アパレル業界からアバターファッションへ。自分の好きが連れて行った「想像できない領域」とは?LAYONオーナーインタビュー【クリエイター最前線】

アパレル業界からアバターファッションの世界へ、「やりたいことをやるために」新たな道を切り開いたLYRAさん。

彼女がVRChatを始めたきっかけは、Web3.0関連の本でデジタルの衣服に出会ったことでした。アパレルでのデザイナー・企画の経験から、衣服は生身の人だけのものであるという固定観念があった彼女にとって、バーチャル上のファッションは衝撃的な出会いだったと言います 。  

今回は、LYRAさんの衣装に対するこだわり、そして「自分1人」のショップから「自分では想像できない」ショップへと変わっていった歩みについて語っていただきました。

(インタビュー:なまち 執筆:東雲りん

アパレル業界から「やりたいことをやるために」アバターファッションへ

──VRChatを始めたきっかけは何でしょうか?

私の場合は特殊なケースでした。もともとゲームなどはしなかったのですが、ある時Web3.0に関する本を読んでいたことがありました。その中で、デジタルの衣服を作る話が出てきて興味を持ったのがきっかけでした。 

というのも、私がもともとアパレルでデザイナー・企画を務めていたこともあり、衣服は生身の人だけのものであるといった固定観念があったので当初はひたすら衝撃的でした。 

調べていった結果、日本だとVRoidやVRChatがあることを知り、今に至った形です。

──実際にアパレルでの職に就いていたのですね。

時期の問題もありますね。当時コロナ禍だったこともあり、アパレル業界においても労働問題や環境問題が話題になっていたことがありました。そのこともあり、データで衣服が作れるなら自分のやりたいこともできますし、衣服を作るうえでの懸念点を払拭できると思い、ショップ開設に至りました。

──もともとファッションに興味があったのでしょうか?

小さい頃から絵を描いたり、縫い物をしたりしていました。大学で詳しく学んだわけではないのですが、縁があってアパレルのデザイナー・企画として働いていました。

──実際にアパレル業界で働いていたと聞くと、納得する仕上がりです。実際に働いていた経験は、どのような形で生かされていますか?

アパレルの衣服作りを踏襲しつつも、本来なら妥協されるであろう細かい装飾やシルエットの再現に凝るようにしています。バーチャルだと何でもできる、0から作り出せるといった印象があると思うのですが、逆にリアルにある制約を意識しつつ理想を作り上げている感覚です。

媚びないブランドメッセージ。リアルとバーチャルの境界を試行錯誤する

──ショップの説明欄にある「媚びない艶服(えんぷく)」と書かれているのですが、ブランドのイメージはどのようなものを描いていますか。

媚びない艶服は、異性受けするというよりもノーブルで品のある可愛さ、かっこよさをイメージしています。ショップを開設した当初は女性アバター向けだったので、自立した女性像をイメージしていましたが、今は男性アバター向けにも展開しているので、自立した人間像といったものですね。

──LAYON(レーヨン)に関してはどういった由来があるのでしょうか?

服の素材にある「rayon(レーヨン)」に由来しています。ショップ名とはスペルが異なります。素材の特徴である、高級感や光沢感、艶(つや)をイメージしています。艶服も、艶からイメージして選んだワードです。

Noble Liberty

──かなりの想いが込められていますね……

今思うと、あのショップ説明欄はブランド説明に使っているショップさんが少ない印象です。このあたりの感覚は、やっぱりリアルでアパレル業界にいたこともあって、ブランドのサイトに書かれているコンセプトのページをイメージしたものになっています。

──リアルの延長線だからこそ、現実では手が届かないけれどもバーチャルだと楽しめるようになっているように思いますね。アバターの衣装を作るうえで、モチーフのリサーチはどのように行っていますか?

普段のショッピングやInstagramでのリサーチですかね。ただ、最近だとVRChatで過ごすうえでのシチュエーションに合わせて企画することが増えました。

これまでは、トレンドやシーズンに合わせることが多かったのですが、カフェで人と会う服とか、人とまったり喋るときに着る服といった日常のワンシーンから企画することが増えています。

「LAYONの商品をリアルアイテムにしたら、1着販売価格10万円になるのでは?」楽しい作業ばかりの衣装作りについて聞く

──衣装を作る際に、楽しい部分や辛い部分はどこでしょうか?

正直、モデリングや商品のサムネイルなど好きな作業ばかりなので、辛いと思ったことはないですね。むしろ好きすぎてこだわって作ってしまうくらいです。なので、後半でどうしても気になる部分が出てきたらモデリング段階からやり直しをしてしまったり、ということもあります。

後は……カラーバリエーションを増やしすぎて整理がめちゃくちゃ面倒くさいとかですかね……?自分で自分の首を絞めていることが多いです。

Enchant Bloke

──リアルとデジタルのファッションの違いで、デジタルだと在庫を気にしなくていいと話していたことを思い出しました。

実際そうですね。リアルで展開しているアパレルだと、コストの面からどうしても3色くらいの展開になってしまいます。

また、バリエーションといった部分だと素材を変えてしまうともう別商品扱いにして出さないといけないところ、デジタルならバリエーションの1つとして出せるメリットもありますね。

──『J-F Over Jacket』ですと、デニムとレザーの2素材展開でしたね。着こなし方も2パターン用意されているのもこだわりを感じました。

作っている側としても、コストを気にせずに好きに作れるのは良いですね。後は、買ってくださる方も幅広いコーディネートを楽しめると思うので、オシャレのしやすい環境だと感じます。

──デザインに関してはいかがでしょうか?

