両目8K・185g未満の実力は?ソーシャルVRユーザーに捧ぐ約25万円のVRヘッドセット『MeganeX superlight 8K』体験レビュー

10月10日に発表された、株式会社Shiftallの最新VRヘッドセットMeganeX superlight 8K。軽さと8Kの高画質を両立させ、フリップアップ機構などのユニークな特徴も兼ね備えたハイエンドデバイスとして、2025年1月〜2月に発送予定となっています。

発表の同日には、東京の某所でメディア向け発表会兼体験会が開催されました。今回、メタカル最前線編集部はこの発表会に参加。本記事にて、『MeganeX superlight 8K』の特徴や狙いを解説しつつ、記者による実機体験のレポートをお届けします。

ソーシャルVRユーザーのために作られたVRヘッドセット。ビジネス用途でも活躍見込み?

MeganeX superlight 8K KV

MeganeX superlight 8K』は、株式会社ShiftallがPanasonicグループと共同開発した新型VRヘッドセット。『HaritoraX』や『FlipVR』などのVR関連機器を展開する同社のVRヘッドセットシリーズ「MeganeX」の最新モデルです。

MeganeX superlight 8K KV

その名前から「8Kではないsuperlightがあるのか?」と思われるかもしれませんが、実は今年1月に開催されたテクノロジー見本市「CES2024」にて『MeganeX Superlight』が発表されていました。重量は200g程度、画質は両目5.2Kと、高画質と軽量さを実現したVRヘッドセットになると紹介されていました。

ところが、昨今のVR市場において、このスペックでは競争力不足になると判断。『MeganeX superlight 8K』発表に際して、『MeganeX Superlight』は開発中止となったことも明かされました。

では、『MeganeX superlight 8K』はどのようなVRヘッドセットなのかと言えば、ズバリ「ソーシャルVRユーザー向けのデバイス」。VRヘッドセットも用途が多様化する2024年現在、「汎用機以外は目的を明確にするべき」と判断したことで、この方向性を定めたとのことです。もちろん、『VRChat』がかつてないほど隆盛していることも大きな要因として挙げています。

スライド画像:Shiftall提供

そして、コンシューマー用途だけでなく、ビジネス用途でも活用が見込まれています。パナソニックでは短期目標として、「VRの効果が明確で、代替手段が乏しい3分野」である「特殊訓練(危険防止訓練、災害防止訓練、ドライブシミュレーター、航空・防衛などのハイエンドシミュレーター)」「デジタルツイン(デザイン設計、製造)」「VRメタバース」を顕在市場に設定。このうち、VRメタバースをShiftallに任せる形なのだそう。

スライド画像:Shiftall提供
スライド画像:Shiftall提供

実際、すでに自動車業界ではデザイン設計と製造にてVR活用がスタートしており、販売段階でも実証実験が始まっているそう。これらの用途では、重いヘッドセットは長時間運用が苦しいため軽量化の需要があり、デザインレビューにて色や素材感の正確な確認のために高解像度・高色域・HDR対応の需要があるため、『MeganeX superlight 8K』はこの分野での活躍も見込まれているとのことです。

とにかく軽く、高画質。ソーシャルVRに必要なもの以外は思い切ってカット!

「ソーシャルVRユーザー向け」とされるスペックについても説明がありました。

スライド画像:Shiftall提供

まず、ソーシャルVR用途に最適化するため、本体重量は185g未満と軽量化を追求。さらに、OLEDとパナソニック独自開発のパンケーキレンズを採用し、解像度は両目で7104 x 3840ピクセル、実に8K相当の解像度を実現しています。

スライド画像:Shiftall提供

また、「SteamVRトラッキング対応HMDの火は絶やさない」ために、ベースステーションが必要となるLighthouse方式を採用。VRChatユーザーの利用率が高い『VIVEトラッカー』や『INDEXコントローラー』との併用が可能です。ただし、本製品には同梱しないため、未所持の場合は別途購入が必要です。

スライド画像:Shiftall提供

MR機能は「ソーシャルVRでは周辺確認にしか使わない」ためオミット。代わりに、ディスプレイ部を跳ね上げるフリップアップ機構を備え、物理的に見えるように設計されています。さらに、バッテリーも重量がかさむ要因となる上、そもそも高画質でプレイすると1時間も充電がもたないため、割り切って有線接続専用となっています。接続にはDisplayPortを採用し、高画質を活かし切る意図もあるとのことです。

スライド画像:Shiftall提供

マイクは内蔵されていますが、スピーカーは「ソーシャルVRでは日ごとに最適なデバイスが変わる」とのことで非搭載。ヘッドセット側のUSB Type-Cポートに好きなオーディオデバイスを差し込むことができます。また、かわりにハンドトラッキングデバイスを接続することも可能です。

スライド画像:Shiftall提供

IPD(瞳孔間距離)が電動式で調整でき、左右それぞれでピント調整が可能(0D ~ -7D)なため、近眼の人も裸眼で使えるのはうれしいところ。遠視、乱視、0.15以下の近眼の方向けに、メガネショップアイさんからアダプターレンズも販売予定です。

スライド画像:Shiftall提供

カメラ用三脚に多い1/4-20UNCメスネジアダプターも同梱されており、一脚を取り付ければ手持ちのオペラグラスのように使うこともできます。こちらはソーシャルVR用途よりも、開発用途や、360度映像体験に活用できそうです。

