VRChatをやっていると、かなりの頻度で思うことがあります。
「Unityが分からん……」
そもそもアバターをアップロードするのにSDK(開発者キット)が必要な時点で、普通に考えるとハードルがとんでもないものです。このハードルの高さが、ゲーム開発者ならゲーマーならば問題ないかもしれません。
ですが、今やVRChatでの楽しみ方は多種多様。そして関わっている人も、もはやゲームとは無縁の人も珍しくありません。Unityがゲームエンジンであることも知らない人がいてもおかしくないでしょう。
そして「Unityが分からん」と感じたときの1つが、バーチャルマーケット(以下、Vket)へブースを出展するとき。フレンドとの会話でブースとか出してみたいよねと話したことがありますが、作ろうと考えてみたときに本当に難しいのです。
ブースを作るのにも、まずは外観や内装を作らなければなりません。そして、アイテムのピックアップやコライダーの設定も必要です。先程は「Unityが分からん……」と思っていたらブースを作ろうとすると「Blenderが分からん……」が待っています。このときのUnityとBlenderは、さながら仁王像の2体がにらみ並び立つようなものです。
そんな中でVketを運営するHIKKYから1つの発表がありました。
「Vket Booth Maker」の発表です。どうやらVketに出展するためのブースをブラウザ上で作れて入稿できるサービスとのこと。ブースを作るためのパーツやテンプレートは、ユーザー制作の商品も使え、商品を売買するためのイベント「Vket Booth Marche」も開催することも発表されました。
これは……チャンスなのかもしれません。
これまでHIKKYは、My VketやVket Cloudで「ブラウザ」でできることを増やしてきました。最近ですと、オリジナルのVketちゃんを作るアバター制作機能も出していました。これは、今後UnityやBlenderを使えない人にとっての救世主になるのでは!
Vket Booth Makerがどのような試みなのか知るべく、今回はHIKKIの動く城のフィオさんにインタビューして聞いてきました。
多様化していくVRChatと共に歩んだVketの“過去”
ーー今回発表されたVket Booth Makerはどのような背景で出来上がった取り組みでしょうか。
動く城のフィオ(以下、フィオ) HIKKYの話というよりは、ソーシャルVR全体の話になりますが、ソーシャルVRの過ごし方が年々多様化して面白くなっています。Vketを始めた当初は今ほど遊び方が多くなくて、アバターや着る服もありませんでした。
バーチャル空間のアイテムを増やしたいと思いVketを頑張ってきましたが、だんだんと3DモデルやUnityの扱いが得意ではない人も増えてきている現状にあります。必要な技術は昔から変わらないけども、追いつける人だけではなくなったわけです。
Vketは最初期は3Dモデルの展示会から始まり、今ではイベントの出展もできるバーチャル界における総合のお祭りになってきました。より多くの人にVketに出展する楽しみを味わってもらいたいと思い、取り組みました。
Vketに行くと何かしらアバターや衣装などの出会いがあり、持って帰ってくるものがあると思います。Vketとしては、より持って帰ってくるものの幅を広げたいんですよ。
たとえば前回から新たな出展方式として加わった「コミュニティ出展」は、接客系イベントやDJイベントなどといった人たちにも参加でき、来場者にイベントとの出会いの場を増やすために設けた方式です。
なのでコミュニティ出展では、ブースが作れない人でも参加できるように画像だけの入稿で済ませられるようにしています。普段はパフォーマンスなどで楽しませている人たちが、Vketに参加するためにブースを作るのは、なかなか酷な話ですよね。
なので、これまでにも出展形態を増やすなど、より多くの人に楽しんでもらえるようなハードルを下げることをしてきています。Vket Booth Makerは、ハードルを下げるための取り組みの一環というわけです。
ーーVket Booth Makerを発表した生配信では、バーチャルマーケット2024 Summerから増える新たな出展方式として映像出展とポータル出展を発表しました。これもまた、多様化する遊び方とハードルを下げる一環になるのでしょうか。
フィオ そうなんです。映像出展は、ミュージックビデオや映像制作団体で活躍している人たちにも出会える機会を設けたいと思い作りました。ポータル出展は、これまでのVketでは扱いきれなかったワールドの部分にもフォーカスした取り組みです。
ーーこれまでワールドの出展となると、販売されているワールドを模型で展示するといったアプローチぐらいですよね。
フィオ ワールドの導線上にポータルを配置すると離脱してしまうといった問題があったので、これまでやってこなかったのもあるのですが、なんとか折り合いをつける方法を今探しているところです。
ーー現状のVketではブースの当選倍率が高く、参加できないといった声もあります。今回のような参加への緩和をするとなると、より倍率が高くなると考えられますが対策はありますか。
フィオ Vketとしてもかなり運が良くないと当選出来ない事態として認識しています。とはいえ、応募者を全員受け入れるといったことも難しいです。過去のVket5で実際にやってみたのですが、現在の倍ほどのサークルが参加して会場が回りきれない事態になりました。
