VRChatでアバターを自分好みにカスタマイズする「アバター改変」。多くのユーザーにとって、これはVRChatをプレイする大きな理由の一つであり、その楽しみ方は千差万別です。
「カワイイ姿でコミュニケーションを楽しみたい」「普段は着られない服で非日常を味わいたい」、アバター改変がもたらす体験は、一言では語り尽くせません。
では、私たちはこのアバター改変を通じて、一体何を表現し、何を感じているのでしょうか? それは、理想の自分になるための「自己表現」だけのものなのでしょうか?
そのヒントを求めて、今回は6月15日よりVRChat内ワールドにて個展「私と広げる貴方の物語」を開催するフォトグラファーのYutanPoPoさんにお話をうかがいました。
改変したアバターを主役とした写真のみを展示する個展を通じて、YutanPoPoさんが見つめる「アバター改変とは何か」という問いに迫ります。

VRChatの写真には、特有のものがある
──まず今回の個展「私と広げる貴方の物語」のコンセプトについておきかせいただけますか?
VRChatではアバター改変が盛んで、アバターをそのまま使う人は少ない印象ですね。これはユーザーがアバターを自分好みにカスタマイズする文化が根付いているということになります。
今回の展示では数あるアバターの中でも「YOYOGI MORIアバター」のみを取り上げていますが、このYOYOGI MORIのショップ自体が特殊な立ち位置にあります。
YOYOGI MORIアバターは、イラストレーターが既にデザインし、キャラクター性を反映させたものをVRChat向けのアバターとして公開するというコンセプトで制作・販売されています。
──なるほど。もちろんデザインをイラストレーターに依頼するケースは多々ありますが、その中でもYOYOGI MORIから出ているアバターはいわば完成されたキャラクターとしての側面が強いと。VRChat向けのアバターは多くありますが、一般的なアバターとは少し異なるアプローチに感じます。
つまり、VRChatで広く使われることを前提としたアバターというより、1つの作品として完成されたアバターを使用しているのです。そのため、YOYOGI MORIアバターの愛用者には、アバター改変をせず、そのままの姿で楽しんでいる方も見受けられます。
アバター改変文化の中で、YOYOGI MORIアバターのように既にペルソナが確立されたキャラクターに対し、ユーザーがアバター改変を通じてどのように自身の個性を融合させ、表現していくのか。それが今回のテーマです。
写真を通じて、YOYOGI MORIアバターを使っている人の人間性や好みが透けてくるとおもしろいのかなと考えています。
──YOYOGI MORIアバターとユーザーの関係性から個々のアイデンティティを浮かび上がらせる、ということですね。写真の見せ方という点ではいかがでしょうか?VRChatの写真は、ある種独特の文化を持っているように感じますが、今回の展示ではそのあたりはどのように意識されていますか?
VRChatの写真は、作品としての写真というよりも、写真はあくまでも写真であるといった考えが強いと感じています。
たとえば、「おはつい」(おはようツイートの略。VRChat内で撮影したスクリーンショットと共に挨拶を投稿する文化)やアバター改変した写真などがありますが、写真自体に多くの情報を詰め込んでユーザーにかみ砕いてもらうというより、写真単体で見て楽しんでもらうことが多いように思います。
なのでVRChatで写真活動をされている方は、タイトルやキャプションを付けない人が多い印象です。そのため、今回の展示では写真にキャプションを付けない方向にしました。ただ、ギャラリーとしては「はじめに」と「おわりに」を展示しています。

デフォルトのアニメーションに携わったyoikamiさんにもお話を聞いたとのこと
ギャラリーの作りとして写真の並びに意味や作家性が出てくると思うので、今回の展示を通じてそれを示せればなと思っています。

撮影モデルとの対話によって作り出す1枚の写真
──展示されている写真は、YutanPoPoさんがモデルの方々を撮影されたものということですが、どのようなプロセスで撮影を進められたのでしょうか?
展示されている写真は、私が直接お声がけしたモデルの方々にご協力いただいたものです。

アバターはもちろん、ワールドにもこだわって選んでいます。モデルの方と改変しているアバターを見ながらコンセプトについておしゃべりし、好きなワールドをきいて、いくつか候補を出して撮影しています。
皆さん、アバターを改変する際には何かしらのコンセプトをお持ちです。単に見た目を変えるだけでなく、ご自身の「好き」や「理想」をどのように表現に落とし込んでいるのか。その背景にある想いや雰囲気を大切にしながら撮影を進めました。
──一枚一枚にかなりの時間と情熱が注がれているのを感じます。かなり撮影の手間が掛かりそうですが、どの程度時間を掛けていますか?
1人につき1時間程度かけ、ワールドを3つほど回って1枚を選び、展示しています。
──特に印象に残っている撮影エピソードがあれば、ぜひご紹介いただけますか?
ふぇりさんが特に印象的だったのでご紹介したいですね。

──これはまた……!どのようにしてこの「人魚」のような姿が生まれたのでしょうか?
別アバターの『ルルネ』の尻尾を使っているそうですね。元々はサメの尻尾だったものを巧みに組み合わせて人魚のようなシルエットを創り出しています。
──完成度高すぎて、そういうキャラクターデザインのアバターみたいですね……
この方とは、最初に色々な改変を見せてもらったのですが、私の目にふととまったのがこの改変だったのです。

