VRChatでは、たくさんの”世界”を巡ることができます。まだ行ったことのない場所、初めて行ったイベントやとの出会いは、まさしく「旅」と言っても過言ではありません。
そんな別世界だらけのVRChatを旅している人といえば、バーチャル探検家のリーチャ隊長ではないでしょうか。彼は行く先々のコミュニティでいろんな人と出会い、その記録を漫画にして発表しています。Xで漫画をふと見かけて読んだことは1度でもきっとあるのではないかと思います。
今回、「メタカル最前線」5月の特別便として、リーチャ隊長に単独インタビュ-を実施。バーチャルの世界に来て漫画を描くようになるまでの経緯から、旅の中で出会う人達との交流のコツ、そして旅に対する想いなど、VRChatにやってきた新しいユーザーさんにもヒントになるようなお話をお聞きしました!
専業になって一年。漫画を描きはじめたきっかけを聞く
――今回は、さまざまな世界やコミュニティを渡り歩き、漫画にしてきた、VRでの「旅」の経験が豊富なリーチャ隊長に、旅先で出会う人との交流のコツなどを伝授いただければと思います。
リーチャ隊長(以下リーチャ) そうきたか! 旅そのものではなく、僕自身にフォーカスしていただけるのは意外ですけど、ありがたいですね。
――では最初に、リーチャ隊長のこれまでを教えてください。まず、隊長はどのような経緯でVRChatにやってきたのでしょうか?
リーチャ イラストレーター・映像作家のキツネイロさんに憧れていたのが大きな理由ですね。僕は昔、「東方Project」の二次創作をやっていたんですが、キツネイロさんも「東方Project」で二次創作イラストを描かれていたんです。そしていつか直接会ってお礼を伝えたいなと思い、VRChatにやってきました。
――今みたいにバーチャル探検家と名乗り、漫画を描いていくようになったのはいつ頃からでしょうか。
リーチャ 2019年の正月です。ヒマでヒマで仕方のない正月休みに描き始めたっていうところですよ。
――隊長の描く漫画の中では、VRChatで過ごしているときの一場面を切り抜くことがあると思います。漫画のネタにするときに気をつけていることはありますか。
リーチャ やはり描いていいことかそうじゃないか、の判断は気をつけてますね。まずは「漫画にしやすいかどうか」っていうところから入って、そこから描くほどのものじゃないな、というのを削り落としていって、最終的に残ったものが漫画になります。出来事を蒸留してる感じですね。最後にできあがったお酒が漫画です。
――依頼された場合も同じようなスタンスで描いているのでしょうか?
リーチャ 依頼を受けた時に気をつけていることは、宣伝とかPR系の漫画においてもですね、自分を経由している、ということを意識しています。いただいた情報だけでなく、「僕がその人から情報をもらって聞いている」、ということが大事なので、そこを意識しています。
――現在は、お仕事をやめて漫画家一本で活動されています。隊長の中で、その決断の決め手になったのは何でしょうか。
リーチャ 金です。金がもらえるなっていうのが決め手ですね。いや、決断っていうほど決断してないんですよ。「楽に生きたい」と思って、だったら漫画家のほうが楽だな〜?って考え、今こうなってる感じなんですよ。
――そして、そんな暮らしが一年経ったのですね……!
人の輪を意識してみる――リーチャ流コミュニケーション術のススメ
――ここから本題です。コミュニティへ体当たり突撃する隊長の漫画を読んでいる人の中には、初対面の人に近づいたり、気になっているコミュニティの輪に入りたい、と考えている人がいると思います。そんな人に向けて、リーチャ隊長からアドバイスするとすれば、なにがありますか?
リーチャ まずはあいさつですね!あいさつさえ欠かさなければ、初めてのコミュニティに行ったときでも、だいたいなんとかなります。
そして、僕がよくやる失敗として、「フレンド申請を送り忘れる」があります。「いやー、はじめましてどうも!」とあいさつして、自己紹介もしてみるものの、「いつフレンド申請しようかな~」と思っているうちに時間が過ぎていって、タイミングを見失ってしまう、みたいなことありません?「じゃあもうそろそろ落ちますね~」って言った瞬間に、あわてて「ああ、待ってください~~~~!」って引き止めちゃう(笑) 。
リーチャ 非常にあるあるだと思うんですけど、僕も皆さんと同じです。なので、アドバイスをするとしたら「フレンド申請は送ろうって思ったときにやれ!」ですかね。
――タイミングって大事ですよね。逆に、出会い頭にフレンド申請を送ったりとかはありますか?
