ショップ『OGRE』『Pavillion』オーナー鬼木にインタビュー。3DCGモデラーとしてもともと活躍していた切り開いた歩みとは【クリエイター最前線】

BOOTHでは日々VRChat向けのアバターや衣装などが商品として公開されユーザーが購入し続けています。「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2025」によると、3Dモデルカテゴリの取扱高推移は58億円。前年比約187%を記録しています。

ユーザーの中には、BOOTHでショップを展開しているクリエイターが何を考えているのか、これからショップを作りたいと思っている人もいるはず。そこでメタカル最前線では、ショップを開設し商品を作り続けている最前線のクリエイターにインタビュー。

今回は、OGREとPavillionのオーナーである鬼木さんにインタビュー。もともとゲーム方面の3DCGモデラーとして活動していたところをBOOTHショップ一本に絞った経緯とは。時給0円の時期を恐れない、これからBOOTHショップを開設したい人に向けた内容が詰まっています。

2024年夏、男性アバターの流れが来た

──もともとゲーム向けの3DCGモデラーとして活躍していましたが、BOOTHショップを始めたきっかけは?

もともとは自分の活動用アバターにスーツを作っていたところに、mio3ioさんの水瀬が発売されたので、お試しに公開したのがきっかけです。需要もあり、ユーザーのために衣装を作るようになりました。

当時作ったOGREは、VRChat内に男性アバターを増やしたいという理念のもと、男性アバター向けの衣装で統一しています。

──男性アバターに特化したのは戦略だったのでしょうか?

まったくないわけではありませんでした。当時は今以上に女性アバターの割合が大きかったと思っていたので、自分がやったらポジションを取れるのではないかと考えていました。

──女性アバター向けのPavillionを展開しているので、OGREは男性アバターに絞っても問題ないですね。

OGREでも1回だけ女性アバター向けの展開をしたことがありますが、それっきりです。最初はぼんやりとしていましたが、絞ったほうがいいと判断して今の形になりました。

──男性服に女性アバターを着せる人は、ユーザー側で主体的に動きますしね。もともとゲーム方面での3DCGモデラーとして活動していたところに、BOOTHショップを開設、本腰を入れた流れだと思います。そのあたり、収入源や本腰入れようと考えたのはいつ頃でしょうか。

もともとは副業になればいいなぐらいの気持ちでした。

──クライアントからの依頼だと不定期ですし、ショップ運営で商品を出したら収益として支えてくれるのであれば相性いいですよね。

バランスがいいと思います。

──その中でショップ運営のほうに踏み切ったのは何故でしょうか?

2023年冬に開催されたファッションショーイベントのVoyageですかね。

ちょうどBOOTHの売上が上がった時期で、本業の3DCGモデラーと売上が半々でした。Voyageを見ていたら、MAISONDARCの登場やLAYONの台頭などでクオリティが引き上がっていたのを感じて悔しかったです。でも同時に、バーチャルファッションが伸びると確信しました。

翌日にはクライアントにゲームの仕事を3ヶ月後から休みますと伝え、2024年4月に専業に切り替えました。

──2024年4月で専業ってことは……

タイミングはばっちりでした。7月以降のユーザー増加の時期に合わせて服を多く出せるタイミングだったので運がよかったですし、早めに決断してよかったと思っています。

──男性アバターの人口が増えたように思えます。実際ショップ運営の立場からはいかがですか?

ショップの売上から見ても、男性アバターのユーザー数は増えましたし、何よりも男性ユーザーが男性アバターを使うようになったのだと思います。メンズ服の需要は人口全体が増加したことで増えましたが、他のゲームなどで男性キャラを使う層が増えたのも大きいでしょう。

──男性アバターも数を増やしていましたし、+Headの共通素体の存在も大きいでしょうね。

publicのインスタンスでも使っている人が多いですしね。

──それこそ、スタンミさんもバメッサを見つけたことで使い始めたわけですからね。

以前は男性アバターを使うことに抵抗感ある人が多かったのかなと思うのですが、最近はそういった抵抗感が薄れたのが変わった点です。

──男性アバター向けに絞ったことで時代が来た! みたいな感じですね。

2024年はもう時代が来た! ハマった!といった感じでした。

──Xのほうでは2024年で売上数の多い商品を発表していましたが、傾向としてはいかがでしょうか。

依然としてワイルドスーツがダントツです。2023年12月に発売されたOGREの代表作です。

商品ページ

──男性アバターのホスト系イベントだと着ていない人はいないのでは? って思うぐらい使われている印象です。

スーツ、ベスト、シャツで3部位に分かれて着回しやすく、カラーバリエーションも豊富なので、最初の1着にオススメなのも大きいです。

見た目で惹きつけ、クオリティでファンを作る

──BOOTHショップを運営していくうえで、意識しているポイントはなんでしょうか?

