12月20日、21日にメタバースと現実をつなぐリアルイベント「VketReal 2025 Winter」が開催。その裏で同じくVRChat発のコンテンツでリアルイベントが開催されていました。
ひとつは、VR映画スタジオ『カデシュ・プロジェクト』とセレクトショップ・ファッションブランド「BEAMS」合同による渋谷で開催されたイベント。もうひとつは、新宿・歌舞伎町で行われたホストクラブ『Ephemeral』。
VketRealの初回開催から3年、改めてリアルイベントについて見ていければと思います。
VRChatのホラーワールドが謎解きに? 『裏・新光町からの脱出』
まずは、VR映画スタジオ『カデシュ・プロジェクト』が主催するリアルイベントから。渋谷の会場では、謎解きやアトラクション、物販、公式コスプレイヤーとの交流が行われました。物販のグッズを求めて、列が形成されるなど人が集まっている様子が感じられます。

中でも目玉となっていたのが、リアル謎解き『裏・新光町からの脱出』です。

これは、VRChatワールド『Tokyo Mood by BEAMS』に期間限定で登場したホラーコンテンツと、連動作品である『HERO-埼馬県警未詳事件対策課-』の続編にあたる物語です。
『HERO-埼馬県警未詳事件対策課-』自体、VRChatで撮影された映像作品としてクオリティが高く、未見の方にはぜひ見ていただきたい作品です。
今回の謎解きイベントの面白さは、作品内にある「壁」を超えたクロスオーバーにあります。
本来『カデシュ・プロジェクト』の作品は、殺し屋などがメインの世界観であり、サメ映画やサイバーパンクと部分的にフィクション要素の強い要素は出ても、お化けのような超常的な存在そのものは出ていない作品です。
『HERO-埼馬県警未詳事件対策課-』は、ホラーワールドを展開している「P․R․O․超常現象研究機構」シリーズとも交じる作品で、「カデシュ・プロジェクト」の中ではやや離れたポジションの作品でした。
ですが、今回は明確に混ざる。ついに会って対峙することになります。
イベントで行う謎解きイベントとしては、ファンからすると「一線を踏み越えるビッグイベントを取り扱うじゃねぇか!」と大興奮する内容です。
なので、謎解きの冒頭では作品間を超えたキャラクターが渋谷に一同に揃う新規で撮影された映像が流れます。『HERO-埼馬県警未詳事件対策課-』のその後が分かる描写のみならず、キャラクター同士の掛け合いが早速お披露目。

謎解きのミッションは、盗まれた呪いの石像「紅守石(ベニス)」によって開かれた異界の扉を閉じ、渋谷が吹き飛ぶことを阻止すること。参加者は資料を見つけて読み解き、制限時間内に脅威を排除しなければなりません。

ここでキーとなる「紅守石(ベニス)」ですが、実はVRChatユーザーにはおなじみのネタが元になっています。元々は上半身裸の「ベニスマン」という、いわゆるミーム的なアバターでした。過去にVketに出展していた頃、BEAMSブースに毎回お約束のように設置されていた歴史を持っています。
そんなBEAMSがVRChatの活動拠点となるワールド『Tokyo Mood by BEAMS』を作り上げた後、ホラーコンテンツにてBEAMSに絡めたネタとして名称が登場することになります。
ただのミーム的なアバターが巡りに巡って、映像作品において神様扱いとなり、渋谷で行われているリアルイベントの謎解きの題材、吹き飛ばす脅威に……
この解説だけでもはやVRChat民俗学みたいなものへとなってきました。本当にこのベニス様1つとっても、Vket出展時代を知らないともはや文脈が辿れないほどあるバックボーンが詰まっています。BEAMSとVRChatの中身たっぷりの歴史がこの名称1つにあるのです。
謎解きの詳細は今回はカット。ただ謎解きといっても、ファン目線でいくと一番の興奮ポイントは、謎解きのために用意された資料や飾り付けなどに注目がいきます。

そして、分かる人には分かる「柴田」くんの名前……!?

