今なお続くVRChat日本語ローカライズの現場をご紹介。ボランティアで続けている理由や翻訳チェック用VRChatの存在など裏話を語る

翻訳チームもココ見てる!? VRChat最新情報を得るために見る場所

──開発者とのコミュニケーションという点に関してお聞きしたいことがありました。VRChatの最新情報を追ったり、開発者にフィードバックを出したりする方法って、なかなか知らない人が多いかなと思っています。お2人は普段、どのように情報を入手したりしていますか?

nekochanfood XのVRChat公式アカウントの通知をオンにしていて、全部見ています。VRChatの公式Discordサーバーのannouncements チャンネルを見て最新情報を知ることもあります。

——翻訳をしているからといって何か特別な情報源があるわけではなく、一般のユーザーとあまり変わらない感じなんですね。

なくとん 情報収集としては運営から定期的に出されている「Developer Update」もありますね。

Developer Updateの下のコメント欄、あそこで開発側の人とユーザーの間で議論が起きることがあって、私はそこも読んでます。あと、読むだけじゃなくて書く! 意見を言える場所としてはそこがありますね。

——何か疑問がある場合、コメント欄を見ればすでに言及されている可能性もありそうですね。

なくとん オープンベータについては、Discordに専用のチャンネルがあって、開発者が返事をする場合もあるので、そこで疑問を投げるというのも1つの手です。

困ったとき、VRChatへの意見ってどこに伝えればいい?

——最新情報とは関係のないことで開発者に何か要望がある場合は、どのように伝えればいいのでしょうか?

なくとん 要望はすべて「Canny」(フィードバック収集用フォーム)で出してくれというのが、開発側の方針ですね。

我々も、ローカライズについて相談した際は、「うん分かった。じゃあCannyに書いて」と言われます。そうしたらちゃんと内部に回せるから管理のためにそこに入れておいてくれと。カテゴリーがいろいろあるので、適切なボードを選んでそこに書きます。

——Cannyでフィードバックを書くとき、要望をうまく伝えるために気をつけたほうがいいことはありますか?

なくとん それは……真面目に話すと小一時間コースになるんですが(笑) どうしようかな……

ざっと読んだ時に、何を言ってるのかわからないものを見かけます。よくあるのが、これこれこういうことがありまして、そしてこれをしまして、そしたらこうなってこうなりまして、でこうなりました、っていう時系列で書いたものですね。こうすると主張したい内容が文章の中に埋もれてしまいます。主張は冒頭に簡潔に書くようにすると運営の人に理解してもらいやすくなると思います。

Cannyの書き方のアドバイスについて(インタビュー後、なくとんさんより補足)

タイトルは最後に書く。

一番最初にあるので、最初に書き始めがちだが、本文を全て書いて吟味し終わった後に、本文内容を要約する一文を書くのがお勧め。

VRChat 開発者に限らず他のユーザーも含めて Canny を見る人はまずはタイトルを見て理解しようとするので、そこで概要が伝わらないと出だしでつまづくことになる。

不具合の場合には起きていることを伝える文、機能拡張要求の場合はVRChatにして欲しい事を指示する命令文の形にするのが一般的。内容に特徴的なキーワードを含みつつ長すぎないのが良い。日本人は断定を避けたい傾向があるので、一文で言い切るのを意識すると良いかも。「~について」のように主題だけを書かれると「それが何だとあなたは言いたいのか?」という疑問が湧いてしまい良くない。

——以前、ツールのエラー報告のやり方に関する記事を出したのですが、それと似ているでしょうかね。

なくとん あ、同じです。総じて言うと、読む側の立場になって、自分が書いたものをもう1回読み直そうという話です。

——エラー報告のやり方の記事では、「何をしたのか」「何をしたかったのか」「何が起きたのか」「何を起こそうと思ったのか」の4つを書き、あとはUnityのエラーの文章を併せて貼るという感じでまとめました。

nekochanfood エラーログは大事ですね。

なくとん スクリーンショットとか、動作に関してだとビデオを撮るのがいいんですよ。ほかの人が見て、ああこれおかしいねってわかるようなビデオがあると伝わりやすいです。

nekochanfoodさん 何をしてどうしたらこれが起きる、みたいな再現方法もあると喜ばれると思います。

なくとん 報告する側にとっては作業の手間になるんですけど、再現できるワールドとかアバターを用意するっていうのは1つの手ですね。頑張って言葉で説明するより、ものを見てもらったほうが確実な場合があります。パッと動かしてみて確かにおかしいとすぐわかるっていうのは開発者が喜びます。

——日本語の翻訳に関して意見があるときもCannyでフィードバックを出したほうがいいのでしょうか?

