洋画系ロールプレイ団体ホテル・カデシュは、11月30日に新作「掌」を公開しました。本作では、「邦画」をテーマにホテル・カデシュの幹部である司一（つかさ・はじめ）の過去に迫っていく内容になります。
メタカル最前線では、ホテル・カデシュのVketでの特別展と掌公開に合わせて前後編の特集をしています。後編では「掌」について監督だめがねさん、司一役green101さん、イクミ役ぬいノミさんにネタバレありインタビューします。まだ未視聴の方はYoutubeにて公開されているので視聴の上で読むことをオススメします。
1995年の司一（平一）はHEROの木村拓哉を意識した
ーー掌について聞いていければと思います。司一の描写を掘り下げていきましたが、豺狼の巓の時から設定されていたのでしょうか。
だめがね もともとあった設定を掘り下げた感じですね。司一がメインだった「豺狼の巓」（さいろうのいただき）の頃はまだ映画を1本撮りきるノウハウがなく、描ききれなかったところが多くありました。「掌」では今の技術で司一のお話をもう1度撮りたいという意識がずっとありました。
ーー今回劇中を通じて時間経過が多くあったと思うのですが、こちらは意識していたところはありましたか。
だめがね 時代考証の部分はかなり細かくやりましたね。アバターがアニメ調なので、どうやってアバターに昔っぽさを演出するかを考えていました。1995年の震災に遭う前の司一は、実際の放送は少し先ですが2001年の木村拓哉のHEROのスタイルを真似してもらいました。
green101 当然ながら90年代を意識した服というのはなかなか見つからないので苦労しました。
だめがね 最初はパーカーにチェスターコートだったんですよ。
green101 だめがねさんのアドバイスで茶色のジャケットに変更しました。
だめがね 95年の男性のセックスシンボルといったら木村拓哉さんとか永瀬正敏さん、竹野内豊さんとかで、ワイルド感ある茶髪のロン毛なのが時代考証的には合っていますね。
感情を受け止める時間を意識した
ーー掌を作るにあたって意識した描写や作品はありますか。
だめがね 描写で意識したのは「間」（ま）ですかね。「プロジェクト：エメス」だと説明しないといけない設定が多くあって、うまくやりきれなかった部分なんですよね。感情を受け止める間がないと悲しいシーンをやっても伝わらないことが多いので、意識しましたね。
作品としては、李相日監督の「怒り」や是枝裕和監督の「誰も知らない」、それからもちろん「NINE」を意識して作っています。
ーー感情を受けとめるシーンがあったことで、30分ずっと映像に惹きつけられたわけですね。
だめがね 司一の感情は一貫していて、右往左往しませんからね。
ーー感情で右往左往しないということで思い出したことが1つありました。舞台挨拶に中田らりるれろさんが話していたことなのですが、平清司（たいら・せいじ）は震災で死ぬのは決まっている運命なのに膵臓がんでダメ押ししたのはだめがねさんの計算といった話を思い出しました。
だめがね 膵臓がんにしたのは明確な演出意図があります。あのシーンで清司は司に対して何かを言い残す必要があったのですが、自分が震災で亡くなることは予知できません。それでも何か遺言めいた意味深なことを言わせる動機付けとして、本人でもわかる形で死期を悟らせる必要があったからです。
ーーすごい理にかなった演出意図……
だめがね 嫌がらせでやったわけではありませんね（笑）中田らりるれろさんはその演出を分かった上で言っていたと思います。感情が動くシーンはの前フリが大切ですけども、今回の掌ではうまく描けたかなと感じています。
ーー掌はカデシュを知らないよって人でも見やすい作品なのかなって感じました。カデシュのバックボーンを知らなくても司一に感情移入すれば物語を理解できます。
だめがね 良い脚本とは、主人公の感情を観客も自分の感情に置き換えて理解できるものだと思います。司の場合は恩人が死ぬ、肉親が死ぬという経験で、感じたことのある人はいると思います。
僕が小学生だったときにすごく嫌だったのは、親と喧嘩したまま学校に行かなきゃいけないときだったんですよ。遅刻してもいいから家に帰って仲直りしたいと思えるぐらいで、家に帰る前に親が死んだら最悪だって思いました。脚本を書くときに、喧嘩したまま親が死んだら最悪だなって思って作りました。
ーー人の心がない脚本を書く人って誰よりも人の心を熟知しているのは本当だったんですね……
だめがね あとは恨む対象がいない辛さもありますね。誰かを恨んで生きていけば気が楽なんですけども、震災で失うのは誰を恨んだらいいのか分かりません。しいて言えば、自分ですよ。
司の境遇は、自ら命を経ってもおかしくないほど過酷です。ただ、彼が死んだら彼の大切な人を覚えている人間は1人もいなくなりますし、家もありません。なので絶対に負けないし、それが司の強さの源泉だと思っています。
編集していて驚いた「掌」の構成
ーー家族の墓にある新聞は作ったものでしょうか。
だめがね はい。神戸の地元紙を元に用意した小道具です。
ーー新聞にある8月13日に意味はありますか。
だめがね 本来の公開予定日だった日付ですね。もともと2分ぐらいの動画でTwitterに出す予定でした。
