VRChatで世界中を旅するバーチャル旅行団体「VRC世界旅行」をご存知でしょうか。VRChatにある実在する観光地のワールドを巡っていくワールド巡りイベントを主に開催する団体であり、旅行好きが旅行の魅力をVRChatを通じて届けていく人たちです。
イベントのスタッフも増えていき、ワールド制作にチャレンジするなど2年半以上経っても活動の規模を広げていっています。今回は、代表のNEKO旅さんをはじめ、メンバーのMIRAI@さん、Jettさん、リル姉さんにインタビュー。参加者に「心を動かす旅」を届ける彼らの熱い思いと、これからの展望に迫ります!
VRC世界旅行を目指すのは「心を動かす旅」
──現在のVRC世界旅行はどの程度の規模になっているのでしょうか?
NEKO旅 スタッフが23人いて、1回のイベントで5インスタンスを開く体制になっています。1インスタンスあたりに20名の参加者がいるので、100人が参加している形ですね。
Jett 最初は2インスタンスから始まったのに、こんなにも大きくなるとは。
──2年の活動を通じてここまでの規模になるとは…… イベント自体は過去の実在する観光地を巡るワールド巡りから変化はありますか?
NEKO旅 最近のVRC世界旅行では、ツアー内に訪れる半分のワールドはVRC世界旅行内製のワールドになっています。
──ワールド制作は2周年のときからはじめた取り組みだと思うのですが、現状はどうなっていますか?
NEKO旅 最近では、ただワールドを作るのではなく、ギミックやお土産的なものも作るようになりました。なので、直接イベントに影響するわけではありませんが、内部的には変化があります。
──ワールド制作を発表したときは1週間ペースで公開すると話していましたが、現在でも続けていますか?
NEKO旅 現在でも継続しています。積み重なっていった結果、今だと50以上あるのかな……? 毎週公開してみて、1人で毎週ワールド公開をしているケセドさんの大変さを実感しました。
──複数人でも毎週の公開をやれている事自体がすごいですけどもね!? ワールドの制作は、フォトグラメトリをベースにしているという認識でよろしいでしょうか。
NEKO旅 そうなります。CCライセンスで公開されているデータをVRChatのワールド向けにチューニングしています。ただ3Dモデリングするなどして、CCライセンス以外で作成するワールドもいくつかありますね。
──VRChatのワールド向けに行っている工夫はどういったものがありますか?
リル姉 自作することのメリットになるのですが、ワールド内にワープゲートや解説といった紹介するためにあると便利なアイテムやギミックが置けるようになるのが大きいです。融通が効くので、イベント直前にワールドの変更を加えたいといったこともできるようになっています。
──ワールドを見たときも、空を飛べるのに使えるアイテムが置いてありました。以前イベントに参加したときはpublicで使えるアバターを使って対応していましたが、ワールド側で対応できるなら越したことないですからね。ワールド制作するようになったのは、世界一周をした後いろんな国や観光地を紹介するうえで自分で作らないといけないと考えたからでしょうか?
NEKO旅 概ねそのような感じですね。
Jett 主催する我々もそうですが、参加者側も要望の声が大きいですね。例えばオーストラリアのシドニーに行ったことがあるから行ってみたいといった声が出ます。でも、既存のワールドでカバーできる地域はヨーロッパ、日本、韓国ぐらいまでなんですよね。
──度々、話として出ていますね。VRC世界旅行を発展させるうえでは避けられないものだったと……
NEKO旅 VRC世界旅行でいろいろ新たな試みを行っていますが、いずれも「心を動かす旅を届ける」ために行っています。旅行を通じて心を動かして、参加者の生き方を拡張していきたいと願っています。
自分にとって、現実でもVRでも旅行って心を豊かにしてくれるものです。その豊かさとは、「心を動かされた回数」と捉えています。その豊かさを他の人にも感じてもらいたうことが、VRC世界旅行の使命だと考えています。
──ただ地名として知っている場所でも現実なりVRなりで触れてみることで、知識や定義からその地に関する物や文化、食べ物なりで実際にあるものとして体験なり形になるのが理想ですよね。
NEKO旅 VRの没入感はヘッドセットの特性によるものだと思います。でも、VRC世界旅行としてはさらに超えた没入感を届けたいと考えています。スタッフとの交流やワールドのギミックなどが、旅行がもたらす豊かな心の動きを生むと思っています。
週に1個ワールドを公開し続ける理由とは
──週に1個のワールド公開や制作はフォトグラメトリのデータはどのようにしているのでしょうか?
MIRAI@ 最初はUnityのアセットストアで解決できないかなと思っていたところ、組み合わせで実現するのは難しいのが分かりました。そこでSketch fabと呼ばれるサイトを知り、ライセンスが明記されている状態でフォトグラメトリのデータを入手できるようになりました。後はVRChat用にチューニングして持ち込めば可能になるので、やろう!ってなった形です。
NEKO旅 そもそもVRC世界旅行の動きってイベントが月に1回と頻度としては少ないですよね。なので、イベント以外のときにも旅行との接点を持ってもらいたい狙いもあります。そうでないと、週に一度公開では、イベントで取り扱えない量を出していますからね。
──ワールドの選定はどうしていますか?
