約3000人が”VRChatの中”で熱狂! 「META=KNOT」が示した、VTuber/VSingerライブの新たな可能性

同時接続数、約3000人。

YouTubeの配信であれば、ある程度の知名度を持つ配信者が、よく叩き出す数値です。VTuberなら、『にじさんじ』や『ホロライブ』ではめずらしくもない(むしろ、「少なめ」と言われそうな)数値かもしれません。

では、これが「VRChatで、一つのワールドに同時に集まっていた人数」だとしたら?――メタバース音楽ライブ「META=KNOT 2024 in AKASAKA BLITZ」Week4は、この記録的数値を叩き出した、数少ないイベントとなりました。

3月30日から4週にわたって開催された本イベントのフィナーレとなるWeek4は、名だたるバーチャルアーティスト3人と、正体不明のアーティスト、計4名が出演。VR空間に再現された「赤坂BLITZ」のメインステージで、俗に「パーティクルライブ」と呼ばれる空間表現を採用した演出とともに、圧巻のステージが披露されました。

YouTubeでも配信が行われていたにも関わらず、配信側とほぼ変わらない人数が、VR空間でこのステージを見届けたのはなぜか。本記事では、VTuber/VSingerの新たな可能性について述べながら、Week4のライブレポートをお届けします。

おさらい:「META=KNOT」とは?

見逃してしまった方向けに、まずはかんたんなおさらいから。

「META=KNOT 2024 in AKASAKA BLITZ」は、TBSが主催したメタバース音楽ライブイベントです。3月30日から毎週土曜日に、各日4名のアーティストが登場。4週にわたって計16組が出演しました。

開催場所はVRChatで、現地開催に加えてYouTube配信も実施。会場となったのは、かつて「ライブの聖地」と言われた伝説的ライブハウス「赤坂BLITZ」を再現したバーチャル空間。往年のライブハウスの姿に「サイバーな赤坂の街」が交わる光景は、フォトスポットとしても好評でした。

1週目から3週目は屋外ステージを活用したスタンダードな音楽ライブが開催。そして最終週となる4週目は、赤坂BLITZ内のメインステージにて、パーティクルライブの演出を採用したパフォーマンスが披露されました。

出演アーティストは、「KAMITSUBAKI STUDIO」より春猿火さんと幸祜さん、キヌさん、名取さなさん、そして「??????」としか記されない謎のアーティストの4名。正体不明な一人を除くと、「実力もネームバリューもある著名なVSinger/VTuber」と「VRChat生まれの有名アーティスト」という、”超強力”と断言できる布陣となりました。

最初からクライマックス。春猿火&幸祜の歌が会場を揺さぶる!

開催前から期待を集めたWeek4。その先陣を切ったのは、「KAMITSUBAKI STUDIO」の春猿火さん。バツグンの歌唱力とラップが持ち味のフィメールラッパーです。

選曲は「台風の子」。熱を帯びたボーカルとラップの勢いは、「火」となってステージをおおい、客席まで”延焼”! 観客に向けて火を放つなんて、現実ではご法度。しかし、熱気を伝える演出としてこれ以上ないものです。猛々しい炎の波が、トップバッターの勢いを作り出します。

続いて登場したのは幸祜さん。ロックを主戦場とする、圧巻の表現力を誇るシンガーです。

選曲は「私を纏う」 。疾走感と情緒を宿すナンバーです。ステージ演出の貴重となったのはおそらく「花びら」でしょうか。舞いあがるポリゴンの破片は花吹雪。やがてステージには大きな樹が生まれ、まばゆいばかりの花を咲かせました。幸祜さん自身の歌声も相まって、桜吹雪のような華やかなステージに。

そして、最後は春猿火さんと幸祜さん両名による「逆絶」。ステージ中央に逆三角形のオブジェクトが現れ、観客席をも巻き込んだビームが走る。先の2曲とくらべても明らかに異質な演出に、一気に引き込まれます。

そして二人の背後に現れる歌詞のタイポグラフィー的表現! 実はこれ、「KAMITSUBAKI STUDIO」アーティストのライブでは鉄板ともいえる演出です。これをVR空間でも拝めるとは……!

