VRC〈ブイチャ〉で映画を撮る前に… 【第13回】デフォルトカメラを制する者が全てを制す

映画プロダクション「カデシュ・プロジェクト」代表のだめがねさんのVRChat映画制作するために必要なことをまとめた連載企画。第13回では、デフォルトカメラの機能について紹介。

13.映像作品を作る――――撮影その1…デフォルトカメラを制すものが全てを制す

今回からはサブタイトルを「映像作品作りの前に」から「映像作品を作る」と改め、いよいよ実際の映像撮影に関するお話をしていきたいと思います。VRChatで映像作品を撮影するにあたっては、欠かせないものが1つあります。そう、カメラです。今回は、VRChatのカメラについての基礎知識──カメラの持つ具体的な機能とその扱い方、それらの機能をどういった場面で使用したらよいのかについてお伝えしたいと思います。

(1)映像を撮影するうえでのカメラ選び

VRChatでは、標準で搭載されているデフォルトカメラのほか、有志による様々なカメラシステムが頒布・販売されております。そのどれもが映像撮影に使用することができる機能を持っていますが、果たして最適なカメラは一体どれなのでしょうか?──ありきたりな答えではありますが、これについては適材適所と言うほかありません。とはいえそれではコラムの意味がありませんから、ここは敢えて「デフォルトカメラが最良である」という答えを出したいと思います。他ならぬ筆者自身も、作品はほぼすべてデフォルトカメラで撮影しています。知る限り、筆者の親しい映像クリエイターもみなデフォルトカメラで作品を制作しています。理由は、以下の2点が挙げられます。

①信頼性

デフォルトカメラはVRChat公式が提供しているカメラですから、基本的にアップデートで使えなくなるということがありません。バグへの対応も非常に速いです。部分的にはより高機能なカメラもありますが、その高機能さゆえ、Unityの年度が替わるアップデートなどで破損する可能性も秘めています。制作者は有志なので更新対応をしてくれるかは分かりませんし、それを強要することもできません。映画の撮影は長期化することも多いので、こういった事態で不本意な撮影中断を強いられることがないよう、デフォルトカメラを選ぶ監督が多いのでしょう。

②汎用性

ひと昔前までは、後述する画角の調整などの機能がデフォルトカメラには存在しませんでした。そのため映像のみならず写真撮影の選択肢にも入りづらかったのですが、現在のデフォルトカメラはかなり高機能です。一方、専門性に特化した外付けのカメラシステムは、ワールド側との相性の問題などが細かく存在します。単純な優劣は付けられませんが、汎用性という点で言えばデフォルトカメラは他の追随を許さないと筆者は考えます。

こういった理由から、今回取り扱うハウトゥはすべてデフォルトカメラについてのお話に絞らせて頂きます。しかしながら、冒頭で触れた通りカメラ選びは基本的には適材適所です。デフォルトカメラ以外の主要なカメラシステムがそれぞれ得意とする分野も、念のため簡単にご紹介します。

VirtualLens2

外付けカメラシステムとしては最も普及しているもののひとつで、既に扱いに慣れている方も多いでしょう。その最大の強みは、「被写界深度シミュレーションの強さ」です。

被写界深度とは、ざっくり言えばピンボケの美しさです。映画のシーンというのはかなりの部分に深度ボケないし手ブレ(モーションブラー)が入っていますから、画面構成の美しさに直結します。一方、第12回でご紹介したワールドへのポストプロセス加工は、一部このシステムに対応していないものがあることに注意が必要です。

Integral カメラギミック

このカメラはなんといっても、長時間露光機能を搭載しているのが最大の魅力です。長時間露光とは、おしゃれなPVや写真でよく見かける、背景の車が移動に沿って光跡を描いて残ったり、歩行者の影が点々と残り続けたりする撮影技術のことです。こういった場面を撮影したい場合には、選択肢に入ると思います。

Flex FishEye Lens

読んで字のごとく、魚眼(フィッシュアイ)レンズ風の撮影を可能にするのがこのカメラシステムです。筆者も実際に使用しましたが、かなり綺麗な魚眼映像を撮影することができました。用途が明確なので迷うこともなく、持っておくと撮影の幅が広がるシステムです。

このように、外付けのカメラシステムは特定の用途に特化したものが多いです。慣れるまではデフォルトカメラを使用しつつ、撮影に慣れてきたら場面に応じて特殊なカメラを併用するのが理想的な撮影形態だと筆者は考えます。

