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15.映像作品を作る――――撮影その3…知っておトク!! 知られざる撮影の裏技
3回にわたってお話してきた撮影に関する技能紹介も、今回がラストです。デフォルトカメラの操作、頻出シーンの具体的な撮影方法に続いてご紹介したいのは、知っていると便利な撮影に関する裏技たちです。VRChat映画は映画撮影のツールとしては非常に特殊ですから、それに合わせた意外な攻略法が多数存在します。頻出はしませんが、どれもここぞという時に効果を発揮するものばかりです。
(1) カメラ制御の裏技
①Auto Levelを使用して水平を取る
第13回でご紹介したように、VRChatのデフォルトカメラには便利な機能がたくさんあります。その中のひとつが、強制的にカメラの水平を取ることができる「Auto Level(水平を維持)」機能です。Behavior(動作)欄から一番下のAuto Level(水平を維持)を選択することで使用できるこの機能は、入力しっぱなしにした場合は強制的に水平を取り続けます。
それ自体も非常に有用なのですが、例えば仮に手持ちカメラで人物を追いかけるような場合でも、撮影前に一瞬この機能をオンにすることでカメラの水平を確実に取った状態で撮影をスタートすることができます。演出意図なく水平を外した映像はチープになってしまいがちなので、実際の撮影現場でも大変重宝している機能です。具体的な操作については、以下の記事に詳しいです。
②ペットボトルで手ブレを防ぐ
VRChatの手持ちカメラでパンを行う際に悩まされるのが意図せざる手ブレですが、水の入ったペットボトルを使用するという嘘のような方法で改善することができます。
手ブレの大きな原因は、さほど重量がないVRコントローラーを支えのない空中でゆっくり動かすために、腕が力んでいることです。これを、適度に重量のある水入りペットボトルを腕に挟むことで改善するわけです。友人の監督が発見した方法なのですが、試してみたところ確かに効果てきめんでした。重量は満タンの500mlペットボトルが最適なようです。実にシンプルで物理的な解決法ですが、それだけに適切な場面で使用すれば非常にスムーズに撮影が進みます。
③超大型アバターを使用して手ブレを防ぐ
VRChatの仕様として、体のブレはある程度トラッキングの際に吸収(無効化)してくれますが、ざっくり言えばその無効化の大きさはアバターの大きさに比例します。1mのアバターの時に10cmだけカメラをブレなく動かせるのであれば、10mのアバターになればその10倍、100cmの距離をブレなく動かせるというわけです。
これを応用して、超巨大なアバターでしゃがんで撮影を行うことで、手ブレの大部分を軽減することができます。カメラの大きさ自体は変わりませんから、撮影自体は問題なく行えます。但し、代償として細かいカメラの動きが出来なくなる点は留意が必要です。
(2)撮影の裏技
①Horizon Adjustを使用してアクションシーンを撮影する
Horizon Adjustは、VR空間内での水平基準を自由に変更できる機能です。Settingsの中段、Accessibilityの欄から選ぶことができ、使用時に現実で頭を向けていた方向を基準に体の水平を変更することができます。
これを使用すれば、例えば重力を無視して壁に立っているような演出ができるほか、ジャンプ中に派手なアクションを行うような漫画的な表現も可能です。弊スタジオの作品、『ヴードゥー・キングダム 香港ゾンビ紀行』の予告編にて、実際にこの機能を用いた撮影を行っています。以下の動画の1分22秒ごろにそのシーンがございますので、是非効果を確認してみてください。
②アバターでワールドを改造する
この方法は、パブリック公開されているワールドで撮影を行う際に使える裏技です。公開ワールドを借り受ける時、たとえば「どうしても映ってしまう位置に消せないビデオプレイヤーのUIがある…」といったケースがあると思います。そういった場合は、例えばUIを隠す壁やオブジェクト(棚やドアなど)をアバター化して持ち込むことでワールドの景観の一部を変更することができます。
応用編として、Unlit(ライトの影響を受けない)で黄緑色のマテリアルを当てた巨大な球体をアバター化して持ち込むことで、ワールドのskyboxだけをクロマキー合成で変更できるようにすることもできます。とはいえ、これらはいずれも撮影においては最後の手段であると心得ておきましょう。ワールドはデフォルトの状態が完成であり、その姿がワールド作者の望んだ作品としての形です。それを強制的に改造しているということは、規約上問題はないにしても自覚しておく必要があります。
③演者本人が撮影することで細かい動きを写し取る
この方法は、例えば「銃を持つ手が躊躇で小刻みに震えている」と言ったシーンを撮る際に役立ちます。VRChatの仕様上、他者から見た際の自分の動きはかなりデフォルメされており、実のところ細かい動きは全く反映されていません。そのため、カメラマンが演者を撮る体制では、これらの動きを映像に反映することはできません。
厳密にはアニメーションを組んでしまえば可能なのですが、演者の演技を尊重するという観点でアニメーションの多用は避けた方がよいと筆者は考えています。こういった際は、シンプルに演者自身がカメラを回すのが最もシンプルな解決方法です。もちろん派手なアクションを自分で撮るのは難しいのでフィクス(静止)の画が前提にはなりますが、そもそも細かい動きを拾うための対処法ですから、そこは問題にならないでしょう。
(3)映画製作は最終段階へ
次回からはいよいよ、「ポストプロダクション」と呼ばれる撮影後の工程──編集、音響等についてご紹介します。全20回にてお届けする予定の本コラム、今しばらくお付き合いいただければ幸いです。
※11月7日(木)は休載いたします。次回更新は11月11日(月)です。
おまけ:こりゃ悔しい!のコーナー
コラムの最後に、筆者が「こりゃ悔しい!」と感じたまだ見ぬ名作VRChat映像作品をご紹介いたします。
第15回:【VRChat】XoVeRWorld OPムービー+タイトル画面(しろたけ監督/2022)
本作は、VRChatの様々なユーザーコミュニティをフィーチャーした、テレビゲームのオープニングムービー風の短編映像作品です。本作の素晴らしいところは、なんといっても全編を通して映像から楽しさが伝わってくるところです。
自分の所属するコミュニティの楽しさを見せたい、自分の格好いい・可愛いアバターを見せたい。あるいは、幼い頃夢に見たような自作キャラクターの格好いいシーンを見せたい。そういったプラスのエネルギーが画面からほとばしっています。こういった雰囲気の作品がVRChat映画シーンにもっと増えると良いなと思います。
本コラムは、なるべくどなたでも気軽に映像制作に取り組めるような切り口で筆をとっているつもりです。一方で、筆者を含めVRChat映画シーンを牽引しているスタジオが総じてストイックな傾向にあるため、これから作品制作に取り組む人へ「誰しもそうでなければならない」と感じさせているのではないかということを常々危惧しています。
筆者にとっては、そのようにある種“苦しんで”作品を作ることが大変な喜びなのですが、誰もがそのような価値観に染まってしまうことを私は望みません。自分を追い込む創作は向き不向きがありますし、その結果として心が折れてしまうぐらいなら、肩ひじを張らずに楽しく作品を完成させる方がずっと良いです。
どうかこの作品のように、「楽しさ」を第一に作品を作ることを忘れないでいてほしいと思います。
映画プロダクション「カデシュ・プロジェクト」代表のだめがねさんのVRChat映画制作するために必要なことをまとめた連載企画。第15回では、撮影に使える裏技について紹介。