたんですけど、これがぽこピーの2人にも気に入ってもらえたので、今回も気合い入れて作りました。

──となると、トップアイドルを意識した内容になっていると思うのですがどのように作り上げていったのでしょうか。

キクラゲ ガチ恋さんのステージはキラキラにすると決まって、ここはモデラーのぬるもとさんが得意としている領域だったのでお任せしたら、想像以上にギラッギラになってて最高でした

ぬるもと 全面的に任されたので作っていきましたが、ぽこピーランドのほうで作り上げた内装もあったので組み合わせて作成しました。

──天井をふと見上げたらガチ恋ぽんぽこの像が配置されていてビックリしました。

ぬるもと カブトムシのライトやハート宝石、ステンドグラス等、ガチ恋さんっぽさを色々と盛り込んだギラギラステージとなりました。

キクラゲ 後半にドローンに乗って近くまで迫ってきてくれるんですけど、ここはアイドルらしくファンサ全開で、それぞれ本当に近くでガチ恋さんと目が合うような演出になってます。

『Dance for What?』光と音が織りなすダンスホール

──『Yellow Big Header』、『DON PA PPO』で毛色は異なれど激しい展開だったところに、『Dance for What?』で一旦ゆったりさせる作りになっていて、ライブ全体を通じて緩急があってよかったですね。ステージとライティングが一体となった作りになっていたと思うのですが、制作としてはどこに気合を入れましたか?

キクラゲ 光と音を楽しんで貰う事をコンセプトに制作しましたね。音に合わせて発光や演出を作るんですが、自動化が間に合わなかったので気合の手作業です。ステージはミラーボールやLEDパネルにシャンデリアもあるという、いつの時代かわからないようなダンスホールをイメージしてセットを作り上げました。

玉田デニーロ 歌詞に連動した仕掛けもあって嬉しかったですね。

──『Dance for What?』はデニーロさんも制作に関わっている楽曲ですもんね。楽曲を作る人が近くにいる中で、ライブの演出を考えるわけですが、作っていてプレッシャーを感じませんか?

キクラゲ トライアンドエラーですね。絵コンテを描くのですが、作っていくと最初に思い描いたものと異なるものになってしまいます。なので実際に作って、VRで確認して作り直す繰り返しです。

この曲だと途中でストリングが入ってきて雰囲気が一変するところがあるんですけど、ここも初めはもっとシンプルな演出だったんです。けど、自分で何度も見てるうちに物足りない!となって、最終的な形になっています。演出が変わるたびにサウンドも修正して貰っていたので、最後の最後まで迷惑掛けちゃいました。

『笑うぴーなっつくん』 ピーナッツくんの世界、そして2人っきりの時間

──おそらくライブを見た人の印象の大半を持っていかれたであろう『笑うぴーなっつくん』について聞いていければと思います。『笑うぴーなっつくん』に関しては、ピーナッツくんの楽曲はさまざまありますが、かなり自己言及的な踏み込みもある楽曲なのかなと思うのですが、どう作り上げていきましたか。

キクラゲ 今回のライブで一番やりたかった事が出来た曲ですね。初期の段階からホラーワールドみたいな演出をライブでやってみたいという思いがあって、セトリに『笑うぴーなっつくん』が決まったのでここしかない!と思ってアイデアを出していきました。

キクラゲ 自分の中の勝手な解釈なんですけど『笑うぴーなっつくん』には、アーティストのピーナッツくんにある憤りやクリエイティブに対する鬱憤が詰め込まれているように感じているんですよね。

ファン目線でそういったヤバいモノづくりをしているピーナッツくんの頭の中、精神世界に入り込んだらどうなっちゃうんだろう?というイメージを膨らませて演出を組み立てました。

実際の絵コンテ

──ピ虐(ぽこピーランド内のお化け屋敷)かよ!? とライブを見たときに思いましたが、あながち間違いではないと。

キクラゲ 間違ってないですね(笑)かなり曲の歌詞に向き合いましたね。

──商品の棚に展示されているピーナッツくんなど、キレッキレでしたね……それで、あの添い寝は一体……?

キクラゲ あ…アレですよね(笑) せっかくのVRライブなので、やっぱりその場でしか味わえないような演出というのをいろいろ考えるんですよね。それで前回は世界を広げたり、拡張するような演出に挑戦したんですが、逆に思いっきり狭くしてみるのもVRならではなんじゃないか?と思いついてアイデアを膨らませて行きました。

藤井風さんのミュージックビデオ『Feelin’ Go(o)d』に、小さな部屋で藤井風さんと女の子が向き合うシーンがあるんですけど、パステルでカワイイ雰囲気なのにどこか不気味な雰囲気がある内容で印象に残っていたんですよね。これホラーじゃんって。

そこからライブ中みんなで盛り上がってたのに突然アーティストと二人きりにされたら面白いなと思ってこういった演出になっていきました。

──添い寝は……?