そして、的確な使い分けをするためには、デフォルトカメラの機能も正確に把握しておくことが重要です。ここからは、デフォルトカメラの持つ機能のうち、撮影において頻出するものをご紹介いたします。

(2)画角を制御する

画角とは、カメラに映る範囲のことです。画角が変わると、カメラと被写体の位置関係がお同じでも、画面に映るものが大きく変わります。映像が与える印象も画角によって大きく変わるため、いわゆる映画監督の作家性はここに出ると言っても過言ではないほど重要な要素です。VRChatのデフォルトカメラでは右側の調整バーで画角を制御することができますが、操作にはややコツが要ります。それに、「画角」という言葉はなんだか難しい印象があり、アレルギーが出やすい方も多いと思います。そこで、今回は覚えなければいけないことを3つに絞りました。

①標準レンズ(50mm)

カメラの画角はずばり角度(°)で表す場合と、焦点距離(mm)で表す場合がありますが、映画のカメラにおいては焦点距離で表す場合が多いです。その中でも最も標準的なのがこの50mmレンズです。人間の安静時の視野角に最も近く、これを使用することで自然な印象を与えることができます。

日常のシーンや会話シーンなどに威力を発揮しますが、アルフレッド・ヒッチコック監督のようにほぼ全編をこの画角で撮影することにこだわる監督もいました。特に演出意図がない場合は、この画角で撮影するのが良いでしょう。調整バーを中央よりやや下あたりに合わせると、この画角で撮ることができます。

②中望遠~望遠レンズ(75~100mm)

望遠レンズは、ざっくり言うならば奥行きを潰して背景と人物の距離が近づけるためのレンズです。そのぶん映せるものは減りますが、画角による映像のゆがみがなくなって絵画的な印象の画が撮れるため、「映画っぽい!」と感じやすい人も多いのではないかと思います。

リドリー・スコット監督や黒澤明監督が好んで使用したのも相まって、大作感のある映像を作りやすい画角です。筆者も、50mmと10mm前後を併用して撮影するパターンが多いです。しかし、多用しすぎると窮屈な印象の画面になってしまうことに注意が必要です。

③広角レンズ(25mm)

広角レンズは、カメラの範囲内に多くのものを収めることができます。風景のショットや多くの人物が登場するシーンなどに適しています。一方、画面のゆがみが強くなるため、ビシッと決まった一枚絵は作りづらく、演出意図なく多用しすぎると間延びした印象の作品になってしまいます。

デフォルトカメラの初期画角もこの広角に分類されますが、中でも特に画角が広い(約14mm前後)位置に設定されているため、特に触らないまま撮影を行うと全編が超広角映像になってしまいます。

かなり駆け足でしたが、以上が映画における画角の基礎と、VRChatデフォルトカメラへの落とし込み方です。繰り返しになりますが画角は非常に重要な要素です。VRChat映画を撮ったときに「素人臭さ」が出てしまう場合は、ほとんどがこの画角調整の不足に起因していることが多いと筆者は考えています。映画を撮影するなら、何よりもまず覚えて頂きたいポイントです。

(3)フォーカスを制御する

画角に次いで重要なのが、フォーカスの制御です。フォーカスとはざっくり言うならばボケのことで、画面のなかでしっかりと映すものとそうでないものを分けてコントラストを付けることができます。iphoneのカメラに意図的にボケを強めて入れられるポートレートカメラが搭載されていることからもわかるように、ボケの制御は画面のリッチさに直結します。一切ボケのない映像を「パンフォーカス」と言いますが、演出意図なくこれを多用しすぎると、ホームビデオのような間延びした印象になってしまいます。そのため、基本的には「被写体にピントを合わせ、背景はぼかす」ということを意識して撮影を行うと良いです。

VRChatデフォルトカメラにおけるフォーカスは、「Aperture(アパーチャー、ボケの強さ)」と「Focus Distance(フォーカスディスタンス、対象をぼかす距離)」の2要素から成り立っています。また、それぞれの制御の自由度に応じて4つのカテゴリに分かれています。

①off

読んで字のごとく、フォーカス調整を使用しない状態です。デフォルトはここに設定されており、パンフォーカスの映像が撮影できます。

②Full Auto

「Aperture」と「Focus Distance」をどちらもカメラが自動調整してくれる状態です。カメラマンは被写体にピントを合わせるだけで済みますが、複雑なフォーカス制御はできません。

