VRChatで撮影した映像作品を競うコンペティション「VRCムービーアワード」をご存知でしょうか? これまで2回開催されており、クリエイターたちの熱い情熱を掻き立てる場となっています。
そして第3回の作品募集が、記事公開時点で行われています。
「映画制作って難しそう……」「今から作っても間に合わないよ」と思う人もいるでしょう。そう思っている人はぜひ、今回の座談会を読んでもらいたいです。何かを作ってみたい、やってみたい人にとっては、気になるであろう裏話が多くあります。
VRChatに最近触れた人も、映像制作のコミュニティにある温度感をぜひご覧ください。
座談会の出席者と受賞した作品を紹介
今回の座談会に出席者と作品を紹介。作品の直接のネタバレはありませんが、作品について多く言及しているため、事前に視聴することをオススメします。今回の座談会に出席している人はいずれも第2回VRCムービーアワードで受賞した作品に携わっていますので、合わせて作品もご覧ください。
MATUBOKKさん。短編作品賞、監督賞、主演俳優賞を受賞した『22:00』監督。
カキノキさん。脚本賞、助演俳優賞を受賞した『未然探偵』監督。
G線上のハッチさん。アクション賞を受賞した『ZONE -EPISODE ZERO-』監督。
ジカウムさん。ショート賞を受賞した『大丈夫ですか』の監督。
詠羅さん。長編作品賞、主演俳優賞、助演俳優賞、アクション賞、美術賞を受賞した【DESPERADO】 EPISODE2 『EDGE OF THE RAINBOW』の脚本、モーションアクター。
熟練のドライバー3人で撮影したカーアクション
──今回は、各作品ごとの制作がどのように進めていったのかを聞けたらなと思います。まずは、『ZONE -EPISODE ZERO-』(以下、ZONE)から聞いてもよろしいでしょうか?
G線上のハッチ ZONEは、もともとVRChatで自動車関連の活動をしている、「もしかしたら映像作品にしたら面白いもん作れるじゃあ?」と思ったのがきっかけです。
映像作品に興味を持ったのも、IRREGULAR’SとDESPERADO、プロジェクト:エメスといった第1回VRCムービーアワードに影響を受けたからです。特にIRREGULAR’SとDESPERADOにはカーアクションのシーンもあったので、自分の車オタク連中たちと映像作品を作ったら楽しいだろうと制作を開始しました。
──第2回VRCムービーアワードの授賞式でも話していましたね。先駆者の熱い想いが繋いでいっているなと思って印象的でした。作品としてはどのようなイメージから着想を得ましたか?
G線上のハッチ 作品としてのイメージしたときに最初に考えたのは「走り屋」ですよね。ただ、自分の目指しているのは『頭文字D』というよりは、80年代後半から90年代初頭まで流行ったいわゆるVシネと呼ばれる作品です。具体的に影響を受けた作品名を出すと、『首都高速トライアル』ですね。
そこから、映像のコンテを作るうえで勉強しました。他にもレースゲームのオープニングも見て、オマージュをしているようなカットも入っていますね。
カーアクションとなるとハリウッド映画のようなド派手なものが思い浮かぶかもしれませんが、自分はある種芋臭いものに寄せていった感じです。
──映像作品の制作は今回が初めてですかね?
G線上のハッチ そうなります。まったくの未経験だったので、アクション賞を受賞したのが本当に驚きでした。スタッフの皆さんのおかげで制作できました。
詠羅 カーアクションを撮るのって特に大変ですからねぇ。
カキノキ 見ている側はどうやってカーアクションを撮っているのか、まったく分からないですよ。
詠羅 私達の現場では、車に「透明アバターを使っている人」を座らせて、その人の後ろに透明な椅子を置いているんですよ。その透明な椅子にカメラ役の人を座らせると後ろからのカットが撮れるわけです。確かそんな感じ。
カキノキ あ~そうやって撮るのか。
詠羅 現実の映像制作の現場では、横からカメラを置くみたいですね。
G線上のハッチ 自分たちの作品の場合は、カメラカーで2台の車を追いかけて撮影しています。
カキノキ 力技だ!? 現実でやっている撮影方法をそのまま持ってきているやり方だそれ!?
