アバターを使ってコミュニケーションを取るメタバースの世界では、アバターに触られた時に実際に自分の身体を触られたように感じる「VR感覚」(ファントムセンス)というものを持っている人が一定数居ますが誰しもが持っているわけではありません。
そんな「アバターに触れられた感覚」をハードウェア的な方面で体験することができるようにしたのがbHaptics社が開発・販売している触覚スーツ「TactSuit X series」です。
「TactSuit X series」は上位モデルの「TactSuit X40」と下位モデルの「TactSuit X16」があり、執筆時点においてAmazonでX40が7万380円、X16が4万2100円にて販売されています。本記事では下位モデルである「TactSuit X16」を実際に着用して「Neos VR」と「VRChat」の2つの世界で体験した内容をご紹介していきます。
- アバターに触られた感覚を自分の身体で感じてみたい人
- ワールドやアイテムの演出をよりリアルに体験してみたい人
- パーティクルライブやDJ系のイベントで音圧を感じたい人
上位モデルと下位モデルでは振動箇所数やバッテリーの持ち時間などに違いがあります。
ハードウェア仕様について
大きさは「幅約50cm×高さ約52cm」で、全体的な形状としてはベスト型で防弾チョッキのような見た目になっています。
- 製品名:TACTSUIT X16
- 型番:BHTV16D000
- フィードバックポイント(振動箇所):16箇所(胸側8箇所/背中側8箇所)
- 重量:0.95kg
- サイズ:胸囲:約63.5~127cm 幅:約50cm 高さ:約52cm
- 稼働時間:22時間
- 接続方式:Bluetooth
- バッテリー:リチウムイオンバッテリー(3.63V,4900mAh,17.787Wh)
- 充電時間:2.5時間 5V,2A(max)
- 販売サイト:Amazon
こちらが振動モーターで、胸側に8個・背中側に8個の計16個付いています。
付属品として、PCとの接続用の「Bluetoothドングル」と充電用の「USB Type-Cケーブル」が同梱されているため、これらの製品を所持していなくても事前に購入しておく必要はありません。
触られたときどんな感じ?
さて、皆さんが気になるのはやはりアバターに触られた時実際にはどう感じるのかという点でしょう。
下位モデルのx16でも前後に8個ずつ分かれているモーターがアバターの胸側と背中側にある判定部分に他ユーザーの指などが触れた時に、その部分に該当するスーツ側のモーターが精度高く振動するので、視覚効果も相まって「その部分が触れられている」という感じは強くあります。
視覚効果という部分では、胸やお腹辺りなど自分の視界内に収まる箇所は他のユーザーから触られても気がつくことができますが、背中側については気がつくことができないため急に触れると身構えられないので結構びっくりします。
また、触覚スーツの構造上抱きつくような動作をされても全身のモーターが振動するだけであまり抱きつかれているような感覚は無く、どちらかと言えば「ツンツン」や「ナデナデ」あるいは「人差し指で円を描くように触る」といった少ない箇所が振動する方がそれっぽく感じます。
こちらの項目はVRChatでの体験の内容になります。
ネイティブ対応してるNeos VR
Neos VRはTactSuit X seriesのネイティブ対応コンテンツとなっており、手順としてはスーツを制御している専用ソフト「bhaptics Player」を立ち上げNeos VRにログインするだけで簡単に様々なハプティクス対応コンテンツを楽しむことができます。
まず紹介するのはNeos VR公式による「Sojourner Island」というワールド。
景観としては広大な島で、設置されている多くのギミックで様々なハプティクスを体験することができます。
最初は滝のゲート、この中を通ると前から後ろに通り抜けて行く振動が来ます。
こちらのシャワーもアバターに水が掛かる位置に来ると実際に自分も浴びているような振動がありました。下位モデルのx16では単純に振動するだけですが、上位モデルのx40では水が上から下に流れていくような振動が体験できるとのことです。
たくさんある水鉄砲も全てにハプティクス設定が入っており、命中すると振動が来るのでスーツ着用者同士で打ち合うと中々面白い体験に。
ワールド内を自由に飛行することができるこちらのグライダー。コンタクトメニューから移動方法を「歩行」もしくは「ノークリップ」にした状態で装備して飛行すると風を浴びながら進んでいるような振動が来ます。
「Sojourner Island」にはここで紹介した以外にも様々なハプティクスを体験できるギミックがあります。気になった方はぜひ行ってみてください。
次に紹介するのはべるネさん制作の「Center Control Room」というワールド。
こちらはとある施設で地震が来る様子を体験できるドキュメンタリー性の高いワールドです。
奥の部屋に進み、モニターの前にあるSTARTのボタンを押すと少ししてから緊急地震速報の音声が。
やがて視界がグラグラと揺れ始めて、それに合わせてスーツの方にも振動が来始めます。
揺れている時間は約2分間ほどとのことですが、視界の揺れ+スーツの振動で臨場感が高くいつ収まるのだろうと少し不安になってしまうほどでした。
揺れが収まった後に見てみると、引き出しが開けっ放しになってたりホワイトボードが倒れていたり細かい部分まで作り込まれています。
こちらのワールドの内容自体はスーツ無しでも体験することができますが、スーツを着用することでより臨場感のある体験ができます。
スーツ着用で体験する際は、ぜひ実際に立った状態で体験することをオススメします。万が一倒れたりしても大丈夫なように周りに障害物が無い状態にしておきましょう。
最後に紹介するのはグループで開発・運営を行っているNeos VR内に存在する「Club Pulse」というクラブハウスワールド。
こちらのクラブハウスには「音圧体感システム」が用意されており、専用の音符型アイテムを腕に装着することで流れている曲に合わせてスーツ側に振動が来るようになります。
