VRChatの写真をひと手間掛けていい感じにしたい! プロに聞くPhotoshop・Lightroomの使い方

VRChatで遊んでいると、写真を撮影する機会がたくさんありますよね。きれいなワールド、かわいいアバター、盛り上がっているイベントなど、楽しい思い出は何枚でも写真にして残しておきたいもの。そしてそれをSNSなどに共有するのも醍醐味です。

ところでその写真、撮影したものをそのままSNSに投稿していませんか? せっかくならもっと「自分の見た景色」を表現してみたいと思いませんか?

よい写真作品を生み出す上で、重要となる作業のひとつが「レタッチ」。画像編集ソフトを使い、色味や明るさなどを調整したり、細部を修正することで、写真の表現を一段階引き上げることができます。とはいえ、どんなソフトを使うべきか、なにをすべきか、知識ゼロの状態ではなにもわからない!

そこで本記事では画像編集ソフトの代表格、Adobeの「Photoshop」「Lightroom Classic」のハウツーやメイキング動画を投稿している、画像・映像系YouTuberであるパパさんに「VRChat写真のレタッチ」についてお聞きしました。日々のVRChat写真をワンランク上げるコツや心構えをぜひ身につけていきましょう!

パパさんとは?

パパさんは、Photoshopの開発元であるAdobeの「Adobe Community Evangelist」として、PhotoshopだけではなくAdobe製品に関する様々な知見やテクニックを発信しています。
またPhotoshopに関するテクニック本を複数出版していて、画像・映像分野で幅広く活動しています。

パパさんのYouTubeチャンネル


レタッチとはなにか、そしてその技法とソフトウェアについて

Adobeの写真編集ソフトウェアには主に「Photoshop」「Lightroom Classic」の2種類があります。2つの違いや使い分けについて教えてください。

パパ Lightroom Classicのメインの機能は大量の写真の管理です。プラス編集機能がついたアプリケーションです。細かな合成のような凝ったことをしなければLightroom Classicで事足ります。

ーLightroom Classicだけでも十分な機能がありますよね。私も現実でカメラを握っていた時期があるので管理・選別機能には助けられました。そのままシームレスに現像・編集作業ができるのが便利ですね。

パパ Photoshopは1枚の写真を丁寧に時間をかけて編集するソフトです。特に1枚の画像を「レイヤー」機能で複数の階層に分けて編集できることが特徴です。VRChatではアバターと背景を別撮りできる機能がありますよね。現実の写真では絶対にできないですが、レイヤー機能の相性が非常によく、ワールドとアバターを分けて編集できるのが非常に便利です。

ーLightroom Classicの管理機能は本当に強力です。VRChatで写真を撮っているとものすごく量が多くなると思うので、導入する価値はありますね。Lightroom ClassicとPhotoshopを一緒に使える「フォトプラン」を、私も7-8年近く愛用しています。Adobe製品としてはお手頃なのもありがたい限りです。

パパ 実はこの2つのソフトウェア、ブラウザで操作できるバージョンが出ています。

ー処理落ちすることも少なく、4K写真でも動作が軽く扱えるので愛用しています!

パパ ブラウザ版のアドバイザーもやっているのですが、実は一般ユーザーで使っている方に初めてお会いしました。VRChatの写真であれば、ブラウザ版のPhotoshopやLightroomでも十分にレタッチできます。もっと皆さんにも使っていただきたいですね。

実際にレタッチ作業をみせてもらう

ー実際のレタッチ例を見せて頂きつつ、どうレタッチをしているのか教えてください。

パパ 10月に公開したデジタル写真集「視線」から作例をお見せします。

僕が重視していることは「ワールドのイメージを崩さないこと」「見せたいものをより強調し、見せる必要のないものへ視線を誘導しないこと」です。ないはずのものを加えてしまうと、もはや写真ではない別のアート作品になってしまうので、やっていません。また、今回の作例はすべてアバターとワールドを分けて撮影しています。

写真集として構成するにあたって、物語として一貫性を持たせています。しかしワールドが違うのでトーンや雰囲気はバラバラです。そこで統一感を出すために、明るさ、コントラスト、彩度の調整を細かくやっています。

撮った直後の背景

窓周りを明るくした状態

また、アバターは現実の人間と違ってつるんとしているので、生々しさを出すために立体感を強調してあげる必要があります。ハイライトはより明るく、影は暗くしてあげています。オブジェクトとの位置関係もありアバターの脚を一部消しています。さらに細かい編集だと、めり込んで消えた肩紐を追加で書き込んだりシワを削除しています。

もちろんワールド側もレタッチしています。窓の中央を明るく、外側の窓を暗くしています。これで中央のアバターに視線を誘導しています。また、エフェクトでノイズを掛けて監視カメラのような画質の悪さを加えています。

一番大事なことは、元々の写真をいじらずにレイヤー機能を活用して編集することです。非破壊編集といいます。

そもそも「レタッチ」って?

ー改めての質問ですが、そもそも「レタッチ」とは何を指すのでしょうか。それと「現像」と「加工」の違いについて教えてください。

ーパパ 「レタッチ」は、訴えたいものや見せたいものを、より伝わるようにする作業と言えます。かっこよく言えば、情報の鮮明化や取捨選択でしょうか。そばかすはレタッチ作業でよく消される対象になりますが、いつも消すべきものではありません。例えばミュージカル「赤毛のアン」で、主役のアンのそばかすを消すと、見せたいものがなくなってしまいますよね。

「現像」は、カメラで撮った生のデータを、撮ったものに近づける作業です。VRChatの写真で現像をするのではなく、実際のカメラの生データを編集する部分です。レタッチや加工の前段階ですね。「現像」はもともとはフィルムを引き伸ばせるようにするための前工程です。デジタルカメラですとRAWデータになるのですが、そもそもPNGデータで保存されるVRChatの写真では不要な工程です。

「加工」はレタッチより更に広い範囲を指すと思ってください。実際のレタッチ例のところでお話しましたが、無いものを足して別のアートにするようなものは加工と言えますね。

ー私はコスプレ写真を撮り、レタッチしていたのですが、「加工」について質問があります。炎の魔法を使うキャラクターのコスプレを撮影した際、撮影時にはなかった炎のエフェクトを後付するのは「加工」になるのでしょうか?