リーチャ できそうな人だと送ったりすることもありますけど、基本はある程度しゃべってからですね。なんか変なやつもいるじゃないですか、この世界。変なやつの場合は、危ないなーと思いながらもしゃべってみて、それでも面白いなと思ったらフレンド申請する感じですね。
――隊長がいるところでは、いろんな人が「わー、隊長だ~!」と集まっていく光景をよく見ます。やっぱり有名なのは大きいと思うのですが、突然人が集まってくることに戸惑うことはありますか?
リーチャ 時々言われるんですよ、「大変でしょ?」って。でも割と、僕は大変とは思ってないです。だって、ちやほやしてくれるだけで嬉しいですから。
人と話しているとね、僕は人と話すのが苦手なので、だんだん話題がなくなっていくんですよ。でも、まわりに僕を知っている人がいれば、話題がなくなってきた段階で、次の人が来てくれるわけです。そうするとしゃべりやすくなる。人と話題が循環するんですね。これを繰り返すと、人の輪ができます。
その輪の中で、「◯◯さんがこういう話をしていましたけど、✕✕さんはどう思いますか」って話を回していくのが、すごくやりやすいんです。それはもう「踊るリーチャ御殿」みたいな感じです! 聖徳太子のように、いろんなひとの話をいっぺんに聞かなきゃいけないんですけど、まわりの人も聞いているので、なんとかなるんですよね。
――「人の輪」に入って話題を回す、というのは初心者にも参考になるかもしれないですね。
リーチャ どうなんだろう? 初対面の人が、向こうから自分の方に来てくれるって、特殊事例だと思っているんですよね。基本的にVRChatは、自分から相手に向かっていかないといけない世界じゃないですか。
それって大変ですよね。気持ちはわかります。僕も”王”なので。なかなか自分からあいさつにいけませんよ。
――”王”とは、”King”ということですか?(笑)
リーチャ ”King”です。僕は生まれながらの”王”ですから、自分からはなかなかあいさつできないんです……みたいな(笑)。
なので、そんな僕から初心者のみなさんには、「俺はオールウェルカムだよ!」って伝えたいです。もう全然来てくれ、と。僕の近くにいれば、なんかいろんなひとが来てくれるはずだから、僕をきっかけにしてフレンド作ってください!なんなら”王”とも思わず、「潤滑油でちょっとヌルヌルしてる聖徳太子」だと思ってください(笑)。
それでももし、人の輪に入るのが嫌だったら、あなた自身が潤滑油になるしかないですね。例えば漫画を描いたりなにかを発信してみるとか。それを目指すか、がんばって人の輪に入っていく、ってことが重要じゃないでしょうかね。
「決意なんてしなくていい」――リアルでのやらかしを経て、成長したこと
――リーチャ隊長のことは、漫画を読んでいるときはコミュニケーションが上手なんだろうなぁ……と思っていましたが、実際は緊張もするし、戸惑うこともあって、自分は意外でした。隊長自身は、人とのコミュニケーションにどのように向き合っていますか。
リーチャ これは難しいですね〜。僕は基本的に人が向こうから来てくれるから、逆に引くところは引く、みんなに対して平等に接することを心がけてます。特になにか計算して行動してはなんですが、うまいことなんとかなってます。
リーチャ あとは、「やらかしたら反省をする」が大事ですかね。僕は2023年にHIKKYのオフィスで開催されたオフ会で、「提供されていたピザを食べて、誰とも話さず帰る」ってことをやらかしてます……でもあのときはしょうがなかったんですよ。「なんで現実でいろんな人間とやりとりしなきゃいかんのか」って! 現実は怖いですからね。
理想……というか極論を言えば、そういったやらかしをしても、なんか許されるような人間でいるのがいいとは思ってます。元蕎麦屋タナベを見てくださいよ。毎回いろんなところでやらかして迷惑をかけているような気もするのに、みんな気にしてないし、本人も一日寝ればケロッと忘れている。僕は彼がうらやましい……そして僕はそうはなれないので、ちゃんと反省をしようと思ったんです。
――隊長の場合は、「人とコミュニケーションできない」と諦めない、ってことでしょうか?
リーチャ ですね。実際、最近は秋HUBで開催されている「メタのみ」で、なんとか人と会話しようとチャレンジできています。「僕はこういう人間だから」って思い込み、できる限り避けたほうがいい。蕎麦屋も言ってたんですが、決意なんてしないほうがいい。してもいいんだけど、それに縛られず、自由にやっていくのがいいですよ。結局できなかったとしても、迷惑がかかるのが自分だけなら、それでいい。
――以前、「2023年はリアルでがんばる」というお話をされたと思います。その宣言から半年ほど経ち、さまざまな「リアル」へ出ていかれたと思いますが、現在の心境はいかがですか?
