VRC〈ブイチャ〉で映画を撮る前に… 【第19回】「時間」と「視覚」で見せるSNS宣伝

映画プロダクション「カデシュ・プロジェクト」代表のだめがねさんのVRChat映画制作するために必要なことをまとめた連載企画。第19回では、SNSの活用法について紹介。

19.映像作品を作った後に――――「時間」と「視覚」で見せるSNS宣伝

今回を含め残り2回となったこのコラム。前回に引き続き、今回も映像制作者が行うべきプロモーションについてご紹介します。中でも今回は、SNSを活用した宣伝活動についてのノウハウをお話ししたいと思います。

(1)プロモーションは違和感を活用する

前回の内容にも繋がりますが、プロモーションの鉄則は「違和感」を活用することです。ある種の違和感は、人間の脳に「それを解消したい」という猛烈な欲求を引き起こします。その具体的な手段として、前回は矛盾・窮地・挑発いずれかの要素を含んだキャッチコピーを作ることをご紹介しました。テレビのクイズ番組で謎の答えが出ないままCMに突入すると、どうしても気になって続きを見てしまうように(これは「挑発」です)、的確な形で投げかけられた違和感は、作品を観てもらう強力なパワーになります。SNSを使って宣伝を行ううえでも、それは変わりません。SNSではこれに加えて、「時間」と「視覚」の2つが大きな影響を与えます。ここからは、この2つの切り口からSNSでの宣伝を分析してみます。

(2)「時間」──SNS宣伝のホットタイム

SNSは、ニュースサイトや掲示板と異なり「フロー」(時間経過に伴う情報の流れ)に特化したコミュニケーションツールです。ニュースや掲示板が過去記事の検索性にも配慮した「ストック」(情報の貯蔵)の側面を強く持つ一方、SNSは一度流れてしまったものを相手にキャッチしてもらうのはかなり難しいです。そのため、初動でどれほどの拡散をされるかがかなり重要で、従って情報を投下する時間帯が全てを左右すると言っても過言ではありません。

とはいえ、単に投稿時間に配慮するというだけなので、セオリーを知ってしまえば誰でも真似できます。基本的に、SNSに情報を出す時間は「7:00」「12:00」「18:00」の三択です。ご賢察の通り、これは「出勤前」「お昼休み」「退勤後」のそれぞれに該当します。つまり、多くの人がスマートフォンを見ている時間帯というわけです。特に、12:00は最も人の目が集中するゴールデンタイムです。特段の理由が無いなら、正午に情報公開を狙うのがベストと言って良いと思います。正時にはこのセオリーに基づいた告知が集中しますから、埋もれさせないという意図があるならもちろん多少前後しても構いません。

ただ、いくつか注意点もあります。1つは、休日の対応です。上記のセオリーは平日のタイムスケジュールに基づいたものですから、休日となると話が変わってきます。基本的に、休日は平日と比べて全体的にインプレッション(閲覧回数)が落ちると思って良いと思います。スマートフォンを見ている時間自体は平日より長いのですが、特定の時間帯に集中せず満遍なく散らばってしまっており、初動が稼ぎづらいのです。

一方で、5分を超えてくるような尺の映像の場合、平日に認知されても「長いから今日はやめておこう」と判断されてしまうことも多いです。映像に限らず、ゲームワールドなどの時間を取るコンテンツは同様です。筆者のスタジオで制作している作品はほとんどが長編なので、毎回このパラドックスに悩まされています。明確な答えはありませんが、実際に商業映画で使用されている「平日に初報を出す」→「休日に再度プッシュ」という方法で対応しています。今のところ、概ねこの方法で上手くいっています。

2点目は、ビジュアルの重要性です。これだけ情報が氾濫しているSNSですから、文字だけの告知が認知されるのはかなり難しいです。加えて、TwitterがXへと体制変更して以降、画像や動画の添付されたポストの方が、表示アルゴリズムにおいて優遇されていると言われています。特に動画は顕著で、「おすすめ」のタブを見てみると短い動画のついたポストばかり並んでいるのが実感できると思います。静止画を動画化(動画だが、静止画が表示されるだけで全く動かない映像)したものでも問題ないようで、一時は1~2秒の静止動画を添付した宣伝ポストが氾濫していました。

こういったシステム上の事情を差し引いても、そもそも人間は文字より絵(ビジュアル)の方が目に留まりやすい傾向にあります。これが、次にご紹介したいトピック「視覚」に繋がってきます。

(3)「視覚」──目に留まりやすいビジュアルづくり

ビジュアルは、現状のSNSプロモーションにおいて最も重要な要素です。ここまででご紹介してきた投稿時間帯云々のセオリーを、軽々と突破しうるだけのパワーがビジュアルにはあります。先ほどXのアルゴリズムでは動画が有利だとお伝えしましたが、今やSNSもXだけではありません。ThreadsやBlue Sky等々も総合すると、各種ビジュアルの中でも特に静止画が有利と言って良いと思います。SNSでは数あるエンターテインメントのなかでもイラストが飛びぬけて拡散されやすいことからもわかるように、瞬間的に認知してもらえる静止画ビジュアルは宣伝において非常に強力です。

さて、宣伝におけるビジュアルを考えるうえでまず覚えて頂きたいのは「画像なき告知は告知ではない」ということです。告知には必ず、どんな内容でも良いので画像を添付するようにしてください。映像の場合はポスターが最も汎用性の高いビジュアルになりますが、スチル(場面写)や、果ては上映会の告知画像などもすべて宣伝用ビジュアルに分類できます。本当に何も無いなら、最悪スタジオのロゴを単色背景にベタ張りするだけでも構いません。ビジュアルがないと、そもそも告知として認知されないのです。

