趣味を仕事にする生き方を提示したい 3Dアバター制作会社「黒猫洋品店」店主クロイニャンにインタビュー

みなさん、「黒猫洋品店」という会社を聞いたことがありますか?

2020年に、クロイニャンさんが中心となり立ち上げたVRChat発の3Dアバター制作会社です。主に、VRChatユーザーやVTuberを対象としたワンオフ3Dアバターの制作を行っているほか、VRChat向けのアバターや衣装の制作販売、VR演劇「テアトロ・ガットネーロ」をはじめとしたイベント興行などを行っています。

VRChatでの活動の延長線上に起業に至ったクロイニャンさん。ソーシャルメタバース「VRChat」ではさまざまな技術者やクリエイターが活動をしていますが、それを実際にお仕事にまでするケースはまだ多くはありません。メタバースでのクリエイターエコノミーに注目が集まる中、実際に黒猫洋品店合同会社を2年前に設立し事業を行ってきた彼女に、「趣味を仕事にする」想いについて伺ってきました。

VRアバター制作で世界観をデザインする 黒猫洋品店合同会社

VRChat上の店舗ワールドで出迎えてくれたクロイニャンさん

黒猫洋品店の設立は2020年5月。バーチャル空間で快適に過ごすために必須となる「アバター」の制作を専門としています。これまでに、ソーシャルVRユーザー、VTuberをメインターゲットに、例えば九条林檎さんのMV衣装や、江戸レナさんの3Dモデル、最近では「カソウ舞踏団」団員のkouaさんのワンオフアバターなどを担当してきました。

また、BOOTHにおいても着せ替え用素体「ヴァニーユ」をはじめ3Dアバター、衣装の販売を行っており、11月27日にはVRChat謎解きワールド「PANDORA」の作者として知られるMinaFrancescaさんとのコラボアバター「姫華」もリリースしました。

黒猫洋品店の制作する3Dモデルの魅力は、引き込まれるようなパーツの洗練さと、それによって表現される世界観です。特に瞳や手などのつくり込みは素晴らしく、つい見惚れてしまいます。

今回、インタビューをさせていただいた黒猫洋品店のショップワールドは、MinaFrancescaさんと一緒に制作されたとのことで、こちらも本当に気品あふれる高級感のあるワールドでした。

このワールドもMina Francescaさんと一緒に制作されたワールド

3Dアバター・衣装の制作は、個人・法人を問わず受け付けており、フルオーダーメイドのほかにも再販権などを黒猫洋品店に譲渡するセミオーダーメイドなどクライアントの要望に合わせたプランを用意しています。

執筆時点においては、Webサイトのリニューアル記念として個人向けの3Dモデル・フルオーダーメイドを通常価格90万円のところを、70万円に割引しているとのこと。ワンオフアバターが欲しい方は検討してみてはいかがでしょうか。

VRChatに出会うまでは人形作家だった

――本日はお時間いただきありがとうございます。実はこうしてクロイニャンさんとゆっくり話すのは初めての機会で、まずはどこから聞いていきましょうか。

クロイニャン よろしくお願いします。先日はハロウィンイベントにもお越しいただきありがとうございました。私も実は最近になって「メタカル最前線」を知って、こんなメディアができたんだと。

――ありがとうございます。そうですね、ではまず黒猫洋品店を立ち上げられた経緯からお聞きできればと思います。設立は今から2年前ほどであっていますか?

クロイニャン ちょうど2年前くらいですね。経緯を話すと少し長くなってしまいますが。

――ぜひお願いします!

クロイニャン 私、もともとはソシャゲとかの2Dイラストレーターと人形作家のお仕事をしていたんです。あと、印刷物デザイナーもやっていました。印刷物デザイナーとして会社勤めをして、その後にイラストレーターと人形作家の兼業でフリーランスをしていたという流れですね。

そこから、イラストの勉強や人形作りのために、3Dモデルを勉強したいなと思って、2018年頃にBlenderを学び始めたんです。半年くらいで、簡単なHumanoid形式のローポリゴンアバターが作れるようになって。ただ、当時はゲーム制作に興味があったわけでもなく、その技術を活かす方法がなかったので、一旦塩漬けにしていたんです。

――VRChat始める前のお話しですね。人形作家というのはどういったお仕事なんでしょうか。ドールみたいな?