なくとん 実際のところどうなのかという話をすると、ローカライズに関して開発側に作業をしてもらいたい場合には、我々もCannyを使っています。

例えば、とある単語が2か所で使われていることがあって、英語では同じ表現で2か所ともまかなえるんだけれど、日本語だとうまく当てはまらない場合があります。そういうときに、区別してほしいとCannyで依頼したりします。

nekochanfood わかりやすいもので言えば、インスタンスのタイプの「パブリック」と、グループの可視性の「公開」は、英語だと同じ「Public」です。それで、文脈によって違う訳を使うということができないみたいなことがありましたね。

なくとん あとは、ここが翻訳対象になっていないから翻訳対象にしてくれというお願いをバンバン投げたりしていますね。ただ、こういうことは、翻訳チームじゃないと分からないようなところですよね。

——確かに、本当に翻訳対象になっていないのか、すでに翻訳は終わっているけれどまだ反映されていないだけなのかは、はたから見ても分からないですよね。

なくとん そういったものではなく日本語の翻訳が変だなというときには、CannyではなくてローカライズのDiscordサーバーで言ってくれたほうが都合がよいです。

nekochanfood 翻訳されていないという問題であっても、Discordサーバーで私たちに報告してもらえれば、こちらでフィードバックを書くので大丈夫です。日本語翻訳に問題があるならDiscordサーバーに来てという感じですね。

困った時はぜひ意見を! ユーザーと距離が近いから声は届く

──ちなみにお2人は、VRChat側からはどれくらい自由度や権限が与えられているんですか?

なくとん 実際の訳文を選ぶことは、我々2人に完全に任されています。VRChatの表記とか商標の関係とか、明確に決められているところもありますが、かなり少ないです。

nekochanfood 結構、任されているところが多いですよね。

なくとん 僕の感覚からすると、「え、本当にいいの? いいのかい?」っていう感じです(笑)

——信頼されていますね。では、用語を決めるときは、VRChat側の人はあまり関わらず、お2人と有志の翻訳者の方々で議論するということでしょうか?

なくとん そうですね。開発側に問い合わせたほうがいいだろうということは問い合わせますが、問い合わせるかどうかはこちら側で判断している感じです。

——責任が大きくてプレッシャーじゃないですか?

nekochanfood 重いですね、やっぱり。直近でもスマートフォン版での「Activity」の翻訳を間違えたときはかなり背筋が凍りました。だいぶ落ち込みましたね。ご飯が食べられなかった日もありました。

——痛いところをつつくようですみません……地道に探して対応しているんだなと思いまして。

nekochanfood 「人気度」の件は、Xのおすすめ欄に出てきて気づいた感じなんですけど、やってしまったなぁと……

ユーザー関連で「Activity」という言葉が使われているのを今まであまり見たことがなく、てっきりワールド関連の文字列なのかなと思って承認してしまったんですよ。実は違いました……

──スマートフォン版はまだ環境が整っていないので、何に使われているのかが分かりにくい状況が原因なわけですね。

なくとん あ、僕がたまにXで投稿していることには、そういう背景もあります。こっちから、実はこういう事情があるんだと説明しておこうと。そして、何か意見があったらDiscordに来て!と。

nekochanfood Discordに来てくれればいつでも対応します。

なくとん 翻訳作業に参加したい場合とか、何かご意見がある場合は、Discordの中でディスカッションできるので来てちょうだいと思っております。

nekochanfood Xなどの意見は拾いきれないので、見えるところに送ってほしいです。Discordに来てくれたら、いろんな人から意見が聞けるので嬉しいですね。

——いろいろとお聞きして、ローカライズ作業のドッタンバッタンな様子が伝わってきました。それに、知っている情報もほかのユーザーとあまり変わらない。みんなと同じいちユーザーが翻訳をしてくれているんだよということをぜひ知ってほしいです。今後は温かい目で見てあげて! きついことは言わないであげて!と感じました。

なくとん っていうニュアンスの記事にしていただけると助かります(笑)