そうなると問題になってくるのは、「告知画像はどのように作るのか」ということです。これはもう、成功例に倣うのがベストです。SNSマーケティングが上手くいっている個人や企業は多数ありますが、ことに「エンタメ」「サブカル」「キャラ創作」「映像」といった要素やVRChatの客層を鑑みると、大陸系のソーシャルゲームのSNSが最も参考になると思います。こういったコンテンツでは1宣伝物に至るまでビジュアルのクオリティが管理されており、デザインにおける流行の最先端も取り入れられているため、またとない教材になります。例えば、『アークナイツ』の公式アカウントを見てみましょう。

ポイントは3つあります。まずは、「色数の少なさ」です。どの告知ビジュアルも、オレンジであればオレンジ、紫であれば紫の濃淡で表現されていて、それ以外の要素はモノクロです。仮に複数色あってもせいぜい2色程度に収まっており、それも相性の良い色使い(水色とピンク、オレンジと紫など)を意識してまとめられていることがわかると思います。結果、見たい情報がストレートに伝わってくるデザインに仕上がっています。静止画の強みは瞬発的に情報を認知してもらえることなので、認知に時間がかかるような情報量の多いデザインは悪手というわけです。

2つ目は、「文字要素のシンプルさ」です。映像に限らず、VRChatにおける宣伝物の勿体ない例で多いのが、文字を飾りすぎていることです。ふちを付けたり、ベベルを付けたり、全体にグラデーションをかけたり…重要な要素だからこそ飾りたくなってしまいますが、ここはグッとこらえてシンプルにしましょう。文字は白か黒、そして光彩(文字の周囲に入る、ぼかした影)があれば十分です。光彩は無料の画像編集ソフトであるGIMPや、仮にそれすらない場合でもPowerPointにまで搭載されている機能です。誰にでも取り入れられるデザインの流行スタイルなので、是非真似してみてください。

最後は「縦横比」です。ほとんどの画像が、16:9で制作されていることがわかると思います。これは言わずもがな、汎用性が理由です。16:9はPCやテレビのディスプレイなど、各所で最も普及しているアスペクト比です。このサイズで作っておけば、あらゆる媒体での宣伝に流用が効きます。もちろんポスターなどは例外ですし、Instagramなど正方形がメインのSNSもあります。それでも、効率を考えるなら16:9がベストと言ってよいと思います。VRChatはワールドにポスターを掲出する文化が根強いため、宣伝物もA4の縦レイアウトで制作されている場合が多いです。結果、重要な情報がスマートフォンから見た際に見切れてしまっているケースが多く見られます。この点に気を付けるだけでも、宣伝物の効果が大きく変わってきます。

これらのポイントをしっかり抑えた宣伝物を展開されているVRChatのコミュニティも、もちろん存在します。以下にその一例をご紹介しますが、見るからに一味違う告知に仕上がっているのが分かると思います。宣伝は目立たせることが命ですが、目立たせるとは何も飾ることだけを指していません。高いクオリティで印象に遺すことも、重要なポイントです。

●コココイ ~レンタルだったはずが、心は本気の恋に発展!?~公式アカウント

●VRChat Barワールド"Dust to dust"公式アカウント

(4)まとめ

今回までで、VRChat映画の制作に関する実務的な内容は全てご紹介し終わりました。もちろん、限られた回数の中で取りこぼした箇所や、意図的に省略した箇所もあります。ですが、第1回から今回までの内容をしっかり抑えれば、他者を巻き込んで行う映像の共同創作としては十分トラブルなく成立すると思います。繰り返しお伝えしていますが、宣伝まで含めての作品作りだということを忘れないでください。次回はいよいよ最終回。最後はもう一度原点に立ち返って、私たちが創作をする意味や、ディレクターとしての心構えについてお話ししたいと思います。

おまけ:こりゃ悔しい!のコーナー

コラムの最後に、筆者が「こりゃ悔しい!」と感じたまだ見ぬ名作VRChat映像作品をご紹介いたします。

第19回:「きょうのブイチャまとめ」(TakéRun監督/2024)

本作は監督であるTakéRun氏のVRChatでの体験をまとめたショートPVで、切り口としてはワールド紹介と言ってよいと思います。筆者は自分を物語創作の人間と認識しており、ライバル心を抱くのもあくまでストーリー映画に留まることが多いです。MVやPVは畑違いの作品として楽しく拝見できることがほとんどなのですが、この映像を見たときは美しさと悔しさで心がざわつきました。おそらくカラーコレクションは念入りに手が入っていると思いますが、それ以外は編集・カメラワークなど基礎的な技術の積み重ねです。それだけでここまで物語を感じさせ、観るものに感動を覚えさせる映像を作れるのは見事というほかありません。

筆者はVRChat映画の大きな課題のひとつとして、PS3中期~PS4初期程度のグラフィックに留まるビジュアルの弱さを挙げてきました。今回のコラムでもビジュアルがいかに人の関心を惹くかをフォーカスしましたが、その意味ではVRChat映画は最初から大きなビハインドを背負っているとも言えます。ですが、現状でもここまで映像美を魅せられるのであれば、この認識も改める必要があるかもしれません。VRChat映画には、まだまだ映像の美しさで勝負できる余地がありそうです。

ABOUT US
だめがね
2020年、VRChatを開始。VR空間での映像撮影に可能性を見出し、クリエイターチーム「カデシュ・プロジェクト」を結成。 同スタジオの代表を務める傍ら、デザイナーとしても活動する。映画監督としての代表作に『プロジェクト:エメス』『掌』、 アートディレクターとしての代表作にVRChatワールド『Tokyo Mood by BEAMS』がある。