「MAISON DARC.」が新規開設 アルティメットゆいに聞くバーチャルファッションへの想い

2024年1月18日、バーチャルファッションブランド「EXTENSION CLOTHING」(以下、EXTENSION)で知られる3Dモデラー・アルティメットゆいによる新規ブランド「MAISON DARC.」がBOOTHにてオープンしました(BOOTHページ)。初段のコレクションテーマは「STREET GRUNGE」。リアルクローズ系の中でも、特にダメージなどが特徴的な「グランジ」を取り入れたストリートファッションを提供します。

すでに、バーチャルファッション界隈の中でもトップクラスの知名度を誇る「EXTENSION」を運営するアルティメットゆいさんによる新規ブランドの開設に驚いた方も多いのではないでしょうか。

2023年12月に開催された「Virtual Fashion Collection ”Voyage” 2023Winter」にて初発表となった同ブランド。「『EXTENSION』のワンランク上を目指す姉妹ブランド」「アイテムごとのコレクション販売」「リアルアパレルへの展開を目指す」など、大まかなイメージは語られたものの、今後どのような展開をしていくのかそもそもなぜ「新ブランド」を立ち上げたのか、など気になることが盛りだくさん。ということで、さっそくオーナーのアルティメットゆいさんに深掘りインタビューを実施してきました!

「EXTENSION」によりフルスイングするために新しい看板を作った

まず、案内されたのが今回のBOOTH開設に合わせて制作されたVRChat上のショップワールド「MAISON DARC․」。統一感のあるカラーリングに、店内のいたるところにあしらわれた「MAISON DARC.」のロゴ、高級感の溢れるワールドに少し圧倒されてしまいます。

――今回、ワールドも力を入れていると思います。こちらは、ご自身で制作されたんですか?

アルティメットゆい: そうですね。「EXTENSION」の時も自分で作っていたのですが、あの頃はもう「とりあえず作ってみよう」という感じで。今回はしっかりと、コンセプトも練ったうえで、モデリングとか、ライティングとかいろいろと。2週間少しくらいかけて作りました。

――すごいですね!ちなみに、コンセプトはどういったものなのでしょうか?

アルティメットゆい:バーチャルファッションのブランドの中でも「ちょっと手を伸ばせば、ちょっと頑張れば手が届く」みたいな。高級感はあるけど手は出しやすいという雰囲気を意識しました。だから、エントランスは高級ホテルとかを参考にしていて。ロゴをいろんなところにあしらって、アパレルショップらしい部分も強調しています。

――さっそくお聞きしたいのですが、すでに「EXTENSION」があるうえで、さらにプラスアルファ。新しく「MAISON DARC.」を立ち上げたというのはどのような経緯からだったのでしょうか?

アルティメットゆい:まず、「EXTENSION」って他のショップさんに比べても出品ジャンルがかなり幅広いと思うんです。ゴシックっぽいのもあれば、メイドもあるし、ダウンジャケットとかのストリートファッションもあれば、騎士もありましたよね。

もともと、自分が作りたいものを作って、ただ並べるだけというショップのつもりだったので、あまり一貫性がないんです。

そうした中で、だんだんとできることややりたいことも増えてきて。「こういうのも」「ああいうのも」とどんどん溜まってきて。最近は、それが原因で制作途中にコンセプトがブレちゃったりしたものもあって、少し行き詰まりを感じていたんです。

それで、どうやって解決しようと考えていたときに、「それなら、新しい別のブランドを立ち上げて、ショップを使い分けたほうが、それぞれにフルスイングできるんじゃないか」って。その方が、メンタル的にもやりやすいなと思いました。

アイテムごとの販売は「リバイバル」 「MAISON DARC.」が持つコンセプト

――「MAISON DARC.」のコンセプトはどういったものなのでしょうか?

アルティメットゆい:ひとつは「リアクロ」(リアルクローズ)です。「リアクロ」は、2023年を通してVRChatのバーチャルファッションにおいても、ひとつの大きなジャンルになったと思います。それこそ、現実のアパレルブランドの参入も増えて、リアクロがすごい勢いで身近になった1年だったなと。これは、自分も最初からやりたかったし、やっていたジャンルですし、ようやくみんなが求めてくれるジャンルに成長したから、ここでしっかりと「リアクロ」をテーマにしたブランドを創りたいと思いました。

もうひとつは、「マネキン買いが主流の改変文化に風穴を開けたい」という想いがあります。実は、現在のアバターファッションで主流になっている全身のコーディネートをフルセットで販売する形式って、ここ数年で浸透した比較的新しい販売スタイルなんです。私が「EXTENSION」を立ち上げたときはまだ、あまりなかったと思います。もちろん、これでアバターファッションの敷居が下がって、みんな改変を楽しむようになったのですが、逆にそれで失われてしまったものや、やりづらくなってしまった部分も正直あるのかなと。

――なるほど。「マネキン買い」って、そんなに最近のカルチャーだったんですね。それまではどういった雰囲気だったのでしょうか?

