旅と、タグと、バーチャルFoxと ヤタノさんにワールド探しの極意を聞いてみた

皆さんは、旅をしているでしょうか、現実で旅なんてしてないよ、といった方でもVRChatではワールドを巡ったり、ゲームワールドで遊んだりして「旅」をしていると思います。

今回5月のメタカル最前線の特別便として、1600以上のワールドを紹介しているバーチャルFOXのヤタノさんにお話を聞き、ワールドの探し方やヤタノさんがなぜワールド紹介を始めたかを聞いてみました。

ワールド探しのカギは「タグ」

――まず最初に、ヤタノさんの活動内容について簡単に教えていただければと思います。

ヤタノ 普段からVRChatをメインに活動し、毎日ワールドを色々と回ったり、それを簡単に2分20秒ぐらいにまとめた動画を投稿しています。あわせて、週1で雑談配信を行ったり、VRChatで活動している方々とコラボ配信をさせていただいたりしています。

一応名義としては「バーチャルFOX」を名乗らせていただいております。

――ワールド紹介以外に取り組んでいる物があれば、教えてください。

ヤタノ 不定期になりますが、VTuberさんとコラボしたり、お仕事としてワールド紹介動画や、イベントの紹介動画を作っています。あと、VRゲームのレビュー動画を投稿したり、週1でゲーム配信をしたりしています。

――ワールド紹介の頻度は毎日なのでしょうか?

ヤタノ 特に何も無ければ、ほぼ毎日、大体3年前くらいから途切れず継続してやらせていただいております。

――3年となると、単純計算で365×3なので、1000件超えますよね。

ヤタノ そうですね。3年で1000件を超えて、途中でちょっとやり方は変えたんですが、それでも途切れることなく続いています。

――それだけの数のワールドを、ヤタノさんはどうやって調べていますか?

ヤタノ 基本的にWorldの一覧を開いて、「New」とか「Community Labs」の欄を確認します。その中でサムネイルや、訪れてる人の人数をざっくり確認しながら、気になったワールドの詳細を確認しています。 

私だったらゲームワールド中心に、何かしらのギミックが動かせるかどうかを確認しています。基本的にタグの欄に「game」がついている事が多いですね。ホラーだったら「horror」、物語を楽しめるものだったら「story」といったタグが付いてるのを確認して、気になったものがあったら、1回自分で行ってみますね。

――タグに関しては僕も含め軽視している人もいるかと思います。やはりワールドを探すときの注目ポイントなのでしょうか?

ヤタノ そうですね。たとえばこのワールドのような、落ち着く雰囲気のワールドだったら「chill」などのタグが付いていますね。ごくまれに何もタグが付いていなくて面白いワールドもありますが、しらみつぶしに探すよりもやりやすいと思います。最近はホラーワールドだと特殊なタグ(※)が表示されることも増えたので、ワールドを探すときは、タグが本当に役立っていますね。

※編集注:「Content Warning」システムを指す。ワールド内に個別に設定できる特殊なタグ情報で、通常のタグの上に表示される。現在設定できるタグは以下の5つ。

・Sexually suggestive : 性的表現

・Adult language and themes : アダルトな表現/テーマ

・Graphic violence 生々しい暴力

・Excessive gore 過度の流血表現

・Extreme horror 過激なホラー

3年で1000ワールドめぐったバーチャルFOXイチオシのワールドは?

――ヤタノさんのワールド紹介動画は非常にコンパクトにまとまっていますが、ワールドを紹介する時に人を引き込むコツのようなものがあれば教えていただきたいです。

ヤタノ 私は、消費者的感覚でやっている所があって、自分で何かやったり、雰囲気を味わった中で、自分でも面白いなって思ったところをプッシュしていますね。やっぱり、自分で面白いと思わないとおすすめしにくいので、そこは念頭においています。

――ヤタノさんはこれまでも沢山のワールドを紹介していますが、その中でも「1番このワールドが面白かった」と思えるワールドを教えてください。

ヤタノ 「우왁굳의 진검승부」というワールドが特に面白かったですね。赤と青の陣営に分かれて、刀を使った1vs1の決闘をするワールドです。面白いのは、HP(体力)は100なんですけど、足は30、胴体は70、首は100と、斬った場所でダメージが違うんです。しかも刀同士が干渉するので斬り合いが発生したり、振ってると思ったけど振れてなかったり、避けたと思ったけど斬られていたり、とすごくリアルなんです。