ジカウム VRChatだと同期ズレがあるから大変だなぁ……。
詠羅 走っている2台に加えてカメラカーで3台の同期と連携が必要なので、熟練ドライバー3人じゃないとできないですよ。
G線上のハッチ 実際皆さんの言っている通りですね。VRChatの仕様上、スピードを出せば出すほど自分から見えている位置とカメラマンから見えている位置が異なってくるんですよ。なので、自然な映像を撮るために、相手の車がめり込むぐらいまで近づけてカメラマンから見てちょうど良くなるようにしたり、エンジンの回転数を押さえて同じ直線の速度になるようにしたりと工夫しましたね。
──撮影するのにどれぐらい掛かりましたかね?
詠羅 カーアクションのシーンは私は運転できないので見守っていたのですが、撮影は2週間ぐらい続きました。1回の撮影に4~5時間かかることもあったと思います。最初の装甲車が奥から出てくるカットだけで、タイミングを合わせるために10回ぐらい撮り直しました。
G線上のハッチ 走行シーン自体は短いのですが、通しで完成した映像を見たうえで違和感あるカットを撮り直した部分もあるので、全体で見ると半年近く掛かりましたね。1カットを撮るのにも10回、20回も都度Discordで画面チェックを確認してもらいましたね。
詠羅 都度確認するのは大変ですよね。
──一緒に苦労できる相手がいないとしんどくなりそうですね。
ジカウム 誰一人欠けてはならない撮影現場ってことですよ。車一筋なハッチさんだからこそ集まった制作メンバーなんでしょうね。
カキノキ Xのアカウントを見たときに、映像の人じゃなくて車の人なんだって驚きましたよ。
G線上のハッチ なので、自分に加えチクワカーシステムのトップドライバー2人をスタントに読んで撮影のほうに入れさせていただきました。
カキノキ VR撮影に慣れている人じゃないからこそ、自分たちのドライビングテクニックをすべてこなしている感じですよね。個人制作はそうでなくっちゃって感じで、手持ちのカードで勝負している感があってめっちゃ好きです。
──だめがねさんのコラムで、ZONEがシネスコサイズでの制作を行っていると話していたのですが、そのあたりのこだわりはどういったものでしょうか。
G線上のハッチ スタッフと話しているときに高画質で撮影をしてから編集したほうがいいのではと話していたので、撮影時点から可能な限り解像度を上げて取り組みました。シネスコサイズでも車が映えるように撮影してもらって、編集して公開しましたね。
編注:シネスコサイズとは映画館などで使われる横長の画面サイズ。おおよそ2.35:1の比率で、普段見ているモニターのレイアウトが16:9。違いがピンとこない場合は、ZONEと他の作品を比較するのがオススメ。正式にはシネマスコープと呼ばれています。
──解像度を引き上げるのは、パソコンの性能が試されるVRChatだとなかなかチャレンジですよね。その中で、引き上げたのはどのような狙いがあったのでしょうか。
G線上のハッチ コラムでも言及していましたが、綺麗なものを見せたいといった思いがあります。VRChatのグラフィックが、ワールドによってかなり変わってくるのは遊んでいる方なら分かると思います。でも、ライティングや質感にこだわることでリアリティのある映像は作れると伝えたかった想いが強かったです。それに、車のモデルをはじめモデリングのこだわりもありますので、解像度を可能な限り高めにしておきたかったですね。
カキノキ もう愛しかないですね。
G線上のハッチ 主人公の車は、もともとモデリング班の人がBOOTHで販売しているモデルを映画用に仕立て上げたものなので、出来としては申し分ないものとなっています。
実は滑り止めの作品だった『22:00』
──『22:00』はどこから制作のアイデアが浮かんだのでしょうか?
MATUBOKK そもそも前提として、実は『22:00』って滑り止めの作品なんですよ。応募締切の1月が近くなりつつある12月に、もともと撮影していた長編作品が間に合わないと思い急遽作り始めた短編です。Discordのサーバーを見返したのですが、12月の頭に案出しが始まってます。
カキノキ そのスケジュールだと正月が大変じゃなかったですか?
MATUBOKK 年末年始も撮影しましたね。
カキノキ でも、大変な中で年末年始でやろうとなってくれるのは、あったかいチームですよ。
MATUBOKK よく間に合ったなと思います。
──脚本がわりと特徴的かなと思うのですが、どのように進めていきましたか?