そして、ラスサビに入ってからは”空間転換”が発動。赤坂BLITZから洞窟と思わせる異空間へ瞬時に移動し、怒涛の演出とともに駆け抜けていきました。

「Week4はこれでいく」という、制作陣からのメッセージ……もとい”宣戦布告”ともとれる強烈な演出群を、圧巻の歌唱力で背負っていく姿は、さすが「KAMITSUBAKI STUDIO」アーティスト。「無事じゃ済まない」と直感するには十分な幕開けとなりました。

(圧巻のパフォーマンスを披露しながらも、MCパートはゆるめ。これも「KAMITSUBAKI STUDIO」ならではなステージです)

この日が初陣! 猫 The Sappinessの鮮烈なデビューを目撃

さて、二番手は例の正体不明アーティスト。そのステージはティーザームービーから始まりました。

実は、これまでも会場のあちこちで見られた一匹の猫。それが謎の出演アーティストの正体でした。猫 The Sappiness――このステージとともにデビューを果たした、TBS発バーチャル・シンガーです!

その初陣が、このバチバチにキマった曲タイトル演出。すごくないですか!? そして、この強烈な演出にまるで負けていない、色気すら感じる歌唱力に息を呑みました。

客席も巻き込むきらびやかなパーティクルと、ステージの背後が屋外になるかのような演出、そして「どこで見出されたのか」と驚愕せざるを得ない歌声。「TBSのバーチャルアーティスト」という大看板を掲げるにふさわしい大型新人でした。そのデビュー戦が「名だたるアーティストが群がる戦場」なのは驚かされますが、実力を示すという意味ではこれ以上とない舞台だったはずです。

なお、披露された楽曲は「BORN」「My Baby」「Star_Gazer」――「生まれ落ちた赤子が、星を見上げる」というストーリーを感じたのは、筆者だけでしょうか。一方、猫 The Sappinessは「人型になりたての猫」なためか、人語はまだまだ不慣れな様子。これ以上ない初陣の後に、たどたどしい言葉を撒いて去っていった姿は、正しく「鮮烈なデビュー」でした。

その実力の片鱗は1st EP「猫 The Verse Day」でもうかがえますので、ぜひお聞きいただければ。そして、5月22日21時には今回のデビューステージの再演が予定されています。

VR生まれの野生の蚕が、「ライブの聖地」に立つ

実力派アーティストと、彗星のごとく現れた新人アーティスト。ブチあがったステージに現れた、野生の蚕。「META=KNOT」開催のきっかけであるキヌさんが、Week4の三番手として現れました。

無論、タダでは現れません。後方、側面、二階席と、キヌさんの残滓のようなものが現れては消える、観客が動かざるえを得ない導入――「喝采を」。

そして、あの光景が帰ってきました。「SANRIO Virtual Festival 2023」で披露された「紲」です。

ノイズにゆさぶられるシャウトと、荒々しいギターサウンド。「はじまりのおわり」を告げたあのB4で放たれた、強烈なメッセージを叩きつける一曲です。

そして、世界がことばに染まります。

「バーチャルYouTuberのいのち」――名実ともに、キヌさんの代名詞であるキラーポエトリー。「SANRIO Virtual Festival 2024」では見れなかったあの”声”が、ここで響き渡りました。

“破壊”の印象が強いキヌさんですが、「META=KNOT」のステージで一貫していたベクトルは「塗りつぶす」でしょう。赤坂BLITZを壊すのではなく、ことばによって埋めつくす。それによって空間を支配する。偉大な場を尊重しながら、アーティストとして場を掌握する、キヌさんの姿勢が垣間見えたような気がします。

なにより、「紲」でギターをかき鳴らす野生の蚕の姿は、赤坂BLITZに立ったライブハウスのスター。ことばの瓦礫の上に立ち、代表作を惜しげもなく、たくさんの観客へ披露した、VRChat生まれのスターによるステージが、これまで以上にたくさんの人に伝わった場になったはずです。それだけで、このイベントの生まれた理由が達成された……と言えるかもしれません。

そんな、野生の蚕が伝えた「バーチャルYouTuberのいのち」を託されたのは――

「勇気を出して来てくれてありがとう」――ヘッドライナー・名取さなの世界に染まって

名取さな。黎明期に活動を始め、現在に至るまで多方面のクリエイティブを発揮しているVTuberです。「META=KNOT」開催発表時に真っ先に明かされた出演者でもあり、Week4のトリをも務める「ヘッドライナー」と呼んで差し支えない存在でしょう。

幕は「モンダイナイトリッパー!」のリミックス・バージョン。なにより驚いたのはステージインでした。平面のモニターが徐々に縮まり、モニターからパッと本人が現れる流れは、「画面に映るVtuber」がステージに降臨するというユニークな演出!その鮮やかさも相まって、強烈に印象づけられました。

