Vket運営が明かす舞台裏!籠岬村やレイドバトル、体験重視のワールド設計についてインタビュー!

バーチャルマーケット2024 Summer、何かが違うと感じませんでしたか? 

ホラーワールド「籠岬村」でゾクゾク体験、30人レイドバトルで仲間と協力プレイ、フォトジェニックなギミックの数々……

バーチャルマーケット(以下、Vket)に数多く行っている人は、きっと「何かが変わった」と感じたはずです。筆者自身も感じられたので、直接聞き出すしかありません。

「体験重視の新方針」「世相によって変わるパラリアル」など、今回のVketを楽しんだ人なら「答え合わせ」とも言える内容が聞けました。最後には次のVketについても聞けたので、ぜひご覧ください。

体験重視のワールド制作へ切り替え

──率直に聞きたいのですが、今回のVketはどうでしたか?

フィオ 初速が過去1番じゃないですか。

なごみ いえ、初速以降も過去1番の伸びが続いています。ここまで伸びたのは初めてですね。

──Xでは、開幕時にハッシュタグがトレンド1位になっていて、盛り上がりが目に見えて分かりました。

フィオ これまでもトレンド入りはありましたが、1位になったのはそうないです。

──今回のVketの盛り上がりは、配信者の注目やQuest3のセールなど複合的な理由があると思います。運営側から見て、特に目立った動きはなんでしょうか。

なごみ 企業ブースがあるワールドは人気が出やすいですが、一般ブースでは籠岬村が予想外に伸びました。ホラーがここまで人気になるとは、驚きでした。

──今回の一般ブースでは、ホラーをテーマにした籠岬村などが人気で、「これまでの」Vketとは違う変化を感じました。制作側として、何か方針転換などはあったのでしょうか。

フィオ 変化自体は、これまで通り、毎回面白いことにチャレンジしています。ただ今回は、もっと多くの人に自分のお祭りとして楽しんでもらえるように意識しました。Vket以外の遊び方も増えている中で、Vketならではの面白さを体験してほしかったんです。

──VRChatで企業が大きなイベントを開催することも珍しくなくなりました。遊び方の幅が広がったことで、尖ったテーマも受け入れられるようになったのかもしれませんね。

なごみ そうとも言えますね。VRChatやVketに来る目的も多様化したため、幅広い層に刺さるものを展開しました。

──人を選ぶコンテンツが展開できるようになったのは、人が増えてきたからこそですよね。籠岬村に関しては結果として伸びに伸びましたけども。今回のVketでは、ワールド内のギミックがさらに多彩になったように感じましたが、技術的な革新や変化はありましたか?

なごみ 技術的な変化は大きくありませんが、制作フローは大きく変わりました。従来はコンセプトアートからアイデアを引き出し、試行錯誤しながらワールドを作っていましたが、今回は最初にユーザー体験を明確に定義し、それに基づいて制作を進めました。

籠岬村は分かりやすい例ですよね。ガッツリ怖い体験をさせることを軸にワールド制作を進めていきました。後は制作期間を長めに取ることができたのも大きいですね。

──今回の会場があまりにも出来が良かったので、ワールド制作者と回る公式イベントをプライベートで行きました。ショッピングモールがモチーフのThe Alter Vistaに行ってきたのですが、イベント内でも雑誌撮影のギミックを軸に組み立てたと話していました。

なごみ The Alter Vistaでは雑誌撮影がテーマでしたね。これまではコンセプトアートからアイデアを引き出すことが多かったですが、今回は体験ベースでアイデアを引き出したのが大きな変化です。もちろん、これまでも体験は考慮していましたが、今回はさらに重視しました。

フィオ 正直な話、ビジュアルからワールド制作に入るのはワールド制作あるあるだと思っています。まず会場の形を作ってから、ギミックを入れていく段取りがVketに限らずよくあるケースです。

ビジュアルからギミックの段取りで進めてしまうと、体験の部分に時間を割くことができなくなってしまってビジュアル重視になってしまうわけです。

Vketでも陥りがちな現象だったので、今回はコンセプトを決める段階からギミックチームも一緒に入って、試作を作るなどして進めていきました。今回の変化は、制作フローを変えた成果ですね。