クロイニャン まさしく。ドールの制作をしていました。別名義だったのですが、コロナ禍前はギャラリーで個展をしていたりもして。まだ活動をやめたつもりはないのですが、コロナ禍になってお世話になっていたギャラリーが閉鎖してしまって、そこから4年くらいは3Dにどっぷりという感じです。

――なるほど。確かに、黒猫洋品店さんのパーツへのこだわりはドール的ですね。腑に落ちました。

クロイニャン そうですね。特に瞳とかはこだわっていて、人形作家をしていた頃に瞳の構造を勉強して自分でレジンで作ったりしていた経験が活きています。細かい構造を調べて、作るみたいな作業はずっと好きなんです。3Dモデリングは、現実の人形制作と違って材料費もかからないので、トライ&エラーも繰り返しやすくて性に合ってるなと感じますね。

――すごい、クロイニャンさんの作るアバターと人形制作という部分が腑に落ちるなと思いました。

VRChatに来て学んだモデリング技術がお仕事になっていった

クロイニャン それで、当時はBlenderの勉強からは離れて、また3Dプリンターとかを勉強していたんです。そしたらある日突然、Live2D界隈で存じ上げていたねこますさんが「のじゃ~」と言い出して、なにか面白そうなことをやっているなと(笑)

――ねこますさん経由だったんですね!当時はバーチャルYouTuber四天王の1人として非常に話題になっていました。

クロイニャン そう。それで「VRChat」の存在を知って、「UnityとVRChatをインストールすれば自分が作ったアバターが使える!」と思ったんです。

最初はアップロードの仕方どころか操作方法もよくわからず。いまほど日本人も多くなかったので苦労しました。2018年の秋か冬頃の話ですね。当時は、ひたすらパブリックワールドに繰り出しては、無言で日本人を探していました。一週間くらいかけてようやく1人見つけて、色々丁寧に教えてもらって、やっとアバターがアップロードできるようになったんです。

――すごい、めちゃくちゃ古株だ。

クロイニャン ちょうど、ねこますさんやミライアカリさんなど初期のバーチャルYouTuberさんたちがVRChatを取り上げだして、ワーッと人が増えた波の第一波くらいだった印象ですね。いまも当時からの友人と会うと「同窓会みたいだね」という話をしたりします。

ひとり日本人のフレンドさんが見つかると、それを起点に友達も増えて行って。毎日VRChatとBlenderを楽しく行き来していたら、メキメキとモデリングも上達していきました。VRChatって、周りに知識を持っている方がたくさんいるので、スキルを磨く上ではとても捗るんです。勉強を勉強だと思わなくてよくて、遊んでいる間にどんどん浮かんだ疑問を周りの人に聞きに行って、そうすると「○○さんに聞くといいよ」と詳しい人を紹介してもらえて、さらに友人も増えてと。「イラストとか人形も楽しいけど、3Dモデリングもっと楽しいじゃん!」と没頭していました。

そんななか、ある日突然八月二雪さんというバーチャル音楽ユニットのjohn=hiveさんに「3Dモデル作ってくれない?」と相談されて、他のフレンドさんにも「ワンオフアバターの制作とかって受け付けてないんですか?」とご質問をいただく機会も増えて、「これってお仕事になるんじゃないかな」と思ったんです。それで、個人で3Dモデリングのお仕事を受けていたら、あれよあれよとご依頼が増えて、HPも整えないとなとかで人でも足りなくなってきて。その時に、「法人成りしたら?」というアドバイスをいただいて合同会社として法人化しました。

――すごい。もともと少しBlenderを触っていたとはいえ、本格的に学び始めたのはVRChatに来てからだったんですね。それで法人化まで。本当にVRChatでの活動をそのままお仕事にしたということですね。

クロイニャン そうですね。私はもともとフリーランスでお仕事をしていた時期が長かった人間なので、それで個人での受注の範囲を超えてきたタイミングで自然と。なので、あまり法人という感覚はないんです。「法人なんですね」と言われると「そうだったかもしれない」というくらいで(笑)規模も小さいですし。

――いまは会社は何名くらいでやられているんですか?

クロイニャン 基本的には私が店主という形です。いま休職中なのですが、一緒に立ち上げたときにはうぃりあむさんという方がいらっしゃって、あと外注ですがサブモデラーとして山猫さんという方にご協力いただいています。

趣味を仕事にする選択肢を捨ててほしくない

――VRChatでの活動をちゃんとビジネスとしてお仕事としてやろうという方はまだまだ多くはないと思います。クロイニャンさんのなかで、こうした趣味の活動をお仕事にしようとされた原体験のようなものはあるんでしょうか?

