12月9日、「劇場版電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」がYoutubeにて公開されました。電撃VRCホラワ調査隊とは、VRChatにあるお化け屋敷のようなワールド、ホラーワールドを巡るYoutubeチャンネルです。劇場版では、メンバーの1人である中田らりるれろさんの元に届いた未アップロードのワールドを探索した様子を映し出します。
「劇場版電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」で撮影、編集をした中田らりるれろさんは、9月にはホテル・カデシュの公式スピンオフ作品である「NINE」を公開しています。「NINE」はVRChatで撮影された映像作品を競うコンテスト「VRCムービーアワード」にも出展している作品でもあります。
本記事では作品紹介しつつ、中田らりるれろさんにインタビュー。「NINE」と「劇場版電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」の両作品についてネタバレありで掘り下げ、中田らりるれろさんの作家性にも迫っていきます。
サイバーパンク映画「NINE」
「NINE」は海上都市エメスを舞台に、探偵であるDJ⑨が依頼をこなしているときに発見してしまった謎の女によってトラブルに巻き込まれるという話です。自由に身体を変えられ、現代よりも技術が発展しているサイバーパンクな世界観を描いた作品です。
「NINE」はホテル・カデシュの映像作品「プロジェクト:エメス」も前日談となる作品、単体で楽しめますが事前に「プロジェクト:エメス」を視聴することをオススメします。
ホラーワールドを探索する電撃VRCホラワ調査隊の特別番外編 「劇場版 電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」
「劇場版 電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」は、お化け屋敷のようなホラー要素のある「ホラーワールド」を探索するYoutubeチャンネル「電撃VRCホラワ調査隊」のお蔵入りとなった特別番外編となっています。
メンバーの1人である中田らりるれろさんがDiscordで見つけたアップロードされていない謎のワールドを探索するといった内容。ワールドの中には一体なにがあるのか、VRChatを舞台にしたホラードキュメンタリーとなっています。
「NINE」は自分がいいなと思った2人の影響で作った作品
ーー「NINE」の主演であるDJ⑨さんのnoteに書いてあったのですが、中田さんとDJ⑨さんが意気投合して企画が始まったと読みました。中田さんとしてはどの辺りで意気投合してNINEの撮影に踏み切ったのでしょうか。
中田 DJ⑨さんって、呉服屋の出身でいろんなしがらみが嫌になってマスクを被って生活しているという、生き様がサイバーパンクなんですよ。DJ⑨さんでなにか作りたいなってきっかけが見つからなかったときに、ホテル・カデシュの映像作品「プロジェクト:エメス」を見せられたんですよ。
僕自身、ホテル・カデシュのファンで、エメスが出るまでは限られた人しか知らない感じだったので、もっと話を広げられるお手伝いができればと思いました。
悔しさとちょっとホテルカデシュに絡みたい気持ちもあって、ホテルカデシュのだめがねさんに前日談として繋がりのある話を作らせてくれという話とDJ⑨さんにあんたでサイバーパンクを作らせてくれという話をして、自分がいいなと思った2人を合致させたのが「NINE」撮影にあたってのきっかけですね。
ーーだめがねさんのツイートに、カデシュのテーマである死の滅びに抗おうとする人を描くことを中田さんが読み取ってくれたという内容がありました。本人としては、ホテル・カデシュのテーマやらしさについて考えはありますか。
中田 だめがねさんの話していたことはホテル・カデシュ全体のテーマですが、どちらかというと「プロジェクト:エメス」のテーマに沿った感じですね。
DJ⑨さんが面白くてエメスの街で起こることの話ができればいいかもしれませんが、作品の魂の部分が一致していないと外伝である意味がないと思っています。だめがねさんとDJ⑨さんに話したのですが、「プロジェクト:エメス」のテーマって人を形作るのは出生ではなく環境や経験であるという部分だと思います。「NINE」も同じテーマを主軸に置きました。
ーーやはり「NINE」と「プロジェクト:エメス」の繋がりっていいですよね。何気ないシーンで繋がっていて、すごくファン心をくすぐる感じがします。
中田 基本的にはホテル・カデシュを分からない人でも見てもらいたいと思っていたので、サイバー探偵が女の子を救う話であるのは誰が見ても分かるようにしつつ、よく見ると「プロジェクト:エメス」とつながっているようにしました。最初に「プロジェクト:エメス」の冒頭に出てきた子を助けるお話にするって台本をだめがねさんに送りましたね。
ーーホテル・カデシュの熱烈なオタクじゃないと作れない話じゃありませんか?