最初は売れないことを覚悟したほうがいいでしょう。デジタルコンテンツは返金できない性質上、知名度や信頼のないショップはハードルが高いからです。

クオリティの高い商品を出し続ける必要があります。しかし、制服やハロウィン衣装のような大手が出してくるであろう衣装は狙わず、競合が少ないニッチな衣装から知名度を獲得したほうがいいでしょう。

──信頼などの印象が大事になる場合だと、大手ショップの商品があれば、そっちで購入したくなりますね。

OGREも最初のステップとしてニッチな男性アバター向け衣装の市場でやってきたからこそ、今シェアを獲得できています。ニッチなところから攻めてトップになるのは、有効な戦術です。

──ニッチなところから攻めていくと……商品のクオリティ面は売上に繋がるのでしょうか。

衣装が売れるという点では、クオリティは重要ではありません。クオリティは当たり前になってしまったので、デザインなどの見た目が売上に響きます。

──クオリティは差別化にならないのでしょうか?

クオリティは、集客には役に立たないが正しいです。どちらかというと、リピーターを作るといった購入後に響いてくる部分です。クオリティが高かったら、そのショップの商品は信頼できると安心してくれます。なので、クオリティは必要ではあります。

──集客面ではどこを意識するべきなのでしょうか。

衣装のデザインやプロモーションの上手さです。ポストや動画でどれだけ惹きつけるかが重要です。どれだけ品質が高くても、サムネイルが地味だったりプロモーションが下手だったりすると売れません。

せっかく中身がよいのに、もったいない状況になります。逆に、見栄えがよくても、買ってみたら思ったのと違うとなると、リピートされません。結局のところ、品質と見栄えの両方が重要です。

──やっぱり、プロモーションは商品の手に取りやすさに繋がるわけですか。

正直、新作の発表時にどれだけ反応があるかで変わってきます。ファーストインプレッションで売上が大体分かってしまいます。自分の中で良いと思ったサムネイルやデザインでも、微妙だったということです。

──シビアな世界ですね。初動で売れないと、後から挽回するのは難しい……

スキ数が少ないと人気がないと思われてしまい、人は心理的に人気のある商品が欲しい傾向があります。

──ビジュアル的なイメージだと、OGREは高級感ある見た目、モデルの起用をしているイメージなのですが、意識している点はなんでしょうか?

このショップなのか分かるように、ロゴは必ず入れています。また、服の傾向や価格帯からも安っぽく見えないようにしています。値段は相場よりも高めなので、チグハグにならないように意識しています。

──これはOGREの例であって、他のショップだとまた変わってきますか?

変わりますね。デザインやサムネイルの作り方はブランディング的にとても大事です。競合が多い時代ですので、差別化ポイントを作って、ショップ名っぽさを作り出したいですね。なので、商品のジャンルまでは絞らなくても、雰囲気を統一するのは良いでしょう。

──傾向を固めるのも引き出しを出すのも大変そうです……

作るものは、基本的には好きなものが良いです。好きなものなら、自分でもデザインの良し悪しが判断できます。

──こんな商品が欲しかったみたいなものを詰めていくといいんでしょうね。クオリティの話が出てきましたが、クオリティを上げるとは具体的にはどのようなアクションがあるのでしょうか。

単純に言えば、モデリング力を上げれば品質が上がります。そのためには、観察が重要です。衣装の構造を知らないと作れませんし、普段からどれだけ服を見ているか、インプットが重要になります。

──デッサンに通ずるものですね。

ビジュアルを作り上げる職業全般にいえそうですけどもね。もう少し専門性を上げると、流行しているシルエットやジャンルを追いかけるのも大事です。今はこのジャンルが流行っているからエッセンスを取り入れる動きは、モデリングにも生かされます。

──アウトプットはどうでしょうか。

アウトプットは物量です。質を生み出すのは圧倒的な量です。ここ数年ショップ運営を続けてきた人は、やはり上手になっています。

時給0円の時期を恐れない

──モチベーションについてはどのように考えていますか?

お金ややりがいが大事ですが、最初は作業に見合った収入が得られないため、辛い時期もあるでしょう。しかし、一度軌道に乗ると、利益が出てくるので続けやすくなります。目に見える成果が出てくると、楽しくなります。

──手応えですね。

停滞すると飽きてきますが、成果が出てくると続けます。進化の途中で飽きる人はいないでしょう。時給0円の時期を恐れないでください。

──大事なことですね。軌道に乗るまで続けることが重要ですが、軌道に乗った後でも大変な作業はあると思います。そういったミクロな部分については、どうでしょうか?

答えとしては面白くないかもしれませんが、根性論です。しかし、お金で解決するのも一つの手です。利益よりも経費が下回っているのであれば、問題ないでしょう。適材適所なので、自分一人でやろうと考えず、多少利益が減っても効率が上がれば良いのです。

──最後に、鬼木さんにとってショップ運営の面白いところはどこでしょうか?

やはり、ダイレクトに感想を貰えるところです。Xのハッシュタグはすべて遡って見ていますし、キャストのファンアートに描かれていることもあるので、それも嬉しいです。

──ハッシュタグでエゴサーチしているのは聞きますが、ファンアートに描かれることもあるのですね。

OGREでモデルをよくやってもらっているどるさんのファンアートで見かけることが多いですね。SNS上以外にもVRChat上で声を掛けてもらえるのも嬉しいです。クリエイター人生で直接コミュニケーションを取る機会があまりなかったのも大きいかもしれません。

──考えてみると、モデリングでここまで面と向かってやり取りできることは珍しいかもしれませんね。今回はありがとうございました。