リーチャ たしかに2023年の目標は「リアルへの挑戦」でした。この目標には果敢に挑んでいて。夏のリアルVketでどんどん亭と会ってしゃべる、っていうことから挑んでいますが、その最終的な到達点はBEAMSとJVCケンウッドとのコラボ企画で、原宿でライブに出演したときです。
リーチャ 自分から取り組んだことではないとはいえ、やはり求められた以上は応えたいと思ったし、そんな状況に挑戦したことで、だいぶ強くなった気がします。おかげでいまは「俺、原宿でライブやったけど!?」って自信満々に言えるようになりました(笑)。
そして、そこまでくると「あの原宿ができたんだからいけるだろ!」と自然と思えます。どんどん亭と恐る恐る話した自分にも「まだいけるだろ!」って言ってやれますね!
そして、この感覚はVRChatから学んだことでもあります。「知らないから怖い」のであって、一度やってみれば、全然怖くないんですよ。
――リーチャ隊長も、リアルへの旅を経て成長している。
リーチャ 目下の課題は「自分で決めてやってない」ですかね。仕事をやめたこと以外、基本的に人に言われてやってきているので。あと、まだまだ行きたいコミュニティがあるものの、ぜんぜん行ききれていない。
がんばらないと、ですね!……これもゆるい決意です(笑)。
VRもリアルも旅してわかった、「VRならではの旅」
リーチャ せっかくですし、「旅」そのものについて話してもいいですか?
――もちろん! ぜひ聞きたいと思ってたのは、フェリーに乗って北海道旅行に行った件です。私も漫画読んでたんですが、ものすごくおもしろくて。
リーチャ あれは大好評でしたね。「XR Kaigi」で出会ったえらい人にも「あの漫画おもしろかったねぇ!」って言われたぐらいです。
――同じ「フェリーの北海道旅」なのに、タナベさんの旅とはえらいちがいましたね。タナベさんの旅をモチーフにした「BATTLE OF HOKKAIDO」では、フェリーが一回転したじゃないですか(笑)。
リーチャ タナベは青森からのフェリー旅でしたけど、僕は茨城県大洗からのフェリー旅でしたからね。津軽海峡を超えるぶん、波とか全然ちがうと思いますよ。
まぁ、旅の内容も全然ちがいましたねー。彼は行こうと思った店が休業だった、みたいなエピソードがあったのに、自分は特には起きてないんですよ。
――なんかあったらぜひ漫画にしてもらえれば!
リーチャ もちろんです! ぜひともおもしろいエピソードに遭遇したいですし、今年もリアルの旅はやっていこうと思いますよ。
――ここまでお話いただいたように、リーチャ隊長は黎明期からVRでさまざまな世界を旅し、リアルでも大きな挑戦をともなう旅をしてきたと思います。そんな経験を経たリーチャ隊長にとって、「VRでの旅」とはどのようなものでしょうか?
リーチャ VRって、よく「家にいながら世界中の名所や、ファンタジーな世界を旅できること」が魅力として語られますよね。特にコロナ禍は「現実の旅行の代わり」としてVRを体験していた人もいたと思います。
僕はね、それじゃ足りないって思うんですよ。「現実の代わり」なんかじゃない。「VRでしかできない旅」をするべきなんじゃないかなって、最近はよく考えています。
「VRの旅」のデメリットを考えてみましょう。ひとつは「食べ物がない」。やはり現地の食べ物があるとうれしいですよね。もう一つは「旅情がない」。旅情って、旅行にともなう移動や手続き、準備などの苦労から生まれるんだけど、VRはそれがなくなる。一方、「現実の旅」は「準備が大変」「人混みがある」がデメリットとしてのしかかってくる。
でも、「現実の旅」における準備も、大変ではあるけど楽しいとも思えるし、人混みに揉まれるのもまぁ旅情として捉えることはできる。「VRの旅」も、家にある食べ物と酒をいい景色のワールドで口にすれば代替が効くし、旅情も移動の再現によって生み出せると思っています。
この前参加したイベントでは、広大なワールドを船で長い時間旅して、目的地の館まで行くという”行程”があったんです。館の中にも通路が長く続いていて、目的地の部屋についたときは「めちゃめちゃ遠くまで来たな!」と思ったんです。間違いなく、旅情を感じていた。
……そう考えると、「VRの旅」も「現実の旅」も、実はそこまでちがいはないのでは? って思うんですよね。
――現実もVRも、一長一短であると。
リーチャ では、「VRでしか味わえない旅の楽しみ方」はなにか。僕は2つあると考えています。
まずひとつ。VRの旅では、「他人の家の戸棚を開けられる」のがいいところです。人の家に上がり込んで、戸棚を物色する。これ、現実じゃできないですよね。よく、フレンドとのプライベートな写真が飾られた、自宅っぽい雰囲気のワールドってあるじゃないですか。そこにある物品を物色していると、「俺こんなことしてる……」っていう得も言われぬ気持ちになるんですよ。
そしてもうひとつが「この世界を作った人がいる」ことですね。これは距離や苦労以外で感じ取れる旅情だと僕は考えます。現実世界で「この川、神がこう創ったのか……」とはいちいち感じないですし、そもそもそんな存在を意識しないじゃないですか。でも、VRChatで訪れるワールドには必ず、作り手という”神”がいる。「このワールドの”神”はどう考えてここを創ったのだろう」と感じ取ることができる。無料でこんな旅情を感じ取れるのは、VRならではの醍醐味ですよね!