green101 当初は司がお盆にお墓参りをするだけの作品だったんです。
ーー2分が30分になって、見る人を飽きさせないというのもすごい話ですよね。
だめがね 30分になってしまいましたね。ただ日本人は30分ぐらいがちょうどよくて、厳密には違いますけどもアニメ1話分なので見やすいですよ。それに分割もしやすくて、物語の基礎である三幕構成や前後編にもしやすくあります。今回見やすいって言ってもらえたのは、めちゃくちゃ構成がきれいにできたからだと思います。
自分でもビックリしたけど、ちょうど15分で震災が起こるんですよ。三幕構成でも、10分でじいちゃんのところに行って、もう10分で組長のところに行って、最後の10分でカデシュに行くという構成なんですね。狙って作っていたわけでもなかったので、編集しているときに自分でも驚いています。
ホテル・カデシュ『掌』｜本編｜全編VRSNS撮影邦画より引用
ファンから募集した質問に答えていく
ーーここからはTwitterで募集した質問について答えてもらえればと思います。冒頭のスマホ映像の右側は某元掲示板管理人の人だと思いますが、左の方はモチーフ等あるのでしょうか？（エミリア・ベルウッド）
だめがね とくにモチーフはなく、他のシーンで顔が映っていないモブを使っている感じですね。
ーー現実世界だとマイルドセブンはメビウスに名称変更されていますが、カデシュ世界では販売が継続されているのですか？あるいは司が供えるために取っておいたものですか？（エミリア・ベルウッド）
だめがね マイルドセブンは昔の箱を引っ張り出してテクスチャにしています。作中では司一が大切に取っていたかと思います。
ーー普段の司は薬指に指輪をしていないように思いますが、これは奥さんやお子さんにヤクザという稼業を見せたくないという意識からでしょうか？（エミリア・ベルウッド）
green101 そうですね。今の姿は妻子に見られたくないと思います。
ーー現在の十席、ノーチェの父ジョゼッフォが映像で初登場したと思っていますが、ジョゼッフォのベースのアバターは以前から使いたいとおっしゃっていた「ドラゴニュート・ヴラウ」さんですか？（エミリア・ベルウッド）
だめがね その通りです。
ーー「掌」の舞台となる時代は１９９０年代であり、カデシュの２０～３０代のスタッフ陣では生まれていないかぎりぎり物心がついているか、という時代かと思いますが、どのようにして資料を集めたり、当時の空気感を出すことに成功しているのでしょうか？ （エミリア・ベルウッド）
だめがね 時代考証担当のぱぐめぐ（PUGBOOKS STUDIO)さんに依頼して、当時の学校や行政の資料を用意してもらいました。どの段階で学校のプリントが手書きからワープロになったのとか……ちなみにぱぐめぐさんは僕の実母です（笑）
ーー掌でここは1番見て欲しいというポイントは？（Cornet）
だめがね 役者さんには怒られそうだけども、セリフがない間を見てもらいたいですね。
green101 一瞬しか映りませんが、墓場で手を合わせるシーンですね。普通に手を合わせるとコントローラーが干渉して手を合わせられないのでボーン構造を変えました。
ーー叫び声等を収録するのは一般家庭では難しいと思いますが、greenさんは収録時どうでしたか？（Cornet）
green101 同居人に聞かれるのが1番恥ずかしかったので、妻がドライヤーを使っている間に急いで録りました。
ーー邦画を作るにあたって年齢層や声質、性別などで見つけるのに苦労した人はいますか？
（夏恋歌）
だめがね 中田らりるれろさんにテストボイスを貰わなければ、平清司役は自分でやろうと思っていました。おじいちゃんと老婆は非常に採用される可能性があるのでぜひこちらの番号まで（笑）
ーー撮影中ハプニングは付き物と思いますが、みなさん思い出深いものをひとつ！（夏恋歌）
だめがね 緑山ぶっ飛び事件ですかね。「てめぇか！」って司が緑山を殴るシーンがあると思うんですけども、殴った瞬間に緑山役の腰トラッカーが吹っ飛んだんですよ。
ぬいノミ VRの映画撮影ではこれ以上ないぐらいお手本のようなNGシーンでした（笑）
ーー最後にですが、ファンに向けてメッセージをお願いします。
ぬいノミ Vket特別展も「掌」も、カデシュを知らない人にこそ楽しんで見ていただきたくて作りました。初めての方もぜひご覧になってみてください！
green101 ホテル・カデシュはメンバーがみんなエンターテイナーです。絶対に後悔させませんので、少しでも気になった方はぜひイベントに足を運んでいただければと思います。
だめがね 2023年のホテル・カデシュは想像を絶することが山ほどあると思います。いままではわりと冷静に企画を進めるようにしていたのですが、さすがに浮き足立つようなすごい企画のお誘いをいただいて目下準備中です。お楽しみに！
インタビューの中でだめがねさんは、邦画の良いところは何かと考えていたと話している場面がありました。「掌」は邦画の作風を踏襲しながら、VRChatの映像作品での表現をより広げた作品ではないかと思います。来年にはさらなる展開があるとのことで、今後もホテル・カデシュには目が離せません。
●参考リンク
・ホテルカデシュ公式Twitter
