VRC〈ブイチャ〉で映画を撮る前に… 【第18回】プロモーションは「義務」である

映画プロダクション「カデシュ・プロジェクト」代表のだめがねさんのVRChat映画制作するために必要なことをまとめた連載企画。第18回では、プロモーションの手法について紹介。

18.映像作品を作った後に――――プロモーションは「義務」である

VRChatにおける映像制作のあれこれについて全20回でお届けする本コラムも、いよいよ最終回が近付いてまいりました。今回は、作品が完成したのちに監督がすべきこと──作品のプロモーション(宣伝)の手法について、お話ししたいと思います。

(1)作って終わり、は間違いである

はじめに、本来プロモーションは映像監督の仕事の一部ではないということをお断りしておきます。実際の映画製作では、宣伝には宣伝専門のスタッフが付きます。そこに介入したいと考える監督もいらっしゃいますが実際にそうなることは稀で、むしろ作品制作のプロは宣伝のプロではないということで遠ざけられることの方がほとんどです。

それでもなお、本コラムでは敢えて「プロモーションは監督(映像作品の企画者)の義務である」と強く主張したいと思います。宣伝とは得てして嫌悪感を持たれがちなものですし、この考え方は初見ではなかなか受け入れて頂きづらいと思います。本来、趣味での創作において何かを「すべきである」ということはありません。誰にも何の責任も負ってないわけですから、何をしようと本人の自由です。

ですが、それは独りで制作している場合のみです。VRChatに限らず、映像制作が独りで完結することはほとんどありません。俳優、カメラマン、音響スタッフ…その他さまざまな人の協力があって、ようやく1つの作品が完成します。つまり映像作品の企画者であり制作者であるあなたは、あなたを含めた全員の努力の結晶を預かっているのです。それを慎ましく隅に置いておくことは、あなたに協力した人たちの努力をむげにすることに繋がります。

ゆえに、プロモーションは義務です。そこに議論の余地はありません。やってください。これは映像に限らず、全ての共同創作に通じる原理原則だと筆者は考えています。どんな内容だろうと人と一緒に作ったのであれば、企画者はあらゆる宣伝のチャンスに食らいつき、時には頭を下げて泥臭くプロモーションを行うのです。恥ずかしい?ダサい?関係ありません。ただ、やるのです。それが監督の義務なのですから。

──と、啖呵を切ってみたはいいものの、本来プロモーションの才能と作家としての才能が相反するものなのは間違いありません。作家としての才能はおおむね感性の鋭敏さ、繊細さに起因するものですが、一方でプロモーションを効果的に行うにはある種の恥知らずさ、無神経さが必要です。本来併せ持つことの難しい能力ですが、それでもやはり、上記のような理由で企画者自らの手による宣伝活動は避けては通れないことです。だからこそ、本コラムでは「最低限ここを抑えておけば、自主制作の宣伝活動は間違いない」というポイントをお伝えしたいと思います。

(2)絶対に自分の作品を卑下してはいけない

宣伝を行ううえで最大の鉄則は、「絶対に自分の作品を卑下してはいけない」ということです。文面で見れば当然の事に思えますが、謙虚なクリエイターほど、いざ自分の立場になると驚くほどこれをやってしまいがちです。思わず口をついて出てしまう行き過ぎた謙遜を抑えるには、考え方を変えるしかありません。共同制作した映像には、あなただけでなくスタッフ全員の努力が詰まっています。それを卑下するということは、仲間たちの成果物をないがしろにしていることと変わりません。

それに、これは観てくれる観客に対しても大変失礼な行為です。あなたが食事に出かけたとして、シェフが「あまり上手く作れなかったのですが…」「美味しくないと思うのですが…」と言いつつ料理を提供して来たらどう思うでしょう?全く食欲をそそりませんし、せっかく店に足を運んだことを後悔することでしょう。作品を卑下しつつ宣伝を行うのは、これと変わりません。

