5月20日、クリエイターマーケット「BOOTH」にてとあるVRChatデジタル写真集が無料頒布されました。タイトルは「迷子」。制作クリエイターは、ダンボール頭が特徴の「パパさん」です。なんと彼、画像編集ソフト「Photoshop」のハウツーやメイキング動画を投稿しているPhotoshop系YouTuberという肩書で、そのYouTubeチャンネル登録者数は11万人以上、さらには日本国内で10数人しかいない「Adobe Community Evangelist」でもあるんです。
そんな一見メタバースとは少し遠そうなパパさんですが、もう一つの顔も持っています。それは、いまバーチャル界隈で注目を集めるVTuber/バーチャルシンガーのViANKiEのプロデューサーというもの。そんな、彼による次のチャレンジ「VRChat写真集」。一体どんな想いで制作され、どんなこだわりがこめられているのか、さっそくインタビューしてきました。
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Photoshop系YouTuberからVTuberプロデュース、そしてメタバースへ
――本日はよろしくお願いします。さっそくいろいろと伺っていきたいのですが、まずパパさんのこれまでについて聞かせてください。
パパさん:
もともと、Photoshop系のYouTuberをやっているんです。そちらでは現在登録者数が11万人以上いて。そのチャンネルの登録者数が伸び始めたときに、Photoshopの親元であるアドビ様から「Adobe Community Evangelist」というものにさそわれて。現在は、そこでPhotoshopの魅力を広める活動もしています。
その傍らに別事業としてVTuberの運営プロデュースも行っていて、その延長としてVRChatも始めたという流れですね。
――いきなり情報量がすごい(笑) Photoshop系YouTuberというとどのような内容を扱われているんですか?
元々コラージュ作品を作っていたんです。そのメイキング動画がバズって、それから「私にも教えて欲しい」みたいなコメントが多くもらえたので、しぶしぶ講座をやり始めたみたいな。そしたらアドビさんにも声かけられるんですから、驚きました。
――公認クリエイターってすごいですよね。国内だとどのくらいいるものなんでしょうか?
10数人くらいですね。もうほんとたまたま運で。看板だけ大きいので少し焦っちゃいます(笑)
――VTuberの運営プロデュースというのは「ViANKiE」さんですよね。
そうそう。実は十年来の知り合いなんです。ちょうど自分も、YouTubeで銀の盾がもらえて、一区切りついたなというタイミングで、何か新しいことをということで始めたんですよ。
もともとは、VTuberではなく顔出しをせずに歌ってみた動画をあげるような形式だったのですが、その時にちょうどVTuberが流行っていて「VTuberっていうのがあるらしいよ、顔出しもしたくないんだし、ちょうどいいんじゃない」となったんです。2019年の出来事ですね。
――すごい、確か現在進行形で活動3周年記念のクラウドファンディングで集めた資金で3Dモデルも制作されているとか。
そうですね。基本的に「ViANKiE」のマネタイズはクラウドファンディングにあって。年に1回は必ずしているんです。そこで、今回は新しい3Dモデルを制作しようと。これは、いままでのモデルだとVRChatに無理やり持ってきている感じで、最適化されていないので、VRChatをはじめとしたメタバースでの利用も見越してのリニューアルという意図も含まれてるんです。
――なるほど。パパさんとViANKiEさんは一緒にVRChatの世界に来られたんですかね?
そうです。その時にヴィーちゃん(ViANKiEさん)から、「VRChat行くんなら一緒に表に出ようよ」と誘われて、いまは私も裏方をしながら、個人的にワールドを作ってみたり、改変してみたりと遊んでいます。
写真集「迷子」はVRChatコミュニティへの名刺代わり
――それで、今回の写真集「迷子」を頒布されたと。これはどういった企画になるんでしょうか?
いまは、「ViANKiE」のプロジェクトも含め、ようやくメタバースに本格参入していくぞという準備が整い始めた時期なので、まずはなにか爪痕を残していきたいなというのが正直なところです。その取り組みの一つに今回の写真集があります。
いろいろと試してみたんですが、やはり自分の武器であるPhotoshopを使って一度やってみたいなと。そこで、僕1人でやってもしょうがないので、「ViANKiE」も絡めていきたいということで、Grusちゃんになってモデルという形で参加いただいてます。
イメージとしては名刺代わりですね。なので今回は無料頒布ですし。VRの方面でも仕事の柱を作っていきたいというなかで、まずはここからという位置づけです。
――なるほど。まずは覚えてもらうために自分が使える武器で爪痕を残そうと。それでいうと、今回はなぜ「ViANKiE」の姿ではなくGrusちゃんを使うことになったんでしょうか?