MATUBOOK 脚本は自分が担当しているわけではないのですが、チームとしてはアンジャッシュのコントをイメージしていました。
よく言われたのは、『カメラを止めるな!』っぽいと言われましたね。とくに参考にしていたわけではないですが。とはいえ、たしかに似ているのも分かるんですけどもね。
多分、前半のホラーパートとその後の種明かしがそう思わせたと思うのですが、前半のホラーパートはベタベタなホラーをやりたかったんですよ。ベタベタなホラーをやることで後半の種明かしでよりコメディな要素を引き出したい思惑がありました。とはいえ、脚本は別の人がやって、撮影と編集は自分が担当して、漠然としたイメージの中で進めていったので特にイメージしたものはありませんでした。
──わりとオチのインパクトが重要な作りで、そのオチのために前半のホラー要素があるわけですよね。
MATUBOKK ホラー作品を作ったと言われるのですが、作り手としてはあくまでもコメディです。
詠羅 1作目と2作目で雰囲気が違ってびっくりしましたね。
カキノキ 1作目めっちゃ好きです!
MATUBOKK 正直、賞に評価されやすそうなものを作った部分もあります。1作目は作品としては異色すぎて、審査する側がやりづらかったのではないかなとチーム内で反省が出ていました。なので、1作目と2作目でがっつり色が変わっていますね。
──1作目は新入社員用研修ビデオという体裁の作品で、他とは別の枠組みの作りではありますよね。
カキノキ 1作目のニコニコ動画に出ている感じはすごいと思いましたね。見ていてニコニコっぽい!昔こういう動画をめっちゃ見ていた!って面白かったです。
詠羅 分かります。
G線上のハッチ 作品は見ていたのですが、VHS風の編集や裏で流れている音楽も時代感を感じましたね。ZONEを作るうえで影響を受けています。
MATUBOKK VHS風の編集は、ビデオの映像の設定だったので意識しました。音楽に関してはワンオフでこだわって作ってもらっています。
──『22:00』はその他だと無声なのも特徴的なのかなと思うのですが、こちらはどういった意図でしょうか。
MATUBOKK 今回は時間がなかったので声優をお願いするなどといったことはできないだろうと判断し、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスを考えた結果です。後半にクラシックが入っているのも同様で、版権周りのことを考えずに済むためです。
カキノキ ワールドって自作ですよね?
MATUBOKK アセットを組み合わせているので、キットバッシュですね。ワールド1つで完結しているので、急ぎで作れるように工夫しているとも言えます。
──別のイベントで実際に見たことがあるのですが、本当に撮影したスポット全部を凝縮してまとめてありましたね。それにしても、急ピッチであそこまでの完成度なのも恐ろしい……
カキノキ 追い詰められたときって作業が捗るのはよくあることですよ。もうこれで行くしかないとなったときの本領発揮、スピード感で作り上げた感じですよ。
MATUBOKK ありましたね。
カキノキ 常にこのスピード感で作り上げられていたら本命の作品も完成したんじゃないの?ってみたいなのは出てきますよ。
ジカウム 前回は運営側に関わっていたので応募状況を確認していたのですが、入稿締め切りの1日~2日前に投稿している方が多かったですね。夏休みの宿題を最終日に終わらせるタイプが多いのかなって。(笑)
カキノキ クリエイターのダメなところだ……
ジカウム 間に合っているんだからいいんだよ! それに趣味ベースなんだから!
MATUBOKK VRCムービーアワードは最終日まで受け付けていますのでぜひ応募してください。
ジカウム でもギリギリまで作ろうとするからこそいい作品が多いんですよね。だから、是非最後まで粘ってほしいと思います!
締め切り3日前に作り始めた
──そんなジカウムさんはいつ頃から作品を作り始めましたか?