アルティメットゆい:私が「EXTENSION」を立ち上げたのが2021年12月頃でした。それ以前から、アバターファッションとか改変文化とかが好きで、よくBOOTHを眺めていたんですが、当時は基本アイテムごとでしたね。「○○アバター対応」みたいなものもあまり少なく、基本はBlenderを使って自分たちでフィットさせる雰囲気だったと思います。もちろん、ファンタジー系とかの衣装ではトータルコーディネートもあったのですが、まだジャンルも少なくて、それこそ「地雷系」とかはまだなかったんじゃないかな。「リアクロ」はほとんどなかったですね。

それで、最初の頃はそういった「ファッションを楽しむ」ということをバーチャルにも定着させたいということで、トータルコーディネートの衣装制作販売を始めたんです。

――「リアクロ」系でのトータルコーディネート販売というのも、「EXTENSION」が先駆的だったんですね。

アルティメットゆい:そうかもしれないですね。「EXTENSION」が段々と皆さんの間に広がっていく中で、同じような販売スタイルのショップさんが増えていったのかもしれません。当時って、ちょうどキュビクローゼットさんの「舞夜」とか、ポンデロニウム研究所さんの「桔梗」とかが販売され始めた頃で、それで一気に「人気アバターに対応したいろんな衣装が販売される」という現在のムーブメントが起こったんですよ。

筆者資料:アバターファッションの楽しみ方の典型例

――そう聞いてみると、「MAISON DARC.」がやろうとしている「パーツごと、アイテムごとの販売」というのは、「新しい販売スタイル」というよりは、むしろ原点回帰。リバイバルという見方の方が正しいんですかね。

アルティメットゆい:そうですね。やっぱり、改変する楽しさとか、アイテムを組み合わせてコーディネートする楽しさとか。「MAISON DARC.」では、コレクションごとにテーマを統一していて、それぞれのアイテムに組み合わせの互換性も持たせています。例えば、今回は「STREET GRUNGE」というテーマで全13アイテムを販売しましたが、これの組み合わせだけで何通りものコーディネートが楽しめます。

次回のコレクションまでの間にも、今回の「STREET GRUNGE」に追加する形で、春先までに何アイテムかリリースしようと制作中です。そうやって、コレクションの中でもいろんなコーデを楽しんでもらえると嬉しいですね。

さまざまな「仕掛け」を施した ショップワールド

――せっかくなので、ワールドももう少しご紹介いただきたいです。いまいる場所が「エントランス」ですが、ここ以外にも「Exhibition Room(展示室)」と「Owners’ Room(オーナーズルーム)」の2つがありますよね。

アルティメットゆい:まずは、今回のコレクションの紹介も兼ねて「Exhibition Room(展示室)」の方に行きましょう。

今回はコレクションテーマが「STREET GRUNGE」なので、ストリートっぽい内装にしてみました。ここのエリアは、コレクションテーマに合わせて、まったく新しいルームに毎回作り替えていく予定です。

商品展示のクオリティは落とせない……とギリギリまでこだわった展示エリア。
写真で見るとリアルのショップ写真と見紛ってしまうかも

ウィンドウで実際の商品がたくさん並んでて、それを見ながらどれにするか決めて、BOOTHで買って。リアルのアパレルショップに買いに行く体験に近いものを提供したいと思っています。

あとは、写真スポットとして「映える」造りも意識しています。いまの改変文化って、アイテムを買って、それで改変して、さらに写真に撮ってX(旧・Twitter)とかSNSにシェアするところまでを含めてのカルチャーだと思うんです。なので、最後の「SNSにシェアしたくなる写真を撮ってもらう」までをプロデュースできたらなと思って、ショップワールドは力を入れて作りました。

――あと、もうひとつ「Owners’ Room(オーナーズルーム)」はどういった目的のエリア何でしょうか?パスコードがありますよね。

アルティメットゆい:ここは、先ほどのエントランスよりもさらにくつろげるようなエリアとして作っています。まだ完成していないので、入れないのですが……

このエリアは、「MAISON DARC.」の商品を購入してくれた方に限定して入場パスワードをお伝えして、入れるエリアになります。購入者限定のVIPエリアですね。ここでは、作業インスタンスとかでゆっくりしてもらってもいいし、例えば「VIPエリア限定でノベルティアイテムのコードやリンクを掲示する」みたいな、ちょっと特別感のある場所にしていきたいなと考えてます。