HPも刀の手元に表示されるので戦闘中ほとんど見えなくて、逆に相手のHPは頭上に見えるので、「自分のHPはどれくらいあるのか」みたいな事を気にする必要があって、そういう駆け引きが楽しめるところが面白いワールドだと思ってます。

それと、私が行った際には、刀の使い方に詳しい人がいて、VRは斬られようが叩かれようが痛みはないのに、その人が立っているだけなのに圧みたいなのがあって、斬られそうなときにはかなり緊迫感がありました。それも印象深いですね。

――ゲームワールドの中でも臨場感や駆け引きがしっかりしたワールドって珍しいので、貴重ですよね

ヤタノ そうですね。あと、ワールドを紹介した動画が今まで上げた動画の中でもけっこう伸びたっていうのがあって、それも含めてよく印象に残っています。

――ゲームワールド初心者でも楽しめるゲームワールドがあれば教えていただきたいです。

ヤタノ 最近だったら、とみー/Tommyさんという方が制作している「MagicArena」がオススメです。PvPのワールドなのですが、他のワールドだと銃で戦うものなどが多い中で、めずらしく魔法で戦うワールドなんですよね。

ヤタノ 大きな特徴は、テレポートや巨大なハンマーの召喚、味方へのバフや敵へのデバフなど、あらかじめ用意されている魔法を、ある程度自由に編成できるところです。あと、魔法の杖を使って魔法を発動するので、ロールプレイがしたい人でも楽しむことができます。杖を非表示にすることも可能なので、自分の持ってる杖を使って、魔法を唱えたりすることもできますよ。

でも、何から何まで自由というわけじゃなくて、「同じ色の魔法は連続して発動できない」といったルールや、クールタイムなどの制限もあるので、結構ちゃんとしたゲームワールドになっていますね。

プレイモードも豊富で、2人なら1対1で戦えますし、大人数向けにポイント制やライフ制、デスマッチといったルール変更もできます。

なによりエフェクトが派手ですね。隕石を落とす魔法や、巨大なハンマーを呼び出す魔法など、ド派手な魔法攻撃を打ってるだけで楽しいです。ゲームワールドとか苦手だよ、という人でもおすすめできるワールドかなって思ってます。

憧れだった「旅」ができる世界――ワールド紹介動画の毎日投稿の原点

――ヤタノさんの活動歴は5年とかなり長い方ですが、活動の軸に「ワールド紹介」を据えようと思ったこと、そしてその発信方法として「動画」を選んだのはなぜでしょうか?

ヤタノ VRChatに来てから思い出したんですが、自分は子供時代に「旅」に憧れていたんですよね。いろいろな場所を旅行して回りたいと思っていたんですが、大人になってから環境の変化もあって難しくなってしまいました。

でも、VRだったら、宇宙空間や深海、そして海外など、家の中に居ながら自分が見たことのないような世界を見て回れる。そこに本当に感動したんですよね。

また、自分がVRChatにきたのは2018年ごろだったのですが、同じ時期にちょうどVTuberが流行り始めました。そして当時活動していたVTuberの一人が、VRChatで酒場のようなものを開いてて、そこに飛び込んでみてから「自分も彼らのようなことをしてみたい!」と思ったんです。

とはいえ、自分は絵も描けないし、モデリングやプログラミングもできない。いまは慣れましたけど、当時は話すことも苦手だった。じゃあ自分に何ができるかといったら、10年前に動画投稿をやっていた。それをふと思い出して「VRChatって面白いワールドあるし、ワールドをメインにした動画を上げたら、誰かが面白いと思ってくれるかな」と思って、ワールド紹介動画の投稿を始めたんです。それが5年間ずっと続いています。

――5年間もずっと動画を作り続けられたモチベーションはどのようなものだったのでしょうか?