クロイニャン そうですね。私はもともとイラストレーターをしていて、その時にも同人でみんなで本を出したりしていたんです。その中で、お金を絡めてトラブルになったりした経験もあるのですが、私はその時にも「お金を絡めたらダメだよね」ではなくて「ちゃんとお金払わなきゃダメだよね」と思っていたんです。なぁなぁの友達付き合いでやってしまうと破綻する部分がありますよね。お金がかかるところにはお金がかかるし、みんな生きていくために日銭も稼がないといけないので。

あと、いまサブモデラーを担当していただいている山猫さんもそうだったのですが、すごい技術を持っているのに「私なんてただの趣味だから」とあきらめてしまっているケースも多くて、そうした例を見ると「お前の技術はお金になるよ!生活できるようになるよ!!」と思うんですよね。

私の人生の中では、モノを作らないと生きていくことができないんです。私の中で一番現金換金率が高いものが「自分で作って自分で売る」なんですよね。普段は社会人をやりながら趣味の余暇として3Dモデリングをするという生き方もあると思うのですが、私には向いていないなと。それだったら、自分で商品価値を高めたり作品を作ったりということに時間を割くほうが自分の人生にとっては重要なんです。

黒猫洋品店でこれまで制作販売した衣装やアバターのペデスタル

多分、こうした生き方をした方が人生が楽になる人もたくさんいて、ただ「趣味でつくってるものに値段なんて付けられないよ」とあきらめてしまうのはもったいない。「私みたいな生き方もあるんだよ」と伝えていきたいです。

――そうですよね。もちろん趣味でクリエイトする方が心地いいんだという方もいらっしゃる。一方で、クリエイトや自分の活動、VRChatで過ごす中で得られた経験やスキルをそのままお仕事にしちゃおうという生き方があっていいと思います。

クロイニャン 多様性のひとつだと思います。普通に社会人をしていたり、学生だったりすると「趣味を仕事にするなんて辞めといた方が良いよ」と簡単に言う人が多いですが、ほんとにそんな簡単に手放してしまっていい選択肢なのかなと思います。こういう生き方が性に合っている人だって多いはずです。

――最近はメタバースがビジネスとして注目されることも増え、実際にVRChatのクリエイターが企業案件などで活躍する事例も増えてきましたよね。今後もそういった事例が増えると嬉しいなと思います。

クロイニャン そうですね。サンリオさんの「Sanrio Virtual Fes」とVRChatのDJクラブ「GHOST CLUB」が共同でワールドやイベントを制作されていたりするのを見て、ああいった事例を見るとVRChatの中で育ってきた技術者やクリエイターが日本や世界に通用する、そんな時代になりつつあるんだなと感じます。

本当に多くのクリエイターが育ってきているので、もっと企業さんがイベントとかで経済を回していくような機会が増えるといいですよね。本当に面白い技術者さん多いので。

――ありがとうございます。最後に、今後黒猫洋品店がチャレンジしていきたいことについてお聞かせいただき、締めとできればと思います。

クロイニャン そうですね。まずは、もっといろいろなコミュニティの方と絡んでみたいなと思います。興味はあるけれどお話しはできていないなという方、それこそこの間のMZMのコーサカさんとの対談イベントもそうですが、そういう方とおしゃべりする機会をもっと作りたいです。交流の輪を広げていけると、新しいイベントのアイディアも思いつきますし、手伝ってくださる方も増えると思います。大々的なイベントというよりは、「週末空いてるからウチでパーティーしない?」みたいな、そういった感じのイベントを連続してやっていきたいですね。

あと、先日発売した「姫華」ちゃんも新たなチャレンジです。今回のアバターは、私の好みではなく、Mina Francescaさんの好みが強く反映されています。Francescaさんに「こういうの可愛いんじゃない?」「こういうのが多分男の子受けすると思うよ」という感じでアドバイスいただいて、それをもとに私がデザインして「こんな感じ?」「こっちの方が良いかな?」とお見せして……とブラッシュアップしていったんです。

インタビュー時に特別に見せてもらった「姫華」ちゃん
キラキラ女児をイメージした装飾。ウェストの緩急などもFrancescaさんのアドバイスとのこと
「絶対領域は外せない」という意見もあったとか

私の好みからはちょっと離れているかもしれないけど、可愛いなって思うものになったと思うんです。自分の好みを人に伝えることももちろんしていきたいですが、それと同時に人の望みをかなえる仕事もすごく好きなので、両方やっていって黒猫洋品店をもっと知ってもらえると嬉しいです!

●参考リンク
黒猫洋品店公式サイト
黒猫洋品店公式Twitter
黒猫洋品店(BOOTH)

ABOUT US
アシュトン「メタカル最前線」初代編集長
2021年3月より「VRChat」はじめソーシャルVR/メタバースの魅力を発信するメタバースライターとして活動。週100時間以上仮想空間で生活する「メタバース住人」として、AbemaTV「ABEMA PRIME」、関西テレビ「報道ランナー」、TBS「サンデー・ジャポン」ほか多くのメディア取材を受ける。2022年4月に「メタカル最前線」を創刊。