――それはたしかにVRならではですね! ちなみに隊長は、一人でもワールドめぐりをされるのですか?
リーチャ ときどきやりますね。特にみんなが「これヤバいよ!」とウワサしているワールドには、話についていくためにも行きたくなります。そしてついでに、「New」タブの中にある新着ワールドをのぞきに行きます。VRChat始めてから2〜3年くらいも、実は「New」にあるワールドをめぐっていたので、その名残でもありますね。
あと、かつては「探検隊」という企画で、複数人でいろんなワールド骨までしゃぶりつくすような活動をしていたので、いろんな形でVRの世界を旅し続けているのはたしかです。
「予測できないこと」を楽しもう
――では、旅を通した「出会い」についてはどう考えていますか? VRだけでなく、リアルについても。
リーチャ 正直、これも僕の中では、VRも現実もあまり変わらないと思います。僕が好きなのってランダム性なんですよ。「こんな人がこの世界にいたんだ」って思うのが好きなんです。
リーチャ 北海道に行った時、「鹿のおじさん」に出会ったんです。住宅地に鹿がいて、その鹿の前におじさんがいて、僕が鹿を見にきたら、そのおじさんが鹿と熊のことを教えてくれたんです。突然話しかけてきて、「この辺は鹿ばっかりだからさぁ〜」って言って、いろいろ情報を教えてくれる、謎のおじさんで。「何なんだ!?」って最初は思ったんだけど、すごい面白い体験でした。
VRでも、そうした出会いをした人っていませんか? 僕自身も、人のプーさんっていう方と行く先々でお会いして、いまやすっかり仲良くなっているんですけど、どこで出会ったか全くおぼえてないんです。たぶんどこかのパブリックで出会ったとは思うんだけど……そういう出会いもあるんですよ。
「鹿のおじさん」とは、その一回きりの出会いだったし、フレンド申請も送れなかったのでそれっきりです。でもVRだったら、フレンド申請を通して、不意の出会いをした人といつの間にか仲良くなれるのが楽しいんですよね。
――不意の出会いも楽しもう、みたいな。
リーチャ むしろ不意の出会いが一番楽しいと思うんです。実際、僕のことを知らない人に出会うとワクワクするんですよね。ありがたいことに、ここでは自分を知っている人が多い。その中で、「誰?」って返してくれる人ってレアなんで、「俺もまだまだだなぁ!」ってテンションが上がるんです(笑)。
――これはリーチャ隊長という人物を知る上で、大きなヒントだと思います。決まりきった出会いを求めてしまう人も多いなか、隊長は予測できない出会いを求めている。だから、さまざまな場所・コミュニティを旅できているのではないかなと。
リーチャ たしかに! 実際、僕は予測できない出会いも求めてVRChatをやっているフシがありますもん。事前情報すらほしくない。「予測できないこと」を楽しめる心こそ、さまざまなコミュニティを渡り歩く上で重要だなと、あらためてお伝えしたいですね!
――間違いなく伝わると思います。本日はどうもありがとうございました!
リーチャ隊長の、独特の世界観が伺えた出会いと旅のお話、いかがだったでしょうか。色々なコミュニケーションの取り方がありますが、初心者はどのように過ごしたらいいのか、人と出会ったらどうしたらいいのか、なんだかちょっとヒントが見えてきたような気がします。
我々もたのしい旅をしていきたいものですね。