──体験をベースにすると、アーカイブ化されたときに例えば籠岬村ならホラーワールドあるから行こうみたいな誘い方ができそうでいいですよね。

なごみ 今後Public化したときにも、友達を誘いたくなったり、もう1回行きたくなったりする作りを目指しています。

──主役は出展ブースですが、明確な体験があると、誰かに伝えたくなりますよね。

フィオ Vketは、出展者のブースを見てもらうためなら、何でもしますよ。

毎回却下されてきたホラーテーマはなぜ実現したのか

──ホラーテーマは以前にも候補に挙がったことはあるのでしょうか?

なごみ 毎回候補には挙がっていますね。

フィオ そして毎回却下されてきました。ホラーは「行きたくない」という人が出てきやすいジャンルなので、出展ブースへの影響を懸念していました。

でも、Vketがもっと多くの人を楽しんでもらえるようにコンテンツとして強くするためにはホラージャンルからは目を背けるのはできないかなと思い、覚悟を決めました。

──Xでは、シナリオにゲーム「コープスパーティー」にも関わっている祁答院慎さんが参加していることでも話題になりました。どのようにしてお声掛けしたのでしょうか?

なごみ スタッフに繋がりがあったので、お声掛けすることができました。

──お声掛けするに至った経緯はなんでしょうか。

なごみ ジャパニーズホラーではシナリオが重要ですが、Vketのシナリオ担当にはホラーに強い人がいなかったため、本気で取り組むために祁答院さんにお願いしました。

──たしかにシチュエーション重視ですし、やるからには本気でやりたいですよね。その熱量が伝わってきました。下手に万人受けを狙わずに、しっかり研ぎ澄まされたものを出してきたなと感じましたね。

フィオ コンセプト発表時から「人を選ぶコンテンツ」であることを明言し、ホラーが苦手な人が迷い込まないように配慮しました。そのうえで、ホラーな要素は出展エリアに影響がないようにエリアの最後にするなどといった配慮を行うようにしました。

Vketらしさを保ちつつ、ホラー要素を取り入れたワールド作りが成功しました。これまでホラーは避けてきましたが、挑戦して良かったと感じています。

──ホッとしますよね。

なごみ 意外とホラー好きが多いんですね。

フィオ 「普段はホラー系に行かないけど、Vketなら行ってみようかな」という声もありました。

──Vketなら友達と一緒に行けるので、ホラーワールドへの第一歩としては最適かもしれませんね。今回、写真撮影ギミックが多かったのも印象的でした。SNSでの発信を意識したのでしょうか?

フィオ SNSが重要な現代では、「流行っている感」が重要です。Vketの特定のワールドやブースが面白いという口コミが広がるかどうかが、イベントの成功に繋がります。色んな人がVketの広報をしてもらえるようにするには、シェアしやすい写真を用意したり、記憶に残るような体験を作ったりすることが大切です。

今の世の中だと、Vketだけが発信しても情報が届きにくいです。だからこそ、多くの人がVketの広報を担ってくれるような状況を意識的に作っています。

──体験重視のワールド制作フローと合致した結果、上手い具合に出てきたのが今回のVketのような気がしますね。

フィオ 技術がなくてもいい感じにいい写真が撮れるのって発信のハードルを下げるうえで大事ですよね。

──今回はこれまでとは違う挑戦的な要素を取り入れつつ、参加者が体験をスムーズに楽しめるように導線や設計を工夫したと感じました。
例えば籠岬村では、ホラー要素を通る道がブースを見ていたときの逆走ルートになっていたり、ギミック作動が見逃せないように視線を使う工夫がされていたりしました。ワールドのギミックを作る際の優先順位について、どのように考えましたか?

