CGを見せるためだけではなく使ってもらわないといけない 鬼木さんにインタビュー 【クリエイターインタビュー企画 アバターファッション最前線】

クリエイターマーケット「BOOTH」では、日々ソーシャルVR「VRChat」向けのアバターや衣装が多く販売されています。「VRChat」においては、ユーザーが自身のお気に入りのアバターを購入。そして、そのアバターの衣装や髪型、アクセサリーなどを着せ変えてファッションを楽しむという文化が根付いています。2022年10月時点では、「BOOTH」のそうした「3D衣装・装飾品」ジャンルにて出品されているデータの点数は1万7000件を超えています。

あまりにも多様化した衣装やアバターの中から、自分の好みに合うものを探すのはなかなか大変な作業です。そして、その商品のクリエイターがどんな想いで創作に取り組んでいるのかは、クリエイター自身と直接の友人などでないかぎり、なかなか知ることは難しいでしょう。

本企画「アバターファッション最前線」では、アバターファッションの広がりを紹介しつつ、それを支えるクリエイター本人がどういった考えを持っているのかなど、そのアイデンティティに迫ることを目的とします。

連載3回目の今回は、男性アバター「涼舞」や男性アバター向け衣装を取り扱っている鬼木さんに注目。ソーシャルVRでアバターの話題になると女性アバターのイメージが強いですが、鬼木さんの取り扱っているのは男性アバターです。

今回の記事では、男性アバターの魅力を紹介しつつ、本職でモデラーしている人から見たソVRChatのアバター文化についても掘り下げていきます。

デフォルメが抑えめな男性アバター 涼舞

鬼木さんが制作、販売しているアバター「涼舞」は、成人男性の外見をしています。ソーシャルVRの中には男性の姿をしたアバターもいますが、涼舞はデフォルメが抑えめのデザインになっているのが特徴。デフォルメがない方が好みの人やリアルファッション寄りの服装を好んで使う人にはうってつけのアバターでしょう。

BOOTHの商品画像より引用

そしてアクセサリーも充実しています。左耳のピアスや右手の指輪、首元のアクセサリーと付けており、リッチな作りです。これらのアクセサリーは、ジャケットと靴とあわせて、アバターのデフォルト設定で着脱可能となっているので、自分の好きなようにカスタマイズしましょう。

BOOTHの商品画像より引用

高級感ある男性アバター向け衣装の数々

アバター販売の他にも、男性アバター向けに衣装も取り扱っており、代表的なのがメンズスーツセット。シンプルでフォーマルな場面に使えるブラックスーツとペイズリー柄の装飾をした高級感あふれるパーティー向けのスーツの2つが用意されています。

複数の男性アバターに対応しており、ベストやシャツとさまざまな状態も用意されているので、かなりボリューム感あるセットです。

BOOTHの商品画像より引用

メンズスーツセットの他にも、季節にちなんだ男性アバター向け衣装も販売。夏にはメンズ浴衣セット、秋にはメンズレザージャケットセットが販売されています。それぞれテクスチャが充実しており、浴衣では7種類の柄、レザージャケットではジャケットとニットにカラーバリエーションがあります。

BOOTHの商品画像より引用
BOOTHの商品画像より引用

仕事で活用している技術をVRChat向けに活かせたら楽しいなと思って作ってみた

ーーもともとVRChatをはじめたきっかけはなんでしょうか。

鬼木 もともとTwitterでフォローしている人が、VRChatの写真とか動画をあげている人だったんですよ。VRChatって名前は知っていても内容が分からなかったのですが、楽しそうに遊んでいたのでやってみました。

ーー鬼木さんが販売しているのは男性アバターや男性アバター向けの衣装ですが、どういった経緯で制作、販売しようと思いましたか?

鬼木 僕がVRChatを始めようとしたときは、男性アバターは女性アバターに比べて数も少なかったですし、衣装の種類も偏りを感じていました。女性アバターは有名な人が市場にいましたし、制作している人の少ない男性アバター市場のほうだったら上手くいけるんじゃないかなと思ったので、制作、販売しています。

ーー戦略的な理由だったということでしょうか。

鬼木 戦略的な理由というのもありますが単純に自分がかわいい系よりもかっこいい系のほうが作りやすいところもありますね。今も本職でゲーム系のキャラクターモデラーとして仕事しているのもあって、仕事で使っている技術をVRChat向けに活かせたら楽しいなと思ってやってみました。