右手側のストロボを赤く発光させたかったがうまくいかず。

丸い光を右手側に足す。(攻撃演出の表現)

パパ 訴えたいものや見せたいものを、より伝わるようにする作業と考えた場合「レタッチ」と呼ぶこともありえます。一方で、映画のポスターなどの「ヴィジュアル製作」とも言えますので、人によって捉え方が変わるところです。

他人の写真のレタッチは、どういう意図で撮影しているか、被写体がどう考えているかをきっちり解釈する必要があり、本気でやるとなると難しいです。

VRChatならではのコツ

ーVRChatならではの「レタッチのコツ」があれば教えてください。

パパ VRChatのオブジェクトは3Dデータなので、小物1つに対しても現実よりも見栄えがあり、派手です。何もかもが目立ちます。だからこそ、何を残すか取捨選択が大事です。見せないものを大胆に消すことが現実の写真より遥かに重要になります。

もう一つ、せっかく機能があるので、アバターと背景を別々に撮るという方法は積極的に使ってみてください。

ー初心者がすぐに出来るレタッチ術があれば教えてください。

パパ まずは明るさを、次にコントラストを、その次に彩度を変えてみてください。この3つをどれくらい変えれば良いのか、というのを何度もやって、感覚を掴んでみてください。最初は「自分がいいな」と思えるところで良いと思います。

一番オススメの簡単な方法があるんです。「カラールックアップ」という機能です。

Instagramやスマホカメラのフィルターの強化版のようなものです。写真だけでなく、動画や3Dでも使えますし、PhotoshopにもLightroom Classicにもありますので活用してみてください。「LUT」と言えば、動画関係の方ならすぐわかると思います。

突き詰めてしまえばどこまででもできてしまうのがレタッチです。だからこそ「カラールックアップ」のようなインスタントな機能に頼り、気負わずにやってみるのが良いと思います。最終的に自分が「良い」と思えればいいのですから。

VRChatで撮る写真は、基本的にはどこで撮ってもものすごく絶景で、 誰を撮ってもものすごく美形だし、基本的に写真映えします。少しカラールックアップを使うだけでも、ものすごく映える写真にできると思います。

適用前

適用後(FUJI ETERNA 250D Fuji 3510)

数クリックで往年の名フィルムの質感が出るので、簡単に「いい感じ」の写真を作り出せます。

もっとレタッチを勉強するには?

ーレタッチの教材としておすすめがあれば教えてください。

パパ 本格的に勉強するのであれば、2つ手段があります。お金をかけたくない人はYouTube動画で十分です。その上で、レタッチの勉強だけではなく、写真撮影についても一緒に勉強したほうが確実に上手くなります。

予算がある人も、本を買うのであれば1冊で十分です。内容に大差はないです。「写真撮影の勉強」は、スマホの写真でもいいです。とにかく、自分で写真を撮って自分でレタッチする機会を増やすことが上達する上で大事なことです。

VRChatはとてもいい写真の練習場所ですよね。ハードウェアのカメラも買わなくていいですし、SDカードなどの記録媒体やフィルムもいらない上に、家から気軽に参加できて撮り放題ですから。あとは自分の本ですね(笑)よかったら全国の書店やAmazonで手にとってみてください。

ー最後に、元々現実世界の写真を撮っていた人が、VRChatでの写真やレタッチで気をつけておいたほうがいい点はありますか?また現実とVRChatの写真撮影で共通するような上達ポイントはありますか?

パパ VRChatでの撮影は、技術的な問題以前に「撮っている風景は誰かの作品である」ということに絶対に気をつけるべきです。ワールドクリエイターは、コントラストやライティングなどもおそらく相当考えて制作されています。クリエイターのこだわりをないがしろにすること、リスペクトを持たない撮影は一番避けるべきポイントだと考えています。

現実よりも配慮する必要はありますが、配慮しているという意識を持っておくことが大事だと思います。とはいえ、実際のところは加工しないでくださいと言われたことは一度もありません。



VRChatの魅力は、気軽で便利なところです。ポータル1つを開けばすぐに絶景に飛び込んでいけますし、いつも光源が同じ環境は現実世界では絶対にありえません。だからこそ、ワールドに変更が入らない限りはいつも光源が同じVRChatの写真はレタッチの練習になります。

基本的な絵作りや、背景ボケは現実もバーチャルも一緒です。Xのタイムラインに流れてくる様々な写真を見ても、この人は間違いなくリアルで写真を撮っているな、という写真があるんです。レタッチのひと手間を掛けることで、写真で何が伝えたいのかを強調できます。毎朝投稿する1枚を、もっと視線を意識してレタッチしてみると、見られる目もきっと変わっていくはずです。

ー知らなかったこともたくさんありましたので、私もさっそく教えていただいた機能や考え方を今後のレタッチに取り入れていきたいと思います。ありがとうございました!

編集後記

パパさんのインタビューは、初心者のみならずPhotoshopやLightroom Classicのライトユーザーにとっても目からウロコの情報の宝庫でしたし、ヘビーユーザーにとっても改めて見直す機会となるものでした。
これを参考に、読者の皆さんのVRChat写真ライフがより充実したものになれば幸いです。