4月某日の朝、メタカル最前線のDiscordサーバーがざわついておりました。きっかけは、Xのとある投稿です。
「cluster」と「Cluster」を使い分けないとcluster表記警察がやって来るというのです。表記揺れオタク(別名、校正者)の私としては、cluster表記警察とはいい酒が飲めそうだ、と思ったりしますが、捕まるのは勘弁です。正しい使い分けを把握しておかなくては。
ガイドラインを見てみると、「cluster」と「Cluster」だけでなく、片仮名表記の「クラスター」もあることが分かります。まとめると、ソーシャルVR「cluster」には関連する3つの表記があるというわけですね。「cluster ブランド・ロゴ利用ガイドライン」によると、使い分けは以下のとおりです。
ブランド名
- 法人としてのクラスター株式会社はカタカナ表記で「クラスター株式会社」を使用すること
- サービスとしての cluster は全て英小文字で「cluster」を使用すること
- 「Cluster Creator Kit」「Hello Cluster」など他の英単語と組み合わせ固有名詞として利用する場合は、先頭を大文字にした「Cluster」を使用する
メタカル最前線のDiscordサーバーでは、なぜ3つも表記が生まれたのかという点についてさまざまな議論が交わされていました。そして、この議論に燃料を投下するかのごとく、Xにこんな投稿がされます。
ピリオドが付く「cluster.」の時代があったというのです。面白すぎます。私は、頼まれてもいないのに調べてみることにしました。表記揺れオタク心に火が付いてしまったので仕方がありません。「cluster.」が「cluster」になったという話を踏まえると、時系列で見ていけば何かしら発見がありそうです。
今回の調査で主に参考にしたのは、元クラスター社取締役の岩崎司さんの記事「VRスタートアップ5周年の足跡」(以下、「note記事」といいます)、そしてクラスター社がこれまでに発表したプレスリリースです。
「クラスター」が先か「cluster」が先か
「cluster」「Cluster」「クラスター」は、どのような順番で登場したのでしょうか。
2015年7月
“クラスター社の創業は2015年7月7日です。当時の社名は「Fictbox株式会社」でした。”
(note記事より)
2016年2月
“2016年2月にバーチャルイベントサービス「cluster.」のα版が公開されることになります。”
(note記事より)
2016年5月
“2016年5月よりFictbox株式会社はクラスター株式会社に名称変更しました”(ソース元)
2017年5月
“5/31より「cluster.」正式版サービスがスタート”(ソース元)
2018年9月
“2018年9月3日(月)より、……サービス名も「cluster.」から「cluster」へ変更いたします。”(ソース元)
2020年3月5日
“これまで提供していた clusterSDKを、「Cluster Creator Kit」としてリニューアルします。”(ソース元)
2020年3月12日
“昨日(2020/03/12)から新たに始まった公式番組「Hello Cluster」いかがでしたでしょうか。”(ソース元)
ここで、出現順をまとめてみます。
「cluster.」→「クラスター株式会社」→「cluster」→「Cluster Creator Kit」→「Hello Cluster」
さらに簡単にまとめるとこうなります。
「cluster」→「クラスター」→「Cluster」
1つずつ考察していこうと思います。
【推理編】どうして3つの表記が生まれたのか
「cluster」
まずは、最初に出現した「cluster」についてです。この時点で表記揺れは発生しようがないので考えることは特にありませんが、そういえば「cluster」という名称の由来って何なのだろう、という疑問が浮かびました。さらには、なぜピリオドが付いていた(cluster.)のだろう、と。
CEO 加藤直人さんのインタビューをネット上でいろいろと読んでみたのですが、名称の由来について語られている記事を見つけることができませんでした。
ちなみに、「cluster.」→「cluster」の理由については公式の説明があります。
「.」を外すことで「終わりのない、さらなる良い体験」を目指す姿勢を表現しており、新たなサービス名とともにセカンドステージとしての「cluster」の開始を宣言いたします。
(ソース元)
最初からピリオドを外すことを計画していたとしたら鳥肌モノですね。見事な伏線回収です。
「クラスター」
次に、片仮名の「クラスター」について考えてみます。ガイドラインによれば、片仮名表記は会社名(クラスター株式会社)でしか使われません。
ここで気になるのは、サービス名を使って「cluster株式会社」としなかったのはなぜか、ということです。
1つの説を立てました。それは、“他社との名前かぶりを回避するため” です。さっそく調べてみます。「Fictbox株式会社」から「クラスター株式会社」に社名が変更された時、既に「cluster株式会社」があったのでしょうか。
法人情報を検索できるサイトで探してみると、社名が変更された2016年5月の時点で、まったく同じというわけではありませんが「株式会社cluster」が存在していたことが分かります。やはり名前かぶりを回避するためだったのか、と思いきや、「株式会社クラスター」も見つかりました。……なるほど。どうやらこの説はハズレのようです。
いろいろ考えて最終的に落ち着いた説は、“サービス名と会社名が同じだと、どちらのことか判断ができない場合があるため” というものです。例えば、
今年で、くらすたーは20周年を迎えました!