鬼木さんのポートフォリオ

ーまず涼舞を作ったのは衣装販売の軸となるアバターを作りたかったからでしょうか。

鬼木 涼舞に関しては僕が作りたかったアバターを販売用にした形です。しっくりくるアバターがなく、まず作りたかったので……

ーーモデラーだとしっくりくるアバターがなければ作ってしまう手段があるわけですね……

鬼木 なければ作ればいいと思って作りました!VRChatのアバター文化にも触れたかったので勉強がてらちょうどよかったですね。

改変文化はソーシャルVR独特

ーーこれまでにコンシューマーゲームや広告などさまざまな媒体でCG制作してきたと思うのですが、VRChatに来て独特なものはありましたか。

鬼木 改変文化ですかね。ゲームのキャラクターって基本的に着替えないので、負荷軽減のため服の内側は消すなどして見えないところは作らないことが多いんですよ。VRChatだと違っていて、着せ替えを楽しむためにアバターにカスタマイズ性を盛り込んだり、シェイプキーをはじめとした改変しやすい工夫が詰め込まれているのが印象的でした。

アバターや衣装には細かい調整ができるシェイプキーを使うことがある

ーーユーザーがなんかしらの形でUnityを触っているからこそのカスタマイズ性なわけですね。

鬼木 CGを見せるだけじゃなくて使ってもらわないといけないといけないので、分かりやすい構成にしておかないとユーザーが困ってしまいますよね。

ーー見せるだけではなく使ってもらうためにというのは、これまでになかったかもしれませんね。BOOTHで販売する上で心がけることはありますか。

鬼木 ブランド感を大切にしていますね。ロゴはちょっと高そうなブランドを意識していて、サムネイルも高級感や洗練されたイメージを出すために文字などの情報をなるべく少なくしてファッションモデルを撮影したイメージで制作しています。

あとは商品の値段も相場よりも少し高いので、ショップ全体で高級感を大切にしたほうが購入してくれる方にも値段に納得感が生まれやすいのはないかという狙いがあります。

BOOTHの商品画像より引用

ーー鬼木さんもそうですし、ブランディングを大切にしている衣装製作者は多いですね。

鬼木 やはりショップの特色などがユーザーに認知されないと新規だけでなくリピーターもなかなか増えないおそれがありますので商品の品質とは別軸でブランディングも大切ですね。あとはユーザーとのコミュニケーションも大切だと思っていて、ありがたいことにショップの活動を応援してくれるフレンドもたくさんいて口コミやTwitterの告知情報など拡散して協力してくれるので本当にありがたいです。

男性アバターの衣装でまだ見たことのないものを作っている

ーーアバターを出した後は、スーツや浴衣、レザージャケットと出していますが選んでいる基準とかはありますか。

鬼木 自分が男性アバター向け衣装の幅がないことを感じていたので、まだ見たことのないものを作っています。例えばスーツだと仕事に使うシンプルなスーツはあっても、パーティーで使うような装飾をあしらったスーツは見かけなかったので作りました。

ーーばっちりハマって主力商品になっていますよね。

鬼木 ありがたいことに需要があったようですね。レザージャケットなども季節感を意識しつつも自分用に作りたいものを販売する形なんですよね。これから季節ごとに作っていこうかなと思っています。

ーーアバターや衣装の売れ行きとしていかがでしょうか。以前に涼舞はトントン、スーツがかなり売れていると話していました。

鬼木 涼舞とスーツは変わらずの調子で、レザージャケットは販売したばかりですが好調ですね。やはりスーツはいつでもどこでも着られるので売れ続けますが、季節感あるものはその季節だけ売れる感じかなと思います。

ーー対応アバターを選んでいる基準や期間はどれほどでしょうか。

鬼木 成人男性のアバターから人気のあるアバターを選んでいる感じですかね。アバターのシェイプキーやテクスチャを消すことで調整してもらうことを前提にしているので、対応にはそこまで苦労していません。対応作業コストを削減している分、対応アバターが全部入っているフルパックでもお買い求めやすいように値段は抑えめにしています。

BOOTHの商品画像より引用

ーー調整を前提としている対応作業というわけですね。

鬼木 最初は自分が使っている涼舞アバター専用で作っていたので他の男性アバターに対応したい人はUnityで衣装のスケールなど調整できる人だけが買ってくれればいいかなと考えていました。

ですが、フレンドががんばって別アバターに対応してかっこよく着せてくれているのを見て考えを変えました。誰でも簡単に着せられるほうがいいのかなと思ったところに、水瀬くんとかに対応させたところ売り上げが伸びたので今後は幅広く対応しようと思いました。

ーー今後作っていきたい衣装はなんでしょうか。

鬼木 将来的に季節物が揃ってきたら、制服などのワールドのシチュエーションに合うような衣装を作るのもありかなと思っています。

ーー最後に記事を読んでいる人に向けてメッセージをお願いします。

鬼木 これからも男性アバター市場で存在を出していきたいと思いますので、よろしくおねがいします。

実際に本職でモデラーとして活躍している人から見たVRChatのアバター制作や文化は貴重で、「CGを見せるためだけではなく使ってもらわないといけない」という観点は興味深いものでした。また、今回の記事を通じて男性アバターの存在を認知してもらえれば嬉しく思います。

次回はストリート系衣装を中心に取り扱っているshrekm0nさんにインタビュー。海外のクリエイター視点に立ったアバターファッションや日本のコミュニティとの交流について聞いてきました。