ジカウム MATUBOKKさんのさっきの話で肝が冷えたのですが、実は制作しはじめたのは1月28日なんですよ。
──1月末が締め切りなので3日前ですね。ショート作品とはいえ、なかなかのスケジュールですよ。
ジカウム もともと長編でやりたいアイデアはあったのですが、まだまだ自分の実力では作れないと思い着手していませんでした。でも、周りにいる人達と関わるうちに映像作品が作りたいと思うようになり、締め切り3日前にたまたま一緒に居たくっしーEXさん、さくらこさん、しんおじさんに声を掛けて制作を始めました。
──たまたま居たから作品に巻き込まれるたと(笑)
ジカウム ショート部門にした理由は、長編ホラーだと恋愛や人間ドラマ抜きのホラー一本で成立させるのって難しいなと思ったのと、やっぱり制作期間が限られていたからです。
今回映像を作るにあたって、だめがねさんにアドバイスを求めたところ、好きな映像の魅力を分析するためには、時間の使い方や間の取り方、画角などをしっかり分析することが大事だと教えてもらいました。
──それで分析したのはどの作品でしょうか。
ジカウム 映像を作るにあたって、オマージュとして参考にしたのが映画『鬼談百景』ですね。これは小説 『残穢 -住んではいけない部屋-』の前史に当たる作品で、いわゆる百物語の形式で進んでいく怪談集となっているのですが名だたる6名の監督が映像を制作していて…とこれ以上話すと長くなっちゃうので、この辺で終わりますね(笑)その中でも「続きをしよう」という作品を参考にしました。
結構、明確に分かるシーンがあります。作品を見たホラー好きの中田らりるれろさんがすぐに鬼談百景の「続きをしよう」じゃんって当てていました。Amazonプライムビデオで見られるので見ましょう。
ポスターのキャッチコピーは、『となりのトトロ』から着想を得ていますね。
──となりのトトロですか。
ジカウム 1番好きなアニメ映画 は『となりのトトロ』で、キャッチコピーの「このへんないきものはまだ日本にいるのです。 たぶん。」が好きなんです。それを元に、少し怖い感じにできないかと考えました。当てられないでしょって思ったらだめがねさんが気づきましたね。
──中田さんといいだめがねさんといい、気づきますね。その着想を得て、高速で仕上げたわけですか。
ジカウム 本当に協力してくれた人が指示を的確に汲んでくれる人だったからこそできましたね。
詠羅 こうして話を聞くとウチのスタジオってスケジュールがきっちりしてたんだなぁ……
ジカウム みんなで映像を作ることをしていないので、指示出しがまぁ酷かったですね。カメラマンのしんおじさんには「怖い感じでカメラを上げて! 」と言ったり、アクターのさくらこさんには上半身がないにもかかわらず「襲ってやるぞって顔で向かってきて!」って無茶を言いながら伝えました。
カキノキ 実際に業務指示を飛ばしてくる1日所長みたいな暴挙。
──(笑)
ジカウム さくらこさんには他にも怪異の声も4種類ぐらい取ってもらったかなと思います。機械的なパターンから怖い感じのパターンなどを求めました。音響周りを担当したくっしーEXさんには1番最後の効果音を作ってもらったのですが、「わかんねぇなぁ」と言いながらドンピシャ真ん中を出してくれました。
カキノキ なんか作業中にたくさん愚痴を言いながらやっていますよね。
ジカウム 「私はホラーあんまり好きじゃないんだよ。得意じゃないんだから、ホラーばっかりやって頭おかしくなっちゃう」ってブツブツ言いながらやってくれました。
カキノキ 不満を言いながらちゃんとやってくれるんだなと思いますね。
──いつも後工程で大変そうになりながらも締切に間に合わせるので、仕事人ですよ。
ジカウム くっしーEXさんはちゃんと歩いている足音が左右で違ったり、鍵を持っているほうから音が聞こえたりとリアルの撮影では当たり前に聞こえる音も作ってくれました。しんおじさんは、絵コンテを用意していましたが、こっちの画角のほうが怖いと提案してくれたりもして、だから本当に頼りきりでした。
カキノキ なんかジカウムさん的には頼りきりって思っているかもだけども、スタッフと話している感じだと結構褒めていましたよ。くっしーEXさんやしんおじさんとかが、指示を結構伝わるように努力していたって褒めていましたね。話を聞いている感じだと、コミュニケーションができるんだろうなって思います。
──そんな中で実際作品を完成してみてどうでしたか?
