『春空の休息地 – BloomingSky Rest -』。そのワールドに足を踏み入れた瞬間、目の前に広がるのは小さな駅。

そこから角で曲がると、満開の桜並木がどこまでも続き、木々の間から差し込む光が幻想的な雰囲気を醸し出しています。ワールド内では、フォトスポットにも活かせるロケーションが多数あり、グライダーを使えば広いワールドを上から眺めることも。

このワールドを作ったレイリアさんは、他にも『夏宙の休息地 -Summer Starrysky Rest-』なども制作。ワールドを知らない人でも、VRChatにおける夏の思い出として知っているはず。

一体、これらのワールドはどのようにして作られているのか。今回は、ワールド制作者レイリアさんにインタビューを行い、ワールド制作から見たVRChatの楽しみ方に迫ります。
VRChatを知ったきっかけ
──VRChatを始めた時期と、始めたきっかけについて教えてください。
VRChatを始めたのは、2018年11月頃です。当時、ねこますさんの動画を見て、VRChatという世界があることを知りました。
──ねこますさんの動画がきっかけだったのですね。
はい。ちょうどその頃、Oculus Riftが5万円くらいで販売されており、学生だった私でもアルバイトをすれば手が届く価格でした。それで少し興味を持ってVRを始めた、というところですね。
──初めてワールドを制作したのはいつ頃ですか?
2019年の夏頃に、「VRAA」というVR空間コンテストが開催されました。その頃、ちょうど私もワールド制作を勉強したいと思っていたので、コンテストに応募するためにワールドを制作し、公開したのがきっかけです。
ワールドはいかにして作られるのか
──ワールドを作る際の流れを教えてください。
まず最初にワールドのテーマを決めます。今回制作した『春空の休息地 – BloomingSky Rest -』の場合は、夏の『夏宙の休息地 -Summer Starrysky Rest-』に続いて、季節もののワールドを作りたいと考えました。
──季節もののワールドにしようと思ったのはなぜですか?
夏と冬のワールドはすでに制作したことがあったので、春をテーマにしたワールドに挑戦することにしたのです。あとは、これまでのワールドは夜の景色が多かったので、昼間の景色も取り入れたいな、とも思いました。

テーマが決まったら、次にワールド全体の動線や、各要素の配置を決めます。どのようなアセットを使うか、どのような演出を入れるか、どのような音源を配置するか、などを決めていくんですね。最後に最適化をして、ワールドを公開します。
──ワールドに配置する要素は、どのように選んでいるのですか?
要素の選定では、夏の『夏宙の休息地 -Summer Starrysky Rest-』のコンセプトを少し引き継ぎたいと考えました。たとえば、リスポーン地点に駅の要素を入れたり、グライダーで空を飛べる広いワールドにしたりしました。そこに春のワールドとしての要素、つまり桜や花畑などを加えていきました。

──ワールド制作では、広大な空間をどのように構築していくのでしょうか?
私のワールドでは、Unityの中にある「Terrain」と呼ばれるツールで地形を作成しながら、どのような導線を引いていこうかと決めていることが多いですね。
例えば『春空の休息地 – BloomingSky Rest -』の場合、その前の工程で決めていた取り入れる要素をどのように配置していくのか1つずつ決めていきます。
今回のワールドで一番見てほしいのは、この桜の景色や奥の方にある花畑の景色だったりするので、ワールドに入ってからすぐ右に曲がった直線の道を進むと、桜と花畑のロケーションにアクセスできるような導線を引いています。

──確かに、レイリアさんのワールドでは、メインとなる景色の前に、必ず緩やかな坂や階段などがあり、期待感を高める演出が効果的だと感じます。
はい、おっしゃる通りです。言語化しにくいのですが、少し狭いところから開けた景色に行く方が、やはり感動があるかなと思っていて、そこは意識しつつ制作しています。


──ワールド制作には、どれくらいの時間がかかるのでしょうか?
今回の新作である『春空の休息地 – BloomingSky Rest -』や、『夏宙の休息地 -Summer Starrysky Rest-』は、だいたい4ヶ月くらいかけて作っていますね。
普段は別の仕事をしているので、年末年始やゴールデンウィークのような長期休暇を利用して、一気に作業を進めることが多いです。新作の春ワールドでは、年末年始の休暇中に集中して制作しました。
──4ヶ月という制作期間を、どのように確保しているのですか?
基本的に自分で3Dモデルをモデリングすることはなくて、既存のアセットを使うことが多かったので、モデリングの工程を省けているからこそ、数ヶ月という規模でワールド制作ができているのだと思います。