③Semi Auto

「Aperture」、つまりボケの強さのみを選べる状態です。「Focus Distance」は選べないため、ピントを合わせた被写体より近いもの・遠いものを自動でぼかします。静止した人物による会話劇や、被写体をカメラが追いかける場合など、カメラの中で被写体の位置が動かない場合に適しています。

④Manual

「Aperture」と「Focus Distance」の両方を手動で制御できます。4つの中で最も自由度が高いですが、使用難易度も最も高いです。被写体が画面の中で動き回ったり、複数の被写体が出入りしたりするなど、動きのあるシーンを撮る場合に適しています。

こういった機能の理解に加えて、VRChatデフォルトカメラの仕様についても知っておく必要があります。これらのフォーカスはあくまで現実のカメラの挙動を仮想空間内で機械的に再現したものなので、厳密にカメラとの距離でフォーカスが決まっているわけではありません。

そのため、一部の透過テクスチャやシェーダー(特にファー)は、ピントが合っているにもかかわらずボケてしまう場合があります。これらはUnity上で事前にアバターのRender Queueを調整することで対処することもできますが、どうやっても意図通りのピントにならない場合もあります。可能な限り本番の撮影前にカメラテストをして、入念に調整をしておきたいものです。

(4)デフォルトカメラの苦手なこと

ここまででご紹介してきたように、映画に必要なたいていのことはデフォルトカメラでこなすことが可能です。一方、苦手な分野については徹底的に苦手なのがデフォルトカメラの特徴でもあります。その中には、「デフォルトカメラではどうやってもできない」といった落とし穴もあります。それを知らずに試行錯誤を繰り返してもいたずらに時間を浪費してしまいますので、最後にそれらをご紹介します。

①一定速度以上・以下のドリー(カメラ移動)

デフォルトカメラが最も苦手としているのが、カメラの移動です。基本的に手に持って撮影することを想定して調整されているので、現実の撮影でクレーンやレールを使用して行うような正確な移動撮影は上手くできないことが多いです。唯一、ドリー(カメラ自体が移動する撮影)だけはドローン機能を使うことで補えますが、ドローンの移動速度の調整には限界があるので、超低速・超高速のドリーはできません。

②正確なティルト(縦移動)・パン(横移動)

ティルト・パンはどちらもカメラの移動を指しますが、先ほどご紹介したドリーとは異なり、カメラ自体はその場から移動せずにカメラの首を上下左右に振る移動のことで、被写体の動きを追いかける場合などに使用します。デフォルトカメラは動きが苦手なのは先述の通りですが、ドローンでカバーできない分、ティルトとパンは一層苦手です。

対処法はありませんので、外付けのシステムなどで補っていくことになります。筆者のスタジオでは、移動するチェア判定をアバター化することで、移動撮影の弱さをカバーしています。システムは無料配布していますので、よろしければ是非使ってみてください。

③露出の制御

露出とは、要するに画面の明るさのことです。F値とも言いますが、VRChatデフォルトカメラでは一切触ることができません。露出に手を加えたい場合は他のシステムを使用するか、編集時に対応することになります。

以上が、デフォルトカメラを使用した映画撮影に関するざっくりとしたおさらいです。今回は映画での撮影に絞ってお話をしましたが、デフォルトカメラの機能解説は、このメタカル最前線でもわかりやすいまとめ記事を出しています。併せて是非ご覧ください。

次回は、実際に映画撮影を行う方法と、特に難易度の高いシーンの攻略法についてご紹介します。

おまけ:こりゃ悔しい!のコーナー

コラムの最後に、筆者が「こりゃ悔しい!」と感じたまだ見ぬ名作VRChat映像作品をご紹介いたします。

第13回:無題(Skairu監督/2024)

先日タイムラインで見かけて衝撃を受けたVRChat映像作品です。第11回の記事にてVRChat映画における表情の重要性について触れたばかりですが、本作はその点において群を抜いた完成度を誇っていると思います。正直、ここまで精緻な表情のコントロールができるものなのかと驚きました。フェイストラッキングを使用しているのでしょうか?とても気になりますし、競争心を駆り立てられます。素晴らしい作品でした。

ABOUT US
だめがね
2020年、VRChatを開始。VR空間での映像撮影に可能性を見出し、クリエイターチーム「カデシュ・プロジェクト」を結成。 同スタジオの代表を務める傍ら、デザイナーとしても活動する。映画監督としての代表作に『プロジェクト:エメス』『掌』、 アートディレクターとしての代表作にVRChatワールド『Tokyo Mood by BEAMS』がある。