えっと、すこしメタな話をすると、まだVRChatで満足いく「ViANKiE」のモデルが作れていなかったからというのはあります。そちらは目下制作中です。また、まずはいきなり「ViANKiEの写真集です」「パパさんが作りました」というのを前面に出しても、コミュニティの人たちからしたら「誰?」となってしまいかねないので、最初はみんなが知っているアバターをモデルに使いたかったんです。
――今回、アバターのGrusちゃんもそうですが、ワールドの選定も含めて全体的にモノトーンな印象がありますよね。少し暗めというか。「迷子」というワードもそうですが、どのようなコンセプトがあったのでしょうか?
実はコンセプトは割と後付けだったりします。もともと個人的にちょっとスッキリしないような雰囲気が好きというのがあって、VRChatをふらふらと歩いているときに、同じような趣味のワールドが多いのかなって。退廃した感じとかがテーマのワールドって多いじゃないですか。
それで、まずは10個選んで行こうと。ここの選定は、まずしっかりと使っていいものなのか作者さんに連絡が取れるワールドというところは意識しました。そのうえで、私が考えたのは「時系列」です。このワールド行ったら、次はここだよね、ここが朝だよね、昼だよね、夕方だよね、夜だよね、それで最後ここに行ったら終わり方気持ちいいよねという。全体の流れを考えたんです。
逆に言うと、それとテーマの「迷子」しか考えてなくて、その間のコンテクストをSOYA-001さんに埋めていただいたという流れでした。
――SOYA-001さんの文章もまたいいですよね。写真集でもありつつ、かつ読み物としても楽しめる。それが冊子の形なったことで、10個のワールドをひとつの一貫したテーマで一緒に歩いていくような感覚になります。
パパさん流、VRChat写真でのPhotoshopの活用術
――写真集というと、VRChat内だといわゆる「バーチャルフォトグラファー」さんなんかが思い浮かぶのですが、今回は撮影も編集もパパさんが行ったのでしょうか?
そうですね。今回は撮影編集を僕が担当しています。
それこそ、僕もえこちんさんであったりとかは存じ上げてます。一方で、「フォトグラファー」の方は多いけど「デザイナー」で写真やっている人は少ないのかなというイメージもあって。
私自身は、もともとビデオカメラマン出身ではあるんですけど、写真自体はそこまで得意じゃなくて。ただ、Photoshopでカバーできる部分はあるので、そこで頑張ろうというと。
――なるほど。ちなみに、Photoshopでできることというと、具体的にはどのような作業をされましたか?
VRChatでの写真ってなかなかおもしろいんです。ワールドによって、テクスチャ―の書き込みとかが全然変わってきちゃって。そこら辺の補完とかをPhotoshopを使ってやったりしました。
基本的には、アバターと背景を別々に撮影しているんです。VRChatって標準カメラの設定で、背景を消したりできるじゃないですか。あれをつかって、レイヤーを分けるイメージで、2回撮るんです。そうすることで、人物と風景を分けてレタッチできるんです。
「VRChatに興味がない人」でも楽しませたい
――なるほど。撮影段階でレイヤー分けができちゃうのはメタバースならではかもですね。それこそ、Photoshop系YouTuberが出自という部分でいうと、今回の写真集はVRChatコミュニティ外にも届けられるんじゃないでしょうか?
そうなんです。実は、もう1つ今回のコンセプトとして「VRChatに直接興味がない人でも見て楽しいくなきゃだめだ」という想いがあるんです。
私のフォロワーさんって、必ずしもVRChatをしている人ではなく。むしろ、デザイナー界隈の人たちが多くて、彼らって「メタバース」や「VRChat」って聞いても、いまいち反応が悪かったりするわけです。そんな彼らに、面白さを、すごい場所があるんだということを知ってもらいたかったんです。
よく「VRは体験しないと良さが分からない」といいますが、いきなりゲーミングPCを用意して体験してくれといっても無理があって。やはり、VRゴーグルを被らなくても良さが伝わるようにしないと誰も来ないと思うんです。そこにチャレンジしたかったというのはあります。
単にワールドを映すだけあと引きが弱いよね。じゃあ可愛いキャラクターを入れてみたらどうだろう?まだ引きが弱い。じゃあ、物語も入れてみよう、さらにデザインにもこだわってみよう。そうやって、その1ページにとどまる時間を少しでも伸ばそうと工夫していました。
――外に届ける力を持っているパパさんならではの切り口ですね。
個人的には特にクリエイターさんたちには是非一度体験してほしいなと思ってます。
ただ、もちろんいきなり来てくれというのは難しいと思うので、それでも「VRChatは何かわからないけど、これはきれいだね。こんな場所があるんだ」って少しでも魅力が分かってもらえるように頑張りました。
●参考リンク
・パパさん(Twitter)
・ViANKiE(Twitter)
・ViANKiE(BOOTH)