とあるニュースを見て、思わず注目した試みがありました。
オフィスメーカーの株式会社オカムラがメタバース用の企業公式3Dデータ販売サイト『RoomieTale(ルーミーテイル)』の公開予定を発表したことです。
「また企業の販売サイト公開か」と思った人もいるでしょう。ですが、待ってください。今回の試みは悪くない着眼点なのです。
ワールドを作るときに3Dモデルを探すことは珍しいことではないと思います。とはいえ、とある悩みにぶつかります。
「ワールドに置いても大丈夫な商品か……?」
不安に思う理由は2つあります。1つ目は、「VRChatをはじめとしたメタバース向けに最適化されているのか」ということ。実際に買ってみると、ポリゴン数が多いなど最適化されていない場合があるでしょう。
2つ目は「権利的に問題ないか」ということ。既存の商品に寄せていたとしても、購入する側からすると必ずしも気づけるわけではない可能性もあります。
信頼できるショップから購入する、ハズレを引くことを覚悟に購入するといった解決法はありますが、誰でもとっつきやすいかと言われると難しいのが現状でしょう。
今回紹介する『RoomieTale』で販売されるのは、最適化された企業公式3Dデータ。先程述べたような購入するうえでの不安がないサイトなのです。
そんな注目すべき『RoomieTale』について今回は、オカムラの社員であるkumaさんとなだっちさんにインタビューしてきました。『RoomieTale』がいかにして公開に至ったのか、狙いについても聞いてきました。
たとえバーチャルでも「人を想い、場を創る。」の精神を忘れず
――最初に2人の自己紹介をして頂いてもよろしいでしょうか。
kuma kuma です。オカムラの社員で、もともとは空間デザイナーとして店の内装や家具のデザインに携わっていました。オカムラでは、DX関連の取り組みを推進する部署にいます。 2020年から個人でワールド制作をはじめとしたVRでの創作活動を行っていましたが、最近ではオカムラ公式としてVR イベントの企画や空間デザインを行っています。
なだっち 私もオカムラの社員で、kuma さんと同じ部署にいます。もともとは、営業や経理といったさまざまな業務に関わってきました。 DX人材の育成を目的とした社内プロ グラムに参加し、メタバースを提案したことがきっかけで今の部署に移りました。 役割としては、VRChatに精通しているkumaさんがいるので、私はkumaさんとVRChat を知らない人との間に入って仲介をしています。
――オカムラがVR関連のプロジェクトを進めている理由について伺ってもよろしいでしょうか。
なだっち 私がVR関連のプロジェクトを進めることになったきっかけはコロナ禍でした。当時はリアルオフィスに出勤することがなくなるのではないかと思っていた時期ですね。また人と人とのコミュニケーションの場はゲームの中にもあると感じていました。
こういった背景があり、普段リアルの場をつくるオカムラはバーチャルにおいても場をつくるべきだと思いVR関連のプロジェクトを会社に提案し、採用されました。今ではオカムラが掲げている「人を想い、場を創る。」のメッセージにマッチしていると感じています。
――オカムラが掲げている「人を想い、場を創る。」のメッセージは、今回の『RoomieTale』も場を作ることでもあり、場を作る手助けにもなっていますよね。 『RoomieTale』はどのような背景で立ち上げに至ったのでしょうか。
なだっち オカムラはオフィス、店舗、物流倉庫といった空間づくりや、それらの空間で使用されるオフィス家具等のモノづくりを得意とする企業です。今後は現実空間だけでなくバーチャル空間で生活する人が増えていくことを見越して、バーチャルの空間づくりではアバター『まめひなた』のファッションショーイベントなどを開催し、バーチャルのモノづくりではオカムラ家具の3Dデータ販売などを行っています。
企業がVRChat に参入することはネガティブな印象を与えるのではないかと不安でしたが、ユーザーからは他の会社からも家具を出してほしいという要望が届きました。
ユーザーの意見を受けて掘り下げていった結果、オカムラだけが販売するのではなく他の企業の3D家具も販売するといいのではと思い、『RoomieTale』を立ち上げることにしまし た。
kuma 3D家具を開発するにあたり、現状のVRChatなどで活躍しているクリエイターには課題が2つあると考えました。
1つ目は、ワールドを作るうえで使いやすいローポリのアセットが市場に少ないこと。2つ目は、版権的に安心できるアセットを探すのが大変だということです。
今回の『RoomieTale』を開設するにあたって、販売されているものはすべてローポリに最適化されており、企業公式商品のみを扱うことで版権的に安心できるようにしました。
――ワールドを作るうえでも権利周りがクリーンなのは意識したいことですし、ワールド作りでも使いやすい最適化されたローポリなのはいいですよね。家具のデータ販売自体は、他にもいろいろなサイトなどで買えますが、必ずしも最適化されているとは限りませんし、権利周りが問題ないだろうかと不安になることもあります。サイト全体で一律で保証されているのは、強みだと感じますね。
なだっち 権利周りに関しても、利用条件をしっかりさせてどのような使い方ならいいのかをユーザーに分かりやすいようにしています。
おもちゃ箱を作るようなイメージで『RoomieTale』を用意した
