『serial experiments lain』のVR展覧会「Weird展」オープニングセレモニーをレポート。制作者と行くVRで構築されたlainの世界

6月20日から、カルト的人気を誇るメディアミックス作品『serial experiments lain』のVR展覧会「Weird展 ようこそ、ワイヤードへ。」が開催されました。25周年を迎えた『serial experiments lain』の世界観をVR上で再現した複数の展示部屋が設置されています。

今回は、オープニングセレモニーに参加しました。lainのプロデューサーである上田耕行さんとキャラクターデザイン原案の安倍吉俊さんがゲストに迎えられ、当時のエピソードや裏話を交えつつワールドを巡ってきました。

『serial experiments lain』とは?

『serial experiments lain』(以下、lain)とは、1998年から展開しているメディアミックス作品です。メインビジュアルにも登場している岩倉玲音(いわくら れいん)が主人公として、現実と仮想世界である「Wired」へのめり込み、境界が曖昧になっていく様子を描いています。

lainが評価されているのは、25年前の時点で現在のインターネット社会を予言するかのように描いていた点です。作中に描かれている情報端末「NAVI」は、現在のスマートフォンのように活用されており、仮想世界の「Wired」では現在のSNSやメタバースを思わせるような情報のやり取りを行っています。

時代の先取りとも言えるインターネットの描写に加え、哲学的な要素も加わり、現在でもコアなファンが根強い人気を保っています。lainそのものを知らずとも、ゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』といった影響を受けた作品を楽しんでいたり、月ノ美兎などのVTuberが話題に出しているのを聞いていたりと、間接的に触れているのではないでしょうか。

ちなみに、Weird展ではlainを知らなくても基礎的な作品解説が置いてあったり、体験を重視した展示になっていたりしています。また、Weird展を記念してアニメの上映もワールド内で実施。期間内に話数を入れ替えながら公開されています。上映時間が決まっているわけではないので、好きなときに視聴できる形です。

 「『serial experiments lain』のVR展覧会「Weird展」のオープニングセレモニーの様子
展覧会以外では、dアニメストアが安価で視聴できるのでオススメ

lainはメディアミックス作品のためゲームなどの展開もありますが、アニメ以外はアクセスが難しい状況です。展覧会自体もアニメ準拠で作られているので、とりあえずアニメを抑えておけば問題なく楽しめます。

lainの持つ「不気味さ」を再現した展示スペース

今回のWeird展では、lainの作品にある「不気味さ」を大切にした作りを重視しています。ただ展示するのではなく、lainが持つ雰囲気を再体験する作りとなっています。とはいえ怖くて行けないと尻込みするほどではないので、安心して向かってください。

ただし、信号機のボタンに関しては身構えた方がいいかもしれません。

ホラーギミックの紹介

「不気味さ」が最も強く伝わってくるのが、作中で何度も登場する「道路」です。

VR展覧会「Weird展」の展示スペース、作中の道路の再現

lainを見た人ならば、印象に残る場所です。ビジュアルが再現されているのはもちろん、音に関してもアニメ内で印象的な「あの音」が鳴っています。今回のWeird展ではアニメの映像や音楽がふんだんに使われており、見ている人なら思わず反応する場面が多いです。

この道路には、全部で5つのアイテムが置かれています。全部集めると何かが起きるとのこと。配置されているアイテムはヒントが用意されていますが、難易度としては高めに設定しているとのことなので探すときは根気よく挑んでみてください。

作中内のアイテム

その他には、玲音の顔だけを集めたテレビのオブジェクトやキーワードをピックアップした展示などがあります。いずれも、ただ展示するのではなく作品の雰囲気に合った作りです。

VR展覧会「Weird展」の展示スペース、玲音の顔を集めたテレビのオブジェクト
キーワードをピックアップした展示

今後のアップデートによって、今回紹介した展示スペース以外にも追加が予定されています。アップデートは公開から3週に渡って月曜日20時を予定しているので、繰り返し訪れてみましょう。

25周年を経った今の心境について制作者に聞いてみた

lainのプロデューサーである上田耕行さんとキャラクターデザインを手掛けた安倍吉俊さん、ワールド制作に関わったAnique株式会社所属のなの太さんらによる裏話をまとめていきます。

Anique株式会社所属のなの太さん
メインビジュアルについて

安倍吉俊(以下、安倍) 玲音は自分の中でも思い入れがあるので、発注を受けて描こうとすると、特別な感じが出せないかと思って力が入りすぎて変になることを繰り返しています。力を一生懸命抜こうとすると逆に変になってしまって、玲音は難しいです。25年前のときは、今のような気負いもなかったんですけどね。要するに25年前はとにかく遠くにボールを投げたらよかったけども、今は的が出てきて的を狙わないといけないので、ちょっと難しいんですよね。

あとは玲音に関しては、作品が終わった時点で自分はもう玲音を描いてはいけないような気がして、発注によるもの以外では多分一度も描いたことはないです。ものすごく久しぶりに絵を描いているときに、後ろ向きに考えちゃうとクリエイティブではなくなると思いつつも、25年前はどのように描いていたのか考えちゃいそうになりましたね。いろんな感情が蘇ってきて感慨深かったです。

VR展覧会「Weird展」のメインビジュアル
これまでAniqueではさまざまなプラットフォームをやってきたが、今回VRChatにした理由について

なの太 Aniqueに関してはとにかくチャレンジする会社ではあります。今回の展覧会に関してもIPとの折り合いがついたのもあり、トライしてみようかと選んだ形です。企画自体は4ヶ月前から仕込みを始めて、僕がもともとVRChatをかなりやっていたのもありワールド制作はスムーズに行きました。ただ、ワールドのQuest対応(Android対応)といった最適化部分に時間がかかって公開に至った形ですね。

今回の展覧会に使われている会場に関しては、lainのために作られたワールドではなく、色んな作品を展示していくワールドにしていきたいと考えています。ただ容量の都合でワールドを分割するといった処置は行うかもしれません。少なくとも現時点ではlainの展覧会に関しても終了日も決まっていないので、展覧会は継続的に展開していくと思っていただければと思います。

25周年経った今の心境について

安倍 lainは僕が初めて関わった作品なのもあり、右も左も分からないまま絵を描いていた感じでした。それが25周年経ってみて、今のような形になっているのは不思議な感じがします。lain自体はインターネットの座敷童子、偏在する存在として残ってほしいなと思いながら描いていたので、継続していることが感慨深いです。

上田耕行 25周年でいろいろやらせてもらいましたが、根強いファンやAniqueといった企業とやらせていただけるのは、作品にとって本当にありがたいです。作品を作ってきたときは、ビジネス感覚よりも面白さを重視して無軌道にやっていました。それに無軌道が許されていた時代だったと思います。

25周年になった今、熱量を込めた作品が皆さんから評価されて、生きながらえているのはちょっと面白いですね。クリエイティブをする上ではクリーンであることは大切ですけども、堅苦しく考えなくてもいいんじゃないかなって思えたら、この作品の意義が1つあるのかなと思っています。

lainを知らない人はもちろん、lainをすでに見た人にとっても、今だからこそ感じるものもあるはずです。NAVIもWiredもある今の世界で、仮想世界で構築されたlainを見ていきませんか?