BOOTHでは日々VRChat向けのアバターや衣装などが商品として公開されユーザーが購入し続けています。「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2025」によると、3Dモデルカテゴリの取扱高は58億円に達し、前年比約187%の成長を記録しました。
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ユーザーの中には、BOOTHでショップを展開しているクリエイターが何を考えているのか、これからショップを作りたいと思っている人もいるはず。
そこでメタカル最前線では、ショップを開設し商品を作り続けている最前線のクリエイターにインタビュー。BOOTHクリエイター最前線として、複数回に渡ってさまざまなクリエイターの視点をお届けします。
今回は、フリーの3Dモデラーとして年商1000万円を達成し、3Dアセット屋として活動しているイカめしさんにインタビュー。BOOTH販売を始めたきっかけや、売上を作っていく上で必要なマインドなどを聞いていきます。
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BOOTH販売を始めたきっかけ
──BOOTHで商品を売ろう思ったきっかけを教えてください。
2018年8月にVketをきっかけにモデリングを始めて、作る人になりたいと思いました。その後11月に開催されたモデリングのコンテストに参加し、12月にショップを開設しました。
──初めて公開した商品は何でしたか?
最初はお試しで家具を出品し、その後こたつを有料で出品しました。こたつをアバターに追加して他の人が座れるようにして、走り回っていたところ、仲間内で「売れるのではないか」という話になり、BOOTHに出品してみました。
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──2018年の頃からBOOTHで3Dモデルの販売ってできたんですね。
そうですね。2018年当時は、無料のものがほとんどだったと思います。すでにアバターも販売されていましたが、高額なものは少なかったですね。イカも最初の家具は無料で出品しましたが、その後は値段をつけて販売するようにしました。最初から無料にしてしまうと、自分に甘えてしまいそうだったので。
──取り扱うものがアセットに集中していることについて考えはありますか?
人間のアバターを作れなかったからです。
一番最初に作ったのは人間のアバターだったのですが、結局人間を作れなかったので、心が折れて人間を作るのをやめ、イカになったんですよ。
いろいろ作っていく中でアセットしかできなかったので、アセットに特化して制作していきました。イカの中では「苦手は克服しない」がモットーなので。無理なものは無理!
──イカめしさんのnoteを読んでいると、「もう無理なものは無理。でもその中でやる」というスタンスでずっと活動されているのですね。
いつかできると思っていましたが、ずっとできなかったため、諦めました(笑)
「いいや、難しいわ」と思いました。ウェイト調整などがよくわからなかったので。アバターを作れる人は本当に尊敬できます。
──最初に商品を有料で出した際の売れ行きはどうでしたか?
最初の月は300円や2000円程度の売り上げで、5000円を目標にしていました。毎月、最低でも1つは売れていましたね。半年くらい続けた頃、5000円を超えた時は嬉しくて、「次は1万円を目標にしよう」と、少しずつ目標を上げていきました。当時は仕事をしながら制作していたので、「これで食べていくぞ」というよりは、「ラッキーだな」くらいの気持ちでしたね。
──イカめしさんのショップでは、アセットは複数一度に売れたりしますか?
新作が出たらとりあえず買うという層がまずいるのと、「こういったワールドを作ります」というときにまとめて買う人がいますね。本当にびっくりするほどで、5万円近く買う人もいます。
──そういうところでも、商品を作り続けることが効いてくるわけですね。
ついでに買っていくということもあるかもしれませんが、売り上げは去年から本当にずっと上がっているので、驚いています。一時的なものかなと思っていたのですが、ずっと50万円を超えているので、今はボーナスステージだと感じています。
フリーランスと売上「月5万円」の境界線
── フリーランスになろうと思ったタイミングと、きっかけは何でしたか?
知り合いのオノッチさんのせいって、イカは言ってます(笑)
2020年頃に、当時のTwitterでつぶやいていたんですよ。「もし、この勤務時間の8時間をUnityに費やせたら、どんなに楽しいのかな」みたいなことを確か言っていて。それを見て「確かに」と思っちゃって。Blenderに10時間を費やせたら、すごく勉強できて楽しいだろうなあと思ったら、仕事辞めたくなっちゃったんです。これがきっかけですね。
──その頃は売上はどうでしたか?