――ノベルティいいですね。ゆいさんは、「EXTENSION」の頃から、新作衣装の購入者集会を行ってノベルティを配布するなど、購入者同士のコミュニケーションを促進するような施策にも力を入れている印象です。

アルティメットゆい:そこは意識してますね。あと、個人的にたまにワールドにある「宝探し」みたいなギミックが好きなんです。それで、知り合いのワールド制作者さんとかに相談していた中で、この「Owners’ Room」のアイディアが生まれました。

リアルアパレルにも負けないブランドに育てたい 「MAISON DARC.」で目指す野望

――そういえば、「Voyage」の際に紹介されていた「リアルブランドへの展開」というのは、どういった構想なんでしょうか?詳しくお聞かせください。

昨年12月開催「”Voyage” 2023Winter」より引用

アルティメットゆい:あれは意気込みみたいなもので、まだ具体的な計画とかは(笑) 

でも、できることからやっていきたいなと思っています。例えば、ワールドに展示しているタンブラーとか香水とか、そういうノベルティ系の小物などであれば、リアルにも展開しやすいかもしれないですよね。

やっぱり、2023年はリアルのアパレルブランドなどがVRChatのバーチャルファッション市場に参入してくるケースが目立った1年だったと思います。私も近くで見ていて、もちろん私自身も、もともとリアルアパレルが好きで、この世界でもファッションブランドを立ち上げているので、この活況はすごくうれしいんです。でも、VRChatってこれまでも個人のアマチュアクリエイターが頑張って創り上げてきた市場で、バーチャル発でも、アマチュア発でも、十分に戦えるんだっていうことを示していきたいんです。

「企業と対抗する」というと少し角が立ってしまいますが、きっとリアルのアパレルブランドもやってくる「リアルクローズ寄り」のブランドで、リアルアパレル出身の企業勢としっかりと渡り合える「バーチャル発のリアクロブランド」を創っていきたいんです。「MAISON DARC.」では、そこを明確に意識しています。その意気込みを込めて「リアルにも進出したい」と言うようにしています。

――ゆいさんは、もともとリアルのアパレルにも夢があったんですよね。

アルティメットゆい: そうなんです。もともと、アパレルがすごく好きで、アパレル販売やデザインをやっていたことがあったり。本職の方と違って、しっかりと勉強してきたわけではないのですが…… やっぱりそこは、コンプレックスとして在るのかもしれないですね。憧れみたいな、負けん気みたいな。

リアルのファッションブランドだと「BALENCIAGA(バレンシアガ)」とかが好きです。ブランドはもちろんですが、ハイブランドってデザイナーさんが複数のブランドを渡り歩くことがあって。いまの「BALENCIAGA」でデザイナーをしているデムナ・ヴァザリアさんは特に好きですね。その人の他のブランドにいたときのアイテムとかも好きなものが多いです。

なので、まずは自分が始めることのできた、このバーチャルの世界でしっかりと実績を積み上げていかないとと思っています。そういう野望もあって、「MAISON DARC.」は、リアルにも展開し得るジャンルであったり、造形のリアリティであったり、ブランディングであったりを意識しています。

――アツイですね。敢えてリアクロ路線で勝負に出るというのが「真っ向勝負」でめちゃカッコいいです。

アルティメットゆい: そうですね。「MAISON DARC.」って、このロゴでも表現しているのですが、「革命」がコンセプトなんです。「DARC」というのは、ジャンヌ・ダルクから取っていて、それでロゴにも旗槍をモチーフにしていたり。ちなみに、ワールドの中の随所にグリモワールみたいな、オカルトっぽい要素を取り入れているのは、ジャンヌ・ダルクが魔女裁判にかけられたということから来ています。

「EXTENSION」は同業のクリエイターに負けないようにこれまで以上に頑張りますし、そのうえで「MAISON DARC.」はバーチャルに参入してくるアパレルブランドだったり、リアルの世界にも負けないような、そんなブランドにしていきたいと思ってます。

●参考リンク
「MAISON DARC.」販売ページ(BOOTH)
「MAISON DARC.」公式X(旧・Twitter)
アルティメットゆい(X・旧Twitter)

ABOUT US
アシュトン「メタカル最前線」初代編集長
2021年3月より「VRChat」はじめソーシャルVR/メタバースの魅力を発信するメタバースライターとして活動。週100時間以上仮想空間で生活する「メタバース住人」として、AbemaTV「ABEMA PRIME」、関西テレビ「報道ランナー」、TBS「サンデー・ジャポン」ほか多くのメディア取材を受ける。2022年4月に「メタカル最前線」を創刊。