さらに、ピンク色を基調とした空間への染め上げ! アバターが白くふちどられる演出と相まって、アニメチックなMVのようなポップな見え方をもたらしていました。VR演出としてもかなりレア。バルーン状のうさちゃんせんせえもキュート。

(ちなみに観客アバターも白縁取りになっていました)

さらに続けて、「アマカミサマ」のリミックス・バージョン。無数のポップな魚群が、客席まで泳いでくる迫力の動きを見せてくれました。全体的に「海」を思わせるステージの雰囲気も相まって、ノリノリだけどちょっとチルな空気を作り出していました。

2曲終わったところでMCパートへ。配信では「名取」呼ばわりされることも多い親しみやすさが売りの名取さなさんですが、ステージに立つ姿はカリスマすら感じるアーティストです。語られたのは、「META=KNOT」の締めくくりへの思いと、VRという未踏の地へ訪れた人へのメッセージ。

「新しい音楽や体験に出会えましたでしょうか? 新しいことにチャレンジしたり、見たことのない世界をのぞくっていうのは、とても勇気がいることだと思います。勇気を出して来てくれて、ありがとうございます!」

そして、最後に披露されたのは「ゆびきりをつたえて」。名取さなさんが自身の内面と向き合うきっかけになった一曲に、配信コメントも「泣いた」とあふれました。焦る心を表現するような「歪む空気」が漂いながら、「モンダイナイトリッパー!」を思わせるピンク色の世界へ。

そして、おだやかな風を感じる草原。

最後には、うさちゃんせんせえも踊るステージへ。

「『なれるはずも無い夢』のことを 絵空事じゃなくしたい」――悩み、ときに涙することもあった、名取さなというVTuberの歩みを伝える歌。彼女の誕生日イベント「さなのばくたん。」を思わせる光景が現れた赤坂BLITZメインステージ。「VTuberがステージに立つこと」を、これ以上なく伝える世界が、そこにはありました。

世界観で”塗りつぶす”、バーチャルだからできるライブ

「ライブの聖地」を再現したステージに、今をときめく(あるいは、これからときめく)バーチャルアーティストが立つ。過去と未来が交差する光景に、特にファンの方は感慨深い気持ちを抱いたことでしょう。

そして、「META=KNOT」Week4が示したのは、「VTuberの世界観」が空間を塗りつぶすことで生まれる躍動感です。VTuberは、その姿と生き様自体が、ひとつの世界観を描く存在。その世界観を拡張すれば、空間ひとつを”自分色”に塗りつぶすことだってできる。

言うなれば、「領域展開」合戦。そんな場に立とうものなら、世界観に飲み込まれることは必至です。

大手事務所を中心に、VTuberはリアルの舞台に立ち、ファンを熱狂させる機会が増えています。幕張メッセなどの大舞台をフルに使い、全世界から訪れた無数のファンが盛り上がる光景は、VTuberカルチャーの熱気をこれ以上となく伝えています。

しかし、VRChatに3000人以上を動員した「META=KNOT」は、「VTuberの世界観で塗りつぶした世界で行うライブ」の力強さを示してくれたのではないでしょうか。あるVTuberが伝えたいもの・ことに飛び込み、没入していく。VSinger/VTuberライブの、新たなモデルケースを見せてくれたように思います。

事実、キヌさんはまさに「空間を支配するパフォーマンス」で観客を呑みこみ、熱狂的な支持を得てきました。このVR空間は、バーチャルな表現者にこの上なくマッチした環境なのです。その魅力(あるいは、魔力)に気づいた人々が、新たな表現の地平を拓きにくるかもしれません。そんな展望すら予感させる、大きな歴史の分岐点が訪れた……と、断言してもいい一夜でした。

「それほどまでのものだったか」と、見逃して後悔されていますか? ご安心ください……「META=KNOT」Week4は、本記事執筆時点で、配信アーカイブが残されています。VRで見てこそではありますが、映像でもその引力の一端が伝わるはずです。

そして、出演バーチャルアーティストのファンでありながら、VR機材を持っていないがために、VR視聴を逃したあなたへ。こうした機会が、今後いつ、何度訪れるかわかりません。あなたが最も応援する人の”世界”へ飛び込む準備は、いまからでも遅くはありません――ぜひ、最高の「バーチャルなステージ」を体験すべく、備えておきましょう。

(写真:浅田カズラ、東雲りん)