なので、申込数に対して受け口をどうしていくのかは慎重に検討を進めています。今年の夏は難しいと思いますが、冬以降に具体的に当選率を上げていく取り組みができるようにしていきます。
多様化した“今”だからこそ出せるVket Booth Maker
ーーここまでVket Booth Makerが出来上がった背景について触れてきましたが、改めてVket Booth Makerの機能について聞いてもよろしいでしょうか。
フィオ 一言で言うと「Vketに出展するブースをブラウザ上で作れるサービス」です。です。具体的には3つの機能があります。
1つ目は、ブラウザ上でパーツを組み合わせて展示ブースを作る機能。
2つ目は、パーツを販売するマーケット機能。Vket側が用意したパーツ以外にも、ユーザーが作ったパーツを売買することでパーツを増やせます。UnityやCLIP STUDIO PAINTに同じような機能があると思いますが、近い機能がVket Booth Makerにもあるとイメージしてもらえたらと思います。
3つ目は、作ったブースをブラウザ上から入稿できる機能。なので、Vketの参加者にとっての新たな入稿方法ですね。これまでは、自分でUnityを使ってブースを作り、入稿ルールをクリアするように苦心して行っていたのが楽になるといった感じです。
ーー機能から考えるに、使うユーザーはVketの出展者とマーケットでパーツを販売する人でしょうか。
フィオ 基本的にそうなりますが、全員に向けて機能は開放されています。理由としては、すでにサービスを提供しているMy Vketのハウジング機能の拡張としてリリースされるからです。
ハウジング機能では自分の部屋で家具を配置して作り上げることができますが、Vket Booth Makerはさらに発展させた形です。
なので、Vketの出展を考えていない人がブロックで遊ぶ感覚で触れてみるのも歓迎です。
ーーVket Booth Makerの操作方法はMy Vketのハウジング機能に近いものと考えてもよろしいでしょうか。
フィオ ベースは同じ操作感ですね。MyVketなので、スマホでも動かせます。寝る前にベッドでブースを組み立てるのもいいと思います。ただVketの入稿には制限がありますが、Vket Booth Makerの機能にチェッカーを盛り込むと大変なことになるので、Vket Booth Makerでは簡易的なレギュレーションにしています。
ーーMy Vketを活用したとなると突発的な取り組みといったわけではなく、長い事積み重ねてきたが故に実現したことなのですね。
フィオ Vket Booth Makerは、私がずっとやりたかったことなんですよ。Vketが始まったのが2018年の夏なのですが、Vket Booth Makerの構想は2018年の秋頃にはメモしていました。
メモには、ブラウザ上でパーツを組み合わせてブースを作る機能だったり、パーツを出品できる機能だったり、今のVket Booth Makerにある機能や仕組みがありました。Vketの中で、ブースをコンテンツの中心にしてエコシステムを作り上げていくといった構想です。
2018年当時だと出展者がクリエイティブで全部自分で作る人がほとんどだったので必要ではありませんでしたが、時代が変わり出展者の層も変化しました。その結果みんなが0からブースが作れるとは限らなくなったため、アイテム出展といった取り組みも受け入れられるようになったと思います。
HIKKYとしても、My Vketでブラウザ上でブースを作れるようになりました。そして、今回のVket Booth Makerはブースのエコシステムがそろそろヒットする頃になったかなと思い、発表しました。なので、ずっとやりたかったことなんですよね。
ーーVket Booth Marcheについて聞いていきたいと思いますが、こちらはどういったイベントでしょうか。
フィオ Vket Booth MarcheはVket Booth Makerに使えるパーツの展示会です。
ーー発表の生配信で言ってましたが「VketのVket」ということですね。
フィオ 「VketのVket」です(笑)夏のVketに向けてブースを作る人がどのように作るかアイデア探ししている人が集まるイベントですね。クリエイターが作ったブースのパーツが置いてあって、良いものがあれば購入してブースに使ってもらえたらと思います。
ーーちなみに出展するアイテムは、過去に使っていたものを流用しても大丈夫でしょうか。
フィオ もちろん大丈夫です。これまでVketで出展してきたブースは6000を超えます。全部のブースが単一のパーツで作られたわけではないと思いますが、膨大なパーツがあると思います。過去に出展したときに作ったパーツをVket Booth Marcheに出展していただきたいですね。
ただブラウザで動かす都合、仕様としてファイル形式がVketの出展に使ったFBXではなくGLBになることだけ注意してもらえると助かります。ファイル形式の都合で、シェーダーなどの表現がリッチに使えない場合があります。もちろんVket側で対応するためのヘルプなどのドキュメントを充実させるので、参考にしてください。
ぜひ過去に出展した方々は、パーツください!