ジカウム 今回作品を出してみて感じたのが、ホラーって聞くと見るのを控える方が一定数いるということです。普段ホラー好きな人とばかり接しているので、感覚が麻痺していましたが改めて考えるとホラーはニッチなジャンルだなと再確認しました。でも、第2回のノミネート作品を見ると、意外とホラー作品の数が多いんですよね。
──作る人の嗜好が近かったりするのですかね?
詠羅 私としては第1回が長編が多くて、第2回でホラーやショートが増えた印象ですね。
ジカウム ジャンルの傾向が変わりましたよね。
詠羅 1回目見てやってみようと思った人が2回目に増えて、だけどいきなり大作を作るのはしんどいからショート寄りの自分の好きを詰め込んだジャンルの作品が増えたのかなと思います。
ジカウム 出さない作品よりも、どんなに短くても出した作品のほうがいいですからね。
円滑なチームの連携で進んでいた
──ここまでかなり突発的なスケジュールが出てくる中、余裕のあるスケジュールで進んでいたDESPERADOについて聞いてみてもいいですか?
詠羅 DESPERADOは、ワールド制作周りは別として脚本の相談がされたのが2023年の3月ですね。そこから2週間で初稿を出して、4月末に脚本が完成しました。撮影は9月スタートで、毎週土日のどちらかに2〜3時間程度で撮影する形で進めていって年内で撮影は終わった感じです。
ジカウム すげぇ!
詠羅 撮影しているうちに、少しずつカットを盛り込んでいったら50分を超えてました。映像編集や音響周りの調整は監督のsatiusさんが担当していたので、正直負担は大きかったと思います。そこからクオリティアップの期間を挟んでいますが、作品の撮影自体は締切の1ヶ月前には終わっていました。
──すごいですね……理想的な進行じゃないですか。
詠羅 撮影が早く進んだのは、一発OKのカットが多かったのが大きいですね。satiusさんをはじめ、スタッフの中で、5年程度の創作活動での付き合いがあるメンバーなので相手のことがなんとなく分かって意図が汲み取れたのがあるのかな~と。
後は、撮影30分前にDiscordでメンションを飛ばしてアナウンスがあったりしましたね。
カキノキ 監督からそういったこと言われたら、やります!ってなりますね。
ジカウム そういうの嬉しい! 気軽に確認できる環境づくりって大事ですよね。
カキノキ 遠慮しちゃいますからね。言ったら相手が傷つくのではないだろうかと気を遣ったりしていると時間が掛かりますよ。だから、いいチームですよ。
詠羅 VRChatで遊んでいるときに、脚本のことで相談が来たらそのままDiscordで3時間話すといったこともありました。脚本は、satiusさんの作っているキャラクターであるナタリアに関する設定やエピソードをすべて私は知っているので、それを踏まえて作り上げました。
詠羅 グループでやっていると、監督の意向に対してその他スタッフが別の意見が出て対立することってあると思うのですが、今回は一切なかったですね。なにかやりたいアイデアに対してはみんなでやれるようにしてみる。監督の言ったことをまずはやってみて、そこから付け足しでアイデアを足していく感じでした。なので、作品を作っていて二転三転していくこともないのも、順調にいったことの理由かなと思います。
カキノキ 1人で作っていても二転三転することがあるのにまとまるのは、とんでもないことですよ。
詠羅 セリフの言い回しとかは現場で撮影しながら修正することはありました。そのときも理詰めで詰めていきましたね。
カキノキ キャラクターの整合性が取れているってことですね。
詠羅 具体的な箇所を話すと、ジェドが病室にいるシーンでの言葉遣いがあります。もともとはかなり大人びていたのですが、子どもが事故にあって両親を亡くしているのに、そんなに冷静にいられるわけがないのでは?という話になったので、会話内容を差し替えたやり取りがあります。
カキノキ 複数人でのチェックが自動でできているので、クオリティが上がる仕組みができているということですよ。仲良し自慢されている気持ちになってきた……
──カキノキさんは真反対の1人で映像を作り上げましたからね。
カキノキ 僕は12月に完成していましたよ。なぜなら誰も議論してくれる相手も、相談する相手もいないので、1人で淡々と作っていたら勝手に完成するからです。
詠羅 すぐそういう悲しい事を言う……
ジカウム 声優がいるんだから1人で作っているわけじゃないでしょ。
カキノキ 声優周りは完成した映像に声がほしい部分にアフレコする形なので。
──想像以上に1人で完結していますね。自己完結で作れるのも面白いポイントではあります。カキノキさんの『未然探偵』は制作するうえでアイデアの元となった作品はありますか?