その頃は全然でした。しかし、ある起業家さんのYouTubeで、漫画家を目指している大学生の子が「売り上げが月8万円くらいあるけれど、大学を卒業しても漫画家を続けたい。だけど、親は就職しろと言う。どうしたらいいですか?」といった質問を見ていたんです。
その起業家さんは「売り上げが8万円もあるのなら、もうそのままでもいいのでは?」みたいなことを言っていて、じゃあいけるのかなと思ったわけです。何の根拠もわからないけれど、すごい人たちが言うのだから、そうなんだろうと思って鵜呑みにしましたね。
当時、イカの売り上げは3万円くらいだったのですが、オノッチさんのツイートを見たときには、多分もう5万円を超えていたので、「よし!」みたいな感じでしたね。もう自力で稼げるのだから、稼ぐしかないと腹を括りました。
──いろいろな選択肢を広げつつ模索していたのですね。
その時は「Blenderやモデリングをしながら就職できればいいな」とも甘く考えていたと思います。ただ、次の就職先を決めてから辞めればよかったのですが、決めずに辞めちゃいました。1年ぐらい実力を磨きながら仕事をして、ダメだったら就職しようという気持ちでしたね。
──今「月5万稼げるなら」の言葉の意味は分かってきましたか?
素直でよかったな、と思っています。少し根拠のない自信を信じちゃうタイプなので。あとは、運だなとも思います。イカはほぼ運で生きています。ほぼほぼ運ですよ(笑)
ただ、よく「運はいつでも誰の上にも来る」と言うじゃないですか。それを掴む準備をしていたかどうかの違いだけだと思うんです。
仕事をしていると、チャンスが来ても仕事との兼ね合いで、その案件を受けられない、といったことになるじゃないですか。でも、フリーランスだと、いつでも案件を受けられます。なので仕事を辞めていつでも動ける状態にしていたのは、チャンスを掴みやすかったのだろうなと思います。
稼げるのか不安に思う気持ちもありましたが生活費を稼げるようになったら、生活に困窮する確率は減りますよね。クリエイターとして生活できないというラインを超えてしまえば、その後は自由に活動できるという感じなので。その結果、どんどん売り上げが上がっていきました。
──最初のゼロイチを超えれば、ということですね。
そうですね。今はまだ、売り上げがゼロになるという経験をしていないので、運良くつまづかずに行っている可能性も高いですが、売り上げがずっとゼロだったら、と考えてしまうことがあります。そうやって常に危機感を持ち、対策を考えていたからこそ、運良くここまで来られたのかもしれないですね。
──毎月5万円売るためには、何個売ればいいのかを逆算して考えていたという話がnoteにありましたね。800円の商品で計算した場合、大体63個売れたらクリアで、つまり毎月63名に気に入ってもらえればOKという計算をされていたと思います。
それについては、「大人数に売る方がハードルが高いから、金額を上げよう」という発想で、高単価の戦略を取りました(笑)
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仕事を辞めるかどうか迷っていた頃の考えだったと思います。売り上げが5万円くらいだった頃、仕事を辞めた時のことを考えると、「生活できるくらいの売り上げが欲しい」という気持ちもあったので、売り上げを作る方法を真剣に考え始めたのだと思います。
「作りたいものを作る」というスタンス
──商品を作る上で、制作のためのフローなど考えてることはありますか?