キクラゲ それは……悪ノリですね!(笑)

──アイデアとしては二人っきりのシチュエーションだったのが、アクセルを踏み込んだ結果あの添い寝になったわけですね。

キクラゲ 夜の部屋、布団を敷いているといった場面を思いついて、ピーナッツくんが天井を見ながら夜アイデアを考えているのではないかって想像したわけです。

──かなりキクラゲさんのピーナッツくんに対する妄想ですけどもね。

キクラゲ そうですそうです! モノ作りってこんな感じだよな、布団の中でもきっと苦悩してるんだろうなって。 で、布団に入っているピーナッツくんをVRで見たら、これは添い寝させなきゃなって……

──急にアクセル踏み込んできましたね!?

キクラゲ 絶対に中に入るべきだろうという使命感のようなものに駆られました(笑)

──それにOKを出したピーナッツくんも大概なのでは……? かなり濃いライブの終盤に出てきたので、本当に限界じゃないかって思えるぐらいのパワーでした。

キクラゲ 「ピーナッツくんと二人きりで嬉しい!」という感想と、「近くて怖い!」という感想に二分してて面白かったですね。自分自身すごく楽しんで作ったシーンなので、ご満足いただけたら嬉しいですね!

ちなみにこのシーン、ぽんぽこさんの初見リアクションが「わー!要らん!」って本当に嫌そうで面白かったです(笑)

bironist 添い寝周りだと、ギミックの方面で参加者に対して面白い動きをさせていましたね。他の参加者と分かれてピーナッツくんと2人っきりになるわけですが、分かれている分だけ部屋がたくさんあるわけなので、Unity上ですごいことになっていますね。

──一人ひとりに分断させる挙動をさせるのは、ギミックとしてよくあることですがライブとなると曲に間に合わせないといけないので大変なことになりますよね。

bironist ピーナッツくんとの強制添い寝から戻ってきたときも、一箇所に集める形ではなく転移される前の場所に戻しています。

──地味ながらも大事な対応ですね。一箇所に集まってしまうとアバターが重なって見えなくなりますから。

『ぽこピー音頭』太鼓を活用した参加型でフィナーレ

──最後の『ぽこピー音頭』で太鼓で参加できる形式にしたのは、最初から考えていたアイデアでしたか?

キクラゲ 途中で思いついたアイデアですね。ライブの締めくくりとして、観客全員が参加できる形にしたかったんです。

玉田デニーロ 現実のライブに参加することってほとんどないし、このアイデアが出た時はVRならではって感じがして嬉しかったですね。ぽこぴーランドの夏祭りでもやっていたことだったので、そことの繋がりもあって喜んでもらえるかなと。

キクラゲ 最初はモチポリが輪になっているところに参加者が混ざって踊る形式にしようと思ったのですが、振り付けがなくて……

──振り付けないのですね(笑)言われてみるとないですね。

クリエイターとファンメイドの狭間で「足し算」を続ける

──話を聞いていても、それぞれがぽこピーのファンであり得意分野がある人たちがチームになっている感じなんですね。クリエイターでありファンであると。

玉田デニーロ 製作者の立ち位置としてなのか、あくまでファンとしてなのか、みたいなところが両立しているのは珍しい状況だなといつも思います。

『笑うぴーなっつくん』の最中に出てくるステージも
元はキクラゲさんがファンメイドとして公開していたものが使われている

──ファンメイドのような温度感でありつつも公式として出てくるわけなので、実際行儀よくやらないとって意識したくなりませんか?

キクラゲ これはもう完全にぽこピーだから出来ている事ですね。ぽこピーのお二人から好きにやっちゃってください!と、任せて頂いて自由にモノ作りさせて貰えているのがすごく大きいです。

昨年もあまり行儀良くない演出も盛り盛りで作ったんですけど、それを見て2人が「足し算の美学や」と言って楽しんでくれたのが嬉しくて、それからはもうやりすぎるくらいを目指して作ってます。

──やっぱり足し算の美学なわけですね。最後に1人ずつコメントをいただければなと思います。

ぬるもと こういったライブに呼んでいただけたのも、ぽこピーランドに遊びに来て盛り上げてくださった皆様の力あってこそかと思います。2年間来てくださりありがとうございます。みんなで盛り上げて作り上げられたところなので、今後もよろしくお願いします。

玉田デニーロ 引き続きぽこピーと狸豆建設をよろしくお願いします!周年期間の夜ランドも是非遊びに来てくださいね。

だいまる 狸豆建設以前は僕らもぽこピーのオタクの1人です。ぽこピーランドで楽しんでいるポストなどの声にいつも励まされています。同じオタクとしても楽しんでいきましょう。

bironist ぽこピーランドは2周年イベント中で、まだまだ楽しいアップデートが控えています。皆さんも楽しみに待っていてください。

ハムカツ 2周年ロゴでも掲げている“Keep Fighting”を胸に刻み、攻め続けていきます!よろしくお願いします!

キクラゲ 去年に続いてぽこピーx狸豆建設という形で出来たのも、みなさまが見てくれて応援して貰えているおかげだと思ってます。本当にありがとうございます! 1ファンとして自分が見たいと思えるようなものを作って行きますので、これからもよろしくお願いします!

──本日はありがとうございました。

コピーライト:© 2022 SANRIO CO., LTD.