中田 だめがねさんたちとはお友達で、ホテル・カデシュがめちゃくちゃ好きなので夢小説を送りました。
ーー「NINE」の作中ではホテル・カデシュのファンがエキストラなどに使っていたと思いますがどのような経緯で決めたのでしょうか。
中田 やっぱりホテル・カデシュの世界観にファンが自分の作ったキャラクターで参加するイベントではありませんか。だめがねさんたちは本筋の話を制作しないといけないので、ファンの人が普段のイベントに参加できても物語に食い込めることって多分ないんですよね。
ファンの1人として代表でスピンオフを撮影するということになったら、ファンと物語をつなげてあげたいなと思ったんですよね。みんなカデシュの世界観に入りたくて設定を作り込んでやっています。映画に出てもらえれば直接的にファンの描くストーリーと繋がるんじゃないかなということで、カデシュのファンに積極的に声を掛けました。
ーーやっていることが本当にホテル・カデシュのファンだなって感じます。
中田 「プロジェクト:エメス」本編だと主人公であるダニエルと奈々代と敵であるヴァルター・ケンペレンの話になります。どうしても主軸は主人公の話にせざるを得ないんで、海上都市エメスとかのカットしている設定っていっぱいあるんだろうなと思ってたんですよね。
この機会に作った設定とかを「プロジェクト:エメス」で描かれなかった分、「NINE」で語ったらどうですかってだめがねさんに話をしていたんですよね。なので、「NINE」本編の下にある細かい補足とかも全部協力してもらって「プロジェクト:エメス」で語れなかった内容も入れました。
サイバーパンクらしさとは何か
ーーこれはだめがねさんにインタビューした際に話していましたが、サイバーパンクはどうしても説明の量が多くなってしまうと話していたんですよね。「NINE」はサイバーパンクにある説明の量を補足という形で解決したということなんですね。
中田 「攻殻機動隊」の原作オマージュだったりしますが、サイバーパンクだと設定が詰まっている頭でっかちなオタクっぽさが必要だと思っています。映画にするならどうしても語りがちなのを削らないといけないので、NINEはめちゃくちゃ削ったんですよ。削った結果、分かりやすくなったけどもサイバーパンクである意味がなくなってしまったのですよ。
うんちくを語るようなオタク感がないから補足を画面内に入れました。うんちくがなくなっちゃうとサイバーパンクじゃなくなっちゃう気もするから。
ーー補足がサイバーパンクであるための防波堤というわけですね。
中田 サイバーパンクは設定を考えてこそってところはありますからね。
ーー話を聞いていると「プロジェクト:エメス」と「NINE」との作品間の関係性は、サイバーパンクをテーマにしたゲームの「サイバーパンク2077」と前日談のアニメである「サイバーパンク エッジランナーズ」との関係に近いですよね。どちらも本編では拾いきれなかった世界観の広さを前日談で拾っているような感じがします。
中田 めちゃくちゃビビったんですけども、撮影や予告編を出しているときって「サイバーパンク エッジランナーズ」が出る直前だったんですよ。予告編のときに「どう生まれたよりもどう生きたかでしょ」ってセリフを使っていたら、撮影が佳境を迎えたときに「サイバーパンク エッジランナーズ」の予告編を見て「どう生きるかじゃない、どう死ぬかだ」って出ていて、僕とDJ⑨さんのテンション爆上がりしましたよ。
テーマの置き方が正しかったと思っていて、本家がやっているテーマということもあってちゃんとサイバーパンク映画が撮れたんだなと思いました。
本当にVRCムービーアワード締め切りギリギリに撮影をした「劇場版電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」
ーーここからは電撃VRCホラワ調査隊について聞いていきたいと思うのですが、こちらはどういった経緯で撮影したのでしょうか。
中田 27日に今回のワールドを発見してしまったので、もう撮らないとってなりましたね。もともと電撃VRCホラワ調査隊のメンバーとはちょっと大規模な撮影をやりたいよねって話していたんですよ。VRCムービーアワードに出そうにもネタがなかったところに、3日前に見つかってしまったので撮影しました。