VRでのクラブイベントは現実のクラブイベントに比べると再生機器が個人に依存してしまう関係上、音圧を感じにくいというデメリットがありますがこの音圧体感システムと触覚スーツを用いることでVRでも流れている曲の音圧をリアルタイムに感じることができ、より曲にノることができます。
「Club Pulse」では定期的にDJイベントが開催されており、次回の開催予定は6月4日となっています。
ハプティクススーツを着用しているユーザーが集まることが予想されるので、実際に着用しているユーザーに話を聞いてみたいという方は足を運んでみるといいのではないでしょうか。
ここからはアイテムの紹介に移ります。
Neos VRではユーザが作成・共有できるアイテムがあり、この中にハプティクス対応の物もいくつか存在しています。
まずは「首振り扇風機」、羽の正面方法だけハプティクスが設定されているので首振り状態にすると左右に風が流れていくような振動を体験できます。
続いてはこちらの「ゲート」。
一見すると普通のゲートですが、この中を通るとSojourner Islandで滝のゲートを潜った時のような前から後ろに振動が流れるなんとも言えない感覚に。
こちらは向きを変えれば頭からお腹へ、あるいはその逆といった上下方向に通っていくような振動を体験することもできます。
最後はこちらの「目覚まし時計」。使い方は簡単で起きたい時間を設定してスイッチをオンするだけ、後は時間になると設定した人のスーツが振動するというもの。
何か特定の振動をシュミレートした物ではありませんが、これでVR睡眠していても規定の時間に起きれること間違いなしです。
おすすめするポイントや注意点
Neos VRの紹介部分で音圧体感システムがあるワールドについて触れましたが、実はスーツを制御している「bhaptics Player」側にも同じような出力音声に連動して振動するモードがあり、こちらを使用することでVRChatでもパーティクルライブのワールドやクラブイベントで音圧を感じることができます。
ただしこのモードはあくまでも出力音声だけを見て振動具合を判定しており、音楽で無い他ユーザーの声などにも反応してしまうため適宜手動でオンオフする必要があります。
注意点としては大きく2つあり、まず1つ目はHMDからの音声を聞く際に使用するイヤホン/ヘッドホンに関する物。
触覚スーツはモーターを動作させて振動を生み出しているため、モーターの動作音がそれなりにします。
このモーター動作音が聞こえると体験の阻害になってしまうため、純粋な振動だけを体感するために密閉型のイヤホン・ヘッドホンを使用することが推奨されます。
2つ目はスーツの着用方法に関する部分で、このスーツは前後の締め具合を左右2本づつのベルトで調整することができます。
しばらく使っているとこのベルトが緩んでくることがあり、そうなってしまうと感じる振動が弱くなってしまうため適宜締め直すとよいでしょう。
VRChatへのセットアップHOW TO
VRChatは、記事執筆時点ではNeos VRのようにネイティブで対応はしていません。しかし、有志によって開発されたMODをアバターに導入することでVRChatでもアバターに触られた感覚をスーツにフィードバックすることが可能になります。
ここからは、こちらの安住ゆらさんが書かれた記事を参考に、VRChatで使用するための簡単なハウツーを紹介していきます。詳細な導入方法については、下記note記事を参照ください。
●bHaptics系のベスト[ Tactot DK3 / TactSuit X40 (X16) ]をVRChatで使う方法-安住 ゆら (AzumiYura_VRC)
著者の安住ゆらさんには掲載許可をいただいております。
1,「av3-animator-as-code」をダウンロード後、解凍して対応させたいアバターのプロジェクトに導入。
2,Avatar Descriptorが追加されているオブジェクトを選択して、Add Componentから「bHapticsOSC Integration」を追加。
3,bHapticsOSC Integrationから接触判定の追加操作を行うと上記画像のようにアバターがスーツを着た状態に。
4,この状態になれば後はbHapticsOSC Integration内の「show mesh」のチェックを外してスーツのメッシュを非表示の状態にし、通常時と同様にアップロード。
記事を参考に上記の操作を行うことで、アバターに接触判定を追加することができます。
対応させたアバターに着替えた状態でEXメニューを開き「Option > Config > AvatarOverlay > Contacts」と操作し、Contacts判定のデバッグ表示をして頭や手などに初期状態で入ってる黄色い丸以外で胸周りに複数の青い丸が表示されていればOKです。
総評
冒頭でも触れた通りVRChatやNeos VRといったプラットフォームでは、様々な動作・演出があるアイテムで遊んだりスキンシップとして相手のアバターに触れたりといったことが日常的に行われていますが、これらは全て視覚として見えるだけで多くの人は実際に自分の身体でそれらを感じることはありません。
触覚スーツを用いることで、Neos VRでは様々なアイテムの効果やワールドの演出を実際に体感でき、VRChatでは他のユーザーからアバターに触られた時に本当に自分の身体に触られているような感覚を体験することができるようになります。
視覚だけでなく体感として感じれるようになると自分がその世界に居るという感覚もより強く感じるように。「視覚効果だけじゃ物足りない!」「実際に触られてる感覚を体験してみたい!」という方はぜひ買い求めてみてはいかがでしょうか。
●参考リンク
・bHaptics系のベスト[ Tactot DK3 / TactSuit X40 (X16) ]をVRChatで使う方法-安住 ゆら (AzumiYura_VRC)
・bHaptics TactSuit X16販売リンク(Amazon)
・公式サイト