試作機をさわってみた

会場には『MeganeX superlight 8K』の実機も展示されていました。今回展示されていたのは試作機で、一部パーツのつくりやゆるめ。一部試作機には表面処理を施しておらず、色表現も地味めでシャープネスも効かせていない設定となっていました。

Shiftall代表取締役・岩佐琢磨さんが装着した様子はこんな感じ。とにかくスリムです。今年は『Bigscreen Beyond』が小型ヘッドセットとして話題になりましたが、サイズ感はほぼ同等です。

筆者も実際に体験してみました。まずは装着感ですが、顔面ではなく額で支える方式なのが独特です。若干類似するデバイスとしては『Meta Quest Pro』が挙げられます。ただし、後頭部パーツの重量はゼロに等しく、その上で重量は額の一点にのみかかるため、『Meta Quest Pro』と比べるとほんの少し前のめりに感じます。

力のかかり方が『Meta Quest 3』などとは大きく異なるため、それらに慣れていると最初は違和感があると思われます。しかし、顔面に圧力がかからないことは、顔が痛くなることを理由にVRヘッドセットを避けている人にはありがたいはずです。デバイス自体も軽いので、負荷も少なめ。

装着はデフォルトの『Meta Quest 3』と同様に、ゴーグルをつけるような感覚で行えます。本体重量がとても軽いので、装着感覚はスキーゴーグルなどとかなり近いです。ストラップがやわらかな布製で、突起物なし。VR睡眠にも向いていそうです。

大きくプッシュされていた画質もたしかに文句なし。『VRChat』ワールドも非常に鮮明に表示されます。OLEDによって明暗も鮮明に表現されるため、夜景がきれいなワールドやホラーワールドで真価を発揮してくれることでしょう。なお、視野角はスペック公開されていませんが、体験した限りは特段狭いとは感じませんでした。

その分、PC側の要求スペックはやや高め。公式サイトの記載は以下の通り。AMD Radeonシリーズ等では動作しない点も留意しましょう。

プロセッサIntel ® Core™ i3-8100T またはAMD Ryzen™ 3 2300X の同等品以上
GPUNVIDIA RTX AmpereアーキテクチャシリーズNVIDIA Turing GPU アーキテクチャNVIDIA Ada Generation GPUsNVIDIA GeForce RTX 3070 同等品以上※AMD Radeonシリーズ等、上記以外のGPUでは動作しません。※MeganeX superlight 8Kと同時に接続できるモニター台数はGPUの性能に依存します。
メモリー8 GB RAM以上
接続DisplayPort 1.4USB2.0
OSWindows® 10
対応VRプラットフォームSteamVR
動作PC最低条件(公式サイトより引用

目玉のひとつであるフリップアップ機構もたしかに便利。MRモードは文字が読める解像度かどうかが重要になりますが、肉眼ならばなにも問題なし。ワールド制作や改変作業が多い人にはありがたいです。ただし、ボタンの配置が独特なので、装着したままフリップアップさせるにはある程度慣れが必要そうです。

また、ディスプレイ部にはスライド機構も搭載。目に近づけることはもちろん、離すこともできます。

さらに、フェイスクッションはマグネット式で簡単に脱着できるので、あえてこれを外し、周囲の光景が見える状態で『VRChat』をプレイすることも可能です。飲み会やステージに立つ時など、周囲がある程度見えていた方がよいケースで活躍しそうですし、顔面に一切触れるものがないため、顔面接触・負荷を気にする人にはありがたいかもしれません。

非常にソーシャルVR向きな「高級車」

筆者私物の『Apple Vision Pro』(左)と比較。こうして見るとやはり小さい!

総じて、VRヘッドセットとしては軽さと高画質と多機能ぶりが共存するハイエンドな一台であると感じました。特に、顔面負荷の少なさは大きなチャームポイントで、とりわけ顔の崩れを気にする女性にはありがたい選択肢となりそうです。あらゆる面で手堅いLighthouse対応な点も、VRChatヘビーユーザーであればあるほどうれしいところでしょう。

一方で、約25万円という価格設定は、正直高価であると言わざるを得ないところ。「最初の一台」には推奨しにくいですし、乗り換え先としてもなかなかに勇気がいります。

このため、一般ユーザー向けデバイスとしては、軽さと画質、ユニークな機構の数々に魅力を感じた上で、25万円を出すことに抵抗がない、懐に余裕のある人向けの一台となるでしょう。いわば「高級車」です。実際、これだけの出費に見合った実力はたしかに持ち合わせています。

もちろん、法人向けデバイスとして見れば、基礎スペックや装着感や取り回しの良さから、活躍が見込める領域は多いものと思われます。「ビジネス向け展開を見据えつつ、コンシューマデバイスとしても展開させ、そのためにもソーシャルVRへの最適化を志向したハイエンドデバイス」が、『MeganeX superlight 8K』の正体と言えるでしょう。

『MeganeX superlight 8K』の販売価格は249,900円(税込)。発送開始予定日は2025年1月~2月と告知されています。10月10日からは予約受付がスタートしています。なお、先行特典として3年保証(標準1年+延長2年)が付与されます(発送開始まで)。