各ワールドにはギミック・アセットが流用されることもある。
どこに活かされているのか、各ワールドを巡るのもいいかもしれない
クリエイターエコノミーを初導入してみて
──『春空の休息地 – BloomingSky Rest -』ではVRChatのエコノミーシステムを使っているますが、実際に活用してみていかがですか?
今回の『春空の休息地 – BloomingSky Rest -』から導入したのですが、思っていたよりも購入していただける方がいらっしゃいました。

──まだまだ浸透していない概念ではありますからね。でも、実装された当初と違い、サブスクリプションではなく単発での支払いとしてできるようになったのでハードルは下がりましたね。
グライダーのギミックと投げ銭のみでしたので、正直売れないのかなと思っていました。ゲームワールドの機能解禁やコミュニティ内での自慢に関わる形でないと難しいのかなと考えていましたね。

──他にも、ファンコミュニティとしてFANBOXも展開されていましたが、こちらはいかがでしょうか。
FANBOXに関しては元々は自分の備忘録として始めましたが、支援している方がいてくださり、制作のモチベーションになっています。
──ワールド制作においてアセット購入でかなり費用がかさむのかなと思うので、収益で全部賄えずともクリエイターエコノミーやFANBOXで賄えるポイントは作りたいですよね。
実際ワールド制作単体で見るならば、赤字だと思います。
──あくまでも本業は別にあり、その中での趣味の延長であるのであれば問題ない範疇といったわけですね。
正直なところ、クリエイターエコノミーの販売者になるための申請は英語がメインで、参入するための障壁はものすごく高いように思いますね。日本人向けにもっとハードルが下がると、もっとクリエイターエコノミーが浸透するのかな……
ワールド制作におけるこだわり
──VRChatのワールドには常に新しいものが生まれて変化していく、いわゆる流行りのようなものが強くあると感じます。ワールド制作者のレイリアさんから見てどう感じますか。
私もそういった流動的な側面は実感しています。個人的には良いことだと思っています。
──それはなぜでしょうか?
VRChatのように、ユーザーが制作したコンテンツが主体となっているプラットフォームでは、常に新しいワールドが公開され、ユーザーも新しいワールドを次々と体験していく方が、プラットフォーム全体として活性化すると考えています。
1つのコンテンツに人が留まるよりも、常に新しいものが生まれる方が、プラットフォームとしても健全で持続性があるのではないでしょうか。ただ、1人のワールド制作者としては、やはり自分の作ったワールドにも多くの人に訪れてほしいという願いがあることは否定できませんね。
──多くの人に訪れてもらうために、何か工夫していることはありますか?
私もユーザーにリピートしてもらえるような要素を取り入れようということを、最近は意識しています。例えば、今回のような季節もののワールドであれば、1年経過してもその季節の時にリピートしてもらえる可能性は上がると思います。

──リピートしてもらうための具体的な要素はありますか?
ワールドにいる猫を集めるといった収集要素や、ボートでタイムアタックするといったゲーム性のある要素を取り入れています。 そのようなゲーム的な要素を取り入れて、リピートしてくれる人を少しでも増やそうと、最近は意識して制作しています。

──ボートのギミックは、やり込み要素としてリピートに繋がりそうですね。
実際にタイムアタックで結構遊んでくれる人が常連で見受けられ、効果を実感しています。今後のワールドにも盛り込むと思います。
──ワールドを制作する上で、他に意識していることはありますか?
今のVRChatのユーザー数を考えると、やはりAndroid対応は重要な要素かなと思っています。『夏宙の休息地 -Summer Starrysky Rest-』も、Androidに対応したことによって多くの人に訪れてもらえました。なので、新作のワールドでもAndroidに対応させました。
──Android対応をする上で、苦労した点はありますか?
Android向けに作る場合、通常のWindows向けのように簡単にテストできません。なので、自分が実際VR機器を使ってエラーを検証しなければなりませんが、ワールドが広いとエラーがどこにあるのか探し出すのも一苦労ですね。
──そんな主観でウォーリーを探せをやるみたいな……レイリアさんが、ワールド制作を5年も続けている理由を教えてください。
やはり一番大きいのは、VRChatが掲げている「Create、 Share、 Play」のコンセプトにあると思います。自分で作った世界を共有し、そこで他の人が遊んだり、思い出を作ったりする様子を見るのが、本当に楽しいんです。
──レイリアさんのワールドは、多くのユーザーにとって思い出の場所になっているのですね。
そうなっていると嬉しいです。『夏宙の休息地 -Summer Starrysky Rest-』では、企画を立てて、ユーザーの夏の思い出の写真を募集しました。結果として100枚以上の応募があって、ユーザーが楽しんでいる写真が見れて私としても嬉しかったです。

自分のワールドがみんなの思い出の背景になっているのを見るのが、私の一番のモチベーションです。これからも、いろんな人の思い出に残るようなワールドを作っていければと思っています。
──本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