このように、自分の作品を卑下しても、あなたの周りの人間は誰も得をしないのです。ただ、あなたが一時の安心を得るだけです。「初めてなので上手くできなかったのですが…」「いろいろ課題があるのですが…」そういう枕詞とともに作品を送り出すのは、金輪際やめにしましょう。宣伝で謳うべきことは常にひとつ。「これは世紀の名作である」ということだけです。

(3)キャッチコピーを付ける

心構えについての前置きが終わったところで、具体的な宣伝の手法についてお話ししたいと思います。映画の宣伝を行ううえでまず欠かせないのが、キャッチコピーです。キャッチコピーとは、作品の内容や魅力を端的に表した短文です。有名なところでは、『アベンジャーズ』(ジョス・ウェドン監督/2012)の「日本よ、これが映画だ。」や、『エイリアン』(リドリー・スコット監督/1979)の「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」がそれです。

便宜上作品の完成後の工程に持ってきていますが、キャッチコピーはプロットや脚本を執筆する傍らにぼんやりと考え始めていても決して早すぎはしないです。なぜなら、「良いプロットの作品ほど、よいキャッチコピーが付けられる」からです。逆に、内容がぼんやりしているプロットはキャッチコピーを付けるのも難しいです。筋の通らないストーリーは説明をするために言葉を重ねる必要があり、短文にまとまらないからです。キャッチコピーが思いつくかどうかを、プロットのGOサインとしてもいいぐらいだと筆者は考えています。良い作品には、やはり良いキャッチコピーが付いていることがほとんどですから。

では、良いキャッチコピーとはどう考えたらよいのでしょうか?キャッチコピー制作の手法は広告分野で良い教本が多数出版されていますが、それらを端的にまとめるなら「矛盾・窮地・挑発のいずれかをはらんだ文章にする」ことが良いキャッチコピーの条件であると言ってよいと思います。これは、キャッチコピーの目的が人の関心を惹く=行動を変化させることにあるがゆえの方法論です。

翻って、自分の立場になって考えてみましょう。大手配信者のサムネイルに躍る「●●してみた結果…ヤバすぎる事態にww」の文字や、スマホゲームをわざと失敗するSNS広告などは、鬱陶しいと思っていてもやはり気になってしまうはずです。これらの広告が私たちの目を惹くのは、それが「認知的不協和」を引き起こすからです。認知的不協和とは、脳が安心する状態と現実との間に矛盾があることで、人がこれを感じると、矛盾を解消するために行動を起こさせる強い動機になります。上記の矛盾・窮地・挑発は、いずれも認知的不協和を引き起こします。すると、脳がそれを解消するために「実際はどうなのか」を検証する行動をさせようとします。言うなれば不快さで人を動かしているわけです。というと悪いことのように聞こえますが、少量の毒素が薬として使えるように、軽度の不快感であれば作品の内容で十分に覆すことができます。

これらを踏まえて、実例を見てみましょう。拙作の話題で恐縮ですが、『プロジェクト:エメス』(だめがね監督/2021)は、この法則に基づいて「その少女は創られた。生みの親を殺すために──」というキャッチコピーを付けています。これは「矛盾」に該当します。「日本よ、これが映画だ。」は「挑発」ですし、「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」は「窮地」です。他の例でいうと、『となりのトトロ』の「このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。」は、宣伝文句でありながら「たぶん」という曖昧な締めにしていることが構造的な矛盾を生じています。

良いキャッチコピーは、あらゆる宣伝行為の基礎になります。是非、みなさんも自分の作品に付けるキャッチコピーをじっくり考えてみてください。

(4)ポスターを作る

映画の宣伝におけるもう1つのキーアイテムは、ポスターです。VRChat映画は今まさに隆盛を迎えているジャンルで、日々新作が公開され、同時に多くのポスターを目にします。どれも作品に対する真っすぐな愛着が詰まった素敵なポスターである一方、デザインのセオリーから言えば改善の余地があるポスターも少なくありません。改善点は主に、「レイアウト」と「フォント選び」の2点です。