デザインのディテールを詰めるときが楽しいですね。 

デザインについて考えるとき、大体3段階くらいに分けて考えています。最初にざっくりアイテムの全体感、シルエット、素材、カラーバリエーションを決定。次にブローチやバックル、ロゴの意匠などの付属品、いわゆる副資材について決めていきます。

この副資材決めから凝り始めるんですよ(笑)

──実際に手に取ってみると細かい装飾が凝っているのが伝わります。

リアルのアパレルだとコストの問題がちらついてなかなかここまでこだわれないです。ボタンもオリジナルで都度アイテムに合った形、素材、ロゴも入れようとしたら高価格帯でないとできないことも多いです。だけども、バーチャルのアイテムなら何も気にせず自由にデザインできるのがとてもいいところだなと思います。

LAYONの商品をリアルアイテムにしたら、1着販売価格10万円くらいになるのでは?などと思いながら作ることもあったり、こんな仕様にしたら工場さんから作業コストが高いと怒られるだろうなと思ったりしつつ、それが無制限でできてしまうのがバーチャル服を作っていて楽しいところですね。なんか変な楽しみ方かもしれないですけど。

──VR上だと、意外と接近して見る機会があるので装飾で凝っているのは嬉しくなりますね。

自分で作っていて、「こんなところまで誰が見るのだろうか……」と思いながら作ることも多いのですが、本当にみんな細かいところまで見てくれて嬉しくなります。最初は自己満足なだけに感じながら作りこんでいましたが、みんながしっかり見てくれているのを知って、今は思う存分こだわっています。

自分の好きを詰め込んだショップが、みんなに愛されるショップに!

──ショップ開設当初はVRoidで商品を展開していきましたが、どのような形でスキルを磨いていきましたか?

BlenderやUnityが本当に分からず、VRoidならば自分でもできるのでは、と思い始めました。ただ作っているうちに、だんだんとシルエットやディテールをもっと凝りたいと思うようになりました。

今のVRoidはさらに進化しているのでもっといろいろなデザインもできると思うのですが、当時はより自分の理想を形にしたくてVRoidの商品作りと合わせて、Blenderの練習を始めました。

──Blenderはどのようにして学んでいきましたか?

最初は簡単な小物から作ってみたりしていましたが、ある日突然もう服を作ってみよう!と思い手探りで挑戦してみました。やっぱり、一回やってみないと分からないなと思ってしまったので。

──すごい勢い……

自分の思い描いているデザインを形にして実現したい気持ちで作りました。ただ、初めて制作したものにしては難しいデザインになってしまったなと後から思いましたね。

でも実現してしまえば後は何でもできると思い、作り上げました。なので大変といった気持ちよりも、衣服の完成形を早く見たい気持ちが強かったです。

──やはり衣服を作るうえでも、完成形が先にあって早く形にしたい一心で進めている感じですか?

早く完成して自分も着たいし、みんながどんな改変や撮影してくれるのか楽しみにしているので。最近だと商品のサムネイルのオマージュや、凝った着回しもたくさんしていただけるので楽しみにしています。

──自分の作り上げたもので、凝ったものが出てくると嬉しくなりますね。

最初は自分が着たいから早く完成させたいと思っていました。ですが、最近ではみんなが他のアイテムと組合せたりして、思わぬスタイリングを見せてくれたりもするので「自分では想像できない」ものを見たくて完成させようと思っています。

──自分1人だけのブランド、作品ではなくなったわけですね。

本当にそうです。やはり、X(Twitter)にアップしてくださる写真や接客イベント「Carat」での交流など、バーチャルだと着てくださっている姿をみる機会が本当にたくさんあるので。

もちろんコーディネートをそのまま着てくださるのも嬉しいのですが、複数のアイテムを組み合わせて使っている方を見ると、手間がかかるのを知っている分凄さが伝わってきて嬉しくなります。

──まさに自分の想像の外側に行くわけですからね。最後にですが、ショップやファンに向けた想いをお願いします。

当初ブランドを作るときは、もともと私がリアルショップを作るならこんなのにしたい、とふんわりと考えていたLAYONというブランド名をそのままバーチャルブランドにして始めました。

でも、だんだんと自分が楽しむだけではなくみんなが着てくれているのを見てテンションが上がっている自分がいるな、という感覚が自然と生まれてきました。 

この感覚は、正直アパレル業界で働いているときはあまり意識できることがなかったです。アパレル業界で働いているときは、会社で働いている以上どうしたら売れるのかといったことに着眼点を向けがちだったので。

なので、皆さんがスタイリングそのままだけでなく、アクセサリーといった1アイテムだけでも日々のコーディネートにとり入れてくれているのを見ると本当に嬉しいです。皆さんにとっても、LAYONがバーチャルで過ごす時間の中でテンションを上げてくれる要素の1つになれたら嬉しいです。 

これからも私が作りたいと思うリアルクローズ寄りの商品が多いと思いますが、皆さんの生活に寄り添えるものを作っていけたらと思います。