「Vketの民主化」を見据えた“未来”
ーーVket Booth Makerの今後について聞いていきたいと思います。エクスポート機能を将来的には実装するとのことですが、どのような活用を想定していますか?
フィオ 最初はVketに入稿する手段としてVket Booth Makerを公開しますが、将来的にはブースを使った遊びとして拡張していきたいと考えています。今の機能だと、Vketを1回出展したらおしまい、もしかしたらパーツは次回にも使われるぐらいの用途です。
素晴らしい用途ではあるものの、ブースを作ることはもっと遊べると思っています。例えば、ブースを作ったらVketの出展以外にも別のイベントで賑やかしとして配置するみたいな活用もあるのではないでしょうか。
後はVketの出展者間であるやり取りなのですが、アバターにブースを仕込んで見せ合うことがあります。仕込むときにVket Booth Makerのエクスポート機能で楽にできたらいいですよね。
あるいは出展者以外にも使える方法も考えられて、Vket Booth Makerを使ってVketの戦利品を並べるのに使うのもいいと思っています。
他にもいろいろあると思いますが、ブースの作り方や遊び方をより広げていきます。なので、エクスポート機能はブースの活用方法を開発していく感じですね。
ーーVket Booth Makerはブースに参加する側に向けた機能になりますが、イベント運営側にも使える機能なのかなと思いました。イベントを運営する側にとっても、入稿するときにVket Booth Makerで作れば統一規格で管理しやすいといったメリットが思い浮かびます。将来的には、イベント運営側にも目を向けた取り組みはしていきますか?
フィオ 質問の通り、Vketのような複数人のクリエイターで作るコンテンツは大変なんですよね。1人で作る場合は自分が扱えたらいいのですが、複数人だと仕様をまとめないといけません。それこそ、Vketは2018年から複数人で作ったコンテンツを1箇所にまとめていくことをしていき、ノウハウ化しました。コンテンツをまとめることのノウハウを、なるべくなら共有していきたいと思っています。
「Vketの民主化」と言ってきましたが、Vket Booth Marcheは民主化への1歩でもあります。
Vketではさまざまなジャンルが取り揃っています。民主化が進んでいけば、例えば特定のアバターの衣装を取り揃えた展示会をVket Booth Makerを使ってワールド内で配置できます。そこら中にミニVketが発生するかもしれません。
またコンテンツの群としてブースを考えられますね。例えば、バーカウンターの内装とギミックが搭載されているブースがあるとしましょう。このバーカウンターのブースを自分のワールドを作るときに持ち込むといった活用方法も考えられます。自分の創造力でコンテンツを作りたい人には応えられないかもしれないけども、簡易的にワールドを作りたいときには活用できるようにしたいですね。
なので今の段階では考えていませんが、将来的にはVket World Makerになるかもしれませんね。
でも、まずはVket Booth Marcheを使ってブースが出展できるようにして、簡単に参加できることを推していきたいですね。
先程も話しましたが、過去に出展したブースのパーツを取り揃えたいので、ぜひVket Booth Marcheへの出展をよろしくお願いします。
ーーありがとうございました。Vket World Makerをはじめ、夏のVketに向けて頑張ってください。
Unityいらずで簡単にブースができるのか~って思って話を聞いてみたらソーシャルVRの変化を知れるインタビューでしたね……
ソーシャルVRでの遊び方が多様化していくことは、携わる人も多様化していくことでもあります。Vketがバーチャルにおける「総合のお祭り」であるようにするためには、多様化していく遊び方に適用するのも道理でしょう。また従来のようなブースを0からつくる人でも、万が一間に合わなくなったときの保険にもなります。
そしてVket Booth Makerの価値がより発揮されるためには、ユーザーによるパーツ販売が活発になることが不可欠。ブースを作ったことのある人ならば気軽に商品が出せるはずです。
出展応募フォームは3月22日まで受け付けています。その後、3月31日までにデータ提出を行う形です。今ならまだ間に合う!
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