ヤタノ 自分の環境が大きく影響しています。2018年ごろからVTuberとして、本業もしながら一週間に1回ペースで動画投稿をやってみたものの、ある時に本業で大きく気持ちが落ち込んで、仕事ができなくなっちゃったんですよね。2~3ヶ月は無収入で、家でずっと寝ているだけの生活になってしまいました。

ただ、「このままやってたらもっとひどい状態になる」と思って、なにかしようと思い立ったんです。そこでふと、「毎日なんでもいいから動画投稿をする」ことを思いついて、3年前から毎日投稿をスタートしたんです。また、これまで避けてきた配信もやってみたり、イベントなどで知らない人とも話しかけるようになりました。のらちゃん(VTuber・のらきゃっとさん)のような有名な人にも声をかけていきました。

そうしていくうちに、「動画一本でなんとかしたほうがいいかもしれない」と思い始めたんです。ここから本業を再開しても、また同じような状態に戻ってしまうと思いましたし、なによりVRChatを通して「ヤタノ」という”自分”が形成されていたので、ここで好きなことをして生きていけたらいいなと。そして、仕事を辞めてからしばらくして、専業になりました。

――毎日投稿はそのように始まったのですね……!

ヤタノ それでもしばらくは、ただワールド内の映像を流すだけの動画だったのでイマイチ伸びなかったんですけどね。なんで自分でも続けられたか不思議なくらい。

そんなある日、VTuber時代にやっていた「字幕と音声をつける」を復活しようと考えたんです。せっかく「VOICEROID」も買ったんだし、ここで使おうって。そうしたら、2022年の4月~5月ごろに、動画が爆発的に伸びたんです。そして「こうすればいいんだ!」と気付いたんです。

そこから現在に至るまで、同じスタイルで動画投稿を続けて、おかげさまで再生数もしっかりと得られるようになりました。

――お話を聞いていると、ヤタノさんものすごいガッツある方だなと思いました。

ヤタノ 仕事に対してはなにもガッツなんて持てなかったのにね(笑)。VRChatに来てからは、とにかく「楽しめること」が大切になりましたし、自分以外のこともめっちゃ考えられるようになりました。他人との会話も以前は苦痛で、そっけない応対しかできなかったのに、いまやここまで話せるようになりました。

――そうやって続けてこれたのも、ヤタノさんの中に「旅」への憧れがあり、それを満たせる場だったから、というのも大きそうですね。

ヤタノ そうですね。あとは「自分の好きな姿になれる」というのも大きいですね。自分も昔は『ファンタシースターオンライン2』にハマってたこともあり、キャラクタークリエイトができることがどっぷりハマった要因のひとつかもしれませんね。

――『ファンタシースターオンライン2』は自分もハマっていました! ちなみに、VRChatに来る前はどのような動画を作成されていたのでしょうか?

ヤタノ 当時「ニコニコ動画」で流行っていた「MUGEN(※)」の動画ですね。特にストーリー動画が好きだったので、自分でも短編ストーリーをいくつか投稿していました。その当時から「AviUtl」にお世話になっています。

※編集注:2D格闘ゲームエンジン。使用キャラクターからUIまで自由にカスタマイズできる自由度の高さから、かつて「ニコニコ動画」で大きな人気を得るジャンルとなっていた。

――なるほど! 短編制作もですけど、いろいろな作品がごった煮になった「MUGEN」はVRChatと近しい世界という意味でつながっていますね。
最後に、「メタカル最前線」の読者であるVRChatの初心者、また上級者に、VRChatを旅するヤタノさんから伝えたいことをお話しください。

ヤタノ まず初心者の方にお伝えすると、VRChatにはみんなで遊びたい人もいれば、少人数でにぎわいたい人もいます。でもVRChatって”Chat”とは名前にあるんですけど、落ち着くワールドや景観の綺麗なワールドで過ごすことで、1人でも楽しめるゲームです。

1人で遊びたい人はそれこそ色んなワールドを巡ってもらって、もし何か話したい衝動が出てきたら、そのワールド巡りの経験を話の種にしてもらって、VRChatを楽しんでもらえたらなと思います。

上級者の方には、「タグを有効活用しよう!」ですかね。タグさえあればいろんなワールドを探しやすくなると思います。タグを最大限に活用して、知らないゲームワールドや綺麗なワールドなど見つけて、色んなところで遊んでほしいなって思います。

――タグの重要性はぜひとも発信していきたいですね。本日はありがとうございました!