という文があった場合、会社のことかサービスのことか判断に迷います。そこであえてサービス名と会社名で表記を変えたのかもしれません。
「Cluster」
今回、最も悩んだのが、先頭が大文字の「Cluster」についてです。
おさらいすると、
「『Cluster Creator Kit』『Hello Cluster』など他の英単語と組み合わせ固有名詞として利用する場合は、先頭を大文字にした『Cluster』を使用する」
というルールが定められています。一体なぜなのでしょう。
最初に思い付いた理由は、“タイトルケースにして見栄えをよくするため” です。(タイトルケースとは、単語の先頭のみを大文字化する表記方法のことです。)
「Cluster Creator Kit」vs「cluster Creator Kit」
たしかに、単語の先頭が全て大文字のほうがバランスがよくて美しい気がします。でも、それだけの理由でサービス名の表記を変えることがあるのでしょうか。この説はいったん保留にしておきます。
ふと気になって、会社の英語名を調べてみました。
「Cluster, Inc.」
先頭は大文字です。大文字!
私の調査は、英語のページを調べる方向へと切り替わりました。何か発見がありそう!
調べていくと、サービス名のことを「cluster」と表記しているページもあれば、「Cluster」と表記しているページもありました。パニックです。
しかし、調査を進めていくうちに、これらの違いは時期によるのではないか、という結論に至りました。つまり、もともとはサービス名のことを英語のページでも「cluster」と書いていたが、ある時点で「Cluster」に変更した、というわけです。
例えば、ビジネス向けのページや「利用規約・ガイドライン」では、「Cluster」で統一されています。
X(旧Twitter)に関しても、英語のアカウント名では「Cluster」が使われています。
ハッシュタグも、日本語アカウント(#cluster)と英語アカウント(#Cluster)で使い分けられています。
そして、ブランド名に関するルール(英語のページ)は以下のとおりです。
Brand Name
- Use “Cluster, Inc.” to refer to Cluster as a legal entity
日本語のページとは違い、“法人を表すときは「Cluster, Inc.」を使う”、というルールしかありません。つまり英語の場合は、会社名が「Cluster, Inc.」、その他(サービス名など)が「Cluster」、という2パターンですね。どちらにせよ、先頭は大文字です。
ここで、新たな疑問がわいてきます。英語の社名・サービス名を「cluster」にしなかったのはなぜなのでしょうか。
英語の社名を付ける方法についてネットで調べていると、ヒントになりそうなサイトが見つかりました。こちらのサイトによれば、社名・製品名の先頭を小文字にするのは英語圏でも特殊、とのことです。
特殊な例:「eBay Inc.」「iPhone」
以上を踏まえると、クラスター社としては、もともと英語と日本語で表記を分けるつもりはなかったが、英語圏の文化(先頭の文字はふつう大文字にする)を考慮して分けることにした、ということなのかもしれません。
「cluster」→「Cluster」の変化に関して興味深いサンプルがあります。
- 「clusterSDK」→「Cluster Creator Kit」(2020年3月)
- 「cluster Advent Calendar 2019」→「Cluster Creator Kit Advent Calendar 2020」
2019年から2020年の間に方針が定められた可能性がありますね。実は、ちょうどその時期にclusterで大規模アップデートがありました。
参考リンク:「clusterカンファレンス~大規模アップデート解禁~」(YouTube配信)
※「英語化されました」との発言あり(1:28:05 あたり)
先頭が大文字の「Cluster」についてまとめると、“英語の社名・サービス名を「Cluster」としたので、他の英単語と組み合わせる場合も「Cluster」を使用することにした”、ということになります。言ってしまえば、「cluster」は日本語であり、「Cluster」は英語というわけですね。
結論です。
- cluster:「cluster」という名称の由来は不明
- クラスター:会社名を片仮名にしたのは、サービス名との混同を避けるため
- Cluster:「cluster」は英語で「Cluster」と書くので、他の英単語と組み合わせる場合も「Cluster」を使用する