なごみ 多くの人に楽しんでもらえるように、質問の通り工夫しました。また、ワールドのギミックで遊ばない選択肢も用意しています。ホラー要素やトロッコなどは、ワールドの最後に配置することで、選択できるようにしました。選んだ人には、分かりやすい形で体験を提供できるようにしています。

──「挑戦的だけど、ユーザー置いてけぼり」にならず、万人に開かれた設計なのは素晴らしいと思います。

なごみ 今のVketにはさまざまな人が来場します。全員を満足させることは難しいですが、それでも多くの人が楽しめるようにしていきたいです。

フィオ いつも行っているのは、Vketのコンセプトを作るときに我を出すように言っています。単なる展示イベントではないから、新しいことをやって激しく暴れるように表現してほしいと伝えています。一方で、大事なのは主役が来場者と出展者なのでこの2つを繋げるために作ることです。

なので、制作するうえで来場者が置いてきぼりにならず、出展者の見る邪魔にもならないように口酸っぱく言っています。

出展物のチェックも今回はバッチリ

──最近のVketでは、一般ブースの非公開化などが話題になっていましたね。今回のVketでは、事前にチェック体制について告知するなど、対策をされていたと思いますが、実際はどうでしたか?

なごみ 事前のチェック体制を強化したり、制作スタッフの中でも出展者側に近い人の意見を聞いたりするなど、さまざまな対策を行いました。具体的には言えませんが、内部的なチェックシステムの構築やVRChat運営との連携強化も行いました。

Vketとしては、参加者の表現の自由を最大限尊重していきつつ、安心して楽しむことが出来るイベントを目指していきます。

フィオ ワールドが非公開になると他の出展者にも迷惑がかかるため、今回は危機感を持って対策に取り組みました。

なごみ 「今回は絶対に非公開にしない」という強い気持ちで取り組み、その結果が出ました。

フィオ 対策の効果が出たのは、ひとえに出展者の協力のおかげです。本当に感謝しています。運営側としてはシステムを作って対策していますが、一番大切なのは、出展者が来場者のことを考えてコンテンツを作ってくれたことです。1000件近くのコンテンツが集まる中で、問題が起きないのは素晴らしいことです。表現の自由と来場者の安心感を両立できたと実感しています。

──安心感というのは具体的にはどういったものでしょうか。

フィオ 僕個人の体験になるのですが、息子を連れて行ったときに親として説明しづらいブースがありました。今回はそのようなことがなかったので、安心しました。

2018年からVRChatを利用している身としては、アングラな部分から始まった文化の良い面も理解しています。しかし、最近はアングラだけではなくなりつつあると感じています。

──2018年からだと、もう6年経ちますからね。結婚や家庭を持つなど、身の回りの状況が変わるのも当然でしょう。

なごみ これからのVketでも対策を変わらず進めていきます。

世相が変わり、コンパクト化したパラリアル

──パラリアルのワールドについても伺いたいと思います。以前と比べてコンパクトになり、回りやすくなった印象を受けますが、設計思想は変わりましたか?

なごみ 結構変わりましたね。これまでは、リアルを再現することに重きを置いていました。今回に関してはリアルを再現をするだけではなく、バーチャル的な楽しさ、見た目の派手さや良さの比率をもっと増やしたのが大きいと思います。

今回のVketに登場したパラリアル会場も、現実に完全に忠実というわけではありません。各地の要素を取り入れつつ、バーチャルならではの面白さ、HIKKYが考えるパラリアルの面白さを表現しています。

──以前よりもデジタルツインの要素は薄れてきましたか?

なごみ 一時期は盛り上がっていましたが、今は落ち着いてきた印象です。Vketとしてはパラリアルはリアルの生き写しではなく、バーチャルに生きる人達にとっての楽しさが大きいです。

フィオ コロナ禍が落ち着き、リアルへの回帰が進んでいますから。Vketとしても、リアルイベントであるVketRealの開催で反映しています。パラリアルのコンセプトを掲げた頃は、デジタル空間に現実のような空間が求められていたのが大きかったですからね。

──数年前は企業ワールドは2個でしたが3個に増えましたが、ワールド数を変更したのもコンパクト化につながっていますか。

なごみ 企業ワールドを2つから3つに増やしたのは、コンパクト化に加え、企業が好きなエリアに出展できるようにするためです。

フィオ Vket4にパラリアル東京を作ったのが始まりなのですが、リアルの再現ではなくバーチャルの導線上に東京のランドマークが並んでいる内容でした。その後、町並み再現へと舵を切り、例えばパラリアル秋葉原では電気街をほぼ完全に再現しました。

町並み再現を通じて実感したのは、リアルの町並みは実際に歩くことを想定して作られているということです。そのままバーチャルに持ち込むと、道が長すぎたり、遮蔽物がなくて負荷が高くなったりと、問題が生じることが分かりました。パラリアルでは、リアルの再現とバーチャルでの快適さのバランスを取っています。

コミュニティに話題を呼んだ「30人」レイドバトルについて

──パラリアル大阪で話題になったレイドバトルについてお聞きします。どのような意図で実装したのでしょうか?