カキノキ 前回応募した作品の『未然探偵』は10分の中にちっちゃな話を3本やって、最後に1つオチを持っていった作品です。この構成にするのにヒントとなったのは、ディズニーの『ファイアボール』ですね。短く同じリズムの話を何度もやりながら、物語の世界観を見ている側に想像させてオチをつけるといったものを盛り込ませていただきました。
カキノキ よく演出のほうでアニメ制作会社のシャフトの名前を出してもらうことはあるのですが、正直意識していなかったですね。たしかに自分の中では好きではあるので、無意識では意識していたかもしれません。
──となると、実際意識していた作品はあったりしますか?
カキノキ 実際にしていたのは、アニメの『四畳半神話大系』のほうです。色の変化や明暗などのメリハリをつけるやり方は参考にしていました。
──言われてみると、納得ではありますね。
カキノキ 僕は映画を見ないので、アニメ的な演出が多いかなと思います。もともと『ファンタシースターオンライン2』というゲームで映像を自分で作っていたのですが、アニメを作りたくてVRChatに来たというのもあります。それに、今更映画に寄せてもたかが知れているだろうって思ったので、得意な領域にしようと割り切りました。
VRCムービーアワードに作品を出してみてどうだった?
──VRCムービーアワードで作品を出してみていかがでしたか?
詠羅 VRCムービーアワードが立ち上がる前に、自分が所属している団体の環境課でも映像作品を作ろうといった試みはありました。ただ物語性のある作品を前提とすると自分たちの求めるクオリティラインに到達しないなと思って諦めていたのですが、第1回VRCムービーアワードのときにTEAM HAKAIの一員として誘われて撮影に参加したり、いろんな作品を見て思ったのは、「全然そんなことないじゃん!やれるじゃん!」って嬉しくなりましたね。
ジカウム 実は、僕は第1回授賞式のときはVRCムービーアワードのことをあまり知らなかったんですよね。授賞式があるからノミネート作品を見ようぜってフレンドと一緒に見たのが始まりなんですね。そこから授賞式をライブで見ていて、僕もあそこに立ちたいなと思うようになりました。ホラーに関しては、僕だったらこういうホラーが撮りたい!って思ったので、実際に動きましたね。作らないとダサいやつなので。
第2回から教会員として入ったのですが、いろんな人の作品を評価する責任も感じましたし、作り手の個性を知るきっかけにもなりました。カキノキさんは、まさにそうですね。
カキノキ あのときは「将来性を感じる」と言っていただきありがとうございました。
ジカウム お恥ずかしい……
詠羅 何があったんですか?
カキノキ 初めてお会いしたときに、「カキノキさんの動画を見てすごい将来性を感じました」と言われまして。すげぇ女がいるなって思いましたよ。
ジカウム 何年も動画を作っている人に向かって何を言っているんだってことですよ。
──ふっ、おもしれー女みたいなことを言い出していますね(笑)
ジカウム 弁明をすると、第1回の作品では長編作品や実写映画の傾向が強かったなと思っていたんですよ。その中で、コメディでアニメチックな未然探偵がいい意味で異質に見えていました。だから、すごく期待していたわけなんですよ。それにしても言葉選びが……
カキノキ 頑張ろうって思ったからいいよ(笑)
MATUBOKK そもそも自分のスタジオ自体がVRCムービーアワードをきっかけに結成しているのですごく感謝しています。第1回はノミネートすらしなかったのが悔しくて、第2回は何が何でもノミネートをしようと思って作ったので受賞して嬉しかったですね。今は、追われる側になってしまって恐怖感がすごいですけどもね。
応募するための逃げ道はもう埋まっている!後はやるだけ
──第3回VRCムービーアワードにまだ参加するか決めていない人に向けて話しておきたいことがあれば、よろしくお願いします。
MATUBOKK 皆さんのご協力のもとVRCムービーアワードが動いています。作品ができないと、どうにもならないので、作品を出してくれるだけで嬉しいです。0だけは嫌なので……