あまり需要は考えずに今に至っているので、「こういうものが売れるだろうな」と思って作り始めると、自分の軸がブレてしまいそうだなと思います。自分の中で作りたいものを作っているのが、やっぱり一番楽しいですね。逆にそうでないものは、企業案件で制作しているので、「そちらで需要に応えているからいいかな」という感じです。
とりあえず、自分の好きなものをひたすら作った方が、技術が伸びやすいと思ったんです。今は少しずつ抑えているのですが、商品の点数が多すぎたため、「多すぎる」という苦情をいただくことがあります。「ちょっと多すぎて扱いに困ります」と(笑)
正直、イカのアセットがなぜ売れるのかわからないんですよ(笑)「いいね」の数と売り上げがあまり比例していないものがあります。だいたい200を超えたらいいな、というくらいでいつも思っていて、長いこと置いていたら300くらいにはいくかな、という感じです。
一番売り上げが高いのが「キッチンを作る予定が、気づいたら庭まで作っていたセット」という、まるで小説のようなタイトルの商品です。あれはものすごく売れています。点数も適当で、「多分530点」と書いてあります。
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──商品の売れ行きだけで言うと、BOOTHの商品は一度出せば、その後も稼いでくれるというイメージがあるのですが、実際にはどうでしょうか?
実際、そんな感じですね。一度出せば、その後もずっと売れ続けるという感じです。「キッチンを作る予定が、気づいたら庭まで作っていたセット」は、もう2022年に出品しているのですが、いまだにずっと売れています。まるでYouTubeの動画のように、ずっと再生回数が上乗せされていくようなイメージですね。
──セールなど、安定して稼ぐために工夫していることはありますか?
基本的にセールはしません。むしろ値上げをしました。500円だったものを800円に値上げしたり、800円だったら1000円に値上げしたりしていました。今は値上げはしていませんが、1、2年前は内容を変えずに値上げをしていました。
需要がわからない時や、「今の自分だったらこの金額で販売するだろうな」という感覚に合わせて値上げをしていました。
──値下げではなく、値上げをするとは……
セールは悪いわけじゃないんですけど、自分だったら損した気分になっちゃいますね。1000円で売られている時に買って、セールで500円にされると、1000円で買った人がなんか損した気分になるじゃないですか。
あんまりお客さんのお財布なんて心配するのは、おこがましいとは思うんですけど、イカはすごい損した気分になっちゃう貧乏性なんで。自分が嫌だなって思うことはやりたくないですね。あとは、さっきの売る数の話を含めると、値段を下げるセールでやるとなると数で勝負になるので。数で勝負するのは強者のやり方なので、自分には向いていないですね。
──企業案件については、どのように増えていますか?依頼を受ける際のスタンスなどがあれば、お聞きしたいです。
基本は紹介です。今までずっとイカを紹介してくれる人が結構います。
また、企業がVRChatなどに参入するには、それ相応の体力のある会社でないと難しいでしょう。そのため、イカのところに来る案件は、基本的に規模の大きな企業案件が多いですね。公表はしていませんが、上場企業からの案件もかなり多いです。
社内で利用するアセットの制作依頼などですね。誰もが聞いたことがあるような会社からの依頼が多いです。仕事相手は選ぶものですよ。
──仕事が少ない頃からですか?
嫌な奴と仕事しないと決めれば、作るものや苦痛が減って割り切れるようになりますから。
──BOOTHショップで収入もありますし、毎月生きていけるだけ稼いでいるからいいかってなるかもですね。
なので、企業案件は副業なわけです。あるいは、企業案件がなくても問題ないように生き方を考えているわけです。駄目だったときは、駄目になったときに考えればいいかなって思ってます。仕事相手を選んで駄目になったなと思ったら、そのときに選ばずにやるかもしれません。いなくなったら、あいつ尽きたなと思ってください。
──最後にこれからBOOTHを始める人に向けてアドバイスをお願いします。
ただ何となく試しに販売してみたいという場合は、何円でもいいと思いますが、きちんと売り上げを出したいと考えているのであれば、覚悟を決めて値付けをした方がいいと思います。逃げの姿勢で低い金額を設定するのではなく、自信を持って販売できる金額を設定することが大切です。
また、好きなものから作り始めるというのが、成長には近道だと思います。需要を無視して作るのも良いと思います。あとは数、制作物の数を出しまくることです。
──値段をつけること、そして好きなことを数重ねていくことが重要なのですね。本日はありがとうございました!