なごみ 最初のコンセプトは「大人数でワイワイ楽しめるコンテンツ」でした。そこから議論を重ね、30人で戦うレイドバトルに辿り着きました。30人を集めるのは簡単ではないですが、その過程も楽しんでほしいと考えています。Xでの呼びかけや、コミュニティへの参加、友達を誘うといったことも含めて、楽しんでほしいという思いがあります。

「30人集まらないと遊べないのか」という声も頂いていますが、今回はチャレンジとして実施しました。

フィオ レイドバトルは、ワールドのコンセプトではなく、ギミックチームの発案でした。いつの間にか話が進んでいて、私自身も人を集めるのが苦手なので不満が出るだろうと思いつつ、面白そうなのでOKを出しました。苦手な人がいても、ハマる人もいるので。

──コミュニティの反応を見ていると、開催当初は困惑はありつつも、次第に特定のアバターで集まって攻略しようみたいな告知が流れてきて、適応していった印象ですね。

なごみ ますきゃっと、とかで見られましたね。

フィオ アバター集会のような要素と結びつくとは思いませんでした。気づきを得ました。

なごみ 運営側でもサポートなどの対応を行いました。Vketとしては、今後も大人数で楽しめるコンテンツを模索していきます。今回のレイドバトルは、貴重なテストケースとなりました。

フィオ 結果を受けてみると、色々声が出てきましたね。僕も理解できる意見もあるなと思いつつも、多人数で遊ぶコンテンツも好きな人もいるわけです。なので、ワールド内において必須の体験にならないようにしないのがいい塩梅かなと考えています。

たとえば30人のレイドバトルを倒さないとワールドの最後まで行けないとなると厳しいですけども、今回のパラリアル大阪はワールドの最後に脇道にある要素に過ぎないですし。

──実際パラリアル大阪としては、通天閣がロケットのように発射するギミックでオチはついていますからね。

なごみ 今回の試みに関しては人を選ぶコンテンツが多いこともあり、覚悟のうえで実装しています。やってみないと、どのような反応になるかは分からないのもありますからね。多様な意見が出るのも分かっていますし、出てきた意見を無視せず今後の体験に向けて反映できればと思います。

──先ほど出たアバター集会のようなイベントが出てきたのは実際やってみないと思い浮かばない動きですね。遊ばない選択肢や遊びやすくする工夫は感じているので、悪い印象が出回りやすいですけども、作り手の自己満足で新しいことをやっているわけではないのは伝わりました。

冬のVketに向けて出展について変更を検討中

──最後に次回のVketについて少しお聞きしたいです。以前のインタビューで言及していた、出展ブースの当選倍率への対策について、現時点で話せる範囲で教えていただけますか?

フィオ 現在、冬のVketに向けて準備を進めている最中です。当選倍率の改善にも取り組みますが、当選者全員が入稿するとは限らないため、バランス調整が重要です。極端な話、全員当選をしてしまうと入稿率が下がってしまいます。そうなると、空きスペースが会場のワールド内に増えてつまらなくなってしまいます。

現在、当選率は約60%、入稿率は約95%です。数値を見ながら、出展形式を見直し、当選倍率を改善していきます。

当選率や入稿率に左右されない、新しい出展形式も検討中です。詳細は冬のVketに向けて発表する予定です。

──新しい出展形式も登場するのですね。今後の発表が楽しみです。

フィオ Vketの目的は、多くのクリエイターが作品をアピールし、多くの来場者が作品と出会える場を提供することです。その出会いが、誰かの世界を変えるきっかけになることを願っています。

──今回はありがとうございました。冬のVketの成功を祈っています!