――『RoomieTale』の機能についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
なだっち さまざまな企業の持つ3Dデータを販売するアセットストアといった形です。
最初はスモールスタートで、機能は最小限にしてユーザーのニーズに合わせてアップデートしていければと思っています。
オカムラは、リアルでいろいろな企業と共創を行っており、『RoomieTale』でもその繋がりを
活かして少しづつ参加してくれる企業を増やしていきたいと思っています。公開時に多くのショップが並んでいることを期待されていると満足してもらえないかもしれませんが、長い目で応援してもらえると嬉しいです。
――取り扱うアセットに関しては企業公式のみでよろしいでしょうか。
なだっち 基本的には企業公式のみの取り扱いです。ですが、クリエイターとのコラボ商品が出るといった動きはあるかもしれません。『RoomieTale』は共創するための場でもありたいと考えています。
kuma 『RoomieTale』のコンセプトを聞くと企業による硬いイメージを受けるかもしれませんが、私たちとしては新しいアイデアが生まれる「おもちゃ箱」というイメージで作っています。改変やイラスト下絵等、ユーザー自身が使い方を見つけて楽んでもらえたらと思っています。
ーー取り扱っている商品すべてが、最適化されて版権が安全なのは、まさに初心者にうってつけの場所ですよね。まずは、とっつきやすい『RoomieTale』から空間を作ることを楽しんで、次第に挑戦してくださいといった流れが生まれるといいですね。
コンペのテーマは「あなたのアバターが暮らす部屋」
――3D空間コンペイベント『RoomieTale HomeWorld Competition』を開催するに至った経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか。
kuma 『RoomieTale』は企業とクリエイターが共創するための場でありたいと思っています。そのためオンラインイベントを開催することでクリエイターと接点を持てる場を作ることにしました。
今のVRChat上ではアバター改変文化が根付いていると思いますが、今後1人ずつバーチャル上の部屋を持ってフレンドとお宅訪問したり、学びあったりするような空間改変の文化ができれば、クリエイターの自己表現の幅が広がったり、今よりもっと個人にスポットが当たったりするかもしれません。
ですので、今回ユーザーの皆さんが空間づくりにチャレンジできて、もっとVRChat が楽しめる世界を作りたいという思いで、3D空間コンペを開催するに至りました。
――もっと盛り上げるためのアプローチの1つなわけですね。3D空間と今回銘打っていますが、ワールドと同一なのか、別の枠組みとして捉えているのでしょうか。
なだっち ワールドよりも小さい枠組みです。応募作品に関しては、コンテナサイズの空間に自身のアバターとアバターの世界観を表現した部屋がセットになったものとなります。
コンペテーマを「あなたのアバターが暮らす部屋」にしており、アバターとアバターの世界観を表現した部屋を募集しています。
――コンペテーマの「あなたのアバターが暮らす部屋」はどのように決めましたか?
kuma コンテンツとして見ていて楽しいものにしたい、それに加えて初心者の方でもチャレンジしやすいものにしたい、という思いがありました。そこでコンテナサイズの空間に作者さんの分身であるアバターとその世界観をギュッと凝縮した作品であれば一般の方でも見ていて楽しめるのではないかと考えました。
――素敵ですね。投票に関しては、どのような形で行われるのでしょうか。
なだっち 一般投票で行われ、スペシャルサイトにて応募作品を写真で展示。6月15日に行われる入賞者発表イベントにて、VRChat 上で上位入賞者の発表と入賞者の3D作品の展示が行われます。入賞者にはお好きなオカムラシーティング1脚ほか、 豪華賞品を予定しています。
――応募や一般審査は写真で行われるので、これまでワールドを作ったけども無理だった人も気軽に挑戦できますね。ワールドだと、物を配置してもギミックなど用意しないといけませんが、今回のコンペはまったく必要ないですね。
なだっち ワールド制作に慣れている人はもちろん、初心者の人にも参加してもらえると嬉しいです。
――今回はありがとうございました。
『RoomieTale』のコンセプトは、すごくVRChatへの理解度が高いと思いませんか?今あるVRChatの環境にオカムラができることを最大限に活かしている取り組みだと思います。
インタビュー中におもちゃ箱のようなイメージと語っていましたが、おもちゃ箱も大人が子供に安全に楽しんでもらうために工夫されています。おもちゃ箱からどのように物を作るのか養われたように、『RoomieTale』にある3Dデータからワールド作りなどの空間を作る楽しさに気づくのもいいのではないでしょうか。
3D空間コンペイベント『RoomieTale HomeWorld Competition』の応募は5月6日まで。応募は専用Discordサーバーにて行われます。専用Discordサーバーに参加後、共通パッケージのダウンロードを行い、氏名・作品タイトル・作品説明文・作品写真3カットを提出することで応募が完了します。
今から応募してもまだ間に合うはず。ワールド作るのを断念した人もチャレンジしてみてください。
そして、「RoomieTale」のオープンは5月20日に行われます。ぜひチェックしてみてください。