謎解きに使用する資料は、作中でチラリと映ったものを再現しており、読み込むことで世界観をより深く理解できるものです。むしろ、今後の作品につながるものだと制作側から語られています。

プロジェクターに投影された映像には時折キャラクターが登場し、さらにキャラクターが集めた情報としてヒントをくれる演出も。

作り手側が「ここまで詰め込めば、ファンなら気づいてくれるはず」と信じて細部を作り込み、ファン側もその熱量を受け止め、咀嚼して楽しむ。この「共犯関係」のような信頼感が、イベントの満足度を底上げしていました。

アトラクションや展示物の一貫した世界観が良く、バーチャルとリアルを「美術」という一本の線で繋ぐことで、地続きだと実感させてくれました。

Tokyo Mood by BEAMS Real
カデシュ・プロジェクトと合同で開催されたのが、BEAMSによる展示「Tokyo Mood by BEAMS Real」です。ここではフォトコンテストの入賞作品や、スナップショットをまとめた冊子の展示、アバター向け商品のリアル販売が行われました。

長いスパンで展開されている商品を中心にしているので、今からでも実際に手に取れる
FUJIFILMとの共同開催による写真展示『Tokyo Mood by BEAMS × House of Photography in Metaverse』では、『Tokyo Mood by BEAMS』を舞台に撮影された作品が並んでいます。

「バーチャルの写真をただ印刷しただけでしょ?」と思うなかれ。実際にパネルを見ると、その考えは覆されます。自宅のモニターで見るよりも遥かに発色が良く、より満足感を感じる代物です。
これは、物理的な作品としてあるからいいのではなく、FUJIFILMの写真パネルだからいい、といった思い出作りを超えた良さは実際あります。
FUJIFILMについてはVRChat、メタバースのイベントで関わっているので、ぜひとも実物を見に行ってほしい。
もう1つの目玉は、『Tokyo Mood by BEAMS』で撮影されたストリートスナップをまとめた冊子です。ここには29名のアバターファッションと、風景写真を含む計41枚の写真が収録されています。

特筆すべきは、この一冊に込められた「労力」です。掲載されているのは個人のクリエイターが制作したアバターや衣装。権利関係の確認だけでも気の遠くなる作業です。
それでもBEAMSの担当者は、100以上のショップ一つひとつに連絡を取り、許可を得て回ったといいます。個人のクリエイターが多く、対応がバラバラな中で行うのはかなりの苦労を感じます。冊子を作る事自体はありますが、規模感含めてもカルチャーをなるべく多く包括したい意気込みを感じました。
冊子は非売品ですが、今後は『Tokyo Mood by BEAMS』のワールド内で閲覧可能になる予定とのこと。早ければこの記事が公開されているときには追加されているとのことなので、ぜひワールドのほうも行ってみてください。
エフェメラル
場所を新宿に移し、ホストクラブイベント『Ephemeral(エフェメラル)』と、飲食店『新宿Crossing』のコラボイベント第3弾にも足を運びました。
『Ephemeral』は普段VRChat内で営業しているホストクラブですが、今回は歌舞伎町も近い新宿でのリアル出店。「ホストクラブの本場にバーチャルのホストが進出する」という構図も行きたくなるものです。
店内では、モニターに映し出されたキャストと、マイクやカメラを通じて会話を楽しめます。カメラやマイクも置いてあるため、コミュニケーションを取ることが可能です。

実際にコラボメニューの料理やホストクラブらしくシャンパンを見せて、コミュニケーションを取っていました。

実際のホストクラブではないので男性も来店していました。このあたりは、ごっこ遊びの延長線に近いVRChatイベントならではといったものです。
さらに、推しドリンクを購入すると15分の1対1のコミュニケーションが取れるといったもの。新宿Crossing自体がVTuberやVRChat内でタレント活動をやっている人たちで普段は接客を行っています。

そうして実際にダージリンと1対1で話してみました。Meta Quest 3SのMRを使って目の前にいる感じで話せます。キャスト側もVRChat側に再現された新宿Crossingにいるため、リアルとバーチャルで異なるレイヤーですが同じような位置関係で交流をしている形です。
そうして実際に行ってみると、VRChat内にある1つのインスタンスのような感じの雰囲気でした。アットホームさのある雰囲気は、「豪華なオフ会」とも言えるかもしれません。
面白いのは料理が実際に出せること。どうしてもVRChat上において、料理を実物を渡すのは難しい。同じものを買って共有すると近いものだけども、やっぱりこういった手段で料理を楽しめるのは飲食店との協力があったからこそ。

コラボメニューに関してはキャストが考えているのが多く、今回話したダージリンさんは実際に試食に行ったとのこと。

VRChatがリアルでイベントをやるのはどうなんだろうか。
そういった問いはよくあることですが、今回改めて思ったのは「実感」が大事だということです。コンテンツの持つ世界観やコミュニティの持つ温度感、満たされる感情の動き。
「VRChatのコンテンツは人である」そういった発言は実際に正しいと思います。そして「人」を求めてリアルに行くのであれば、それはオフ会がハードルが低く目的が満たせるはず。
でも、その中で自分の持つもので表現したいもの、共有したいものがあるのであれば、リアルイベントのような、もう一歩踏み込んだチャレンジをしてみるのも良いかもしれません。そう思える1日でした。





