さて、これが私の趣味ならばここで記事が締めくくられていたことでしょう。しかし、ここで終わらないのが、メタカル最前線です。
編集部がクラスター社に問い合わせてくれるというのです。予想が当たっていたら嬉しいという気持ちと、外れていたら恥ずかしいという気持ちがせめぎ合っています。この部分を書いている時点で、私はまだ答えを知りません。さあ、答え合わせの時間です。
【解決編】
推理編を書き上げてから1週間もしないうちに、クラスター社から “答え” が届きました。本当にありがたい限りです。回答はメールで頂いたのですが、私のコメントを挿入してインタビュー風にまとめてみたいと思います(回答の表現はほぼそのままです)。では、さっそく真相をお聞きしましょう。
「cluster」について
――まずは、「cluster」という名称の由来についてお聞きしたいです。
クラスター社 人々が集まる(cluster)バーチャル空間を創りたいという想いに由来して名付けられています。
――なるほど、納得です。ちなみに、最初はピリオドが付いた「cluster.」でしたが、その後セカンドステージの開始としてピリオドが外されました。もともとのピリオドにはどのような意味が込められていたのでしょうか。個人的には、ピリオドを外すことを想定した壮大な伏線だと睨んでいます!
クラスター社 もともとのピリオドは、「かわいいから」という理由で加藤直人が付けました。
――なんと! 理由がかわいい! でも分かります。私も句点(。)が好きです。丸っこくてかわいいので。
クラスター社 最終的には、ロゴのコンセプトを考える時に、無限大の意味にするために取り外しました。
「クラスター」について
――次に、会社名の「クラスター」についてお伺いします。“会社名を片仮名にしたのは、サービス名との混同を避けるため” と予想しましたが、真相を教えてください!
クラスター社 その推理のとおりです。
――!(無言のガッツポーズ)
クラスター社 それに加え、他のアプリも開発したり他のサービスもローンチしたりする可能性がありますので、アプリ名と社名の表記を同じにするのは避けました。
――なるほどですね。
「Cluster」について
――最後は、先頭を大文字にする「Cluster」についてですが、私の推理は、“英語の社名・サービス名を「Cluster」としたので、他の英単語と組み合わせる場合も「Cluster」を使用することにした。言ってしまえば、「cluster」は日本語であり、「Cluster」は英語である” です。いかがでしょうか。
クラスター社 ほぼ推理どおりです。英語版は社名が「Cluster, Inc.」で、アプリ名も「Cluster」です。これは、海外ではアプリの頭文字も大文字であるということから合わせています。「社名・製品名の先頭を小文字にするのは英語圏でも特殊である。」という推理のとおりでございます。
――(再び無言のガッツポーズ)
クラスター社 でも、これだけで決まったわけではないんです。“サービス名はアイデンティティなので小文字の「cluster」だけれど、clusterはユーザーのみなさんに使ってもらうことで初めて成立するサービスなので、他の単語(みなさん)と合わさったときに柔軟に形を変えられる存在であろう” と考え、他の単語と並べるときのみ大文字にするという規則が生まれました。
――なんと素敵な理由なのでしょう。たしかに、表記を変えるという決断はそう簡単なことではないですよね。軽率なガッツポーズをお許しください……。
「ロゴ」について
クラスター社 番外編として、「ロゴ」の制作秘話をお伝えします。
――ありがとうございます!
クラスター社 クラスターのロゴは、「人類の創造力を加速する」というミッションと「バーチャル経済圏のインフラを作る」という事業のビジョンが表現されるデザインということで決められたものです。「クラスターがバーチャル経済圏のインフラを終わることなくまわし続ける」をコンセプトにC(cluster)+ ∞(infinity、メビウスの輪)でvisionを表現しています。フォントはスピード感、バーチャル、そして力強さをもつものが選ばれました。
――ロゴに込められている心意気、カッコイイ……。
このたびは、ご回答いただき本当にありがとうございました!
「推理編」および「解決編」はこれにて終了です。お楽しみいただけたでしょうか。私としては、クラスター社のフレンドリーで、格好良くて、可愛らしい側面に心惹かれる企画となりました。
「cluster」「クラスター」「Cluster」。この3つの表記には、将来を見据えた明確な理由がありました。引き続き、バーチャル界を牽引するクラスター社の動向に注目していきたいと思います。その行く末に、期待が高まります。