──YutanPoPoさんの目に留まった、と。
でも、ご本人的にはイチオシというわけではなく、さらっと次の改変を見せようとしていたので、思わず「待った!」をかけました。なので、このアバターの選定はモデルの方の希望というよりは、私からのお願いで選んでもらったものになります。
ただ、改変を決めたところで、次にワールドをどうするかで悩みました。どのワールドでどんな雰囲気にするか、じっくり考えましたね。
──確かに、このアバターの魅力を最大限に引き出すワールド選びは難しそうです。最終的に、この写真のワールドはどのように選ばれたのですか?
ワールドを巡る中で特に意識したのは、尻尾の部分にあるラメの光りかたと、肌の青みです。さまざまなワールドを試しながら、ライティングによって肌が青く見えなかったり、光量が足りなくてラメの質感がうまく表現できなかったりといった部分を確認し、撮影場所を決めました。

裏話になりますが、実は僕のアバターにはライトを出す機能がありまして。撮影時には、モデルのアバターの下からライトを当てることで、ラメを引き出すといった工夫も凝らしています。

作品の配置も作家性
──ギャラリーの3階に上がりましたが、かなり大胆な配置ですね。絶対にアバターと目が合う。
ギャラリーをデザインすることも大事だと考えています。作家自身が展示構成を考えられるのであれば、それもまた一つの作品表現だと考えています。ただ自分の作品を並べるのと、コンセプトを持ってギャラリーを構成するのとでは、伝わるものが変わってきます。アバターの配置順番はもちろん、全体の配置に関しても念入りに指定させてもらいました。

今回、すべての展示をイーゼルにしましたが、縦型のレイアウトで、鑑賞者が見上げるような形にならないよう、一般的な女性アバターの目の高さに合わせて写真の中央がくるように調整しています。

──鑑賞者の目線の高さまで計算されているとは……! 細部へのこだわりがすごいです。
ギャラリーとして空間全体を見てほしいというよりは、1枚1枚の作品を丁寧に見てほしいという想いがあるので、1枚見終わった後に次にどの作品を見ればよいかが自然と分かるように配置しています。
アバターは自己表現か、それとも──
──ここまでお話をうかがって、アバターを使った写真撮影は、YutanPoPoさんにとって自己表現と深く結びついているように感じます。そのあたり、ご自身ではどのようにとらえていますか?
アバターの魅力は多岐にわたりますが、まずは「なりたい姿になれる」という点が大きいですね。現実でアニメのキャラクターのような格好いい男性になりたいと思っても、完全に再現するのは難しいでしょう。
でもアバターならば、見た目や性別に縛られず、自分のなりたい姿になったり、着たい服を着たりすることができます。これは文化的な背景などを抜きにしても、純粋に楽しいことですよね。

─確かに、現実の制約から解放されて「なりたい自分」になれるというのは、アバターならではの大きな魅力ですね。
でも、見た目だけではなく、精神的な面においても同じことが言えると思っています。例えば、現実では落ち着いている人でも、アバターを通じて派手な言動をするなど、普段とは違うあり方を選択できるのです。
──アバターは見た目のみならず、ロール(役割)もまた自由を掴み取れるアシストをしてくれると。
ただ、ここまで自己表現という側面をお話してきましたが、フィギュアを眺めるような少し引いた視点でアバターを楽しむ人もいます。アバターの姿が必ずしも「自分がなりたい姿」とイコールではなく、そのアバターの姿や世界観自体を見て楽しむというスタンスの方もいらっしゃいますね。
──「なりたい自分」としてアバターと一体化する楽しみ方と、ある種コレクションのように「見て楽しむ」スタンス、両方があるわけですね。
ですから、アバターへの向き合いかた一つとっても、その人の個性が出ます。VRChatの世界と自分自身を一体のものとしてとらえるのか、あるいは少し距離を置いた上でコミュニケーションの場として活用するのか、さまざまです。
──今回の個展で主に扱われているYOYOGI MORIアバターについてはいかがでしょうか?ユーザーはどのようなスタンスで向き合っていると感じますか?
やはりYOYOGI MORIアバターの場合は、元のアバターが持っているコンセプトやキャラクター性から大きく離れない方向性で改変される方が多かったです。
そのため、彼らのアバターへの向き合い方は、「このアバターは自分自身だ!」というよりは、「このキャラクターがこんな服を着ていたら素敵だな」といったスタンスに近いように感じました。ですから、アバターを自己表現の手段というより、純粋な自己満足として楽しんでいる方が多いように感じます。
──YOYOGI MORIアバターという確立されたキャラクターに対して、二次創作的な、いわばファンアートに近いような愛情表現として改変や撮影を楽しんでいる、ということですね。本日は、アバター改変や写真表現の奥深いお話をありがとうございました。

個展は6月15日から1ヶ月程度の期間限定公開
あなたがアバターに込める想いは何でしょうか?
その答えは、きっと一つではありません。そして、その答えを求める過程そのものが、アバター改変や写真撮影の醍醐味と言えるでしょう。
この記事を読んで、アバター改変や写真表現の新たな側面に気づかされた方、あるいは漠然とした興味が具体的な「やってみたい」に変わった方もいるかもしれません。
ぜひ6月15日から始まる個展へ足を運んでみてください。1ヶ月程度の期間限定のため、お早めに。