ーー本当に27日に本編を撮影しはじめて、30日締め切りの動画コンテスト「VRCムービーアワード」に間に合わなかったということでしょうか。
中田 撮影しながら編集していたのですが残念ながら間に合いませんでしたね。
ーー普段の撮影、編集はDENKINELさんがやっているかと思いますが、劇場版は中田さんが撮影、編集をしているのでしょうか。
中田 撮影は見逃しちゃまずいとDENKINELさんと僕でやっています。編集は僕がやっていますけども、DENKINELさんの動画なので寄せています。
ーー今回の劇場版ではVRChatを知らない人に向けた解説を多く挟んでいるかなと感じましたが意識した点でしょうか。
中田 動画の内容的にVRChatの最低限の知識がないとそもそもの話が分からないし、ホラーって前提が大事だと思うんですよね。なのでVRChatをやっていない人にも向けてVRChatとワールドの説明は必須だなと思い、ちょっと長いですけども意識的に入れました。撮影したときも大変なことは起きたのですけども、事実をそのまま出してもしょうがないのでちゃんとホラーとして楽しめるように構成して編集していますね。
電撃VRCホラワ調査隊はみんなが考察するところが面白い
ーー劇場版の動画を見ていたら部屋から謎の声が聞こえるとのことでしたが、DENKINELさんは大丈夫でしょうか。
中田 DENKINELさんは今のところ大丈夫です(笑)
ーー安心しました。
中田 この映画って嘘だろうって思う人がいっぱいいると思うんですけども、撮影した素材におばけが映っているわけではありません。おばけの類が見える人からしたら分かりませんが、少なくとも僕は発見できてません。
今回の怪異だったDENKINELさんの部屋から聞こえる声だったけども、正体はネコを飼っていたり、彼女の存在を黙っていたりする可能性があるわけなんですよね。
ーー彼女がいることを黙っている可能性(笑)
中田 今回撮影していて怖いことが起きていい動画だったのですけども、幽霊の存在があるのかは確定できていません。動画内の考察も意味を勝手に繋げているだけで正しいのかは分からないというわけです。
電撃VRCホラワ調査隊のモットーとしてやっぱり考えて怖がるほうが面白いよねってというのがあります。驚いている様子で楽しんでいるのもいいですけども、電撃VRCホラワ調査隊のみんなが考察するところが面白いところだから、劇場版でも守れたし真骨頂が出たのかなと思います。
ーー「NINE」と「劇場版電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」両方に通じると思いますが、テーマ性や面白さのキモを言語化して作品として出すのが上手いと感じます。
中田 大本の雰囲気を残しつつ、僕の作品になればいいなと思っています。ちょうど半々ぐらいがちょうどよくて、完全にファン目線で僕の色が出なくなったら僕がやる意味がなくなっちゃいますからね。「NINE」と「劇場版電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」はちょうどいいバランスになっているように感じています。
ーーこれから作ってみたい作品などはありますか。
中田 普段は「P․R․O․超常現象研究機構」というホラーワールドを作っていて、3つ目を出したいなと思っています。「NINE」もなにかやりたいですし、ワールド紹介も最近は撮影していないし、バカみたいなのもやりたいので忙しいですね。やりたいことがガンガン増えているので、来年もいろんなものが出せたらなと思っています。
ーー最後になりますが、記事を読んでいる人に向けてメッセージがあればお願いします。
中田 僕の作っている「NINE」と「劇場版電撃VRCホラワ調査隊 BANNED FOOTAGE」はVRChatをやっている人たちが1番楽しめるように作っていますのでぜひ見てください。あとは一緒に何かやりましょう。
ーーありがとうございました。
今回のインタビューを通じて、中田らりるれろさんには作品ごとにあるテーマや面白さのキモを自分の物にし、リスペクトを込めてスピンオフ作品を作り出しているのだと感じました。中田らりるれろさんが出す今後の作品に目が離せません。
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