レイアウト面については、「余白づくり」と「整列と分散」を意識するだけで大きく改善することができます。拙作のポスターを例にとって説明します。まず、以下の例をご覧ください。

左側が世に出た完成版、右側はそのレイアウトを敢えて崩した例です。比べるまでもなく、左の方がまとまって見えると思います。こうして例を挙げて見てみればよくわかるのですが、いざ自分が作る番になると、こういったセオリーはどうしても忘れてしまいがちです。初めのうちは手本にするポスターを決めて、とにかくそれを真似してみると良いでしょう。真似るというと不安に思うかもしれませんが、プロのデザインは真似ようと思ってもそう簡単に真似られません。全力で似せたつもりでも遥かに届いていないことが多いので、安心して手本にしてみてください。(もちろん、誰がどう見ても一目瞭然な剽窃は別ですよ。)

フォント選びについては、敢えて強い言い方をするのであれば、Windowsのデフォルトで使えるフォントの中に格好いいものは1つもありません。ポスターを作るのであれば、フォントは新たに仕入れることを前提に考えてください。

特に昨今の流行だと、宣伝物で好まれるのは「極細」もしくは「極太」の二択です。中庸なものほど扱いが難しく、格好いい印象を与えるのは難しくなります。これも、実例を見ながら考えてみましょう。以下の画像の左側は完成版、右側はWindowsにデフォルトで搭載されているフォントのみで構成した例です。

これも、一目瞭然で左側の方が美しく見えると思います。Windowsに標準搭載されているフォント類は、解像度が乱れている状況や、視力の低い人が見てもきちんと読めるといったことを主眼に置いて開発されたフォント類です。そのため、見た目の美麗さにおいてはデザイン性を追求したフォントに一歩譲ります。以下に、筆者が多用するフリーフォントをご紹介しますので、まずはこれらをポスター制作に取り入れてみてはいかがでしょうか?

●和文フォント

-源瑛ゴシック:配布ページ

-源ノ明朝:配布ページ

●英文フォント

-Butler:配布ページ

-Jost*:配布ページ

無論、デザインもフォントも誰かの創作物です。きちんと規約を確認し、制作者の権利を侵害しないように使用しましょう。商用不可のフォントを使ってグッズを作るなどは、もってのほかです。

(5)まとめ

今回は、映画のプロモーションにおけるもっとも基礎的な2つの要素についてご紹介しました。ざっくりとまとめるなら、宣伝とは「気持ちの悪い(気になる、放っておけない)テキスト」と「気持ちのいいビジュアル」を組み合わせるのが肝要です。違和感のある文章で足を止め、格好いいビジュアルをぶつけるというわけです。

では、これらのプロモーションはどこで展開したら良いのでしょうか?もちろん、昨今最もパワーのある宣伝媒体──SNSです。次回は、SNSにおける宣伝ノウハウをお伝えします。

おまけ:こりゃ悔しい!のコーナー

コラムの最後に、筆者が「こりゃ悔しい!」と感じたまだ見ぬ名作VRChat映像作品をご紹介いたします。

第18回:「National anthem」official MV_MONDEN MASAAKI(Tai_tai監督/2024)

イギリスのインディーズ映画を顕彰する賞「レインダンス映画祭」のイマーシブ部門にノミネートされた映像作品です。映像美という点では、VRChat内で撮影されたMVが映画の一歩も二歩も先を行っていると思わされることが多いのですが、本作はその中でも群を抜いて完成度の高い映像でした。ライティングやカメラワークなど、映画においても参考になる部分が非常に多いと思います。是非ご覧ください。

ABOUT US
だめがね
2020年、VRChatを開始。VR空間での映像撮影に可能性を見出し、クリエイターチーム「カデシュ・プロジェクト」を結成。 同スタジオの代表を務める傍ら、デザイナーとしても活動する。映画監督としての代表作に『プロジェクト:エメス』『掌』、 アートディレクターとしての代表作にVRChatワールド『Tokyo Mood by BEAMS』がある。