後世へ”伝統”を残す老舗百貨店「大丸松坂屋百貨店」の挑戦 株式会社Vとの共同戦略について【JBE2025】

12月17日、東京都・秋葉原にてVRChat Inc.による”公式”のオフラインビジネスイベント「VRChat Japan Business Experience 2025(以下、JBE2025)」(主催:VRChat Inc.、企画・運営:株式会社V、GMOペパボ株式会社)が開催されました。そこで開かれたステージイベントで、日本の老舗百貨店「大丸松坂屋百貨店」は”老舗百貨店が挑む、VRChatでの「伝統芸能」革命”と題したセッションで登壇。株式会社大丸松坂屋百貨店 DX推進部部長の岡崎路易さんと、株式会社V 代表取締役の藤原光汰さんのお二人が、VRChatを通して行った、伝統芸能を広めるプロジェクトプロジェクトについて語られたレポートをお伝えします。

「大丸松坂屋百貨店」の成り立ちとメタバース進出のワケ

メタバース領域でのビジネスを開始した老舗百貨店「大丸松坂屋百貨店」。合併前の松坂屋百貨店は1611年、大丸百貨店は1717年の創業と約300〜400年以上の歴史がある企業ですが、なぜメタバース領域でのビジネスに乗り出したのか。その答えは、”買い物の方法の変化”と”クリエイターとの価値共創”にあると言います。

「買い物の変化」は、コロナ禍をきっかけに店舗の休業を余儀なくされた際、この状況を打破するために時間や状況の制約を克服しないと、今後企業として苦しくなってくると経営者層からの発信がありました。そこで大丸松坂屋百貨店は、オンラインビジネス事業といった新規事業の立ち上げを行いました。そこでECサイトを使ったビジネスなど、時間と店舗の制約を店舗だけに依存しないビジネスを作ろうとしていたと、岡崎さんは語りました。ここで次の市場がメタバース上でのビジネスだとしたら、人とリアルの空間で接することが得意というならば、未来に来るであろうメタバースの世界にも先行着手していきたいと考えていたと話します。

そしてもう一つが「クリエイターとの価値共創」。これは大丸松坂屋百貨店が昔からやってきたことだと言います。その昔、1953年に日本で初めて海外のデザイナーのファッションショーを実施したのは大丸百貨店でした。第二次世界大戦からまだ12年しかたっていない、経済復興がまだ十分ではなかった頃、海外の一流デザイナーを招き、その素晴らしさを広めていたということを昔から行ってきたと言います。そして70年後の現在、これからの未来のファッションとして、現代のクリエイターとともにアバターファッションに参入したということです。

保有する伝統工芸品「松坂屋コレクション」を使ったアバター衣装への展開

大丸松坂屋百貨店がVRChatで行った最初のプロジェクトは、大丸松坂屋ブランドのアバター作りでした。2023年10月から毎月12体のアバターを公開し、老舗百貨店が多くのアバター制作を行ったことで大きな話題になりました。

そこからさらに「松坂屋コレクション」と呼ばれる、大丸松坂屋百貨店が保有する歴史的にも文化的にも重要な服飾に関する伝統工芸品を使ったプロジェクトを開始。普段、資料館に保管するような品物は、紫外線対策のため年間でも数日しか表で公開できませんが、これをVRChatで衣装として活用することでより身近なものとして、また表で見る機会を増やすことができました。先日はそのプロジェクトの第2弾として沖縄の「琉球紅型(びんがた)」の衣装を制作しました。

このプロジェクトで日本の反響はもちろんのこと、グローバルな声も多くあったとのことです。そのことから他の領域と比べるとメタバースは海外展開へのハードルの低さは感じるということと、Unityの知識がある方は着付けの大変さを超えることができると岡崎さんは語っていました。

次に挑むのは伝統芸能 一気通貫でサポートを行った江津市の石見神楽

これまで株式会社Vと組んでToC向けのプロジェクトとしてVRChatに参入した大丸松坂屋百貨店は、次に企業や自治体と行うToB向けのプロジェクトに範囲を広げていきます。メタバース参入でよくある悩みとして、検討段階から時間がかかるといったハードルの高さが問題点としてありました。そこを解消していくために、一気通貫の支援体制を展開していく体制を整えたと言います。

その支援を行った例が、島根県江津市になります。シティプロモーションの一環として江津市の伝統芸能である「石見神楽」をVRChat上で再現するプロジェクトでした。モーションキャプチャーを活用して、石見神楽の舞の動きを保存しVRChat内で再現したのです。これにより、江津市の名前を世間に広めると共に、「石見神楽」を後世に残すことにも繋がりました。

さらに岡崎さんは、「ただの再現ではなくVRChatでやるからこその体験を作ることが重要」だと考えたと言います。そこから生み出されたのが、舞を踊る舞台上のどこでも見ることができるスタイルです。これにより客席だけでなく、主人公の目線でも、敵方の目線でも、さらには好きなアングルからでも見ることができます。この体験は、今年開催された大阪・関西万博で出展した際にもお客様から大きく好評を得たと言います。

今回の石見神楽のメタバース化の成果として、まず1週間で1万アクセスを記録。これは島根県江津市の人口のおよそ半分に相当し、大きな話題を呼びました。そして、ワールド公開前のXでのアンケートでは80%以上が島根県江津市を知らないと回答していましたが、ワールドの公開後に行われたアンケートでは認知度が30%アップする結果になったと言います。VRChatのユーザー内で行われたアンケートのため認知に繋がる効果は大きいと言えるでしょう。これもVRChatの可能性だと藤原さんは語ります。また現地の江津市からも大きな反響があったとのことです。そしてさらに、「Japan Metaverse Awards 2025」の受賞も大きな功績となりました。

続いて、VRChatの伝統芸能との相性の良さについて語ります。まずは「距離と時間の制約の解消」です。現地に行かないと見られないという縛りをVRChatは解消することができます。この制約に対するアプローチとして動画やSNSといった手段がありますが、圧倒的な没入感はVRChatに軍配が上がります。さらにVRChatのユーザーは中での滞在時間が長いことも大きいと語ります。2つ目は敷居の高さがあります。最後に3つ目は「伝統芸能の継承」です。伝統の舞を引き継いでいくために、デジタルアーカイブとして大きな価値を持ちます。これらの課題を解決できるのがメタバースの、VRChatの力だと岡崎さんは語りました。

ステージ登壇後にはマスコミ向けのコメント取材も行われ、岡崎さんは呉服店からスタートしている老舗企業が伝統芸能・和服といった文化を継承しようとしたことについて、非常にポジティブな声が届いたそう。海外からの評判もよく、VRChatのユーザーからもフレンドリーに受け入れてもらえたと語ります。

また今後のVRChatに期待することとして、ワールドの人数制限をぜひ増やしてもらい、100人や1000人、それこそ10000人といった規模の人に対してファッションショーや伝統芸能の舞台、それこそお祭りのようなことをやってみたいとコメントしていました。

これからも老舗企業としてのノウハウや歴史を活かしながら、メタバースという最先端の分野で道を切り開き続ける大丸松坂屋百貨店の動向に注目です。