詠羅 第3回VRCムービーアワードの応募作品数0になったら伝説になっちゃいますね。
カキノキ カキノキさんまだ作品作っていたのって言われたら泣いちゃいますよ。
ジカウム 狙いはショート動画ですよ。
詠羅 ショート動画は見られやすいですからね。1時間の自由時間があるとして、50分の作品を見てから短い作品を見るということはそうないですから。
編注:VRCムービーアワードの作品賞は作品の時間によって3つの部門に分かれます。
長編作品賞(10分以上の映像作品)
短編作品賞(3分以上10分未満の映像作品)
ショート賞(3分未満の映像作品)
──時間の短さは正義ですね。
詠羅 長編だと撮影するのも大変なのですが、ショート動画であれば中身やアイデア勝負に持ち込めますね。後はプレッシャーにもなりにくいですから。
ジカウム 映像を作るときに前知識がないと大変だと思うかもしれません。時間がかかるし、ハードルが高いと感じるかもしれませんね。でも、何も知らない子どもが撮った作品が、ふとしたときに胸を打つこともあるんです。だから、自分が感じたものをそのまま映像にしてくれたらなって思います。
あとは、あれこれ言うより、さっさと撮っちゃいなよって言いたいですね(笑)
──今メタカルで出しているだめがねさんの映像作品を作るまでを解説したコラムで情報の格差を埋めていますからね。
ジカウム コラム読んでいますけども、逃げ道を少しずつなくしている感じがしますね潰して(笑)できないとかやれないって言えないくらい丁寧に書いてるってことなんですけど。
──以前出した移動撮影システムの「Dolly-M(ドリーム)」も、撮影できない言い訳の逃げ道をなくすために独占せずに出すといった経緯だったので、そういうことかと。
詠羅 逃げ道を潰すのはいいことですよ。やりたい人はやるので。
G線上のハッチ 自分の作品を多くの人に見てもらえる機会があるのは、すごく大事ですし嬉しいものです。その中でも影響を受けた作品を追いかけて、自分もその舞台にたつのはすごく気持ちいいですね。
今回自分が出した作品は好きなジャンルなのですが、自分の望んでいるようなものって個人、商業にかかわらずそう出ないものでもあるので、なければ作ればいいじゃないって発揮できる場でもあります。
そういった貴重な体験ができる場として、VRCムービーアワードがいいので、内に秘めるものがあれば勧めたいですね。
カキノキ 同じメンツだと飽きてきますからね。その中で、好きなものがあるんだなって気持ちが伝わるだけで、共感したくなりますから。いいものあるじゃんって見たいですよ。
MATUBOKK とにかく作ってみるのが大事です。ハリウッドの映画監督でも最初からいい作品ができたわけではなく、作っていくうちにいいものが徐々にできあがっていきます。まずそのとっかかり、一歩をこのVRCムービーアワードで踏んでいただければと思います。まずは作品を出して、あわよくば賞を狙ってみてください。
第3回VRCムービーアワードの作品応募締め切りは2025年1月31日まで!
映像作品、撮ってみたくなりませんか?今からでもまだまだ作品を作れる猶予はあります。「映像作品を作るにしたって何が必要なのか分からないよ! 」と思う人もいるかもしれません。
実はメタカル最前線では、VRChatで映像作品を作るために必要な要素を解説した連載コラム「VRC〈ブイチャ〉で映画を撮る前に…」が掲載されています。
VRChatで映画作品を数多く撮ってきたカデシュ・プロジェクトの監督だめがねさんが執筆しており、脚本からカメラの取り扱い、VRChatの映像作品ならでは要素を最前線で活躍している人が実体験と作品例を用いて紹介しています。
このコラムで語られている内容がすべてではないものの何もわからないまま作ることにはなりません。後は自分が作りたいものを作り出すのみです。
VRChatはカメラが標準で搭載されています。カメラがあれば、後は撮るものを決めたら作品となります。ぜひ、VRChatの映像制作をしてみてください。
そして、第3回VRCムービーアワードの応募締め切りは2025年1月31日までです。詳しい情報は、下記の記事でご覧ください。