MIRAI@ 毎月開催されているイベントに使う場所を最優先にして、それ以外は内部用にデータをまとめたリストから好きな観光地から手掛けてもらう形にしています。
NEKO旅 月1で公開する形だと年に12個のワールドだけになってしまう。Sketch fab内にあるデータも300、400もあるうえで、旅行を語るなら月1じゃあ追いきれない。それにVRChatにはワールドをアップロードできる数が週に1個までなのも大きいですね。一応ワールド制作を担当しているそれぞれにアップロードしてもらう形ではありますが。
──いざ何かやろうってなったときにワールドが足りないってなるのも嫌ですしね……だったら可能な限り作ってしまったほうがいいわけですね。
MIRAI@ 一つ一つにフォーカスしたい気持ちもあるのですが、それ以上に数があることが重要でフォトグラメトリワールド群にするのを目指しています。
──それでこそ一人で行ったときにピンとこないとしても、イベントに参加するときに改めて知っていくのもいいんじゃないかなって思いますね。
NEKO旅 日本のどこかを再現したワールドだと、実際に現地に行ってみたといった現象はあると思うのですが、海外でも同じようなことはあると思っています。実際VRC世界旅行の参加者の中では、ヨーロッパの〇〇に行ってきたといった声もあるので、少しずつ達成できているのかなと思います。
──ワールド制作を通じて、心を動かし、その身を動かして現地へ足を運ばせると。ワールドによってはスカイダイビングができるワールドもあり、場所によって見せ方を考えていますよね。
MIRAI@ ワールドを作っていくうちにこのように見せたほうが、魅力を引き出せるのではないかって話しが出てきましたね。
──実際の場所と違いVRChatのワールドなので全部人の手で作ることになりますが、その分体験をよりデザインできるようになるのはいいですよね。旅行の体験追求と考えると、VRC世界旅行は他の団体との共同で何かやるのはVRChat内外であるのかなと思いますが、何かありますか。
NEKO旅 まずはVRChat内でできることから始めていきたいと思っています。最終的にやりたいことはいろいろありますね。各国の観光に関わる組織と連携をしたり、教育や介護の場にツアーとして提供したり、そういった繋がりを持てたらなと思っています。実際、Googleで検索すると、VR旅行は介護などの現場で使われている事例が見つかります。
──現地との連携ができれば、ワールドの作成用のフォトグラメトリデータや観光の案内といった部分でいろいろとできることが増えそうですね。
NEKO旅 VRChatの外に届くためには、自分たちの力では到底できないので協力して実現していきたいですね。
旅行の魅力を伝え続けることがVRC世界旅行の使命
──今回VRC世界旅行内で使われているプレゼンギミックを販売することになったと思うのですが、どのような経緯で販売することを決めたのでしょうか?
MIRAI@ VRC世界旅行をやるうえでも、自分たちだけでもやれることの限界はあるのかなと思っています。なので、僕らのノウハウや便利なものを共有し、コミュニティを大きくしていきたい気持ちが大きくなってきました。いわば、自分たち以外の誰かが盛り上がりを作れる仕組みを作ろうといったものです。その一環としてプレゼンギミックの販売をすることにしました。
──VRC世界旅行も取り扱うのは世界ですからね。国内の場合は、他の人や団体にやってもらいたいと思うのも自然な流れです。
MIRAI@ 儲ける意図も特になく、もともと自分でVRC世界旅行や自分主催のイベントで使っているギミックを販売しているBOOTHショップの延長線上ですね。
NEKO旅 このギミックを使えば、おそらくVRC世界旅行のフォーマットに自然になると思います。
──フレンドでそれぞれ持ち寄って1人ずつプレゼンをしていくのもきっと面白いですよね。凝ったワールドとかは、単体で解説ツアーをやるのはいいと思います。VRC世界旅行の要領で真面目にやるのもいいですけども、おそらくそれ以外の用途もできるのではって思っちゃいますね。
NEKO旅 ステッカーの機能が登場したときも色々活用方法があったと思うのですが、その要領でいろいろ使えるかもしれませんね。
──大喜利の道具にいかがですか!
NEKO旅 後は宣伝とかにも使ってください。ワールドに依存せずに使えるので、ふと話題になったときに使えるのかなと。ただ、やっぱり可能性は未知数です。
──最後になりますが、2年以上続けてきたVRC世界旅行にとってのゴールってありますか?
NEKO旅 正直VRC世界旅行のゴールって明確にはありません。
──区切りになりそうな世界一周は、達成してしまいましたからね。
NEKO旅 実際のところ世界一周したところで、そもそも旅行は世代を超えて引き継がれるものです。自分たちが突然ギリシャのあの場所に行きたいと思ったわけではなく、どこかで情報に触れたからこそ興味を持ったからです。
自分たちが興味を持ったように、自分たちも旅行の魅力について伝え続けることで社会に貢献するのがいいのかなと考えています。
──関心を惹き続けなければ、意外と維持することなくあっけなく終わってしまいますからね。プレゼンギミックもきっと伝え続けることに役に立つはずですよね。今回はインタビューありがとうございました。引き続き旅行の魅力を伝えていってください!
●参考リンク
・VRC世界旅行(X)